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[ ハードボイルド ]
死者の長い列
マット・スカダー
ローレンス・ブロック 出版月: 1995年10月 平均: 7.00点 書評数: 5件

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二見書房
1995年10月

二見書房
2002年11月

No.5 6点 tider-tiger 2020/05/05 18:14
~『三十一人会』なる秘密の集まりが年に一度催されている。月日の流れとともに会員が亡くなることもあるのは当然だが、この会のメンバーの死亡率は普通のアメリカ人の死亡率に比べていささか高過ぎはしないかと会員の一人が疑念を抱き、マット・スカダーに調査を依頼する。~

1994年アメリカ作品。魅力的な導入に比して、展開はかなり地味です。関係者の人数が多いので聞き込みが延々と続きます。本格ミステリとして愉しめる部分はそれほど多くはありません。やはり基本はハードボイルドだと考えるべき作品だと思います。少なくとも前半部分は魅力的な謎の提示こそあれ完全にハードボイルド。
後半に入ってくるとミステリ要素も多少は顔を見せますが、それほど派手な展開も大きな仕掛けもなく、やはり地道な捜査と雰囲気を楽しむ作品だというのが結論でしょうか。ミステリとして過大な期待をしなければ面白い作品です。長いうえにこれほど地味な展開なのに退屈させないのはさすがです。
筆力で読まされてしまいますが、どうにも悪い意味で茫洋としたところがあります。はっきりと軸になるような人物を据えてプロットを締めた方がよかったのではないかと想像します。まあそれはどうでもいいことかな。
動機はまあ納得できるかなといった感じです。犯人を追い詰めて、さらにその先はけっこう好きです。
ローレンス・ブロックの特徴が表れた代表作とはいえないし、その実力が遺憾なく発揮された名作とまではいかないが、その筆力を証明した佳作だと思います。
それから、マット・スカダーファンはこの作品は必読でしょう。
7点にしようかと迷っての6点とします。

『ブルックリンの少女』の書評で一人称と三人称の混在を腐しましたが、ローレンス・ブロックの作品にもいくつか人称の混在があります。本作もその一つです。
ところが、この人の場合は混在があまり気に障りません。人称が変わっても文体というか、文章の滋味にさほど変わりなく、三人称部分もマット・スカダー自身の語りであるかのように自然に入ってくるからでしょうか。
ただ、この形式がよい効果を与えているとも言えません。あくまで混在させてもそれほど気にならないというだけです。

No.4 5点 nukkam 2016/09/19 01:20
(ネタバレなしです) ほとんど本格派推理小説ばかり読み漁っている私が1994年発表のマット・スカダーシリーズ第12作である本書を読んだ理由は二見文庫版で本格派推理小説と謳っていたからです。特に派手なアクションシーンもなくスカダーの地道な足の探偵ぶりが描かれています。殺人かどうか明確でないままに連続怪死事件を調べるプロットはレックス・スタウトの「腰抜け連盟」(1935年)やレジナルド・ヒルの「薔薇は死を夢見る」(1983年)などを連想させます。しかし犯人の正体は意外と早い段階で明かされ、後はホワイダニットの謎と逃げた犯人をどう捕まえるかという展開で読ませます。犯人当ての謎解きとしては25章で手掛かりが一つ紹介されていますが、他の伏線については(あったとしても)スカダーは説明してくれないので推理という点では不満でした。最後のスカダーと犯人の会話シーンなんかいかにもハードボイルドならではといった感じで、あまり本格派を期待して読むと辛いかも。地味な物語を退屈させない文章力はさすがです。

No.3 6点 E-BANKER 2016/06/04 20:09
1994年発表。
マット・スカダーシリーズも重ねて第十二作目の長編ということなる。
原題“A Long Line of Dead Men”

~年に一度、秘密の会を催す男たちの集まり「三十一人の会」。はるか昔より会員の代替わりを繰り返しながら、現在の顔ぶれになったのは1961年。だが、それから三十二年後、メンバーの半数が相次いでこの世を去っていた。あまりに死亡率が高いことに不審を抱いた会員の依頼を受け、スカダーは調査を始めるが・・・。NYに暮らす都市生活者の孤独を描きながら、本格推理の要素を盛り込んだ傑作長編ミステリー~

本作の特徴は紹介文のとおりで、ハードボイルドと本格ミステリーの融合・・・ということになる。
まず謎の提示が実に魅力的。
ある集団の半数以上が、実に長い年月をかけて死に至っている。ある者は事故で、ある者は自殺で、またある者は殺されて・・・
こんな大掛かりなプロットをいったいどのように収束させていくのだろうか?
そこに期待は高まった!

