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[ 本格 ]
プレーグ・コートの殺人
HM卿シリーズ /別題『黒死荘の殺人』『黒死荘殺人事件』『黒死荘』
カーター・ディクスン 出版月: 1959年01月 平均: 6.85点 書評数: 27件

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東京創元社
1959年01月

東都書房
1963年01月

講談社
1972年01月

講談社
1977年03月

早川書房
1977年07月

東京創元社
2012年07月

No.27 7点 文生 2024/03/09 10:12
幽霊屋敷の石室で血まみれになって絶命した霊媒師、完全な密室状況に意表を突くトリック、加えてヘンリー・メリヴェール卿の初登場作品と、カーの魅力が初めて完全な形で出揃った記念碑的な作品です。同時に、不可能犯罪ものの教科書的な傑作だといえます。また、密室トリック以外にも交霊術の蘊蓄や意外な犯人、巧みなミスリードなどミステリーとしての魅力が満載です。ただ、中盤までがやや冗長で読みづらく感じた点が難。

No.26 7点 ことは 2023/05/31 00:42
「死と奇術師」を読んだら、カーが読みたくなって、再読。昔読んだときの印象より少し下がった。
良い点と悪い点がはっきりした作品だった。
良い点からいうと、まずはなんといっても密室のメイントリック。「気付けるかよっ!」というところはあるので推理比べには向かないが、これは印象的だよ。やっぱり記憶に残る。プロットも、フェル博士登場で空気感が変わる「チェンジ・オブ・ペース」がいいし、登場してすぐにフェル博士が提示する事件の見方が、意外かつ説得力があって見事。
でも、悪い点もいろいろ目についた。まず、これは、作品そのもののせいではないが、降霊術というのが、いまひとつ。昔読んだときは、もっとドキドキできたのだけど、今はもうのれないなぁ。時代もあると思う。昔はテレビの心霊写真特集なんかを怖がれたけど、今ならもう「加工でしょ?」となってしまう。それと、犯人の経路の件と、あの人の立ち位置は、ちょっとずるいなぁと感じた。
全体的にいえば、雰囲気、トリックの妙、ゴタゴタした展開なども含めて、カーの特徴はよくでているので、代表作にふさわしいと思う。
他、H・Mにしては、コミカルなシーンがないなと考えたとき、ふと、昔どこかのネットで読んだ分析を思い出した。
内容はこんな感じだった。
”初期は、H・Mとフェル博士のキャラの描き分けは少なく、H・Mには怪奇な事件、フェル博士にはとらえどころのない事件をあてている。「三つの棺」から変わる。ここから、描き分けとして、H・Mはコミカルな言動が増え、フェル博士は落ち着いた言動が増える。事件もそれにあった割り振りがされる。”
”なるほど”と思ったのでおぼえている。

No.25 5点 虫暮部 2023/04/20 13:30
 建物の構造とか短剣の形状とか、重要な筈の物が色々上手くイメージ出来なかった。
 3章。ジョゼフが “名前負けしている” とは。聖母マリアの夫、ヨセフを引き合いに出している?
 18章。語り手の姉のアガサが “ゴーゴンをいくらか穏やかにしたような女性” とは。発表の時点で “アガサと言えばあの人” だったのかな? 確かに写真を見るとそんな感じではある。
 20章。芝居の演目が真相を暗示する遊び心は好き。たとえ通じなくとも。我が国ならベルばら?

No.24 6点 クリスティ再読 2022/03/15 22:13
有名作ではあるんだけどもねえ...いや評者あまり密室って好きじゃない。推理しようがない密室って多いから、作者の得たり賢しな謎解きを聴いて感心するか、というとそうでもないことも多い。「カッコイイ密室」って実はそうとう難しいんだと思っているよ。
特にそう思うのは、被害者の内緒の狙いと、協力者の思惑、というあたりが、実は本作はあまり噛み合ってないようにも思うんだ。被害者による演出がなくても、この密室って成立するわけだし。怪異譚の合理的な謎解き、という面では心霊家の被害者に演出の狙いがあるのが当然なんだけど、それと密室の謎がごっちゃになっているようにも感じられる。
フーダニットの方は....いや、これ当たらないでしょう。無理筋、という評価の方が自然じゃないかな。

まあ、交霊術のいろいろなトリックをそれとなく教えてくれるとか、そういうあたりが面白いかな。やはりカーはオカルトをキャンプ趣味で面白がるタイプなんだろう。

(思うんだが、カーとディクスンの違いって、「アメリカ人から見たイギリス」なのを意識しているのがカーで、完璧なイギリス人のフリをしているのがディクスン、という気がする。どうだろう?)


