海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

[ サスペンス ]
殺し屋 最後の仕事
殺し屋ケラー
ローレンス・ブロック 出版月: 2011年09月 平均: 6.33点 書評数: 3件

書評を見る | 採点するジャンル投票


二見書房
2011年09月

No.3 7点 Tetchy 2016/06/26 23:16
殺し屋ケラー4作目の本書は長編でケラーに最大の危機が訪れる。
今回は前短編集のうち「ケラーの遺産」と「ケラーの適応能力」に登場した謎の依頼人アルが本格的にケラーを抹殺しようとする物語だ。不穏な空気を纏わせた正体不明のアルが本性を現してケラーたちに牙を剝く。それは実に用意周到に計画された罠で、ケラーは依頼で訪れたオハイオ州で州知事暗殺の冤罪を着せられるのだ。犯行にはケラーの指紋がべったり付いたグロッグが使われ、それが警察に凶器として押収される。そして全米にケラーの顔写真が貼り出される。

教科書通りの起承転結の物語運び。まさに無駄のないストーリーテリングでしかも読者の予想通りにはいかないのだ。

ところでケラーの名前だが、ジョン・ポール・ケラーであることが判明する。さらにケラーを追いつめる宿敵はアル、作中ではミスター“私のことはアルと呼んでくれ”とも表記されているが、恐らくこれは原文では“You Can Call Me Al”ではないだろうか。つまりポール・サイモンのヒット曲のタイトルである。そうなるとケラーの名前のジョンとポールはやはりあの有名なロック・バンド、ザ・ビートルズから来ているのだろうか?そんな風に考えて読むのもまた一興か。

閑話休題。

ケラーが逃亡者の境遇に置かれることで過去の仕事でケラーに始末された人々を回想するシーンがたびたび挿入されるため、本書はシリーズの総決算的な作品のように読める。特にドットが亡くなる件ではブロックがこのシリーズにけりをつけようとしているのだと強く思った。
しかしそんな読者の感傷めいた思いを見事にユーモアで翻すのがブロックの筆さばきの妙だ。

しかし死体入れ替えのトリックには唖然としてしまった。日本の本格ミステリ作家ではこんなこと考えないだろう。

しかしこの殺し屋を主人公にしながらも終始落ち着いた雰囲気で展開するこの物語はなんとも不思議な余韻を残す。
今まで書いてきたように今回ケラーは州知事暗殺の犯人に仕立て上げられ、全米に顔写真が出回り、指名手配され、逃亡の身となる。しかしそれでもケラーには次から次へと危難が訪れるわけではない。見知った顔のマンションのドアマンには賄賂を渡して口封じをし、立ち寄ったガソリンスタンドで独り身の経営者に面が割れるくらいだ。それまでは終始逃亡者としてのケラーの猜疑心と過去に葬ったターゲットに対する思いが延々と綴られる。
やがて全米指名手配にもかかわらず、ケラーの周りにはとうとう警察の捜査の手は及ばず、ニューオーリンズでケラーの新パートナーとなるジュリアに出会ってからは髪型と色を変え、眼鏡をかけて人相が若干変わり、また新しい身分を手に入れたことで解決してしまう。

直接的にせよ関わりがないにせよ7人もの死人が出る物語である。これだけ人の生き死にも扱っていながら熱を帯びない作品も珍しい。血沸き肉踊らない殺し屋の物語なのだ。
しかしだからといって面白くないわけではない。エキサイティングには程遠いが読み進めるうちにケラーの足取りと読者自身の思いが同調するが如く、先の読めない展開を味わいながら愉しむのだ。そう、美味しい酒をチビリチビリと呑み、悦に浸る味わいが本書の持ち味なのだ。

No.2 6点 あびびび 2015/06/28 11:33
依頼人が指定したホテルを出て、他のホテルを予約するなど、プロに徹したはずの殺し屋ケラーだったが、なかなか殺害オッケーが出ない。不信感を募らていると、案の定、相手の罠にはまり、要人暗殺の犯人にされてしまった。

この事件は全米に轟き渡り、ケラーの顔写真がマスコミに晒される。そのなか、必死の逃亡生活を送るケラー。復讐?再生?この窮地をどう切り抜けるのか?

