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[ ハードボイルド ] 過去からの弔鐘 マット・スカダー |
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ローレンス・ブロック | 出版月: 1987年04月 | 平均: 7.33点 | 書評数: 3件 |
二見書房 1987年04月 |
No.3 | 8点 | E-BANKER | 2020/05/16 11:35 |
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アル中(当時)私立探偵マット・スカダーシリーズの一作目。
発表順を無視しランダムに読み進めている本シリーズなのだが、ついに(今さら?)最初の物語を手に取ることに。 原題“The Sins of the Fathers”。1976年発表。 ~大都会NYで、人々は今日も孤独に生きている。元警官のアル中探偵スカダーへの依頼は、ヴィレッジのアパートで殺された娘の過去を探ってくれというものだった。犯人は逮捕された後、独房で自殺していた。スカダーは二人の過去を調べ始めたが、意外な真相が明らかになっていく。大都会の片隅で生きる人々の哀歓を鮮烈に描き出して人気急上昇の現代ハードボイルドの傑作~ マット・スカダーシリーズ全17作。すべての作品がそれぞれの物語を持っている。 もちろん主役はスカダー。彼が年齢を重ねるのに合わせ、この物語の世界も、まるで川の流れのようにゆっくりと流れていく。 事件はいつも大都会NYで起こる。この街には、さまざまな階層の人々が暮らしている。大金持ちも、中産階級も、貧しい人々も、白人も黒人もヒスパニックも。そして、アル中もそうでない人も・・・ スカダーはいつも見ている。街を、人を、犯罪を・・・ そんな印象は、やはりこの第一作目でも同じだった。いや、いつも以上かもしれない。 事件は実に地味な様相を呈していた。殺害方法こそ刃物による惨殺と派手なのだが、犯人は現場に残っており自明。そんな中、スカダーは被害者の継父から、娘が殺された理由について調査の依頼を受けることとなる。 最初は全く気乗りのしない調査だったスカダーは、関係者たちに話を聞くなかで、徐々に意外な真相、意外な過去を詳らかにすることになる・・・のだ。 本作で一番印象的だったのは、ラストの意外な(そうでもないか?)真相が判明したところではなく、二人の過去を調べるなか、何とも言えない寂寥感に包まれたスカダーが、路上で絡まれた若者に対し、暴力的とも思える乱闘シーンを繰り広げる場面。自身の心の中に広がった闇を振り払うように拳を繰り出した後は、やはり酒場で・・・ シリーズは最初から実に豊潤で香気に満ちた作品だった。これだけの物語を見せてくれたら、作家として高評価する以外ないだろう (確かにこの原題はネタバレ感が強いなぁ) |
No.2 | 8点 | Tetchy | 2013/06/14 19:27 |
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アル中探偵マット・スカダーは本書から我々の前に姿を現した。ローレンス・ブロックの筆によって我々に紹介されたのだ。ブロックは存在した探偵を掘りだし、それを文章と云う形で教えてくれたのだ。そんな風に考えてしまうほど、このマット・スカダーという人物が人間臭い。
とにかくそれまで読んでいたブロック作品の雰囲気を覆す芳醇なウィスキーのような大人の香りに満ちた文体が非常に心地よい。 空さんがおっしゃるように、原題を頭に措いて読み進めると物語の半ばぐらいから事件の真相が大体見えてくる。 事件の当事者の関係者を辿り、質問することで隠された正体を探り当てるスカダーの行為はロス・マクドナルドのリュー・アーチャーを想起させる。しかしリューは全てを知るために相手が嫌がるほどに質問を繰り返すのに対し、スカダーは必要以上のことを知ることで被る迷惑を知っており、それが故に忘れたい過去をほじくり返されて安定した生活を壊される人々がいることをわきまえているからこそ、そこまでの追及はしない。それは彼の優しさなんだろう。 ただし罪を犯した者に対しては容赦はしない。しかしスカダーは決して恐喝者ではない。ただ彼は優しいのだ。被害者たちを調べていくにつれ、彼と彼女のこれからの生活を打ち砕いた者が許せなかっただけなのだ。従って自殺を促すスカダーは冷酷などとは決して感じない。彼は、そう、純粋なのだ。 久しぶりにじっくり味わうプライヴェート・アイ小説に出逢った。マット・スカダーと彼を取り巻く人々の世界にこれからじっくり身を任せ、浸っていこう。 |
No.1 | 6点 | 空 | 2010/01/27 20:36 |
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アル中探偵マット・スカダー・シリーズの第1作です。と言っても、本作を読んだ限りでは中毒になるほど酒に溺れているわけではありません。マーロウなどに比べると確かに摂取量はかなり多いですけれど、飲むべきでない時には飲まない自制心は完全に保っています。それよりアメリカン・ハードボイルド系の一人称形式作品としては、主役が私立探偵の免許を持っていないことの方が珍しいように思えます。
そのようなスカダーにもかかわらず殺人事件の捜査依頼を受ける状況設定は、なかなかうまく考えられています。丹念な捜査過程は、むしろ古典的なミステリに近い感じもします。まあ最後の暗い真相は簡単に予測がつくのですが、複雑な謎解きを期待すべきタイプではありませんから、それはいいでしょう。いいのですがそれでも、この原題はあまりに露骨すぎます。とはいえ、完全に意味を変えてしまった邦題はピンときません。 |