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[ ハードボイルド ]
獣たちの墓
マット・スカダー
ローレンス・ブロック 出版月: 1993年11月 平均: 7.60点 書評数: 5件

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二見書房
1993年11月

二見書房
2000年12月

二見書房
2015年04月

No.5 7点 メルカトル 2021/11/11 23:11
麻薬ディーラーとして成功した、キーナンの魅力的な若妻フランシーンが、ブルックリンの街角で白昼堂々と何者かに誘拐された。間もなく脅迫電話をかけてきた姿なき誘拐犯。その要求に応じ、キーナンは巨額の身代金を支払う。しかし犯人が指定した車のトランクのなかにあったのは、変わり果てた妻の無惨な死体だった―。犯人への復讐を誓うキーナンは、事件の手がかりを探るため元刑事のスカダーに調査を依頼するが…現代最高峰の私立探偵シリーズ代表作。
『BOOK』データベースより。

私が初めてハードボイルドを読んだのは、記憶が許す限りでは『新宿鮫』だったと思います。評判が良かったようなので挑戦してみましたが、残念ながら私には響きませんでした。今ではこんなですが当時は本格一筋と言っても良かった私ですので、それ以来ハードボイルドに積極的に触れようとは思いませんでした。
ところで、先日海外の作品ももっと読まねばと心を新たにし、本サイトに登録されている全ての海外作家をチェックし高評価を得ている作品を出来る限り読む事を決意した次第です。勿論入手できそうな範囲で、ですが。本作もその一冊でした。余談ですが、海外ではもう本格ミステリはネタ切れと判断されたのか、禁忌の風潮でもあるのか、本当に登録が少ないなと感じました。

さて本作、主人公を始め脇を固めるキャラ達が個性的でなかなか面白いと思いました。特にハッキングの場面は良いです。ただあまり哀愁が漂っていない点が気にはなりました。しかし、そもそもハードボイルドの定義がイマイチ分かっていないので、私の意見は参考にはなりませんが。
冒頭の誘拐事件から惹き込まれますが、要点のみをコンパクトに纏められており、無駄のない文章に好感が持てました。陰惨な事件でありながら、グロさはほとんど感じさせません。そこは想像力で補うしかありませんね。他にも残酷な事件に関与している可能性があり、犯人に憎しみを抱くほどラストでスッキリできるのではないかと思います。日本ではこうはならないかも知れません、それ程ショッキングな幕切れでした。

No.4 7点 take5 2018/06/26 23:01
マットスカダーシリーズとして、時系列の中で紹介しますと、
スカダーが新たな相棒(TJ)と関わる中で事件を解決していく事と、
スカダーがヒロインと新たな関係を模索していく事が平行して描かれている作品です。
事件の内容そのものは、相変わらずグロテスク(私見)でアメリカって感じで好き分好きがありましょうが、やはりスカダー自身の人間がよく描かれているので読ませます。

No.3 8点 あびびび 2016/04/24 13:26
倒錯3部作ー「墓場への切符」、「倒錯の舞踏」そして本書。どれも抜群に面白い。文庫540ページを一気読みしてしまった。

麻薬ディラーの妻が誘拐され、身代金を払ったにもかかわらず、ばらばらにされた死体が届く。そのディラーの兄がアルチューで、禁酒集会で知っていたマットに捜査依頼が来る。

手掛かりは0でスタートするが、あきらめない、最後まで食らいつく地道の捜査で確実に犯人との距離を縮めていくマット。その犯人たちは常習犯であることが分かり、ついに対決の時が来る。

最後は恋人エレインとの愛の葛藤、自身の想いをすべてを吐きだし、爽やかなエンディングに導いていく。

訳者の田口俊樹さんの翻訳が実に素晴らしい。元原稿より味わいがあるのでは…と思ってしまうほどだ。

No.2 10点 Tetchy 2015/02/05 23:27
『倒錯三部作』の掉尾を飾る本書では2人組のレイプ・キラーをマットが見つけ出す物語。

そんな陰惨な事件に今回は前回登場したスラムに住む少年TJが大活躍する。電話会社から公衆電話の番号を訊き出す方法だったり、ジミー・ホングとデイヴィッド・キングという凄腕ハッカーを紹介して犯人の行動範囲を限定したりとする。
特に次の誘拐事件が起きた時には犯人の顔と車のナンバーを抑えるなど八面六臂の活躍を遂げる。正直前作に登場した時はただの小生意気なスラムの少年だとしか思えなかったが、この活躍で一気に彼が好きになった―特に400ページのTJの台詞はこの暗鬱な物語の中で思わず笑い声を挙げたほど爽快な一言だ―。
今回ミック・バルーは警察からの嫌疑を免れるため、アイルランドに逃亡中で不在であったため、物語の面白味が薄れるかと思いきや、TJがその代役を果たしてくれた。マット・スカダーを取り巻く世界はますます濃厚になっていく。

