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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
タナーと謎のナチ老人
エヴァン・タナー
ローレンス・ブロック 出版月: 2008年09月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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東京創元社
2008年09月

No.1 7点 Tetchy 2013/05/21 18:02
タナーが今回訪れるのはまだ国が統一されていたチェコスロバキア。そこでネオ・ナチ信奉者たちのシンボル的存在であるヤノス・コタセックなる人物を救出し、彼の持つファイルを入手するのが彼の今回の任務。しかし入国する前に警察に捕まりそうになる。前作でもトルコの入国審査でいきなり逮捕されたタナーだったが、彼は目的地に着くことが大きな障害であり、パターンとなっているようだ。

しかもタイトルにもなっているヤノス・コタセック老人はユダヤ人を嫌悪し、有色人種を蔑視する唾棄すべき男。行く先々の国々でその国の民族をこき下ろし、毒を吐きまくる(何かにつけていちゃもんをつけずにいられないこんな人いるなぁ)。
任務とは云え、そんな男を連れて国を渡っていくのはタナーには辛いものだ。自分を偽ってコセタック老人をなだめすがめつしながら自身を時にはネオ・ナチ信奉者として、旅先の国では協力を得るために反ファシストの革命家を演ずる。でもこれは我々社会人も同じこと。相手に対してその都度対応を変え、時には自分を曝け出し、時には自分を偽っておもねなければならない。タナーの悲哀はそのまま我々の悲哀だ。

しかし数々の危難を乗り越えるタナーの持ち味は機転がすぐ回る頭の良さや不眠症を長所にして体得した数ヶ国語を操る語学力もそうだが、やはり一番の強みは人脈の広さ、つまりコネである。
各国の団体、過激派グループ、狂信者グループの会員となり、逢ったこともない相手と親密になるほどの交流をしているタナーのコネの強さだろう。この武器を存分に活かしてタナーは老人を連れてチェコスロバキアからハンガリー、ユーゴスラビアからギリシアへ、そして最終目的地のリスボンへと移動できたのだ。

しかしユーモアで包まれたスパイ物だが、結末はなぜかシリアス。この辺の思い切りの良さというか冷酷さはフリーマントルのチャーリーに一種通ずるものを感じた。

前作は怪盗物という先入観が邪魔をして混乱の中、読み終えてしまい、存分に愉しめなかったが本作では眠れないスパイの物語であることがあらかじめ分かっていたので物語に没入できた。従って前作より本書の方が評価は上なのだが、本書以降シリーズは訳出されていない。『このミス』にもランクインされなかったので売り上げもさほどではなかったのかもしれない。しかし2作目を読んで非常に続きが気になるシリーズである思いを強くした。おまけに現在本書は絶版でもある。ブロック再燃の今、どうにか3作目の訳出が成されることを祈って感想を終えたい。


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