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[ 本格 ]
仮面荘の怪事件
HM卿シリーズ 別題「メッキの神像」
カーター・ディクスン 出版月: 1959年01月 平均: 5.40点 書評数: 10件

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早川書房
1959年01月

東京創元社
1981年08月

No.10 6点 弾十六 2021/05/12 03:28
1942出版。創元文庫で読了。原題はThe Gilded Man、「金ピカの男」というような訳が適当か。HPB「神像」はちょっとズレちゃう気がする。
フェル博士ものの短篇『軽率だった野盗』(A Guest in the House, 初出The Strand 1940-10, 創元『カー短編集2』収録)を長篇に仕立て直したもの。比較はネタバレになるので止めておこう。
私には意外なボーナスがあった大ネタ。HMのドタバタも上手に物語に嵌っているが、主人公が間抜けに思えるので全体の印象はそんなに良くない。ミステリ的なアイディアは結構良い。
結末を読んでJDC/CDのコンプレックスがわかったような気がする。ネタバレになるのでボカすが、重要なキャラへの言及が無いのだ。ということはJDCにはそのキャラが非常に身につまされるのだろうか… とりあえずJDCの諸作品からは、ある種の劣等感を感じる、とだけ言っておこう(まあ私の読みは薄っぺらいので全然合っていないとも思います)。
以下、トリビア。原文は入手できず。
作中年代は冒頭付近に明記。1939年(p28)を迎える直前の木曜(p32)深夜なので1938年12月29日から始まる物語。
貨幣換算は英国消費者物価指数基準1939/2021(67.05倍)で£1=9429円。
p9 女優フレヴィア・ヴェナー(Flavia Venner)… <サロメ>上演中に急死… <サロメ>は彼女のために特に書かれた劇で… 作者は——[彼女は]ヴィクトリア時代のある詩人の名をあげた♣️モデルはSarah Bernhardt(1844-1923)とOscar Wilde(1854-1900)だとバレバレだが、何故か匿名。意外なことにサラ・ヴェルナールによるSalomé(初出1891)の上演は行われていないようだ。
p38 郵便屋ゲーム♣️英Wikiに項目があるPost office (game)か。別名Postman’s knockという若い男女のグループでやる他愛もないキスごっこ。米国では1880年代から流行していたようだ。
p43 クリケットの速球投手♣️fast bowler。残念ながら、これ以上のクリケットねたは言及されず。JDCは米国生まれなのであまり興味がなかったのだろう。
p49 エル・グレコ…この絵を<池>と命名♣️この画家でこの主題の作品は見当たらず。架空のものか。少し後(p147, p169)にこの絵の詳細な描写がある。
p59 ヴェラスケスの<チャールズ四世>… ムリリョの黒ずんだ<ゴルゴダの丘>… ゴヤの<若い魔女>♣️ベラスケスの時代ならフェリペ四世(スペイン王カルロス四世はゴヤの時代)だろうし、ムリーリョの磔刑図も無さそう(全作品を確認していないが…)。ゴヤなら若い魔女の主題はありそうだが。
p69 ラッフルズかアルセーヌ・ルパン以上の大犯罪者♣️英国らしくラッフルズが先。
p88 十万ポンドを楽に超える♣️短篇では三枚の絵(レンブラント2枚とヴァン ダイク1枚)の価値は「3万ポンド(2億2千万円)」だった。
p88 ミュンヘン協定以来世情が不安定になって、絵は市場にだぶついている
p99 ニッケルの小さな懐中電灯♣️1920年代には単四電池二本を縦に使用するflashlightがあったようだ。(WebサイトFlashlight Museum参照)
p105 カーター・パタスン社♣️Carter Paterson (CP) は英国の運送会社。1860年創業、元はCarter, Paterson & Co., Ltd.だったが、1933年に英国鉄道四大会社(Big Four)が当分の持ち分で支配下に置くことになった。
p116 ダグラス・フェアバンクス♣️Douglas Fairbanks(1883-1939) サイレント映画時代の活劇スター。代表作はThe Mark of Zorro(1920), Robin Hood(1922), The Thief of Bagdad(1924)
p136 バガテル♣️Bagatelle。ピンボールの祖先のような室内テーブル・ゲーム。
p137 一ポンド札♣️当時の札はSeries A(1st issue)と呼ばれるもの(1928-1962流通)。表が左にブリタニカの正面座像、裏が龍を仕留める馬上の聖ジョージ(左右とも同じ)のデザイン。緑色、サイズ151×85mm。