これら三部作で語られる事件は魂が震え上がる残酷な事件ばかりだ。従って事件も展開もアクティブになっていく。私は『墓場への切符』の感想で“静”のスカダーから“動”のスカダーに切り替わったと述べたが、それはただ人に便宜を図る程度の捜査ではこれら社会に蔓延る強烈な悪意の塊のような輩には到底立ち向かえないからだ。だからこそマットも動き、人と人との間を歩くのではなく、駆けずり回らなくてはならない。特に本書ではハッカーを使ってまで犯人の行動を摑んでいく。これは以前のスカダーシリーズでは全く考えられなかったことだ。
そしてもはやこれほどまでに強大な悪には1人の力では立ち向かえない。前作ではミック・バルーと云う犯罪者の力を借りて敵を討った。そして今回は麻薬ディーラーの持つ闇の繋がりを以て敵と相見える。悪を以て悪を征する構図は本書でもまた引き継がれたのだ。

“狂気の90年代”とはクーンツが当時盛んに取り上げたテーマだったが、1992年に書かれた本書もまた同じだ。『倒錯三部作』とは時代が書かせた作品群だったのだろう。

私はこれら3作が『倒錯三部作』と日本の書評家たちが勝手に名付けたことがどこか心に引っかかっていたが、それはこれらの3作品が性倒錯者による陰惨な犯罪にマットが立ち向かう作品群であり、個の戦いから仲間と巨悪との戦いへの変遷であると書いてきた。しかし本書を読んでからはエレインとの再会で始まり、エレインへのプロポーズで終わる三部作でもあるのだと気付かされた。
全ては地続きで繋がっている。このマット・スカダーシリーズを読むとその感慨が一層強くなる。1作目から読んできたからこそ味わえるマットに訪れた安寧を我が事のように思いながらしばし余韻に浸りたい、そんな気分だ。

No.1 6点 E-BANKER 2014/11/30 20:15
1993年発表のマット・スカダーシリーズ長編。
原題“A Walk among the Tombstones”
「墓場への切符」「倒錯の舞踏」に続く、いわゆる「倒錯三部作」の掉尾を飾る作品。

~麻薬密売人のキーナンの魅力的な若妻フランシーンが、ブルックリンの街角で誘拐された。キーナンは姿なき犯人の要求に応じて大金を支払う。だが、フランシーンは無惨なバラバラ死体となって送り返されてきた。復讐を誓うキーナンの依頼を受けたスカダーは、常軌を逸した残虐な犯人を追うが・・・。鬼才ブロックの筆が冴える最高のハードボイルドシリーズ!~

三部作の中では一番落ちる・・・という感想。
前二作(「墓場への切符」「倒錯の舞踏」)が相当強烈でプロットも起伏に富んでいたせいもあるのだけど、それに比べると本作は良くいえば「静謐」。悪く言うと「単調」に思えてしまう。
何より、犯人のキャラが薄味なのが食い足りなさを感じる理由かもしれない。
(紹介文を読んでると猟奇的でサイコめいた犯人像を予想するのだが、実際はそれほどでもない)

一番の山場はやはり終盤の対決シーン。
タイトルどおり「墓場(NYのグリーン・ウッド墓地)」を舞台にスカダー軍団(?)と犯人グループが対峙、緊張感は最高潮を迎える。
ただ、思った程のサプライズなく、それ以降のドンデン返しも特段ないまま終局を迎えてしまう。

まぁ本作の良さはそんなところにはないのだろう。
エレインやTJなどシリーズでお馴染みのキャラクターに加え、本作では依頼人のキーナン兄弟までスカダーに協力を申し出るなど、スカダーの人間的魅力を前面に押し出している感がある。
どちらかというと孤独で静か、他人との接触を避けている印象が強かったスカダーが、周りの人たちの信頼を勝ち得、探偵として人間として成長していく・・・というようなものを描きたかったのではないか?

本作の後、新たな展開を見せる本シリーズ。
なぜか「倒錯三部作」から読み始めることになってしまったのだが、次は遡るのがいいのか、それともシリーズ順に読むのがいいのか?
いずれにしても、本シリーズの面白さは不動だな。
(「電話」がしつこいくらいに登場してきたが、あまり○○○ではなかったな・・・)


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