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[ 本格 ]
十日間の不思議
エラリイ・クイーン、ライツヴィルシリーズ
エラリイ・クイーン 出版月: 1959年01月 平均: 6.69点 書評数: 16件

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早川書房
1959年01月

早川書房
1976年04月

早川書房
2021年02月

No.16 5点 いいちこ 2024/01/08 17:52
非常に評価が割れる作品であろう。
犯人が犯行の完全性を担保するため、犯行全体に「十戒」というコンセプトを導入することで、探偵の参画を敢えて促し、その意図せざるところで犯行に協力させるというプロットは抜群に面白く、また、この綱渡りのようなプロットを成立させるために、相当な工夫が見られる点は認める。
ただ、減点材料も決して少なくない。
まず、著者がいかに偽装工作を施そうとも、これだけ登場人物が少なければ、読者にとっては犯人は自明と言わざるを得ない。
偽の解決における犯人は、置かれた状況に受動的に、場当たり的に対応しており、これを自らの意志で十戒を計画的に破っていったとする推理にはかなりの無理を感じるところ。
そもそも本件プロットを成立させるためには、定期的な記憶喪失という、いかにもご都合主義的な前提条件が必須という点でも印象は悪い。
これだけ無理のあるプロットを読ませ切る力は見事であり、本作に対して、あたら批判的な立場をとるつもりもなく、中立的な立場から以上の点を総合的に評価

No.15 10点 じきる 2022/09/02 09:53
読み応えある人間ドラマの果てにあの重過ぎる結末はインパクト抜群。傑作です。

No.14 6点 HORNET 2020/12/30 20:59
 それが却ってよい、という人もいるようだが、私は事件が起きるまでの前半は長く退屈だった。「十戒」という、宗教色の濃い(キリスト教)話は当然なじみがないから、そのつながりに気付いたエラリイの興奮もあまり共有できない。
 章立てとして「9日間」と「10日目」に分けられている時点で、最初の解決が真相ではないことは分かる。10日目で開陳された真相(真犯人)はそれほど意外性が高いわけではないが、内容的には面白かった。

No.13 8点 虫暮部 2020/06/26 12:00
 前半はちと冗長。
 第一部末尾のエラリイの推理から俄然面白くなる。
 総合的には、後半がもたらす読後のインパクトを重視して高評価していいかと思う。

 “自分の行動が信用出来ずに怯える依頼者”は前作長編『フォックス家の殺人』でも使った要素で、二度ネタ厳禁! と言う程ではないが、2作続けてそれってのはどうなんだろう。間に3年ブランクがあるにしても、自己プロデュースと言う点で甘かったのではないか。

No.12 8点 斎藤警部 2020/01/21 23:32
「ぼくはとっておいたのです・・・・・・ぼくの最も輝かしい”成功”の記念品としてです。」

『エラリイ・クイーンなる著名作家が世に存在する』という事実(と虚構の不可分関係)を前提とした、なかなかにメタ風味薫る勝負作。 探偵が間抜けなひと時を過ごしたからこそ醸造された、深い旨味。 第一部と、第二部。。 たまらなく切実なセルフパロディ。いや、よく考えたらその視点すらメタじゃないですか! 何気な文学味もジャストフィットの良さがある。 ある重要登場人物が語った通り、計画には弾力性、これだね。 後続への影響特大の一作ですね。 んで鮎さん、なにアァタいちゃもん言ってんの 笑。


【【 ここから重大なネタバレ含みます よろしくお願いいたします 】】

犯人隠匿技に脂乗りまくりのクリスティだったら、あの真犯人にはしなかったろうかな。。 これでもし真犯人がまさかの「弟」だったら10点スムゥーズスティーラーだったかな。 クリスチアナお婆さんがハヤカワ文庫の登場人物一覧に登場しないのは、謎の人物の正体をぎりぎりまで明かさないためか?だがそのお蔭で、犯人ではありえない人の位置付けになっちゃってる。出来たら彼女も最後近くまで疑っていたかった。。 ラストシークエンスではパールジャムの某アルバムが頭の中を流れ始めた。何故なら。。