p138 ランズ・エンドからジョン・オ・グローツまで♣️ Land's End to John o' Groats。英国本島の南西端から北東端まで。
p150 フレッド・ペリー♣️Fred Perry(1909-1995) 英国の「テニスの神様」
p150 ラクロッス♣️Lacrosse。今は「ラクロス」が定訳。国会図書館デジタルコレクションに『ラクロッス術・クロッケー術』高見沢宗蔵, 鳥飼英次郎 著(明治35年10月)があった。
p150 ペロータ♣️Basque pelotaとしてWikiに項目のあるゲームの事か。スカッシュ系の壁打ち対戦の球技のようだ。
p150 スピット・イン・ジ・オーシャン♣️Spit in the Ocean。ポーカーの変種の一つのようだ。某Tubeにやり方動画が色々あるが、ここで言ってる当時のイメージと同じものかどうかは不明。
p152 W・G・グレース♣️William Gilbert Grace(1848-1915) クリケット界の大スター。右投げ右打ち。打者、投手、野手の全てに傑出していた。野球で例えるとベーブ・ルースや長嶋茂雄クラスの誰でも知ってる選手だろうか。
p181 ウィーダ♣️Ouida(1839-1908)、本名Marie Louise de la Ramée。代表作は映画化されたUnder Two Flags(1867)、A Dog of Flanders(1872) 日本では非常に有名。
p181 マリー・コレリ♣️Marie Corelli(1855-1924) 売上では同世代のドイル、ウエルズ、キプリングを凌いだ、という。代表作Vendetta!(1886)は涙香により翻案(白髪鬼 1893)され、乱歩の同題小説(1931)の元ネタになった。
p186 チャーリー・ピース… 犯罪の芸術家で、詩人で、ヴァイオリンの名手♣️Charles Peace(1832-1879) その生涯は演劇、小説、映画のネタになったが、それは事実を大幅に脚色したものだった。
p190 ブローディー助祭♣️William Brodie(1741-1788)、エジンバラの押し込み強盗。家具職人組合の長だったためDeacon Brodieの名で知られている(「助祭」ではない)。
p198 エッチング♣️Want to come up and see my etchings?という古いセリフ(男が女を自室に誘う)があって、HitchcockのBlackmail(1929)が初出か。殺されたプレイボーイの建築家Stanford White(1853-1906)が良く使っていた文句、という家族の証言があるらしい。
p202 エドワード・バーン・ジョーンズ卿♣️Sir Edward Coley Burne-Jones, 1st Baronet(1833-1898)、ラファエル前派のデザイナー。サラ・ベルナールの肖像画(制作年不明)あり。
p204 チェスタトン流に逆の方向から♣️JDCが崇めた作家だが、小説中の言及は珍しいかも。
p207 サザビーの特許♣️調べつかず。
p220 トミー・ファーがジョー・ルイスをノックアウト♣️ウェールズ出身の全英ヘビー級チャンピオンTommy Farr(1913-1986)が、1937-8-30にニューヨークのヤンキースタジアムで世界ヘビー級王座Joe Louis(1914-1981)と闘い15回判定負け(微妙な判定だった)試合の不満が英国人には残っている、という事だろう。
p235 かつて、とても有名だった推理小説中の人物の名前
p240 モンマルトルの<地獄(ヘル)>という馬鹿げた見世物♣️19世紀末Paris(No. 53 Boulevard de Clichy)のCabaret de L'Enfer(1892-1950)のことか。英Wikiに項目あり。
p249 九ペンス貨幣くらいの[大きさ]♣️当時英国で9ペンス貨幣は存在しないが、イングランドでは約9ペンスの値打ちしかなかった16世紀アイルランドの 1 シリング硬貨(サイズ約33mm)、のことか。米国ニューイングランドでは古いスペインのレアル硬貨のこと(12.5セント相当、サイズ38mm)とも。
p251 ユダヤの喜劇役者の二人組♣️何のイメージか調べつかず。
p252 イザドラ・ダンカン♣️Isadora Duncan(1977-1927)、米国モダンダンスの祖。
p267 ベートーヴェンのコンサート
p268 サイン帳♣️英wikiにAutograph bookとして項目あり。ドイツ16世紀中ごろに源流があり、18世紀末に米国に拡がったらしい。
p276 三千ポンド
p296 フェニモア・クーパー

