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[ 本格 ]
死せる案山子の冒険
エラリイ・クイーン、シナリオ・コレクション
エラリイ・クイーン 出版月: 2009年03月 平均: 7.71点 書評数: 7件

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論創社
2009年03月

No.7 6点 nukkam 2023/03/18 17:33
(ネタバレなしです) ラジオシナリオのベストセレクション的な「殺された蛾の冒険」(2005年)を論創社版は「ナポレオンの剃刀の冒険」(2008年)と本書(2009年)の2冊に分冊して出版しました。本書では1時間シナリオが5作と30分シナリオが2作収められており、いずれも「読者への挑戦状」が付いた本格派ミステリーです。30分シナリオがなかなかの出来栄えで、「ダイヤを二倍にする男の冒険」(1940年)は盗難と殺人の2つの事件を詰め込んで1時間シナリオの方が冗長に感じてしまうほど濃厚な謎解きが楽しめますし、「忘れられた男たちの冒険」(1940年)の論理的推理も見事と思います。1時間シナリオでは事件解決後も重苦しい余韻が残る「姿を消した少女の冒険」(1939年)が印象的です。巻末解説で「他の作家のダイイング・メッセージものとは、雲泥の差」と誉めている「死を招くマーチの冒険」(1939年)はあまり感心できません。それなりの長さの謎解きなのにメッセージの解読「だけ」での犯人指摘は説得力に乏しいように思います。

No.6 8点 HORNET 2022/07/31 17:28
 1巻目「ナポレオンの剃刀の冒険」に続く、ラジオドラマのシナリオ・コレクション。「エラリー・クイーンの冒険」ばりに、出来の良いクイーンのパズラーを短編レベルで楽しめる。
 解説でも述べられているが、今回収録されている編は1巻目よりも登場人物が少なく、シンプルな謎解きとしての色が強い感があった。そのためか、表題作である「死せる案山子の冒険」、出色の出来とされる「姿を消した少女の冒険」は、いずれも完全に真相を看破できた。それはそれで嬉しかった(笑)
 アメリカの風俗事情や英語を理解していないと分からないものもあったが、自分としては「黒衣の女の冒険」と「忘れられた男たちの冒険」が、謎解きとして非常に魅力がありかつ納得のロジックだった。
 巻末の法月綸太郎による解説も非常に興味深かった。
 内容を忘れてしまった頃に再読して楽しみたいなぁ。

No.5 5点 レッドキング 2022/07/10 20:46
クイーンのラジオシナリオ集「殺された蛾の冒険及びその他ラジオミステリ集」のうち「ナポレオンの剃刀の冒険」に未収録の残り半分を収めた作品集
  「生き残りクラブ」 属性Aに該当する犯人特定ロジック鮮やか・・たーだ、日本では同じだぞ、アレとあれ。6点
  「死のマーチ」 刻まれたダイイングメッセージからのWho・・日本語人にはピンとこないぞ、「MArch」。3点
  「ダイヤを二倍にした男」 密室ダイヤ消失の解明や見事、8点・・・が、殺人犯特定ロジックには異議あり※
  「黒衣の女」 女の幽霊に脅かされる神経症作家の撲殺事件。4点
  「忘れられた男たち」 空地の浮浪者小屋で殺されたスリ男。手袋のロジックからのWho。3点
  「死せる案山子」 血を流す案山子と雪だるまに隠された殺人。パイプのロジックからのWho。5点
  「消えた少女」 当時は・公的には・「あり得ない事」だったろうが・・今、瞳ロジックでの衝撃緩和は蛇足。6点
で、平均して、6+3+8+4+3+5+6=35÷7=5点

※「殺人犯aは、死体にダイヤを握らせたb」「ダイヤを握らせたbは、ダイヤを持っていたc」「ダイヤを持っていたcは、ダイヤを盗んだd」「故に殺人犯aは盗難犯d」Q.E.D.・・・だーが、A⊂B(殺人者はダイヤを握らせた者)とは限定できず(BとC、CとDも同様で)、A⊂D(殺人者は盗難者)とはならず、故に殺人犯a=盗難犯dとは言い切れない・・・

No.4 6点 蟷螂の斧 2020/09/05 12:06
ラジオのシナリオということで、表題作以外は会話のみの作品。当時は、まだナレーションはなかったのだろうか。表題作は登場人物による朗読はあるのだが・・・。

