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[ ハードボイルド ]
墓場への切符
マット・スカダー
ローレンス・ブロック 出版月: 1991年12月 平均: 8.00点 書評数: 4件

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二見書房
1991年12月

二見書房
1995年10月

No.4 8点 あびびび 2014/12/24 23:32
「とりわけモットリーと言う、人間の皮をかぶった怪物の書き方が卓抜である。ロバート・B・パーカーも、スー・グラフトンにもできないことを、いや、だれにもできないことをブロックはやってくれた」と、スティーブン・キングがべたほめだった。

確かに、モットリーと言う殺人鬼は、凄かった。これにはエレインもくじけそうになった。しかし、マット・スカダーがいた。彼は敢然と立ち向かった!

最初から犯人が分かっているので謎ときは皆無だったが、これはマット・スカダーシリーズの中でも上位ランクされると思う。

No.3 9点 Tetchy 2014/12/06 00:08
マット・スカダーシリーズが今日のような人気と高評価を持って迎えられるようになったのはシリーズの転機となった『八百万の死にざま』と本書から始まるいわゆる“倒錯三部作”と呼ばれる、陰惨な事件に立ち向かう“動”のマットが描かれる諸作があったからだというのは的外れな意見ではないだろう。

本書が今までのシリーズと違うのはそれはマットの前に明確な“敵”が現れたことだ。彼の昔からの友人である高級娼婦エレイン・マーデルをかつて苦しめたジェイムズ・レオ・モットリー。錬鉄のような鋼の肉体を持ち、人のツボを強力な指の力で抑えることで動けなくする、相手の心をすくませる蛇のような目を持ち、何よりも女性を貶め、降伏させ、そして死に至らしめることを至上の歓びとするシリアル・キラー。刑務所で鋼の肉体にさらに磨きをかけ、スカダー達の前に現れる。

これほどまでにキャラ立ちした敵の存在は今までのシリーズにはなかった。確かにシリアル・キラーをテーマにした作品はあった。『暗闇にひと突き』に登場するルイス・ピネルがそうだ。しかしこの作品ではそれは過去の事件を調べるモチーフでしかなかった。

しかし本書ではリアルタイムにマットを、エレインをモットリーがじわりじわりと追い詰めていく。つまりそれは自身の過去に溺れ、ペシミスティックに人の過去をあてどもなく便宜を図るために探る後ろ向きのマットではなく、今の困難に対峙する前向きなマットの姿なのだ。
それはやはり酒との訣別が大きな要素となっているのだろう。過去の過ちを悔い、それを酒を飲むことで癒し、いや逃げ場としていたマットから、酒と訣別してAAの集会に出て新たな人脈を築いていく姿へ変わったマットがここにはいる。

特に過去に関わった女性に対して思いを馳せるに至り、マットは自分には常に自分の事を想う女性がいたと思っていたが、実はそんな存在は一人もいなかったのではないか、ずっと自分は孤独だったのではないかと自身の孤独を再認識させられる件には唸らされた。実に上手い。

本書にはある一つの言葉が呪文のように繰り返される。それはAAの集会で知り合ったマットの助言者であるジム・フェイバーによって勧められたマルクス・アウレリウスの『自省録』という書物の一節、「どんなことも起こるべくして起こるのだ」という一文だ。
これが本書のテーマと云っていいだろう。どんなに用心していようがいまいが起こるべきことは起こるのだ。モットリーの襲撃も結局スカダーは防げず、エレインはその凶刃に掛かってしまった。

しかしその後にはこう続くことだろう。起こってしまったことは仕方がない。問題はそのことに対してどう振舞い、対処していくことかだ、と。

マットが住む世界ほどではないが、我々を取り巻く世界とはいかに危険が満ちていることか。地震や津波であっという間にそれまでの生活が一変する事を我々は知ってしまった。しかしそこで頭を垂れては何も進まない。そこから何をするかがその後の明暗を分けるのだ。本書で描かれた事件はそんな天変地異や大災害のようなものではないが、書かれていることはいつになっても不変のことだ。

No.2 7点 E-BANKER 2014/07/05 09:47
1990年に発表されたマッド・スカダーシリーズ第八作。
本作に続く「倒錯の舞踏」「獣たちの墓」と合わせて、「倒錯三部作」と呼称される作者の代表作。

~無免許の私立探偵スカダーは、旧知の高級娼婦エレインから突然連絡を受けた。かつて彼女の協力を得て刑務所に放り込んだ狂気の犯罪者・モットリーがとうとう出所したというのだ。復讐に燃える彼の目的は、スカダーのみならずスカダーに関わった女たちを全員葬り去ることだった! ニューヨークに展開される現代ハードボイルドの最高傑作~

L.ブロックの作品を読んでいると、NYが実に魅力的な街に映る。
ハードボイルドの“本場”といえば、LAやサンフランシスコなど西海岸の都市を思い浮かべてしまうのだが、このマッド・スカダーシリーズに触れた瞬間から、NYこそがハードボイルドに似合う舞台という気になってしまう。
(もっとも、「新宿鮫」を読むと新宿こそがハードボイルドが最も似合う街、っていう気になるのだが・・・)

それはともかく、本作はスカダーVS狂気の殺人者である。
この殺人者モットリーはかなりヤバイ。
先日読了した「倒錯の舞踏」の悪役も相当強烈で、頭がクラクラしたほどだったけど、本作も負けず劣らずだ。
なにしろ、“鉄の爪”ならぬ“鉄の指”を持つ男なのだから・・・
この男には、さすがのスカダーも相当苦しめられることになる。
ラストの二人の対決シーンは手に汗握ること請け合い!

ただし、本作には謎解き要素はほぼないし、そこが不満という読者は多いかもしれない。
本格ミステリーではないのだから、伏線を用意しなければいけないわけではないのだけど、「倒錯の舞台」ではそこら辺りにも気を配り、徐々に謎が解明されるカタルシスを味わえるという要素もあっただけに、そこの比較上はどうしても「倒錯の・・・」に軍配をあげざるを得ない。

ただ、本作の醍醐味はスカダーと彼をとりまく脇役たちとの交流、そしてスカダーの生き様を思う存分味わうことだと思う。
読めば読むほど、スカダーという男に惹かれていく・・・これこそがハードボイルドの真髄と言えるのではないか。
とにかく読んで損のない佳作。
(読む順が逆になってしまったのがちょっと残念。やはりシリーズものは順に読むほうが絶対に良い)

No.1 8点 kanamori 2010/12/13 20:26
無免許の私立探偵マット・スカダーシリーズの第8作。
「スカダーとその女たちに死を!」というキャッチ・コピー通り、ハードボイルド小説の枠内にシリアルキラーを登場させた”倒錯三部作”の1作目です。
謎解きの要素はなく、刑事時代に逮捕した鬼畜系男モットリーがスカダーと関係者に復讐を企てるというサイコサスペンスの色合いが強いですが、スカダーの飲酒への衝動との戦いを交えながら、殺人鬼モットリーの標的で後に終生の伴侶となる娼婦エレインとのやり取り、凄腕の酒場店主ミック・バルーとの男の友情など、魅力的な人物が登場します。
本書がなければ、シリーズがこれほど長期に渡って書かれていなかったであろうと思われる重要な作品だと思います。


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