追記:どうしても気になるので..(バレ)
これって外したときに、証拠を回収できないから、簡単にバレる。いくら旋盤を使うからって手製だし、ヒビが入っていて爆散とか、バランスが悪くて軌道が安定しないとか、頭蓋骨など表面にある骨に当たって刺さらないとか...モース硬度2だそうだから、そもそもあまり硬いものではないようだ。通常モードなら被害者の協力で何とかなるんだろうけどもね。

No.23 7点 2020/11/21 15:06
 一九三〇年九月六日のこと、元陸軍省防諜部員ケン・ブレークは、ノーツ・アンド・クロッシズ・クラブの喫煙室でディーン・ハリディから頼みを受けた。「幽霊屋敷でひと晩明かしてほしいんだ」
『黒死荘』と呼ばれるその邸はロンドン大疫病の際、食料を蓄えて門を閉ざしており、そこに押し入ろうとして拒絶され息絶えた絞刑吏、ルイス・プレージの恨みが纏わりついていた。百年以上前の悪霊を祓う為、命日にあたる今夜そこで、心霊学者ロジャー・ダーワースによる徹夜の勤行が行われるのだ。儀式に先立つ一週間前の夜にも奇妙な事件が起こっており、ディーンの不安は高まっていた。さらに今朝がたにはロンドン博物館の「死刑囚監房」から、プレージの短剣が盗まれたのだという。
 ケンは〈幽霊狩人〉の異名を持つスコットランド・ヤード首席警部、ハンフリー・マスターズを伴い現地に赴くが、その『黒死荘』で鳴り響く鐘の音を合図に始まったのは、異様な殺人事件だった。石室で発見されたダーワースは背中に数ヵ所の突き傷を受けて血の海の中に倒れ伏しており、右腕には例の短剣を握っている。しかも完全な密室の周囲は当夜の雨のため泥の海と化し、足跡さえも残っていなかった・・・
 1934年発表の記念すべきヘンリ・メリヴェール卿シリーズ第一作。今回は心霊繋がりという事で、南條竹則・高沢治の新訳版で読了。本書の254P~255P、ハリー・フーディーニの著作『心霊の間の奇術師』の転用と思われる部分を見ると、霊媒のメソッドは基本この時代から変わってない事が分かります。効果的な方法が残っていくのですからあたりまえですが。
 探偵役となるH・Mの登場は全体の半ば過ぎと遅く、緩衝的存在が無いため、序盤はガッツリゴシック小説風に進行します。このため読み辛いという意見も多々あり。ただこれは幽霊好きの作者が〈いっぺんやってみたかった〉だけでしょう。
 問題の密室に加え念入りな犯人隠しプラス隠れ共犯者と、かなり気合が入っており、カー/ディクスン名義のベスト10に入ってもおかしくない仕上がり。薬物を目眩ましに使うのは好みでないので、私が選ぶと入りませんが。これに絡めてH・Mが証拠の〈白い粉〉を、「わしだったら、その粉を舐めようなんて料簡は起こさんぞ」とか言ってるのが笑えます。この展開だと絶対麻薬か何かだと思うよねえ。陰惨な本編の数少ない笑い所です。
 さらにダグラス・G・グリーンに「ジョン・ディクスン・カーの真骨頂が発揮された幽霊屋敷譚」と評されただけあって、それに相応しい犯人が登場。カー/ディクスンの著作にはバンコラン物以外そこまで凶悪な犯罪者は現れませんが、本書は例外の一つでしょう。ルイス・プレージとこの人物をダブらせたH・Mの最後のセリフも、怪奇譚の〆として綺麗に決まっています。