①<生き残りクラブ>の冒険 8点 ○○が犯人というプロットが楽しめた。ただし日本人に謎は解けない?
②死を招くマーチの冒険 3点 ダイイングメッセージもの。時間があるのなら単に名前を書けばいい(苦笑)
③ダイヤを二倍にする男の冒険 6点 普通は飲込みを考えるもX線検査までしているとなれば、残りの答えは一つしかない(笑)密室物の応用パターンか。
④黒衣の女の冒険 5点 「真相を見抜いたと思った―が、それが間違っていた」ミスリードは○○説なのだが、別にそれが真相でもよかったような。
⑤忘れられた男たちの冒険 5点 可もなく不可もないといった感じの作品。犯人が何故いつまでも証拠品を持っていたかという謎は残る。
⑥死せる案山子の冒険 6点 雰囲気はいい。これを読んで自分はロジック物がそれほど好みではないことが分かった。
⑦姿を消した少女の冒険 8点 誘拐もの。現在では、すぐわかってしまうトリックですが、嚆矢と思われ敬意を表して。

No.3 10点 ボナンザ 2019/07/24 20:31
帯の法月の言葉に偽りなし。
神としか言いようがない。

No.2 10点 青い車 2016/05/11 16:05
 『ナポレオンの剃刀の冒険』と同じく、このたび再読。初期長篇で利用したアイディアをアレンジして取り込んだもの、中期以降のドラマ性を重視したものなど色んなクイーンの顔を見ることができてお得です。おそらく大衆受けを狙ってのものであろう、秘書のニッキイとじゃれあうエラリーの姿も見られます。
 このラジオ・ドラマ集でもうひとつ強調したいのは、飯城勇三氏による解説の面白さです。一見推理ものとしてはさびしいエピソードの意外な伏線のうまさや見どころが確認でき、それだけでなく各エピソードの弱点に関しても愛のある意見が見られます。
以下、各話の感想です。

①『<生き残りクラブ>の冒険』 クリスティーに先を越されたため没になった長篇のプロットを本作で使った、という説があるそうです。このアイディアを活かすには、ストーリー作りのうまいクリスティーの方が確実に向いているので、短めにまとめたかたちで発表したのは正解と言えるかも。
②『死を招くマーチの冒険』 解説にもあるように、きわめて論理的なメッセージの解明はクイーン的。しかし、このテーマだとどうしても推理がちまちまとなってしまい、爆発力という点で物足りないのは仕方がないところです。
③『ダイヤを二倍にする男の冒険』 ミスディレクションにより謎が深まっている不可能状況ですが、考え方を変えると実にシンプルな事件です。犯人のよけいな小細工が、逆に自分を犯人に直結させてしまっている皮肉にも面白いものがあります。
④『黒衣の女の冒険』 オカルト風の謎でも、そこはエラリー・クイーン、見事論理的に解決しています。しかし、関係者の職業から安直にあるトリックを想像していたのですが、エラリーにまっさきに排除されて恥ずかしかった…。
⑤『忘れられた男たちの冒険』 証拠の意外性と、短いならではのキレの良さ。単純にミステリーとしてならいちばん好きかもしれません。提示がさり気ないだけでなく、ちゃんとフェアプレイも両立させています
⑥『死せる案山子の冒険』 ロジックは国名シリーズ的な一方、一族の悲劇を描いているところには中期っぽい雰囲気もあります。特に血を流したカカシやパイプからは『エジプト十字架の謎』が、ストーリーからは『九尾の猫』が想起できます。
⑦『姿を消した少女の冒険』 のちの誘拐ミステリーの雛型と言えそうなプロットです。現に、僕の好きなクイーン・ファンの新本格作家はこれをさらに発展させたような長篇を書いています。今となってはさして意外な犯人ではありませんが、解説を読むと意外にも緻密に組み立てられたストーリーであることに気付かされました。

No.1 9点 ロビン 2009/04/25 19:47
クイーンのラジオドラマ集第二段。
初期国名シリーズの頃のパズラー色が強かった前作に比べ、本書はより中期よりの作品傾向が目立ちます。
後期クイーンの悪癖とも言うべきダイイング・メッセージ物はパッとしませんが、クイーンファンならば楽しめる要素のある作品は多いです。
クイーンが新作として考えていたプロットが、先に発表されてしまった『そして誰もいなくなった』と同じだったためにボツになった話は有名ですが、本書の『生き残りクラブの冒険』は、その幻の原案が採用されている、と解説者の方は予想しています。しかしこのアイディアでは、クリスティのほうがサスペンス性もサプライズ性も上だと思います。
国名シリーズ要素が多く詰まった表題作は、犯人指摘のロジックがスマートで、さすがと感心させられるが、案山子や雪だるまに関するホワイがあっけなさすぎるのでいまいち。
お気に入りは『姿を消した少女の冒険』なんと、クイーンにしては稀有な誘拐ものです。正直、現代人にはわかりやすい犯人ですが、中期の悲劇性が色濃く出ていることが大きなミスリードとなっています。これが登場人物が単なるパズルの1ピースであった初期ならばこういった作品は生まれなかったでしょう。そういった、初期、中期、後期と作風に違いが現れたクイーンを一度に味わえることが本書の醍醐味なのかもしれません。


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エラリイ・クイーン
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