海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

[ 短編集(分類不能) ]
やさしい小さな手
マット・スカダーもの ほか
ローレンス・ブロック 出版月: 2009年12月 平均: 8.00点 書評数: 1件

書評を見る | 採点するジャンル投票


早川書房
2009年12月

No.1 8点 Tetchy 2015/12/13 00:36
早川書房が2009年に突如企画したハヤカワ・ミステリ文庫での「現代短編の名手たち」シリーズにブロックが選ばれ刊行されたのが本書。名手の名に恥じない傑作が揃っている。特徴的なのは全体的にブラックなテイストに満ちていることだ。

さて個人的ベストを挙げるとするとやはり本編で一番長い「情欲について話せば」になろうか。短編4つ分のネタが放り込まれた内容はもとより、トランプゲームに興じる警官、軍人、医者、司祭と云う奇妙な取り合わせが寓話めいていて奇妙な印象を残す。

「ノックしないで」も捨てがたい。ブロックには珍しくシンプルな作品だが、求めつつもそれを自分から求めない元恋人の女性の心の機微が静かに心に降り積もるかのような作品だ。

そしてスカダー物4編から1編を挙げるとすると「夜と音楽と」になる。なぜ単にスカダーとエレインが夜のデートをするだけの何の変哲もない8ページだけの1編を挙げるのか。それは最後の2行、スカダーとエレインが2人して「誰も死ななかった」ことを喜ぶシーンが妙に痛切に胸に響くのだ。
元警察官で無免許探偵をしていたマットは彼を訪ねる人達に便宜を図って人捜しや警察が相手にしない取るに足らない者たちの死を探る。人捜しであっても彼は誰かの死に必ず遭遇する。しかし警察官であったマットは死自体には何の感慨も抱かず、ニューヨークによくある八百万の死にざまの1つを見たに過ぎないと振舞う。
しかしエレインが襲われることになり、そしてエレインを伴侶とし、安定した生活を得たことで彼らにとって死はもう沢山だと思い始めたのではないか。探偵をする限り、彼は陰惨なシーンに出くわさざるを得ない。しかし2人で一夜を過ごすときは忘れたいのだという思いをこのたった2行に感じさせる。しかし初めてこの短編集でブロック作品を読んだ人たちには「何だったんだ?」で終わる話だろう。つまりこれはシリーズを読んできた者だけが行間から読み取れる深い内容だと云える。そういう意味では今回の「現代短編の名手たち」という企画にはそぐわないのかもしれない。

いやはややはりブロックは短編も読ませると再認識した。確かに上に書いたようにブロック初体験の読者にとって解りにくい作品もあるし、何よりも短編集でしか読めない悪徳弁護士エイレングラフ物が1編もなかったのが残念でもある。


キーワードから探す
ローレンス・ブロック
2020年11月
石を放つとき
平均:5.00 / 書評数:1
2018年09月
泥棒はスプーンを数える
平均:7.00 / 書評数:1
2014年10月
殺し屋ケラーの帰郷
平均:5.33 / 書評数:3
2012年09月
償いの報酬
平均:5.50 / 書評数:4
2011年09月
殺し屋 最後の仕事
平均:6.33 / 書評数:3
2009年12月
やさしい小さな手
平均:8.00 / 書評数:1
2008年09月
タナーと謎のナチ老人
平均:7.00 / 書評数:1
2007年11月
殺しのパレード
平均:7.00 / 書評数:2
2007年07月
泥棒は深夜に徘徊する
平均:5.50 / 書評数:2
2007年06月
快盗タナーは眠らない
平均:5.25 / 書評数:4
2006年12月
すべては死にゆく
平均:6.50 / 書評数:2
2004年07月
砕かれた街
平均:7.00 / 書評数:1
2002年10月
死への祈り
平均:6.67 / 書評数:3
2002年05月
殺しのリスト
平均:7.00 / 書評数:1
2001年08月
泥棒はライ麦畑で追いかける
平均:7.00 / 書評数:1
2000年08月
泥棒は図書室で推理する
平均:7.00 / 書評数:1
1999年10月
皆殺し
平均:8.00 / 書評数:2
1999年05月
頭痛と悪夢
平均:5.00 / 書評数:1
1998年12月
泥棒はボガートを夢見る
1998年09月
殺し屋
平均:6.25 / 書評数:4
1996年12月
処刑宣告
平均:6.75 / 書評数:4
1996年09月
泥棒は野球カードを集める
平均:7.00 / 書評数:1
1995年10月
死者の長い列
平均:7.00 / 書評数:5
1995年01月
死者との誓い
平均:6.60 / 書評数:5
1994年01月
夜明けの光の中に
平均:7.00 / 書評数:1
1993年11月
獣たちの墓
平均:7.60 / 書評数:5
1993年07月
バランスが肝心
平均:10.00 / 書評数:1
1992年12月
おかしなことを聞くね
平均:8.00 / 書評数:2
1992年10月
倒錯の舞踏
平均:8.00 / 書評数:6
1991年12月
墓場への切符
平均:8.00 / 書評数:4
1990年12月
緑のハートをもつ女
平均:7.00 / 書評数:1
1990年07月
慈悲深い死
平均:6.50 / 書評数:2
1988年12月
一ドル銀貨の遺言
平均:6.00 / 書評数:3
1987年11月
冬を怖れた女
平均:6.00 / 書評数:3
1987年04月
過去からの弔鐘
平均:7.33 / 書評数:3
1986年11月
聖なる酒場の挽歌
平均:7.25 / 書評数:4
1985年07月
暗闇にひと突き
平均:6.67 / 書評数:3
1984年11月
泥棒は抽象画を描く
平均:7.00 / 書評数:1
1984年04月
八百万の死にざま
平均:6.91 / 書評数:11
1983年01月
泥棒は哲学で解決する
平均:6.50 / 書評数:2
1981年04月
泥棒は詩を口ずさむ
平均:7.00 / 書評数:1
1980年07月
泥棒はクロゼットのなか
平均:7.00 / 書評数:1
1980年04月
泥棒は選べない
平均:6.50 / 書評数:2