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[ 本格 ]
青ひげの花嫁
HM卿シリーズ 別題「別れた妻たち」
カーター・ディクスン 出版月: 1957年01月 平均: 5.38点 書評数: 8件

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早川書房
1957年01月

早川書房
1982年11月

No.8 5点 クリスティ再読 2024/01/05 11:20
中期でカーの筆がノっている時期。俳優が自分に送り付けられた青ひげネタのシナリオを読み、実は犯人が送ってきたのでは?と疑った。俳優は犯人をあぶり出そうと青ひげのフリをして送り元らしき海岸の街を訪れ、女性を引っかけて物議を醸す。緊張が高まるさ中、そのホテルの俳優に部屋に死体が転がっていた...という中盤までのプロットの出来が素晴らしい。いやホント、一幕物の芝居にうまく詰め込んだらウケるんじゃない?と思うくらい。

逆に言うとこの低評価は、不可能興味や死体の処理方法などの仕掛けがバレやすくて、ミステリとしては今一つという理由から。さらに最後の兵隊訓練施設でのクライマックスが冗長なので興を殺がれる。俳優がそもそも青ひげなのでは?というメタな疑惑を匂わせる中盤までのサスペンスフルな展開が面白いのに、最終的にはもったいない感が漂う作品になってしまった。暗闇で関係者総出で見物するくらいなら、登場人物を少し整理した方がいいんじゃないかなあ。

あと芝居の題名で「喉切り隊長」が登場しているのが、後年の歴史ミステリの言及みたいで面白い。
カーといえば、英版準拠or米版準拠とか原因で、創元とハヤカワで邦題が違うケースが多い(あと創元が砕けた感じの英題を意訳する傾向)が、本作はハヤカワの中で改訳でタイトルが大きく変わった珍しい例。
そりゃ"My Late Waves"→「別れた妻たち」は訳として微妙で、内容的には誤解しているから改題は仕方ないけど、「我が亡き妻たち」くらいにしなかったのが何か不思議。別作品と勘違いしそうだ。
こんなの改題するなら「おしどり探偵」とか何とかしてほしいよ。

No.7 4点 レッドキング 2020/10/23 21:54
ホラー童話「青ひげ」の如く、結婚した女が次々と行方不明となり、殺人鬼の疑いのかかる謎のモテ男。その殺人鬼から送られてきた台本を、実人生で実験的に演じようと興じる俳優といぶかる女演出家。俳優自身にも当の殺人鬼である疑いが掛かり、読者もその疑いを捨てきれない。はたして殺人鬼青ひげの正体は誰か。花嫁達の死体が埋められているはずのゴルフ場は、掘り返せば痕跡が一目瞭然となる地形で、隠ぺいは不可能のはず。しかし、唯一例外の場所があった・・・そこはかとなくホラー感はあるが「青ひげ」タイトルから期待されるほどの怖さはない。H・M卿登場の場面は相変わらずドタバタ笑かしてくれるが。

No.6 6点 2020/04/14 10:50
 一九三〇年九月から一九三四年七月にかけて、変名を駆使して独身女性との結婚を重ね続けた謎の男、ロージャー・ビューリー。牧師の娘、音楽好きのオールドミス、占いの手伝い女――彼の妻となった女たちはある日を境にふっつりと姿を消し、そのまま二度と現れなかった。ロンドン警視庁のマスターズ主任警部はけっして証拠を残さぬビューリーの犯行に歯ぎしりを続けるが、やっと殺人鬼に手が届くかと思われた四度目の事件を境に、彼の足跡は途絶える。欧州大陸諸国の混乱も重なり、"青ひげ"ロージャー・ビューリーの名は次第に忘れられていった。
 そしてそれから十一年後の一九四五年九月、グラナダ劇場付きの舞台俳優ブルース・ランソムの元に、ビューリーを主人公にした殺人劇の台本が送られてくる。そこには警察しか知り得ない最後の事件の詳細が記されていた。ブルースはこの脚本をそのまま、休暇明けに上演しようとする。
 彼と恋仲の女流演出家ベリル・ウェストは、これからブルースが休養に赴くサフォークのオールドブリッジで、五度目の婚約を描いた芝居の内容どおり、彼が〈現実に〉ロージャー・ビューリーの役柄を演ずることを提案するが・・・
 『青銅ランプの呪い』に続くヘンリー・メリヴェール卿もの第17作。1946年発表。フェル博士シリーズ中期の傑作『囁く影』と同年の作だけあって、とらえどころのないストーリーながら雰囲気作りはかなり上手い。数々の俳優の不可解な言動もあり、「もしかしたら?」の含みを持たせつつ最後まで引っ張る趣向。
 主人公はブルースではなく友人のデニス・フォスター弁護士ですが、彼がブルースに言いくるめられ、あわや第五の犠牲者の遺体を運ばされかけるグラン・ギニョール風シーンもあって、なかなか読ませます。すべての決着となる〈あの場所〉もけっこう不気味。ミステリとしては薄味ですが、物語要素の配置が的確で良いですね。
 殺人鬼ビューリーの正体には巧みに煙幕が施されていて、対決アクションは後の歴史ミステリ風。全体としては不気味なムードのサスペンス調。いつものドタバタはあるものの『囁く影』のフェル博士と同じく、ここでのH・M卿は一歩引いた形。登場は前半と〆のみで、ムードの醸成に助力しています。
 とはいえ佳作とするには味付けが少々足りないので、総合すると6.5点。それでもマイナー作品にしては結構楽しめます。

