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[ 本格/新本格 ]
顔のない肖像画
連城三紀彦 出版月: 1993年07月 平均: 6.90点 書評数: 10件

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実業之日本社
1993年07月

新潮社
1996年08月

実業之日本社
2016年08月

No.10 8点 斎藤警部 2021/04/14 11:20
潰された目
患者を強姦したと訴えられる医者(看護師と婚約中)が無実を主張する。 徐々に信頼できなくなって行く語り手(証人)の群れが密集し次々にカードを切る。後期クイーン問題なんてものを何処かで連想させつつ畳み掛ける中盤の分厚さは流石だが、この真相だったら、ヨーサノパイセンがもうちょい軽いノリで全体構成してくれた方がむしろズンと来るかも。 タイトルはやや比喩負け(比喩違い?)か。 だかこの残酷な締めの考察は、心理の足跡使いの巧みさもあって、刺さる。   7点

美しい針
カウンセラーと患者の攻防。 舐めたらあかん。。。勢いに騙されるで。。 男性恐怖症だって。。? そこまで迸って、最後に絞りきれなかったリドルストーリー的残滓のグラつくやばい煌めきよ。 チャンチャン終わりのようでちっともチャンチャンじゃない、拡がり続けるエンディング。 しかしこの先生、なかなか思い切った技を使うね。  7点

路上の闇
或る事件を起こしたばかりのタクシー客は、運転手が自分を、ラジオニュースを賑わすタクシー強盗と疑っているのでは、との疑念に取り付かれる。 強烈に熟成される映像的サスペンスから、一瞬の掌返し。単純に真相だけなら見え易いものだが、この奥深い逆説は最後の説明で味わいを増す。 だけど、アレ、もう一つのアレのほうはどこ行った。。  7点

ぼくを見つけて
「誘拐された」との110番通報主は、数年前の誘拐事件で死亡したはずの子供。 やけに早いタイミングで反転が晒される意味は。。この隠し方には驚いたわ。凄まじまいミスディレクション魂!ちょっとしたリドル風エンディングも熱い。視点変換の可能性って、こんなに。。他の作家でも書きそうな先行三作とは全く異質、連城三紀彦ならでのはのストマックブロー。 ホワットダニットの分厚さ、罪深さに絶句。 哀れな子だ。。。。  9点

夜のもうひとつの顔
不倫相手である雇い主をヤってしまった若い女性は、最悪のタイミングで、被害者の妻から電話を受ける。 いいねえ、、探り合いの機微と展開が光る、これぞ連城サスペンス。 刑事コロンボを思わす映像性高いシーンも決まった。 畳み掛けるサスペンス流儀の大反転と濁流のエンディング、と来て〆に小粋な小反転。  8点

孤独な関係
OLが友人に共通の話題「あの事件」に纏わる告白を披歴。 一種のフーダニット(不倫相手捜し)ではあるが。。。 最後、急に来るダンダンダンダン何連発だかもう分からない反転にも全て貌(かお)があって意味がある。だが、最後に露呈される真相は、何とも言えない、空間に更にぽかりと穴が空いたような、見ようによってはなかなかスットコな感覚の。。wだけど心地良い冷風がフゥーッと吹き抜ける不思議な感慨をくれる。 実は物語の終わった後に更にまだあるんじゃないかと惑ってみたり、逆に真相とされる解釈の一つ前が本当の真相、という手の込んだ考えオチじゃないのかと疑ってみたり。  7点