No.11 6点 レッドキング 2019/11/08 16:50
殺人事件が起きるまでが実によい。サスペンス超えて狂気と情念の美学・・・まるで「嵐が丘」か「白痴」か。ここまでならば「シャム双生児」と並ぶクイーン小説の双璧として8点献上。
全体4分の3まできて殺人起きてミステリになって、「十戒見立て」オチで尻つぼみに一件落着。マイナス1点。一年後に、どんでん返し「操り」オチして最終解決。さらにマイナス1点。で、計6点。
ところで「操り」って魅力的なテーマとは思うが、催眠術同様に何か噓くささが付きまとう。東野「悪意」や京極「絡新婦」にしても「そんなうまくいくか?」てなる。そのへん「Yの悲劇」はあの偶然性が見事だったかな。

No.10 10点 クリスティ再読 2017/10/30 23:48
ミステリというのもある意味「ジャンル小説」というか、ある「お約束」があって、読者もその「お約束」を期待し、作者も「お約束」の範囲内で上出来な商品を提供する、という側面があるわけだけど、評者なぞはそれでも「作者の意欲とジャンルのせめぎあい」みたいなものを見たい、と感じているわけだ。
本作は、はっきり言って「本格」ではない。「クイーンだから本格ミステリだ」というのは、いささか固定観念(というか消費者としての期待か)が過ぎるというもののようだ。だから評者は常々、作品を作品として、独立に捉えて、読者の期待であるとか予断であるとかから離れて(まあそれができるのが再読の良さなのだが)作品に即して良い面を見つけていきたいと念願しているのだ。
評者は本作は好きだ。ミステリというよりも、小説としての充実感が本当に半端ない。クイーンの全作品の中でも、文章はピカ一だ。ほぼハードボイルド並みの簡潔な文章の畳みかけで綴られている。

しかしだれかが離れ家の電燈をつけたらしく、その光が、女が髪の毛に指をつっこむように暗い庭園にさしていた

...ちょっとロスマクを思わせるような渋い文章である。ハードボイルドの一人称文体が謎解きについて「探偵が知らないことは書けない」という大きなメリットがある、ということをロスマクは明らかにしたわけだが、その視点で見るとき、例の鮎川哲也の批判は評者は的外れだとおもうのだ。というのも、本作はハワード視点の冒頭を除いて、エラリイの限定3人称で通していて、地の文と見えるものも実際にはエラリイの意識のフィルターを通した描写と言うべきなのだ。少なくともエラリイはそう認識した、でイイわけで、「神の視点での真実」とは何も関係がない。まあ評者、本音を言えば「ミステリでの神視点三人称は使用禁止」にしたいくらいのものである..だって、犯人の視点で書かないのは作者の恣意になるからね。
なので、本作のテーマというのは、本当はそういう意識(というか虚偽意識)の問題であって、「あなたの考えは本当はあなたのものなのか?」という哲学的なテーマが背後にある。一見リアルな客観と見えるものさえも、実は「操作された現実」でしかない、という疑惑に包まれたら最後、「あなたの世界」は崩壊するのかもしれない。だからこそ、デカルトは「我あり」を確立した直後に、「神の誠実」を論証なしに認めて世界の客観性を救ったのだが...本作の「神」は残念ながら不誠実である。それゆえ理性=エラリイは神の死を宣告せざるを得ない。そうしなければ「世界」は混淆した主観の中にグズグズと崩れ去るからである。本作のテンションは、そういう「世界」の危機感の賜物なのだ。
結論:本作はクイーンがミステリの形式を媒介にして、ミステリを超えたものにアクセスしようとした「超ミステリ」の1冊ということになる。これは例外的な小説だ。

No.9 6点 ボナンザ 2016/09/10 21:52
ライツヴィル三作目にしてクイーン挫折の幕開けとされる問題作。
鮎川哲也の解説は様々な示唆に富んでいて面白いが、個人的にはあれほど初期に名作を乱発したクイーンであればこそ、後期にこのような試みを用いても許されるのではないかと思う。

