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[ クライム/倒叙 ]
殺しのリスト
殺し屋ケラー
ローレンス・ブロック 出版月: 2002年05月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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二見書房
2002年05月

No.1 7点 Tetchy 2015/10/04 17:27
殺し屋ケラーシリーズ2冊目の本書は長編だが、構成は連作短編のように複数の殺しの依頼について語られる。
しかし一連のケラーの仕事がケラーを狙う男がいることを裏付ける要素を含んでいるという構成になっているのだ。

そしてサイドストーリーの面白い事。
特にケラーが陪審員に選ばれて裁判に参加するエピソードは屈指の面白さを誇る。警官が盗品のビデオデッキを買ったが、それは確信的な行為だったのかと警官の有罪か無罪かを巡る裁判では次から次へ事件の関係者が現れ、実に複雑な様相を成し、当然のことながらケラーを含む陪審員の議論は右往左往する。正直読んでいて何が何だか分からなくなるのだが、この訳の分からなさと色んな人種の混ざった陪審員の面々が織りなすドタバタディベート劇が実に面白い。まさに“裁判は踊る”とも云わんばかりだ。

殺し屋対殺し屋の対決。本書のメインテーマであり、こう書くと派手なアクションと駆け引きが繰り広げられる一大エンタテインメントのクライマックスを髣髴させるが、全くそんな色合いはない。
殺し屋を主人公としながら物語の雰囲気は飄々としており殺伐したものがない。そして殺し屋が主人公であれば当然付き纏う銃器や武器の詳しい説明なども一切ない。リアリティと云う面では全くそれが欠落していると思われるが、よくよく考えると今の殺し屋とは実は我々の生活に巧みに溶け込んで銃火器などを派手にぶっ放すことはないのではないだろうか?つまりこれほど静かに殺しが成されること自体が実はリアリティがあるのかもしれない。
そう考えるとやはり最も特異なのはケラーが依頼される殺しの理由が不明なことだ。ケラーのターゲットの中には殺される理由が解らない善人が少なからずいる。しかし依頼はあり、それは遂行される。確かに来るべき大きな裁判を控えた重要な証人と云う、まさに狙われるべき理由があるもいるが、実業家や単なるサラリーマンもいる。いや後者が大半だ。そしてそれはいわゆる市井の人間でも殺しのターゲットになることを示している。ウィットとユーモアに物語を包みながらも、その裏側にあるのはどんな理由であれ、人を殺したいと思っている現代人の荒廃した心であることに気付くべきだろう。

まさにローレンス・ブロックにしか書けない作品。それが故に最後のロジャーとの決着のつけ方が意外性に凝ったがために爽快感にかけることになったのは残念である。やはり殺し屋物は純粋にアクション物を期待してしまうのか。私がケラー物のテイストに馴染むのにはまだ時間が足りなかったようだ。


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