No.9 4点 レッドキング 2021/04/21 21:29
莫大な資産価値ある名画を飾った屋敷。忍び込み瀕死の重症を負った怪盗の正体は、屋敷の主人だった。当然に保険金目当ての狂言盗難疑惑呼ぶが、絵画に保険は掛けられておらず、主人の経済状態も悪くなかった。Why自分の絵画狙った? Who主人に暴行働いた? いったいWhat起きた? 
※ギデオン・フェル博士とヘンリー・メリヴェール卿の違い。クスりとさせるのフェル、爆笑させるのメリヴェール。

No.8 6点 2020/09/10 05:54
 かのオスカー・ワイルドに『サロメ』を贈らせた悪名高き古典女優フラヴィア・ヴェナー。彼女が急逝した私設舞台を最上階に持つロンドン近郊のワルドミア荘は、エル・グレコをはじめとするスペイン絵画のコレクションと共に、今は大富豪ドワイト・スタンホープの所有に帰していた。
 だが彼は何を思ったかそのうちでも特に優れた四点の名画を、警報装置に守られた二階の画廊から無防備な食堂へと移し始める。そして年の瀬の夜おそく――突如おこったすさまじい物音に人々がその場に駆けつけてみると、そこには画を盗みに入ったらしい泥棒が、胸を突きとおされ食器棚のそばにあおむけに倒れている。が、その覆面の下から現れたのは当のスタンホープ氏自身の顔だった!
 アンデス山中のインディアン信仰の象徴『メッキの男』をめぐって展開される、謎とユーモアと恐怖。名探偵ヘンリー・メリヴェール卿の活躍はいかに?
 『殺人者と恐喝者』に続くHM卿シリーズ第13作。1942年発表。ノン・シリーズ代表作の一つ『皇帝のかぎ煙草入れ』と同年の作品で、既存の短編を膨らませて長編に仕立て直したもの。原型作品の方も読んでいますが、若干問題はあるとはいえそこまでスカスカしてはいません。この辺は元々のトリックの良さに救われた感じ。また被害者の化粧着関連の処理は、長編化にあたってのプラス要素の一つ。
 残念なのはせっかく登場人物たちが温かい目で描かれてるのに肝心の後味が悪いこと。ドタバタ部分を少々削っても、やはり寝室で待ち構えるのがベストだったのではと思います。H・Mの株も落ちますし、被害者が引き伸ばしの都合で生かされた感も否めませんしね。
 今回はHPBの村崎敏郎版『メッキの神像』で読了。読了前には若干不安もありましたが、巷で言われてるほど酷い訳者さんではありません。タイトルの方も創元版より内容に合ってる気がします。色々と問題はありますが、人物描写やファース部分など長編独自の味わいも出ており、リメイク作品としてはまずまずの出来だと思います。

No.7 6点 nukkam 2016/09/25 02:05
(ネタバレなしです) カー(カーター・ディクスン名義も含む)は自作の短編からアイデアやトリックを長篇に転用していることがいくつかあり、読者にその転用がすぐばれないように上手く加工しているのもありますが1942年発表のH・M卿シリーズ第13作の本書の場合は「なぜ自分の家に泥棒に入ったのか」というあまりにも特異な謎のため、短編を読んだ人にはトリックも犯人もすぐ見抜けるでしょう。私も短編の方を先に読んでいたので真相はすぐにわかりましたがそれでも十分に楽しめました。カー得意のオカルト雰囲気や不可能犯罪要素はほとんどありませんが、読者に対して手がかりや伏線がきちんと用意されている正統派の犯人当て本格派推理小説として十分水準に達している作品だと思います。

No.6 6点 了然和尚 2015/06/27 08:36
チェスタートンの短編っぽい内容でしたが、短編の再構成だとは知りませんでした。泥棒が行動する場面で叙述トリックが使われています。カーはトリックの内容が注目されることが多いですが、表現の工夫も素晴らしいです。比較的単純な被害者と加害者の入れ替えですが、この泥棒の行動表現がよく効いています。

No.5 5点 E-BANKER 2011/07/24 15:43
H.M卿登場作品。
他の方の書評どおり、元ネタはフェル博士ものの短編のようです。
~ロンドン郊外の広壮な邸宅「仮面荘」。ある夜、不審な物音に屋敷の者たちが駆けつけると、名画の前に覆面をした男が瀕死の状態で倒れていた。その正体は何と屋敷の現当主であるスタナップ氏その人だった! なぜ自分の屋敷に泥棒に入る必要があったのか、そして彼を刺したのはいったい誰か?~

1940年代に入ると、カーの作風に変化が見られ、初期~中期の怪奇・オカルト趣味が薄れ、リアリティを重視する方向に変わっていきます。
本作もその例に洩れず、カーらしいオドロオドロしさ全くなし。むしろ、H・M卿が狂言回しのような役どころを演じていて、笑いさえ誘います。
本作のメインテーマは、「なぜ自分の家に泥棒に入る必要があったのか」という謎。
真相については、ちょっと頭を捻れば辿り着けるようなものかなぁとは思います。
物証などについても、割とあからさまに伏線が張られているので、ストレートすぎる解決にやや拍子抜けはするかもしれません。
「血」の件については、確かにちょっと不自然でしょうねぇ。
「赤いオリ」なんていう表現も出てきますが、それってどう見ても「血」にしか見えないんじゃない?(しかも見たのが現職の刑事ですから・・・)
まぁ、全盛期の作品に比べれば1枚も2枚も落ちるというのが正直な感想。
(H・M卿がインド人の奇術師に見えるなんて・・・ホントか?)