No.5 5点 E-BANKER 2019/03/21 22:10
H・M卿を探偵役とするシリーズ第十六作目。
作者らしからぬプロットとなっている(らしい)本作。やはり、シリーズもここまで重ねると変わった趣向に行かざるを得ないのか?
1946年の発表。

~最初の犠牲者は牧師の娘。つぎは音楽家、三人目は占い師、四人目は身元不明・・・。謎の男ビューリーと結婚した女たちが消えた事件にロンドン近郊の住民は“青ひげ”出現と震え上がった。しかもビューリーは警官の張り込みのなかを死体とともに姿を消したのだ。そして何の手掛かりも掴めぬままに11年後・・・ある俳優の元に何者かから脚本が送られてきた。それは警察しか知りえないビューリー事件の詳細まで記した殺人劇の台本だったのだ! 果たしてこれは殺人鬼の挑戦状なのか?~

-「青ひげ」とは、シャルル・ペローの童話。有名なグリム童話としても収録されていた-
知らなかった・・・
要は結婚するたびに妻が行方不明になるという部分が「青ひげ」との共通項ということである。

で、本筋なのだが、冒頭に触れたとおり、いつものHM卿シリーズとはやはり違う雰囲気。
殺人こそ起こるのだが、トリックとか不可能趣味などとは一線を画した展開。
目の前から死体が消えるという現象は起こるのだが、その解法も正直何だかよく分からない。
そう、「何だかよく分からない」というのが本作全体に対する感想になる。
ブルース(俳優)が殺人鬼に扮した理由なども、終盤明らかにはなるのだが、敢えてこんな面倒なことをやった理由はよく分からない。
HMは中盤辺りで事件の構図を察したらしいのだが、どうも何をしたいのかよく分からないまま終盤の見せ場に突入した感じ。

うーん。とにかくいつものシリーズの展開を期待すると肩透かしを食う。
殺人鬼の正体についてはサプライズ感はあったものの、そこだけだったかな・・・
あっ忘れてた、「お笑い」シーンはいつもどおり用意されてます。
それもまさかのHMのゴルフ! 
ズルしちゃいけませんや! HM卿!(笑)

No.4 6点 了然和尚 2015/11/30 15:36
まず11年前の殺人鬼と不可能犯罪が語られて、現在においてさあ、殺人鬼は誰でしょう?という趣向は、良かったし、犯人を演じる役者(終始、燻製にしん)というのもはまっていたので、7点ものだったのですが、読書後、整理してみると、そもそもの発端である殺人鬼が自伝台本を役者に送るあたりの心情とか必然性が不明で、マイナス1点でした。
 H.Mは本作でもゲーセンでクレーンゲームにパンチバッグぶつけるなど大活躍ですが、肝心の推理では、最終盤に妙な活劇を物陰でじっと見つめているだけで、イマイチでした。
 本編ではないのですが、あとがきにて翻訳者さんが、歴史上の殺人者を小辞典並みに解説されてますので、参考までに名前だけでも上げておきます。
ランドリュー、スミス(浴室の花嫁)、ドゥーガル、ソーン、ディーミング、マニング夫妻、グロスマン。なお、切り裂きジャック、クリッペン この2名は有名すぎるので省略されてます

No.3 6点 nukkam 2015/08/12 12:20
(ネタバレなしです) 1946年発表のH・M卿シリーズ第16作の本格派推理小説で、お笑いの場面もありますが全般的には暗くて不気味な雰囲気濃厚な作品になっており、これでオカルト要素を織り込んでいたら初期作品といっても通用したかもしれません。サスペンス濃厚な展開はとても読み応えがありますが、新たな犠牲者になりそうな女性の描写が精彩を欠いているのと謎解きがこの作者にしては平凡過ぎるのが惜しいです。

No.2 5点 kanamori 2010/06/27 21:06
行方をくらませた連続殺人鬼探しが主題のH・M卿もの。
ある俳優がいかにもそれらしく描かれているのがミスディレクションなのか、それとも裏の裏なのかの興味で物語を引っ張っていますが、不可能殺人ものでないためか、H・M卿に精彩がないですね。

No.1 6点 Tetchy 2008/09/07 13:57
この頃のカーのストーリーのアイデアは特筆物で今回もその例に洩れない。
新進気鋭の演出家の許に送られてきた匿名の脚本を契機に、俳優に田舎の町に行かせて、ロージャー・ビューリーなる殺人鬼になりすまして、殺人鬼の心理を摑ませようというのである。
で、こういう作品に例に洩れず、この俳優がまさか・・・という展開を見せ、ページを繰る手を止まらせない。

でもその後がなんか煩雑な感じだ。特に結末が通俗小説風になり、ガッカリだ。これもカーならではのサービス精神なのだろうが。

そして死体の隠し場所は誰もが考えつつも、小説としては使わないだろうというアイデアを使っているのがカーらしいね。


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カーター・ディクスン
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