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[ 本格 ]
ポンド氏の逆説
G・K・チェスタトン 出版月: 1959年01月 平均: 6.71点 書評数: 7件

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東京創元社
1959年01月

東京創元社
1977年09月

東京創元社
2017年10月

No.7 6点 虫暮部 2024/01/11 12:50
 逆説とは何か。真理に反する説である。従って逆説の前に真理がなければならない。しかしGKCはまずタイトルでこれは逆説であると宣言してしまった。何と言う厚かましさ。そのため読者は真理を逆説の逆のものとして設定し直させられることになる。逆説にぶら下がった間接的な真理は心理的な不安定さを誘発するので文章は逆接だらけになるし道聴塗説ばかりで関節は複雑骨折に至ることも少なくない。最も重要な教訓は “物は言いよう” と言うことであって、その舌先三寸はまさしく見習いたいところだけれど、ミステリとしての面白さには必ずしも直結しないのが本作の難点であり、そのつまらなさを読むことこそ面白いと言う事実によって逆説を体現しているのだから作者の大言壮語も相互作用の一要素として有効性を認めざるを得ないのが何か悔しいじゃないか。

No.6 6点 クリスティ再読 2020/03/09 20:58
20世紀前半というのは「逆説の時代」だったと評者は思うんだ。科学を見たって相対性原理やら不確定性原理やら不完全性定理やら、どうみても逆説にしか見えない「科学的事実」がいろいろと明らかになった時代でもあるし、文学はといえば逆説の大家みたいなカフカやベンヤミンやオーウェルといった人らが「逆説でしか語りえない真実」を語ろうとしていた...そんな具合に感じているんだよ。
だから本作の「逆説」というのもそのまま時代の逆説、ということになる。チェスタートンだから、その根底にあるのはイギリス的なコモンセンスなので、作中で提示される「逆説」について、それが「こういう特殊ケースでは成立する」というのを示していくことになる。逆説が思考を刺激し、流動化させることを作者は目指すのである。この特殊ケースに「道化師ポンド氏」とか「目だたないノッポ」だと、チェスタートンらしいファンタジックな趣が出る作品は成功するし、あるいは「愛の指輪」も作者らしい道徳性の寓話として、うまくオチがついている。
とはいえね、逆説は相矛盾する言明がそのまま解決不能に噛み合う姿で、それがそのまま真実であるようなさま...そう考えてみたときには、「逆説」が実は「正説」であることにさほどの意味はないのだ。さらに言えば、「逆説」が解かれてしまえば、そこに蓄積された緊張がほぐれるだけ、それだけ「真実」からは遠ざかるのかもしれない。これが「逆説の逆説」ってものなのかもしれないね。

No.5 6点 ボナンザ 2019/09/23 10:56
ブラウン神父ものを除けばやはりこれがチェスタトンの代表作ということになるか。

No.4 8点 2018/06/29 23:25
昨年出た新訳で再読。今回タイトルが変更された短編もいくつかあります。またポンド氏の相方の大尉の名前がガーガンからガヘガンに変わっているので、綴りを確認したところ、Gahagan。むしろガヘイガン(「ヘイ」にアクセントを置く)なのかもしれません。
ポンド氏が何気なく発言する逆説に納得のいく説明をしてみせる形式といえば、最初の『黙示録の三人の騎者』は正にそのとおりですが、すべての作品が必ずしもそうとは限りません。赤い鉛筆のようなものなんて、ずいぶんなこじつけですし、影が最も人を誤らせる時は、のセリフは、事件の語り手の牧師が影を見たと述べた時のポンド氏のコメントです。『ガヘガン大尉の罪』に至っては、特に逆説は出てきません、
まあ、一般的にミステリの意外性そのものが、逆説的な論理の上に成り立っているとも言えるでしょう。要はアイディアとその語り方の質の問題なわけで、その点さすがチェスタトンです。

No.3 9点 斎藤警部 2015/10/27 12:59
ひょっとして「童心」より先だったかも知れない。非常に若い時節でしたが、語り口が意外とそう渋黒いわけでもなく、滋味横溢の堂々たる美文(美し過ぎない)を喜々と玩読させていただきました。論理遊戯の果てには日常生活や人生に早速活かしたくなる素敵な気付きの種がいっぱい。逆説と銘打つことが逆説ではないかと思えるまっとうな実践思考訓練のバイブルとして、折に触れ少しずつ再読したいものであります。素晴らしくイカシた短篇集。

No.2 3点 mini 2010/12/09 09:58
国書刊行会版だった「四人の申し分なき重罪人」がちくま文庫から文庫化されたようだ
「マンアライブ」などの長編は別枠とすると、今回の文庫化で短篇集に関しては大部分が文庫で読める状況になったという事だな、唯一ハードカバー版で残ったのが「ホーン・フィッシャーの事件簿」か

「ポンド氏の逆説」は刊行順としては結構作者晩年の後期作で、言わば作者得意の逆説を追求していった究極のものとも受け取れる
「ポンド氏」は内容を要約すると、会話の途中で目立たないポンド氏がふと逆説に満ちた一言を漏らす
不思議に思った周りの聞き手が矛盾したその一言の意味を問い質すと、ポンド氏が真相を語って聞かせるというパターンである
要約だけ聞くと面白そうだが、私にはどうも合わなかった
何故かと言うと、これは謎を解くという性質のものではなく、要は一見矛盾した逆説が、このような特殊状況下では成立するんですよ、という具体例を挙げたに過ぎない
そりゃそんな都合の良い状況を無理矢理に設定すれば成立するよなという感じで、私は謎解きだけを求める読者では無いがあまり乗れなかった
何て言うのかねぇ、最初に提示される命題は面白いが、結局は命題に合わせた作り話を延々聞かされた印象なんだよなぁ
チェスタトンには例えば「木曜の男」みたいなもっと破天荒で捻くれた思想性を期待してしまうせいもあるのかも知れないが

No.1 9点 Tetchy 2008/09/30 20:09
いやあ、すごいすごい!
目から鱗の真相が逆説で鮮やかに語られる、“逆説王”チェスタトンの真骨頂ともいうべき短編集だ。

「死刑執行命令の停止を告げる伝令が途中で死んだので、衆人は釈放された」
「二人の男が完全に意見を一致したので、一人がもう一方を殺した」
「赤い鉛筆だったから、あれほど黒々と書けた」
「影法師を一番見誤りやすいのは、それが寸分違わぬ実物の姿をしているときだ」
「のっぽの男ほど、かえって目立たない」

こんな気違いの世迷言のような逆説がチェスタトンにかかると実に合理的に解かれる。
今も手に入るか解らないが、『ブラウン神父の童心』に続く名短編集といえるだろう。


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