No.22 7点 HORNET 2020/04/19 18:51
 前半部分はあまり自分の中で評価が上がらなかったが、後半から一気に来た。要は、H.M卿が登場してから。初登場作品だからか、登場が遅いね。
 フーダニット、ハウダニット両者に十分力が割かれているのだが、後から背景が明らかになったり、時代性もあって現代の我々があまり分からなかったりして、H.M卿の洞察で明かされるのを待つしかないという感じ(読者に推理の余地はない)。それでも明かされた真実は、オカルティズムと現実的トリックが見事に絡み合っていてうならされるものがあり、満足した。
 特に前半部の展開が、様相が頭の中に描きにくくて非常に読みづらい。精緻に理解しながら読み進めようと思わない方がよいと思う。

No.21 6点 ミステリ初心者 2020/02/23 19:15
ネタバレをしています。新訳の黒死荘の殺人のほうを買いました。

 H・M卿のキャラが気に入り、シリーズ初作から読みたくなり買いました(確か初作ですよね?)。しかし、文章の相性が悪いのか、今作は非常に読みづらかったです(涙)。読了までに、通常の2倍以上の時間がかかりました。

 どんでん返しや意外な犯人が楽しめる、濃厚な作品でした。ミスリードが多くあり、すっかり騙されてしまいした。犯人がすでに入れ替わっており、死体となって発見されるもそれも入れ替わっているという2重の入れ替わりが凝っていました。
 また、密室殺人です。パターンの一つではあると思いますが、自分にとって非常に意外な殺人方法でした(笑)。

 以下好みではなかった部分。
 被害者自身に秘密の思惑があり、それを利用した密室殺人です。これはよく見るパターンで、解決前に明らかにされているので良いとして、協力者や嘘の証言者がいるのは好みではありませんでした。特に、協力者が警察なのも好きじゃないです(怪しいシーンがおおいし、複線もありましたが)。
 塩弾の銃の存在を知りませんでした(笑)。密室状況が完璧すぎたので、実は犯人は中に入っていないのでは?と考えましたが、殺し方が全く分かりませんでした。というか、銃とキリのようなナイフ?による傷の違いって、検視などで違いが判らないものなのですかね(笑)。

※追記:地図や黒死荘の図が欲しかった!!!

No.20 6点 バード 2019/02/20 21:17
自分にとって3冊目のカー作品。なんとなくカーの作風(おどろおどろしさを前面に押し出す感じ)が分かってきたが、これは自分にあってない感じ。
本作に関しては、殺人事件の解決編で語られる真相の説得力と序盤から中盤にかけての伏線の上手さが好みである。その一方で、事件の輪郭がつかめるまでの前半部分は描写がくどく、正直退屈だった。

H・Mの推理を読んだ直後は犯人当ての難易度高すぎない?と思ったが、落ち着いて考えると、彼が推理をするのに用いた材料の箇所はほぼ全て自分も違和感を覚えつつ読んでいた箇所だったのである。
例) ジョセフが見張りといいつつ、モルヒネを服用して、見張りの役に徹していない点、 ジョセフと思われる死体の顔が確認できなかった点など。
つまり、頭を使えば犯人を当てられたのだと思う。
ただし、殺しに銃を用いたということを当てるのは厳しいかと思う。なぜなら、凶器と思われた短剣のイメージがつきにくいからね。(文字だけじゃ中々伝わらないよ。)

ということで、ミステリとしての完成度は中々に高いと思った。ただし個人的にかなり読みくいと感じたので、その分減点して総合6点。

No.19 6点 レッドキング 2019/02/05 20:51
「まだらの紐」や「斜め屋敷」同様に、けっして「密室」ではないんだよな 窓あるし。ただそれをどう不可能らしく見せるかにかかってくるわけで、そこで初めてオカルトが生きてくる。

