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[ 本格 ]
泥棒は抽象画を描く
泥棒バーニィ
ローレンス・ブロック 出版月: 1984年11月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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早川書房
1984年11月

早川書房
1998年07月

No.1 7点 Tetchy 2014/08/21 23:16
4作目ともなるとシリーズキャラクターが定着して読者はローデンバーの住む世界に還ってきた気になり、物語にすっと入り込める。レズで泥棒のパートナーでもあるキャロリン・カイザーを始め、前回の事件で知り合った画家のデニーズ・ラファエルソンも再登場し、端役だった前回とは違い、本書では絵画がテーマでもあって、かなり重要な役割を果たすことになる。そして腐れ縁の警察官レイ・カーシュマンももちろん健在だ。

さてそんな連中が一堂に会する本書の事件とは意外にもキャロリンから端を発する。キャロリンの愛猫アーチーが何者かに誘拐され、バーニイはキャロリンの力になるうちにモンドリアンの絵を盗むことになる。そんな最中に巻き込まれるのがモンドリアンの絵の所有者であり、バーニイに古書の鑑定を依頼したオーダードンク氏の殺人容疑に、町の芸術家ターンクウィスト殺害の容疑だ。

しかしそんな本書の事件の真相は実に複雑。蓋を開けてみれば名画を巡る贋作、また贋作が飛び交う名画詐欺の全貌が見えてくる。

シリーズを重ねるごとに事件の構造が複雑になってきて、読者側も理解するのに最後の解決シーンではかなりの頭脳労働を強いられてくる。それもそのはずで、本書のもう1つの楽しみは古書店主であるバーニイの特徴ゆえに随所に古典ミステリに関する薀蓄やウィットが散りばめられている。それらがクイーンだったり、カーだったりスタウトだったりと日本の本格ミステリファンにはお馴染みの名前や作品が上がってくるのだ。
特に最後ではキャロリン自身がレックス・スタウトの作品みたいに“モンドリアンが多すぎる”と称するのには思わずニヤッとしてしまった。まさにこれこそが本書に相応しい題名だろう。

しかし泥棒バーニイにとって巻き込まれる事件は2件の殺人事件の冤罪とよくよく考えるとかなり重い内容となるのに、このバーニイの軽快さは一体何なのだろう。危機を危機と思わずむしろ嬉々として状況を愉しんでいるかのように思える。事件が重なるごとに彼の状況はさらに複雑になってきているが、次回もまた泥棒の七つ道具を右手に、そしてユーモアを左手に持って我々に楽しい本格ミステリと物語を見せてくれるに違いない。


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