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[ ハードボイルド ]
一ドル銀貨の遺言
マット・スカダー
ローレンス・ブロック 出版月: 1988年12月 平均: 6.00点 書評数: 3件

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二見書房
1988年12月

No.3 5点 2020/07/02 22:04
原題 "Time to Murder and Create" は何のことかよくわかりませんが、邦題の方は、マットへの依頼のことです。一ドル銀貨(直径4cm近くもある重いコインで、現在実用性は奇術道具としてぐらいでしょう)を回す癖のある、マットと馴染みのタレコミ屋が、死後開封してくれと置いて行った封書。
しかし、マットがその遺言に応えるために採った方法は、論理的に非常な問題点を含んでいることが、最初から気になっていたのです。さらにある事件発生後の彼の思い込みには、なぜそう断定できるのか不思議でした。
結局マットの読みはことごとくはずれ、油断している時に命を狙われますし、3人の容疑者のうちタレコミ屋殺害犯人でない2人にも、遺言に反して多大な迷惑をかけることになります。遺言を実現しようする行為が遺言に添わない結果を招くという、皮肉な作品としては誉めることもできますが、間抜けな感じがすることは否定できません。

No.2 6点 E-BANKER 2019/02/08 21:53
マット・スカダー・シリーズの三作目に当たる本作。
原題は“Time to murder and create”
1977年の発表。

~タレコミ屋のスピナーが殺された。その二か月ほど前、彼はスカダーに一通の封書を託していた・・・自分が死んだら開封してほしいと言って。そこに記されていたのは彼が三人の人間をゆすっていたこと。そして、その中の誰かに命を狙われていたことだった。スカダーは殺人犯を突き止めるため、自らも恐喝者を装って三人に近づくが・・・。NYを舞台に感傷的な筆で描く人気ハードボイルド~

発表順に関係なく、ランダムに読み進めている本シリーズ。
どちらかというと「倒錯三部作」以降の後期作品を多く読んでいるので、“アルコール抜きの”スカダーに慣れているせいか、本作のようなシリーズ初期作でひたすらアルコールに溺れるスカダーに接すると違和感を覚えてしまう。
(表紙からしてジャックダニエルの瓶だしな・・・)

今回の事件は紹介文のとおり、ひょんなことから巻き込まれた殺人事件の真犯人探し。
解明する義理など何もないはずの事件。なのに、スカダーはNYの街を歩き回ることになる。
そして、恐喝者を装い「おとり」役となったスカダーに殺人者が迫る。
そんな中、不可抗力で起こってしまった自殺事件。この事件はスカダーの心に深いダメージを与えてしまう。
行き着く先はやはり酒場・・・

フーダニットに関しては終盤一応捻りはあるものの、それほど凝った作りではない。
プロットそのものも後期代表作などに比べると平板で起伏に富んでいるとは言い難い。
でもこれはこれで良いのだ。
当初から、シリーズがこんなに長く続くと意識していたのかは定かでないが、最初から波乱万丈、驚天動地なんていう展開だったら、きっと短命シリーズで終わっていただろう。
世界一の大都会NYと同様、作者そしてスカダーの懐はそれだけ深いということか。

総じて評価するなら、本作はジャックダニエルをロックグラスでちびちび飲んでるような作品・・・だと思う。
(意味不明)

No.1 7点 Tetchy 2014/01/09 23:18
亡くなった強請屋から預かった封筒に記された3人のうち、強請屋を殺した犯人を探り出すという、フーダニット趣向の物語。
しかしそんな趣向とは裏腹にその語り口はほろ苦さと哀切を湛えて、心に染み込むしっとりとした文体。マットは警官時代に付き合いのあった情報屋のために警察でさえまともに捜査しない殺人事件に、自分を餌にして挑む。

しかし本書のスカダーの捜査は第三者の目から見て実は余計なお節介であり、善か悪かと問われれば悪の側としか云えないだろう。
強請られる3人は1人は建築コンサルタントとして資金繰りに四苦八苦している経営者であり、娘の平穏を大事に考える男。1人はポルノ女優の過去を持ち、若い頃、荒んだ生活を繰り返しながらも現在は富豪の妻としてセレブリティの1人として生きる女性。最後の一人は若い頃に事業に成功し、その資金を元手にニューヨーク州知事選に臨もうとする若き政治家。しかし彼には少年性愛という忌まわしい趣味があった。
誰しも隠したい、忘れ去りたい過去はあるものだ。人間、なんらかの失敗をせずに生きることなど不可能に等しい。強請屋とはすなわち誰しもが陥る過去の過ちをほじくり返し、眼前に突付け、弱みに付け入り、半永久的に金をせびる、下衆の生業だ。
しかしマットはそんな仕事よりも彼が警官時代に築いた強請屋との関係を大事にし、また人殺しを嫌うがゆえに彼ら彼女らの人生に分け入り、真相を明らかにしようとする。
つまりマットは強請屋との腐れ縁の為に社会的に成功した人々たちと逢い、人殺しをした犯人を捜そうとするのだ。
これは人生の落伍者同士が持つ同族意識なのか。いや違う。殺人と云う犯罪をもっとも忌み嫌うマットにとって町のダニとも云える強請屋の死さえも自分の身の周りにいた人間が殺されたことが許せないのだろう。警官さえも見向きもしない社会の底辺で生きる者たちへの義憤が相手が社会の成功者であり、その安定した生活を壊すことになろうとしても敢えて火中の栗を拾おうとするのだろう。

まっとうな商売では生きられない人々には優しく、自身の安寧の為に殺人を犯した、もしくは犯さざるを得なかった巷間の人々に厳しい眼差しを向ける、この落ちぶれた元警官の無免許探偵をもっと理解するために今後の彼の生き様を見ていこうと思う。


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