No.18 8点 弾十六 2018/10/27 20:06
JDC/CDファン評価★★★★★
H.M.卿第1作目 1934年出版 今回読んだのは2012年の新訳
40年前ハヤカワ文庫(仁賀訳)で読んでいるのですが、H.M.が被害者の部屋を調べるシーンを朧げに記憶していた以外、ほぼ全部忘却の彼方。印象的な殺人方法も犯人もすっかり忘れていました。
注釈が読みずらい(是非同じページ内で処理して欲しい)のを除くと新訳は非常に良質。そして肝心の内容も抜群です。不可能犯罪はこのくらい設定に凝らないとリアルにならないよ、とJDC/CDがニヤついています。ただしいつもの通り2回目の犯行が雑。そして生きている時の被害者が描かれていないのが残念。マリオンや偏屈婆さんの描き方も物足りないです。小説的に良いネタをぶん投げてしまうJDC/CDの悪い癖ですね。
本作のマスターズの設定を読んでJDC/CDの怪奇趣味の正体がわかりました。オカルト・バスターズなんですね。ユリ ゲラーに対するランディの立場です。もし本物の不可能犯罪が存在したら超自然現象を肯定せざるを得ないのです。そこら辺も本作では明快に描かれていてJDC/CD入門に最適かつ最高傑作ではないか、と思いました。

No.17 5点 makomako 2017/09/02 23:05
 この作品は評価が高いが、私はあまり楽しめなかった。
 はじめのかなり長い部分が、オカルト趣味というか怪奇趣味というかといったお話が述べられているが、これはほとんど主たるストーリとは関係がない。
 この辺りでちょっといやになるのだが、全体解けそうもない密室殺人が起きたあたりからはやっと面白い展開となる。
 密室殺人のトリックはすごいなあ。でも現代なら全く通用しそうにないだろうけどね。
 第2の殺人は誰でも見破ることができるでしょう。これに騙されるような警察は当時としてもお粗末極まりないことになりそうです。
 全体としてどうもしっくりこなかったのは、殺された心霊学者が、話の中に実際に登場したことがなく、ほとんどがほかの人物から語られただけであるため、現実感が乏しい感じがするところと、初登場のH.M.が推理を組み立てていくといった感じが少ないため、名探偵の推理の過程がほとんど見えないところ。
 こういった感じなので私の評価はあまりよくなかった。

No.16 8点 nukkam 2016/05/11 19:42
(ネタバレなしです) 1934年発表のヘンリー・メリヴェール卿(H・M卿)シリーズ第1作の本格派推理小説です。カー名義のフェル博士シリーズと並ぶ名探偵シリーズですが、どちらかといえばユーモア・ミステリー色が濃いのが特長です。しかし本書はその点では例外的でユーモアは見られず、重苦しくてオカルト色も強いです(横溝正史への影響大です)。プロットは詰め込み過ぎの上に回りくどく、名探偵のH・M卿はまだしもマスターズ警部が質問に対してまともに答えずはぐらかしてばかりなのにはちょっといらいらしました。特に殺人が起きるまでの序盤の展開はとても難解で読者は集中力が必要です。とはいえトリックの豊富さは全作品中でも屈指の多さで、足跡トリックなんかはお粗末ですが凄さを感じさせるトリック(トリックネタバレ本でもよく紹介されています)には素直に驚きました。

No.15 7点 青い車 2016/01/29 00:01
かなり読みにくかったところ以外は非常によくできた作品だと思います。密室状況を特殊な殺害方法と複合させたトリックはさすがの完成度です。ただし、負け惜しみになりますが足跡のない密室の解答としてこの真相はちょっとずるいような…。僕が読み落としているだけかもしれませんが、読者に対し不親切な記述であるように思えます。それでも、カーのトリック・メイカーぶりがよくわかる佳作であることは変わらないのでこの点数は堅いです。

No.14 9点 ロマン 2015/10/20 12:18
黒死荘で降霊会が開かれようという矢先、庭の石室で術者が惨殺された。凶器と目されたのは遺体の傍にあった短剣。そのかつての所有者は、屋敷と浅からぬ因縁を持ち、呪いの言葉を叫びつつ黒死病に倒れた絞刑吏助手だった。現場の石室は窓の鉄格子以外に隙間がなく、周囲には足跡も残されていない。これは幽霊による殺人なのか? H・M卿初登場作品。密室での殺害方法より密室が作られた理由の方に感心した。もう意外性はないかと思っていたら、犯人の正体を知ってまたびっくり。少し無理がある気もするけれど。予想以上にトリッキーな小説。

