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[ 本格 ]
泥棒は図書室で推理する
泥棒バーニィ
ローレンス・ブロック 出版月: 2000年08月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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早川書房
2000年08月

No.1 7点 人並由真 2022/02/12 03:48
(ネタバレなし)
「私」ことプロの泥棒で、ミステリ専門の古書店主人バーニイ(バーン)・ローデンバーは、恋人がほかの男と結婚したため、傷心状態だった。そんななか、アメリカの片田舎にある<英国カントリーハウス>風のホテル「カトルフォード・ハウス」の宿泊客向けの図書室に、レイモンド・チャンドラーがダシール・ハメットに贈った献辞入りの『大いなる眠り』の初版本があるという情報が飛び込む。バーニイは、親友でレズビアンの女性キャロリン・カイザーそして自分の愛猫ラッフルズとともに同ホテルに赴き、数万ドルの価値があるこの稀覯本を狙うが、そこで彼らを待っていたのは「閉ざされた雪の山荘」での殺人事件であった。

 1997年のアメリカ作品。泥棒バーニイシリーズの第8弾。
 評者は本シリーズは邦訳の初期分(たぶん4冊めまで)をリアルタイムで追いかけたのち、第7弾『ボガート』と最新作(といっても原書はほぼ10年前)の『スプーン』のみ、つまみ食いで消化。もしかしたらもう1、2冊読んでるかもしれないが、たぶんこれが全11作のうち読了した7冊目だと思う(もっとも犯人ほかの内容に関しては、第1作目以外まったく忘れている)。

 読めば、おおむねどれもフツーに面白い、程度の印象がある本シリーズだが、本作はクローズド・サークルもののフーダニット謎解きの興味に加え、チャンドラーからハメットに贈られた『大いなる眠り』の元版(クノッフ社版)初版という泣かせるアイテムを大ネタに設定。
 しかも作中ではこの稀覯本、もともとチャンドラーが別の盟友のミステリ作家ジョージ・ハーモン・コックス(なつかしい名前を聞いた! 長編の翻訳はないが「日本版EQMM」そのほかでいくつかの中短編が紹介されている)に贈りかけたものの、成り行きから先輩ハメットに贈与したという、いかにももっともらしい逸話が設定されている(このエピソード、フィクションだろうね?)
 ほかにも往年のミステリ作家たちのネタがちらほら登場し、その辺だけでもかなり楽しめる。 
(ちなみにハメットの主要な長編は、先に読んでおいた方がいいよ。) 


 で、謎解きミステリとしては、ホテルに集う滞在客(容疑者)たちをほとんどまるで(一部の例外を除いて)描き分ける気がない作者のやる気のなさがナンだが、終盤で明らかになる真相はソコソコ面白い。
(正直、犯人の意外性そのものは、ドウッテコトないが。)
 ちょっと英国作家の(中略)あたりがよく使うあの趣向を思わせた。

 でまあ、そこまでなら、評点はギリギリ6点の上位の方だが、エピローグの味のある演出でニヤリというかクスリと笑わされて、もう1点追加。

 作中の細部について、妙に意固地な作者ブロックとやりとりした巻末の訳者あとがきも愉しい。
 よくできたシリーズキャラクターものの、いい意味での定番作品。


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