No.8 8点 青い車 2016/07/24 22:39
 登場人物が少ないため、「誰が犯人だろうか」と考えながら読む楽しみはほぼありません。僕は別の本で笠井潔氏が犯人をバラしているのを先に読んでしまいましたが、本作に関してはそれはまったく問題になりませんでした。内容の方は、ライツヴィルもの一作目の『災厄の町』と同様に、割とゆったりと展開していきます。殺人事件そのものがなかなか起きず、本格好きが喜ぶような華々しいプロットとは到底言えません。
 ただ、そのなかなか殺人が起こらないという構成が魅力と言えなくもないかもしれません。地味ながらも不穏なストーリーが、終盤になって急激に本格ミステリーに変貌します。それも、クイーンが後年に拘ったあのテーマの一種と呼べるようなもので、最初読んだときはとても新鮮でした。
 もうひとつ興味深いのが、犯人指摘の後、エラリーが犯人にある行為を許してしまうところです。アガサ・クリスティーも初期の代表作で同じことをしていますが、ポアロもエラリーも法の裁きに信頼を置いていない、ということでしょうか?

No.7 7点 E-BANKER 2016/07/08 23:08
「災厄の町」「フォックス家の殺人」に続く、架空の街・ライツヴィルを舞台としたシリーズ三作目。
1948年発表の大作。

~血まみれの姿でクイーンのもとを訪れた旧友のハワードは、家を出てから十九日間完全に記憶を失っていたという。無意識のうちに殺人を犯したかもしれないので、ライツヴィルへ同行してほしいと彼はエラリイに懇願した。しかし、エラリイが着くのも待たず、不吉な事件は幕を開けた。正体不明の男から二万五千ドルでハワードの秘密を買えという脅迫電話がかかってきたのだ! 三たびライツヴィルで起こった怪事件の真相とは?~

確かに、これは賛否両論に分かれるだろうし、読み手を選ぶ作品だろうと感じる。
クイーンといえば何といっても初期の「国名シリーズ」と思われる方にとって、本作は何とも形容のし難い作品なのだと思う。
脅迫事件こそ割と早い段階で起こるものの、殺人事件は終盤に差し掛かったことにようやく発生。
おまけにその犯人は明明白白な状況・・・といった具合。
これではロジックもトリックもあったものではない。

他の諸作に比べても著しく少ない登場人物。
エラリイ以外にはほぼ四人の登場人物だけにスポットライトが当てられるのだから、人間ドラマ的な色合いが濃くなるのは必然だろう。
そして本作のプロットの中心or根幹ともなるのが、終章の「十日目」。
エラリイの推理で一旦終結したはずの事件が、更なる奥深い暗黒を見せる刹那。
これは重い! あまりに重い真相だ。
ラストも何とも悲劇的だし、救いがない。

ハヤカワ文庫版の鮎川御大の解説に関しては、他の方も触れているとおりなのだが・・・
(ネタバレはご愛嬌か?)
クイーンらしからぬアンフェアな表現に対して辛辣な評価をしているをはじめ、本作が氏の好みでないであろうことが、筆致の端々に表れているのが興味深い。本作と宗教の関連についても慧眼。

そういうわけで評価は難しいな・・・
正直、最初は「なんじゃこりゃ?」っていう感想だったのだが、結構後からジワジワきた作品だった。
並みの作家がこんなプロットで書いたら、まず読めたものではないだろうし、それだけ作者の力量が卓越しているということなのだろう。
好みか?と聞かれれば、決してそうではないんだけどね。

No.6 6点 ロマン 2015/10/21 10:00
時々記憶を失う旧友ハワードの頼みに応えて、彼の屋敷に滞在することを決めたエラリイ。そこでエラリイはハワードからある秘密を告白され、脅迫事件に巻き込まれていく。緊張感のある家族関係を綿密に描いた人間ドラマと、エラリイの人間くささに読み応えがあり面白く読んだ。思うことをまとめると、探偵は起こった事件を問題文として、論理的に解を導くことはできても、まだ事件が起こってない(どれを解くのか決めていない)ようなときには、推理をしても問題文が全文ではないので正しい解を導けないのではないか、と思った。