No.13 5点 斎藤警部 2015/07/23 13:52
(ネタバレ有り)

人物入れ替わりの絡んだ犯人当ての困難さはなかなかのもの。 殺人方法を偽装(!)した密室殺人トリックも物語の禍々しい雰囲気によく合って印象的だが、それにしては解決篇のHM卿が二言三言で済ませ過ぎでは? 犯人を暴くのと同じくらい、もっと勿体ぶって思わせ振りにこの名トリックを解説して欲しかった。
物語としては、若干すれ違いの不満有りかな。 邦題は「黒死荘」がいいね。

No.12 7点 あびびび 2015/07/08 19:03
作者の圧倒的勝利。解説の方が、「まず真相は解明できないだろう」とあったが、読者の私は相手の言いなり。白い粉の成分を調べなかった鑑識、傷口から発見できなかった殺害方法など、言いたいことはたくさんあるが、石造りの部屋の中の殺人、誰も手を触れることのできない密室で殺人を演出するのだから、これくらいは我慢すべきだろうと思う。

ミステリの王道を楽しめたので、満足感は十分だった。

No.11 4点 蟷螂の斧 2014/04/21 14:24
雰囲気はいいのですが、2大トリックは拍子抜け(好みの問題)でした。凶器についての知識がないのでただ唖然とするだけでした。もう一つは許容範囲外(昔の物語では何回かお目にかかっているが・・・)ということで辛目の評価となりました。H・M卿の推理が出来過ぎで、もう少し悩んでほしい(笑)。

No.10 7点 ボナンザ 2014/04/08 21:17
HM卿のデビュー作。トリックの構成がやや強引だが、カーらしい幻想趣味と密室の構成が映える名作の一つ。

No.9 7点 E-BANKER 2012/10/21 21:25
H.M卿を探偵役として初めて登場させた記念すべき作品。
早川版の「プレーグ・コートの殺人」というタイトルの方が著名だろうが、最近出た創元版(「黒死荘の殺人」)にて読了。

~私ことケン・ブレークは、友人ディーンに幽霊屋敷で一夜明かしてくれと頼まれ、マスターズ警部を伴って黒死荘へ出かけた。かつて猛威を振るっていた黒死病に因む名を持つ屋敷では降霊会が開かれようとしていたが、あろうことか術者ダーワースは血の海と化した石室で無残に事切れていた。庭に建つ石室は厳重に戸締りされており、周囲に足跡はない。そして、死者の傍らにはロンドン博物館から盗まれた曰くつきの短剣が・・・。関係者の証言を集めるが埒もあかず、陸軍省の偉物に出馬を乞う!~

全体的には「さすが名作といわれるだけある」という作品。
前半はいかにもカーという感じで、怪奇趣味に彩られたオドロオドロしさ全開の雰囲気。
そして、降霊会というオカルト趣味全開の舞台で発生した殺人事件がかなり強烈。
今まで様々な密室に出会ってきたが、ここまで堅牢な「密室」はなかなかお目にかかれない。

その解法もかなり独創的トリック!
凶器の特殊性については、ストーリー中ではそれほど触れられてなかったため、H.Mの推理を読んだときは唖然とさせられた。
ただ、これはそういう知識がないと読者には解明不可能だろう。そこがやや気になる。
(鑑識では全く分からなかったのだろうか・・・?)

