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[ 本格 ]
読者よ欺かるるなかれ
HM卿シリーズ/別題『予言殺人事件』
カーター・ディクスン 出版月: 1955年01月 平均: 6.61点 書評数: 18件

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ノーブランド品
1955年01月

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No.18 8点 文生 2021/09/27 21:34
従来の不可能犯罪とは異なり、死因不明の殺人という設定が当時としては斬新。
そのうえ、挑戦的なタイトルも本格好きにとってはぐっとくるものがあります。
メインとなるトリックは単純なものですが、ミスディレクションの技巧によって読者をミスリードしていく手管が見事です。
おまけに、予言や念力といったガジェットが話を盛り上げてくれます。
同時期の有名作に隠れがちですが、個人的にはかなり好きな作品です。

No.17 7点 青い車 2020/03/20 22:07
 超能力による殺人というそれまでなかった謎に挑んだ意欲作。相変わらず大きな偶然に頼っている部分はあるのですが、トリックには目を見張るものがあり、細かい伏線がパズルのようにはまっていく快感も味わえる佳作です。挑戦的なタイトルも悪くないと思います。

No.16 5点 レッドキング 2019/12/25 18:41
念力殺人を公言しながら法的無実を主張する超能力者とヘンリ・メリヴェール卿(なんたら総裁というモノモノしい肩書と禿頭巨漢のギャップが良い)の対決。仲間由紀恵「トリック」を連想し、超能力のハウダニットばかりに頭が行ってフーダニット決着に驚く。すっかり「作者に欺かれた」よ「warned=警告された」のに。
でも超能力トリック自体は飛鳥部勝則「レオナルドの沈黙」の方がずっといいな。

No.15 6点 E-BANKER 2019/10/08 21:23
HM卿を探偵役とするシリーズの第九作目に当たる本作。
発表はフェル博士もの「緑のカプセルの謎」と同じ年である1939年。作家として脂の乗った時期・・・なのかな
原題は“The Reader is warned”(意味深なタイトル)

~女性作家マイナが催した読心術師ペニイクを囲んでの夕食会。招待客の心をつぎつぎと当てたペニイクは、さらにマイナの夫の死を予言する。果たして予言の時刻、衆人環視のなかで夫は原因不明の死を遂げた。ペニイクは念力で殺したというが、逮捕しようにも証拠がない。遅れて到着したヘンリ・メルヴェール卿にペニイクは新たな殺人予告をするが・・・。不可能と怪奇趣味を極めた作者のトリックに読者よ欺かるるなかれ!~

実に本格ファンの心をくすぐる紹介文だろう。
なにせ「念力(作中ではテレフォース)による殺人事件」だから・・・ まさに究極の殺人方法ではないか。
事件は実に不可思議としかいいようのない状況で発生する。
第一の殺人は紹介文のとおり第三者の目が光る中での殺人。しかも遺体には何の痕跡もない・・・
そして、第二の殺人はすやすや眠っていたはずの被害者がほんの少し目を離したスキに惨殺される。またしても遺体には痕跡なし・・・

「実に面白い」序盤から中盤の展開。不穏な検死法廷を挟んで、ストーリーは急展開を告げ、怒涛の終盤になだれこむ。
で、解法なのだが・・・これは人によってはビミョーって感じるだろうなぁ
この殺害方法は他の方も書かれてるけど、何の痕跡も残さないわけはないと思うし、第一にしろ第二にしろ、今回はあまりにも「偶然の連続」が多すぎ。(死後に〇〇が〇くなんてねぇ・・・)
これでは島田荘司もビックリだ。
まぁそもそも「念力で殺されたとしか思えない状況」を作り出すわけだから、多少の無理は最初から承知のうえなんだろうけど。
この辺り、“欺かるるなかれ”と煽っているわりには、読者としては「欺かれないよ!」って突っ込みたくなる。

プロットはいかにもカーという感じだから、ちょっと勿体無いような気はした。もう少しオカルト趣味を煽っても良かったし、フーダニットに拘っても良かったのではないか。
でも面白いか面白くないかと聞かれれば、「面白かった」と即答する。そんな不思議な作品。
(作中にたびたび挟まれる新聞記事。最後にHMの深謀遠慮が明らかにされる・・・)

