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[ ハードボイルド ]
冬を怖れた女
マット・スカダー
ローレンス・ブロック 出版月: 1987年11月 平均: 6.00点 書評数: 3件

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二見書房
1987年11月

No.3 5点 E-BANKER 2020/09/27 19:36
「過去からの弔鐘」に続いて発表された、マッド・スカダーシリーズの第二作。
発表順ではなくランダムに読み進めてきた本シリーズ。今さら過去へ遡るかのように一作目⇒二作目を手に取ったのだが・・・
1976年の発表。原題は”In the midest of the death”

~ニューヨーク市警の刑事ブロードフィールドは警察内部の腐敗を暴露し、同僚たちの憎悪の的となった。折しも、ひとりの娼婦が彼を恐喝罪で告訴。身の潔白を主張する彼は、スカダーに調査を依頼した。だが、問題の娼婦が殺害され、容疑はブロードフィールドに! 彼の苦境に警官たちが溜飲を下げるなか、スカダーは単身、真相の究明に乗り出す~

いきなりネタバレっぽいが、本作の裏テーマはずばり”SM”である。もちろん“SM”ってあの“SM”のことです。

物語の始まりは紹介文のとおり、嫌われ者の警官=ブロードフィールドからスカダーが調査の依頼を受けたところから始まる。ただし、今回の事件はシリーズ中でも指折りのジミさ。いや、渋さというべきか・・・
いつも通り、スカダーは事件の関係者ひとりひとりと会い、話を聞く中で事件の真相に気付くことになる。
なるのだが、この過程が悪く言うと平板そのもの。ふたりの男が相次いで死に至る終盤まで、これといった山もなく、静かなままで進行していくのだ。
本シリーズ作品には、いい意味での「静謐さ」を感じる作品も多いが、本作はそれとはちょっと異なる。
さすがにまだ二作目ということもあるのだろう、スカダーの造形もまだ定まりきっていなかったのかもしれない。

邦題の「冬を恐れた女」。物語には主にふたりの女性が登場する。ひとりは娼婦のカー、もうひとりは今回スカダーと恋に落ちるブロードフィールドの妻ダイアナ。実はどちらも「冬を恐れる」的な記述があるためどちらのことを指しているのかは定かでない。この当たりが逆に意味深ではある。

ということで話を戻して、”SM”である。本作で最も曖昧模糊としていたのが殺人の動機。それを詳らかにする鍵となるのが”SM”・・・。やっぱり、男は古今東西問わず、若かろうが年を取ってようが、ある種変態なんだね。
そんなことを最終的には感じてしまった。いやいや、主題はそんなことじゃないだろ!
ただ、シリーズ中では大きく見劣りする作品かなというのが正直な感想。(いよいよ残り少なくなったシリーズ未読作品。寂しさと切なさが募る・・・)

No.2 6点 2015/01/24 21:58
マット・スカダーは簡単に「アル中」と分類されてしまうことが多いようですし、本作の作品紹介にもそう書いてありますが、実際に読んでみると、こんなセリフが出てきます。「あなたはアル中なの?」と聞かれ、スカダーは「私はアル中といってもおかしくないくらい飲んでる。でもそのせいで何もできなくなるということはない」と答えているのです。さらに飲むのをやめるか量を減らすことについても、「できると思うよ。理由があれば」と言っています。で、本作の中ではまさにその理由も発生するのです、それがTetchyさんも書かれている依頼人の奥さんとの事情。それにもかかわらず、最後には…
嫌われ者の警察官が容疑者となった娼婦殺しの事件については、犯人は見破れなかったのですが、たいして意外とも思いませんでしたし、動機的に今ひとつすっきりできませんでした。しかし事件解決後の出来事には驚かされ、また考えさせられました。

No.1 7点 Tetchy 2013/11/05 21:04
アル中の無免許探偵マット・スカダーシリーズ第2作。殺された娼婦と警官の悪行を検察官に売ろうとした悪徳警官のために警官たちの反感を買いながら真相を探る。
誰もが憎む相手の無実を証明しようと奮闘する探偵と云えば、最近ではドン・ウィンズロウの『紳士の黙約』が思い浮かぶ。しかし本書では同書よりも四面楚歌ではない。ウィンズロウ作品では主人公の許を仲間が一旦離れ、しかも親友が敵となる絶妙な設定だったが、本書では嫌われているのは依頼者であり、主人公ではないため、それほど阻害されているような印象は受けない。

またマットが依頼人ブロードフィールドの妻ダイアナと逢瀬を重ねるのが実に興味深い。恋とか愛とかを期待することの無くなった男が一時の迷いから留置場に夫を入れられ、怯える女性にほだされてしまう。それはお互いが孤独を怖れたからだ。マットは長い孤独に嫌気が差しており、ダイアナは子供を抱えてこれからどうすればいいのか不安に駆られている。そんな状況で生まれた恋情はしかしマットに余計な犠牲者を増やすという過ちを犯させてしまう。酒に溺れるだけでなく、今回は女に溺れることで有力な手がかりを持つであろう男を喪うマットはこのように有能でないからこそ、実存性をリアルに感じさせる。

(ちょっとネタバレ)

物語の最後、釈放されたブロードフィールドの許を去ると云っていた妻のダイアナからの連絡はなく、またブロードフィールドもまた何者かによって殺されてしまう。ダイアナの心境の変化については語られていないが、恐らくは夫が殺されたことで妻は改めて夫への愛を再認識したのではないか。もはや終わったと思った結婚生活だったが、夫を喪ったことでその存在が自分の心に行かに大きな割合を占めていたのかを知らされたのではないか。マットに惹かれ、新しい一歩を踏み出そうとしたのは確かな真実だろうが、それ以上の真実を思い知らされたのだろう。そんなことは物語には書かれていないが、私はそう思いたい。
短いながらもこんな風に大人の心の機微を考えさせられる作品だ。そしていまだに私は彼女が恐れた冬とは何だったのかと考えに耽っている。


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