そしてもう一つの「ヤマ」がフーダニットに関するミス・ディレクション。
これは読者によっては、かなり「無理筋」という印象を持つ方もありそうだ。
古いタイプのミステリーにはこういう「錯誤」を使ったトリックがよく出てくるが、人間の「勘」とか「感覚」ってそこまでヒドくないだろう(騙されないだろう)という気にはさせられる。
まぁ、それをカバーするための真犯人の造形なり設定が効果的に成されているし、まずは作者のアイデアそのものが十分に面白いとは思えた。

前評判+期待どおりかという言われると、若干落ちるかなという評価にはなるが、全体的なバランスや出来は作者の作品中でも上位なのは間違いない。
(初登場のため、H.M卿の人となりがいろいろ説明されてるのが新鮮)

No.8 9点 おっさん 2012/08/17 20:38
不可能犯罪(トリック)と怪奇趣味(ミスディレクション)の至上のコンビネーション――カー(ディクスン)がその芸風を確立した、1934年発表の、ミステリ黄金期の精華のひとつを、創元推理文庫の新訳『黒死荘の殺人』(南條竹則・高沢治訳)で再読しました。
小学校高学年のとき、平井呈一訳『黒死荘殺人事件』(講談社文庫版)ではじめて接し、大学時代、仁賀克雄訳の『プレーグ・コートの殺人』(ハヤカワ・ミステリ文庫)でも読み返していますから、正確には、再々読ですね。
なんだか、夏休みに、ひさしぶりに実家に帰省した気分w

新訳は、平明な文章という点でかなり健闘していますが、それでも率直に言って、本書の前段はとっつきにくい。
まだカーの小説技術が不充分で、来るべき事件の容疑者となる、個々のキャラの色分けが出来ていないことが大きいですし、情報伝達が詳細な説明にとどまり、それが視覚的イメージに昇華されない(“現場”周辺の地形とか、パッと思い浮かんだ人、います?)のも、作者の描写力の問題です。
最初のクライマックス(いわくつきの石室での、密室殺人)へ向けて、ともかくテンションの高さで、しゃにむに引っ張ろうとしている感じは否めない。

そんな本作が俄然、面白くなるのは、私ことケン・ブレークの巻き込まれ型ミステリから、巻なかば過ぎ、真打ちヘンリー・メリヴェール卿の登場で、名探偵システムの物語へとシフト・チェンジしてからです。
謎に困惑し行きづまった語り手と、あとを引きうけた冷静な探偵の対照――コナン・ドイルの『バスカヴィル家の犬』を応用したであろう(古文書による怪奇ムードの醸成や、真犯人をめぐる設定等でも、本書は『バスカヴィル』を踏まえていると思います)この劇的構成は、長編本格ミステリ作法の、ひとつの理想形といえるのではないでしょうか。
そして、そんな御大H・Mのパースペクティブから一連の出来事を振り返ることで、事件の様相が、ガラリと変わる(全21章中の、第14章「死んだ猫と死んだ妻」)。

そのあと、第二の殺人をはさんで、ストーリーは最終局面になだれこみ、密室の解明と意外すぎる真犯人の暴露(薄氷上のスケート? でも妙技であることは間違いなし)に相成るわけですが・・・
じつは筆者が、読み返すたびに感心するのは、前記の、中クライマックスともいうべき、H・Mの“安楽椅子探偵”的事件整理(お話の転機)の部分なんです。
あるキャラクターの思惑を洞察することで、その人物の裏面工作が事件のキモであることを解き明かす。
エラリー・クイーン流の、ロジカルな推理ではありません。しかし、人間の振るまいに関して、人生の達人(古狸とも言うw)がくだす、意外だけど自然な解釈として、H・Mの名探偵デビューを見事に印象づけています。
陰惨なムード(格調が高い英国の怪談というより、パルプ・マガジンのB級ホラーっぽいのは、やはりカーのアメリカ人の血でしょう)を吹き飛ばす、豪快な人間性といい、幕切れのセリフの決め方といい、やっぱりこのオヤジ、好きだわ。

あ、最後に。
先に、この頃のカーはまだ小説がヘタ云々と書きましたが(円熟が見られるのは、1940年代の初頭から中頃にかけてでしょう)、本書の終盤の大捕物の演出は、ドラマティストの力量を見せつつ、主要キャラ二人を最後に見事に立てていることを付記しておきます。本格ミステリというより、それはちょっとノワール的なテイストで、筆者が今回、そこから連想したのは、レイモンド・チャンドラーの『さらば愛しき女よ』だったりします。


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