No.14 5点 弾十六 2018/12/09 09:53
JDC/CDファン評価★★★☆☆
H.M.卿 第9作。1939年出版。HPBで読了。
魅力的なタイトルの「読欺」(ラノベ短縮風なら「ヨカルナ」か) 1938年4月29日金曜日の事件と明記。題名に違わず、とてもゾクゾクする発端。でもみんなが聴きたい「誰が?」を何故そこで追求しないかな?という疑問が… 今までは一人の女性に忠誠を誓う語り手でしたが、このころから二人の女性に挟まれる状況を登場させてる印象。(「猫と鼠」など)JDC/CDもちょっと大人になったのでしょう。いつものように被害者の書き込みが不足、そして超能力ネタをもっと盛り上げられたのでは?と思います。大ネタはいかにもこの作者らしいヤツですが前フリの小ネタが残念。(読心術を簡単に扱いすぎ) ラストはセリフ過多で消化不良。
「ヒトラーやムッソリーニを殺す」ネタや、終幕のH.M.の憂いが、大戦前の不穏な時代を感じさせる作品でした。もっとブッとんだのが読みたいですね。
以下トリビア。原文入手出来ていません。
p115 ピーター キント(Peter Quint): 「ヘンリー ジェームズの『ねじの回転』に出てくる」今、南條訳を読んでるのでちょっとびっくり。(南條訳ではピーター クウィント)
p117 タットラー誌(Tatler): 週刊誌。1シリング。白黒60ページ。舞踏会、チャリティー、競馬、狩猟、ファッション、ゴシップを掲載。写真が豊富なヴィジュアル誌のようです。1シリングは現在価値3.17ポンド(1939/2018消費者物価指数による) 日本円で462円。
p133 戸棚のなかに、ビールの大瓶が、半分ほど残っていた: 冷やして飲むものではないのでしょうね。
p191 ジョン ビールの唄: ここではアコーディオンで弾かれます。不明。
p192 意気なヘルメット横ちょにかぶり/巡査(ボビイ)ピールは朝から陽気: みんなで歌ってるので有名な歌?不明。
p201 ほぼ5000ポンド: 裁判一件にかかる費用。上述のレートで現在価値4620万円。
本作にはH.M.が扱った過去の事件への言及が結構ありますが、宇野先生は注をつけていません。以下[ ]内は評者。
p93 アンスウェル事件[ユダの窓]、ヘイ事件[五つの箱の死]
p114 30年のダーワース事件[黒死荘]、31年のクリスマスの映画スター事件[白い僧院]、マントリング卿の密室事件[赤後家]
p208 ランカスター ミュウズの事件: これだけ何だかわかりません…

No.13 7点 クリスティ再読 2017/06/03 21:42
パズラーらしいタイトルで、しかも不可能興味を前面に押し出した作品...なんだけど、どっちか言うと「パズラーマニアっぽい視点」でない見方をした方が面白いように感じた。
というのも、検屍法廷の皮肉な展開も楽しいが、真相自体のアイロニーを楽しむような読み方があるように評者は感じるのだ。で、HMによる締めの一言がやはり人を喰っている。

もっぱら国民に、健全な良識を植えつけてやるためさ...いまに戦争がもっと烈しくなってみい。あわてものは、街中を駆けまわって、やれ、敵の爆撃機の空襲だ、ロンドン中は火の海に化けそう..なんてことを言い触らして歩くじゃろう。

HM、政治家だなぁ(苦笑)。オカルトを利用したがる人々/それにダマされたがる人々というのはいつの世も尽きることはないわけで、そういう騒ぎの描写も本作の魅力の一つだろうと思う。犯行手段の医学的な真相はまあ、それしかないよね、というものだし、状況についてはこんなのわかんないだろ、というものなので、本作は「謎の提示」はハッタリ十分で非常に魅力があるけども、狭い意味のパズラーとしては若干ムリ感があるように感じる。それを補ってあまりあるアイロニカルな味の良さからこういう評価。