No.1 6点 kanamori 2011/11/12 22:11
殺し屋ケラー・シリーズの最新作(最終作かどうかは秘密)。
このシリーズ、前3作まではサスペンス性やストーリー展開には重点が置かれておらず、ケラーのどうってことない思索や、元締めの女性・ドットとの軽口のやり取りなど、まったりした語り口を楽しんでいましたが、本作は、”州知事射殺犯の濡れ衣を着せられたケラーの逃亡劇と復讐劇”となっており一般受けも狙えそうです。序盤の、ケラーが捜査側の行動をロジカルに予測し、裏をかいて逃亡するところなどなかなかのシーンだと思います。

解説は、”殺し屋”つながりで伊坂幸太郎氏ですが、たしかに”要人暗殺犯の濡れ衣を着せられた殺し屋の逃避行”という設定は、「グラスホッパー」+「ゴールデンスランバー」と言えるかもしれません。


キーワードから探す
ローレンス・ブロック
2020年11月
石を放つとき
平均:5.00 / 書評数:1
2018年09月
泥棒はスプーンを数える
平均:7.00 / 書評数:1
2014年10月
殺し屋ケラーの帰郷
平均:5.33 / 書評数:3
2012年09月
償いの報酬
平均:5.50 / 書評数:4
2011年09月
殺し屋 最後の仕事
平均:6.33 / 書評数:3
2009年12月
やさしい小さな手
平均:8.00 / 書評数:1
2008年09月
タナーと謎のナチ老人
平均:7.00 / 書評数:1
2007年11月
殺しのパレード
平均:7.00 / 書評数:2
2007年07月
泥棒は深夜に徘徊する
平均:5.50 / 書評数:2
2007年06月
快盗タナーは眠らない
平均:5.25 / 書評数:4
2006年12月
すべては死にゆく
平均:6.50 / 書評数:2
2004年07月
砕かれた街
平均:7.00 / 書評数:1
2002年10月
死への祈り
平均:6.67 / 書評数:3
2002年05月
殺しのリスト
平均:7.00 / 書評数:1
2001年08月
泥棒はライ麦畑で追いかける
平均:7.00 / 書評数:1
2000年08月
泥棒は図書室で推理する
平均:7.00 / 書評数:1
1999年10月
皆殺し
平均:8.00 / 書評数:2
1999年05月
頭痛と悪夢
平均:5.00 / 書評数:1
1998年12月
泥棒はボガートを夢見る
1998年09月
殺し屋
平均:6.25 / 書評数:4
1996年12月
処刑宣告
平均:6.75 / 書評数:4
1996年09月
泥棒は野球カードを集める
平均:7.00 / 書評数:1
1995年10月
死者の長い列
平均:7.00 / 書評数:5
1995年01月
死者との誓い
平均:6.60 / 書評数:5
1994年01月
夜明けの光の中に
平均:7.00 / 書評数:1
1993年11月
獣たちの墓
平均:7.60 / 書評数:5
1993年07月
バランスが肝心
平均:10.00 / 書評数:1
1992年12月
おかしなことを聞くね
平均:8.00 / 書評数:2
1992年10月
倒錯の舞踏
平均:8.00 / 書評数:6
1991年12月
墓場への切符
平均:8.00 / 書評数:4
1990年12月
緑のハートをもつ女
平均:7.00 / 書評数:1
1990年07月
慈悲深い死
平均:6.50 / 書評数:2
1988年12月
一ドル銀貨の遺言
平均:6.00 / 書評数:3
1987年11月
冬を怖れた女
平均:6.00 / 書評数:3
1987年04月
過去からの弔鐘
平均:7.33 / 書評数:3
1986年11月
聖なる酒場の挽歌
平均:7.25 / 書評数:4
1985年07月
暗闇にひと突き
平均:6.67 / 書評数:3
1984年11月
泥棒は抽象画を描く
平均:7.00 / 書評数:1
1984年04月
八百万の死にざま
平均:6.91 / 書評数:11
1983年01月
泥棒は哲学で解決する
平均:6.50 / 書評数:2
1981年04月
泥棒は詩を口ずさむ
平均:7.00 / 書評数:1
1980年07月
泥棒はクロゼットのなか
平均:7.00 / 書評数:1
1980年04月
泥棒は選べない
平均:6.00 / 書評数:3