No.4 4点 kanamori 2010/06/27 20:28
ポケミスの「メッキの神像」の方を読んだのですが、原型の短編(こちらはフェル博士が探偵役)を読んで間がなかったので、ネタがすぐに分かり楽しめなかった。
H・M卿が奇術に興じている間に重要証人が死んでしまったりで、長編化のために付け加えたエピソードは冗長なだけで意味がないでしょう。

No.3 5点 2009/03/22 11:39
『妖魔の森の家』に収録されている元になった短編を以前に読んだ時には、シチュエーションの不可解さとその鮮やかな解決に感心したのですが、長編にまで引き伸ばすには不向きな作品だったような気もします。考えどころが限定されているため、長編ならではの複雑な人間関係や事件のさらなる展開でストーリーを膨らませるのが難しいパターンなのです。
犯人の正体を示す新たな手がかりも、英米でさえ一般的とは言えない歴史的知識がないとよくわかりません(実は私は知っていたにもかかわらず、気づきませんでした)。結局、H・M卿のマジックなど事件自体とは無関係なできごとを入れてページ数を増やしただけ、という感じは否めません。まあ、基になったアイディアがすぐれているので、それなりに読ませてはくれますが。

No.2 6点 Tetchy 2008/09/04 20:17
泥棒の正体が館の主である事からすぐに盗難による保険詐欺という趣向が想起され、それが確かにミスリードとなっているのは、さすがはカー!といったところか。
しかし、前述のように真犯人の正体に関してはいささか際どすぎる。特に思うのは、死体が血にまみれるほどの出血をして、あれほど動き回れるだろうかという点だ。
確かに作中ではスポーツ万能の偉丈夫と描かれているが、胸を刺殺されて医者にもかからずにそのまま滞在し、あまつさえビリヤードなどにも興じているというのが納得できない。
また事件に一番最初に気付くのが真犯人であるというのはまだしも許せるが、深手を負って2階へ窓からロープでよじ登るというのも、ちょっと無理すぎないか?

しかしカーは読者サービス精神旺盛だね。HM卿がものすごいパフォーマンスを披露してくれてる。

No.1 6点 イッシー 2008/03/02 13:26
カーの傑作というほどの作品ではないが、なかなか楽しめた。


カーター・ディクスン
2001年09月
第三の銃弾
平均:6.50 / 書評数:8
1999年12月
かくして殺人へ
平均:4.60 / 書評数:10
九人と死で十人だ
平均:6.54 / 書評数:13
1978年03月
ユダの窓
平均:8.00 / 書評数:31
1976年04月
弓弦城殺人事件
平均:3.86 / 書評数:7
1961年01月
恐怖は同じ
平均:5.00 / 書評数:2
1960年01月
騎士の盃
平均:5.20 / 書評数:5
赤い鎧戸のかげで
平均:5.40 / 書評数:5
1959年04月
パンチとジュディ
平均:4.50 / 書評数:6
1959年01月
貴婦人として死す
平均:7.29 / 書評数:21
仮面荘の怪事件
平均:5.40 / 書評数:10
殺人者と恐喝者
平均:5.64 / 書評数:11
プレーグ・コートの殺人
平均:6.96 / 書評数:23
1958年01月
魔女が笑う夜
平均:5.40 / 書評数:10
一角獣殺人事件
平均:4.90 / 書評数:10
青銅ランプの呪
平均:5.86 / 書評数:7
爬虫類館の殺人
平均:5.83 / 書評数:12
赤後家の殺人
平均:6.38 / 書評数:16
1957年01月
時計の中の骸骨
平均:5.33 / 書評数:6
五つの箱の死
平均:5.00 / 書評数:6
青ひげの花嫁
平均:5.43 / 書評数:7
1955年07月
墓場貸します
平均:5.67 / 書評数:9
1955年01月
孔雀の羽根
平均:6.18 / 書評数:11
読者よ欺かるるなかれ
平均:6.53 / 書評数:17
1951年01月
白い僧院の殺人
平均:6.83 / 書評数:24