No.12 4点 nukkam 2016/01/22 09:59
(ネタバレなしです) 1939年発表のヘンリー・メリヴェール卿(H・M卿)シリーズ第9作で、超能力(思念力)による殺人(に見える事件)という怪奇風というより科学的なテーマを扱っているのがこの作者としては異色に感じます。英語原題は「The Reader is Warned」ですがこの日本語タイトルは本格派推理小説好き読者へのアピ-ル度抜群ですね。ただ謎解き内容に関しては少々タイトル負けかなという気がします。メイントリックは短編作品の焼き直しですが、プロットが全く別物になってるので先に短編を読んだ読者でもなかなか気づかないと思います。ただこのプロットが結構問題で、第一の事件と第二の事件の関連性といい、事件解決の鍵を握る重要人物(登場人物リストにも載っていない)を終盤に唐突に登場させたことといい、ややアンフェアではないでしょうか。私の読んだハヤカワ文庫版の巻末解説では「いたずらっぽいはぐらかし」と弁護していますけど、個人的にはタイトルで期待が大きかった分、不満の方が強かったです。

No.11 7点 斎藤警部 2015/08/31 18:54
今風に略すなら「ドクアザ」より「アザナカ」より「ドクナカ」がいいな。
若かりし頃、奇抜な題名に絆(ほだ)されて手に取った一冊です。
念力による遠隔殺人を公言する容疑者、という強烈な隠れ蓑を最大限に利用した物語のミスディレクションは巧みで、現場の語り手である「私」の存在や発言にも引っ張られるし確かに読者は欺かれずにいるのも難しかろう。しかし、わざわざ大上段に構えたこんな題名(原題も邦題と基本同じ意味)を付与する程の画期的欺瞞トリックを敷いた作品とはとても言えず、それ故に結末でちょっとばかり肩透かしの風が吹いた気がするんですが。。それでもかなり愉しく読めた事は確か。 舞台の雰囲気と言い、適度などたばたと言い、冒頭の謎興味に手の込んだ謎解きと言い、本格なりの人間ドラマと言い、詰まらないわけはない。 ちょっと再読してみたい、かな、どうかな。

No.10 7点 了然和尚 2015/03/28 11:20
本作品の骨格部分を検討すると、Aが過失によりBを殺してしまう。Xは犯人がAであることに気がつくが、Cを同じ方法で殺害することを目論む。Xは先に口封じでAを殺害し、Cを殺害(未遂)する。連続殺人であり口封じの殺人というありふれたモチーフが見事にアレンジされています。この骨格に怪奇趣味や不可能犯罪を組み入れて完全な作品になってます。手がかりはよく示されており、別解を消去すべく、おせっかいなまでな注意書きもついていて丁寧です。

No.9 6点 蟷螂の斧 2015/02/26 21:21
念力(読心)の解明にいま一つ説得力がなかったのが残念。あまりにも当たりすぎでしょう(笑)。まあこれはご愛嬌でいいと思いますが、第一の事件は、死体の状況や、この事件がこのあとの物語に大きく影響する点などを考えると、ややアンフェアな気がしました。あと、読心術者がホテルにいるはずなのに、別の場所に現れる?のは興ざめでしたね。しかし、題名の主旨(プロット)は大いに買います。後半、登場人物表にない人物が突如現れるのですが、これは伏線がはっきりしていたので問題ありません。(但し、解説・泡坂妻夫氏ではこの点をネタばらししていますので要注意ですね。)

No.8 7点 ボナンザ 2014/04/08 21:15
タイトルからして挑発的だ。パズル小説としては一級品。
動機が完全にカットされているのが潔い。

No.7 7点 あい 2013/04/01 15:03
思念放射による殺人、時間の予告など不可能犯罪のオンパレードでカーの良さがすごく出ていた。第一の事件の手摺の話は実現可能かどうかは別としてアイディアとしては面白かった。

No.6 7点 虫暮部 2012/03/22 10:24
 ラスト前で犯人がペラペラ喋るのを皆で隠れて聞くくだりはどうかと思う(情景をリアルに想像すると笑ってしまう)が、それはともかく、面白かった。