No.5 5点 了然和尚 2015/03/25 13:54
初読でしたが後期クイーン的問題とは、この作品を典型とする話なんですよね。クイーン探偵はあまりに無能で、本格推理としてはがっかりさせられますね、ミスディレクション談義をすれば、ミスディレクションは大きく2つに分けることができ、1つは作者が読者に仕掛けるもので、もう一つは作者が探偵をミスディレクションするというものです。後者は本格推理としては本作のようにふやけた内容になりがちかと思います。「ノックスの十戒」「ヴァン・ダインの二十則」に 探偵は間違った推理をして犯人に利用されてはいけない というのを追加してほしいものですね。また、本作ような曖昧な2段返しの結末は、実際の犯人は弟さんで(最後に実利を得ている)兄さんはうまく踊らされた とも言えてしまう(あるいはその弟を母か家政婦が躍らしたかも)となんでもありになってますね。

No.4 3点 nukkam 2010/10/19 19:10
(ネタバレなしです) 1948年発表のエラリー・クイーンシリーズ第18作です。ハヤカワ文庫版の巻末解説はあの鮎川哲也ですが、本書の謎解きについてかなり辛口な評価です(犯人名をばらしているので事前には読まない方がいいです)。明らかにこれは国名シリーズやドルリー・レーンシリーズなどの論理的で緻密な推理を期待しての評価ですね(そういう期待は残念ながら裏切られます)。本書の擁護派は(探偵クイーンも含めて)丁寧な内面描写や重苦しさを残す締めくくりなど小説としての部分を高く評価するでしょう。個人的にはやはりミステリーである以上、ちゃんとした謎解きであってほしいので鮎川の意見を支持します。

No.3 5点 kanamori 2010/09/01 20:28
「ハイト家」「フォックス家」に続くライツヴィルを舞台にした第3弾。
この作品は、これ以降のクイーン作品を楽しめるかどうかの試金石となる作品だと思った。「ギリシャ棺」でも同様の趣向はあったが、それをより推し進めた感じです。
比較的長めの小説で、肝心の事件もなかなか発生しない。ハワードの記憶喪失と脅迫事件、ホーン家を巡る家族間の人間模様が描かれるが、出来が悪いとは思いませんが、なぜか物語に入り込めずに読み終えてしまいました。
なお、鮎川哲也氏の解説は重大なネタバレがあり、事前に読まない方が楽しめます。

No.2 6点 Tetchy 2010/05/17 21:36
本書の主要人物はエラリイと彼の友人ハワード、そしてその父親ディードリッチにその妻サリー、ディードリッチの弟ウルファートのたった4人である。そんなごくごく少ない人間関係の間で起きる殺人事件だから、必然的にドラマ性が濃くなる。

本書におけるエラリイの役回りは謎の脅迫者を突き止める探偵役、ではなく、このハワードとサリーの2人に翻弄される哀れな使い走りであることが異色。前にも述べたがこういう役回りを配される辺り、国名シリーズ以降のクイーンシリーズはパズラーから脱却してストーリーを重視し、ドラマ性を持たせることに重きを置いているように感じる。特に驚くのは事件の真相が解明するのは一旦落着した1年後であることだ。これほどまでに事件を引っ張ったことは今までなかったし、これがエラリイのに初めて犯人に屈服する心情を吐露させる。

正直なところ、結末が好きではない。
人の命を奪うことは決して許されないこととするならばなぜエラリイは人の命を間接的に奪うようなことをしたのか?これが非常に矛盾を感じたのだった。この結末にはやはりエラリイの、もしくは作者の傲岸不遜さがまだ残っているように思える。非常に残念でならない。

No.1 8点 2008/12/22 20:24
『最後の一撃』に至るまでクイーンがこだわり続けるパターンが最初に現れる長編ですね。殺人事件はなかなか起こりませんし、登場人物はごく限られていて、フーダニットとしてのおもしろさはほとんどありません。起こったことの原因を探る過去指向ベクトルよりも、次に何が起こるのかの未来指向ベクトルの方が大きくなったと言えるのではないでしょうか。
とは言っても、最後はやはり論理的に犯人の計画を解析してくれます。しかし、これが初期のクイーンからは考えられないほど重い。小説の長さもかなりのものですが、このじっくり描きこまれた重量感が魅力的な力作です。


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