ただし、本格ミステリーと書いてはみたが、パズラー小説のように伏線がそこかしこに撒かれているわけではない。
フーダニットは唐突だし、真犯人にも正直なところ「こいつ誰だっけ?」と思う方が大半ではないか?
そういう意味では、やはり今回も本シリーズらしく、作品の風合いというか、何とも言えない香気を楽しむべきなのだろう。
特に「動機」はなかなかぶっ飛んでいる。
っていうか、やっぱり私の小市民的価値観では理解不能だ。
人間ってこんなことで、ここまで長期間に亘る事件を企図するものなのだろうか?
我慢強さだけで言えば、あらゆるミステリーの犯人中最高レベルとも言えそう。
(最後はなかなか憐れだが・・・)

まっでも、相変わらず安定感抜群のシリーズ。
今回、スカダーはついにエレインと結婚することとなる。
齢五十五にして、妙齢かつ才気溢れる妻を娶るとは・・・男として最高かもしれない。
実に羨ましい限り!
悔しいから評価は下げてやる!! (冗談)

No.2 10点 Tetchy 2015/05/21 23:32
マット・スカダーシリーズ12作目の本書では「三十一人の会」というランダムに選出された男性によって構成された、年に一度集まっては一緒に食事をして、その1年の事を語り合うという実に不思議な集まりのメンバーが最近次々と殺されていると疑いを持つ会員の依頼に従って真相を探るという、本格ミステリの味わいに似た魅力的な謎で幕を開ける。

とにかく死が溢れている。ニューヨークには八百万の死にざまがあると述懐したのはマット=ローレンス・ブロックだったが、本書にも様々な死が登場する。恐らく今までのシリーズで最も死者の多い作品ではなかろうか?
そんな基調で語られる物語だから古き昔から続く秘密の会のメンバーがいつの間にか半数以下になっており、誰かが会員を殺害しているのではないかと云う魅力的な謎で始まる本書でも正直私は意外な真相は期待していなかった。

しかし本書にはサプライズがあった。そして驚くべきことにその犯人はきちんとそれまでに描かれ、犯人に行き着く手掛かりはきちんと示されていたのだ。しかもそれらが実にさりげなく、大人の会話の中に溶け込んでいるのだ。これぞブロックの本格ミステリスタイルなのだと私は思わず唸ってしまった。

しかしマットとエレインとの仲睦まじいやり取りが次第に多くなるにつれ、かつての暗鬱な生活からはかけ離れていくのが少し寂しく感じてしまう。しかしこの話が9・11以前のニューヨークでの物語であることを考えると、それもまた来るべくカタストロフィの前の休息のように思えてくる。このマットの生活の向上は物語に描かれているニューヨークの街並みの移り変わりが多くの闇が開かれ、かつてのスラムがハイソな界隈に変わっていく姿と歩調を合わせているかのようだ。それ故に9・11が及ぼすマットの生活への影響が恐ろしく感じる。本書が発表された1994年に9・11が予見されていたことがないだけに。そしてこのシリーズが9・11後の今も続いているだけに。

そしてマットの生活もさらにも増して一層の充実ぶりを見せる。

変わりつつある彼の性格と環境に今後どのような物語が待ち受けるのか。もはや暗鬱さだけが売りのプライヴェート・アイ小説ではなく、ニューヨークと云う巨大都市に潜む奇妙な人間を浮き彫りにする都市小説の様相を呈してきたこのシリーズの次が気になって仕方がない。なぜならこんなサプライズと味わいをもたらしてくれたのだから。そして恐らく彼が死者の長い列に並ぶ日はまだかなり遠いことになるのだろう。ブロックの作家生命が続く限り。

No.1 8点 あびびび 2014/11/15 00:10
年に1度の秘密の会合を続ける男たちの集団「三十一人の会」。現在のメンバーになってから32年後、会員の半数近くが相次いでこの世を去っていることが判明。偶然とは思えない死亡率の高さに不審を抱いた会員の依頼を受け、私立探偵スカダーは調査を開始する。

犯人は急がない男だった。スカダーは粘り強い捜査で男をとらえ、ある方法で犯人を永遠に封じ込める。ハードボイルドを堪能させてくれる作者には賛辞を贈るしかない。ニューヨークよ、今夜もありがとう…である。


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