No.5 7点 kanamori 2010/06/27 17:42
挑戦的なタイトルから、久々の自信作という作者の自負が覗われるH・M卿ものの第9作。
怪しげな心霊術師による念力予告殺人を前作「五つの箱の死」に登場したサンダース博士の視点で描かれていますが、途中に何度か挿入される博士の注釈や連続殺人自体が巧妙なミスディレクションになっています。
ハウダニットを追っていくとまんまと作者の術中にはまる構成はさすがです。

No.4 8点 ミステリー三昧 2010/05/15 12:17
<ハヤカワ文庫>H・M卿シリーズ9作目 バカミス覚悟の意欲作
そんなもん、素人に分かるか!と叫びたいほど不可能興味満点のこの作品。原因不明な死を念力のせいにしてなるものかと、奮起して読むが全く糸口が見つからず。信じたくないけど、特別な力を信じるほかない。そんな怪奇な空気感が物語全体を纏っていました。にも拘らず、H・M卿は相変らず自信満々だ。遅れて登場したくせに、何かを知っている風なしゃべりで、たちまち警察たちを手玉に取ってしまいます。頼りになる紳士ですね。彼には解決方法が46通りがあるらしい。それは、はったり?いや、実際にありそうで怖いな。
非常にミスディレクションの巧い作品でした。伏線もかなり利いています。上手く拾えるようにもなっているけど、正直アンフェアな気もします。一つだけ忠告するならこの作品、ガリレオ先生こと湯川学みたいな人種でないと知り得ない知識が事前に必要になる。そこがマイナスポイントになる恐れあり。それでも怖いもの見たさで読んでみたい方はおススメ。あまり有名ではないかもしれませんが、不可能興味・怪奇趣味を存分堪能できる作品となっているのでカー作品を楽しむうえで外せない一冊でしょう。

No.3 7点 江守森江 2010/02/09 15:45
このサイトで高木彬光「呪縛の家」との酷似が指摘され非常に興味深く、読み比べてみた(呪縛は再読)
予言による遠隔殺人の不可能性と作者のハッタリのかまし具合は酷似している。
その遠隔殺人の構図はミステリを読み慣れた現代の読者なら(ドラマ等での転用過多で)読み始めで察するレベルに成り下がり残念。
しかも此方は上記の謎が作品のメインにあるので評価が下がる。
それでも、不可能性を際立たせる為の細かなトリック運用は素晴らしいので一読の価値はある。
ハッタリのきいたこの邦題に意訳した翻訳家を賞賛して+1点。
※採点は多分にH・M卿より神津恭介を好きな主観に影響されている。
※高木のパクリ疑惑だが、当時の日本探偵小説界のモラルを考えれば多分にあり得るが、本作の初翻訳時期と呪縛の連載時期がアリバイになっていて判断がつかない(私見ではパクリと言う程の酷似ではない気がする)

No.2 7点 2009/02/11 17:39
怪奇趣味を取り入れた作品が多いカーの中でも、実際にはっきりと超自然的な方法(念力)による殺人だと見せかけたものは、本作だけではないでしょうか。密室等ではなく原因不明の死という謎なのですが、特に不気味な雰囲気が濃厚というわけでもありません。
途中、読者に警告しておく(原題の直訳)、と注釈を何度か入れてフェア・プレイを強調する作者のはったりが楽しい作品です。邦題は、この原題を実にうまく意訳しています。
殺害方法はほぼ同時期に同じアイディアを利用したマイナー作家の作品もありますが、本作では巧みな工夫によって、そのような方法は使い得なかったはずという状況を設定しているところ、本当にそんな現象が起こるのかという気もしますが、さすがに不可能犯罪の巨匠のやることは違います。

No.1 7点 Tetchy 2008/09/03 13:42
作品の題名にこういう挑戦的な題名をつけていることからも作者の自信が窺えるが、そのとおりこの真相は解らなかった。
かなり奇抜なアイデアだが基本的にこういうの大好きなので、満足はした(麻耶雄嵩氏の諸作のようだ)。

本作では同一時間に離れた場所に出現し、殺人を犯すという趣向が盛り込まれてあるが、これが双子のトリックではないことは明言しておこう。
しかし双子ではないという真相を超えるものであるかは別問題で、それが私には逆に物足りなかった。


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カーター・ディクスン
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