顔のない肖像画
画廊での出遭いから波動が拡がる物語。。。。。これは導入からやばいな。俗世のうだうだが隠れ蓑となりミステリがフェードインするよな先行作(「ぼくを~」は例外)と違い、もう始めっからコレ絶対やばい真相だろってオーラが噴出しまくっとる。謎の堆積、微量の解決と微量の増殖を繰り返し総量は絶えず高い所をキープ。更にサスペンスの空圧。美術品オークション会場で堂々行われた極秘のオペレーション。。いや、そこは、気付かないでしょう。。。。ミスディレクションたっぷりで絶対顔が見えない隠し方トリックの極南。。ブラウン神父も天国でさぞ微笑んで指をパチリと鳴らしたことでしょう。大資産家を相手に、■金トリックの地平を大きく開拓してくれました。 最後の最後までミステリのエキスだけを敷き詰めながら、物語のパトスさえ充溢。どんな胸熱な騙し絵だよ、と泣いてまうやないか。。。(幻の遺作の件は、後々考えるとちょっと笑っちゃうこじつけのような気もするが、、言い換えると、しまそうが書いたら絶対苦笑を誘うバカミスに仕上がると思うんだが、、読中は全く気になりませんでした。。(笑)) やはり最後は人間の意志とドラマが勝った。  10点


全般的に『花葬シリーズ』の如き恋愛文芸と推理小説の奇蹟の婚姻めいた味わいは薄いが、俺達の連城にそういった所だけを求めるものでもないでしょう。法月さんの文庫解説にもありましたが、『夜よ鼠たちのために』同様「週刊小説」誌に初出の作品を集めた短篇集との事で、この発表の場では抒情等にこだわらずとにかくトリッキーなミステリ本位で勝負した、という事なのかも知れません。

No.9 6点 2020/08/27 06:46
 『落日の門』に続く、著者24番目の作品集。『夜よ鼠たちのために』と同じく、雑誌「週刊小説」に掲載された7編のみの短編集でもある。なお同誌に発表された作品は全部で13編あり、この二冊が全て。巻頭の「瀆された目」こそ『少女』『瓦斯灯』収録作品とほぼ同時期にあたるが、他は1988年1月から1993年1月まで、前半は『萩の雨』や『新・恋愛小説館』といった作品、後半は『落日の門』『紫の傷』『美女』など、再びトリッキーな短編にトライしていた頃に集中している。長編では講談社の叢書書き下ろし作『黄昏のベルリン』から『美の神たちの叛乱』を経て、『牡牛の柔らかな肉』『終章からの女』に至る時期。
 内外とも同趣向の多い「美しい針」やタクシー強盗を扱った「路上の闇」、後半でも「孤独な関係」はあまり推奨できないが(とはいえサラリと電話での会話のみで物語を成立させていたりする)、誘拐物の「ぼくを見つけて」など、中にはぶっとんだ作品も混ざっている。特に表題作の奇想はとんでもない。
 終戦後の画壇の復興期に突如現れ、十年後にはその死とともに消えていった火花のような画家・萩生仙太郎。狭い画廊の展覧会で少女の肖像画に見入っていた美大生・旗野康彦は画家の未亡人に呼び止められ、彼女の代理としてあるオークションへの参加を依頼される。それは萩生の絵に執着していた日本財界トップスターの一人・弥沢俊輔秘蔵の三十二点を競るオークションで、幻の傑作と言われている最後のころの『地平線』も出るのだという。
 康彦が依頼されたのは、彼が見入っていた『顔のない肖像画』の真作の落札。ずっと手をあげつづけ、たとえ一億を超したとしても必ず競り落として欲しいという。彼は未亡人の頼みを引き受けるが、やがて彼女が百万の金も自由にはできず、生活費にも困る有り様であることが明らかになってくる。しかも康彦の母方の祖母は、萩生仙太郎の愛人であった。これは夫を誘惑した女への、美しい老女の間接的な復讐なのだろうか? 彼は不安を抱えつつオークション当日を迎えるが・・・
 実際上のリスクなどかなりの無理があるとはいえ、これは連城短編の中でも傑作。最初は意味が掴めず何度か読み返した。90年代はミステリから遠のいていたイメージのある連城だが、本作などキレッキレである。やはり実際に読んでみないといけないなあ。ここまでちょっと弱かったけど、最後に来て満足。
 次に来るのは夫殺しを巡り妻と愛人とがせめぎ合う「夜のもうひとつの顔」。二重底だけどこれも平凡かなと思っていたら、ラスト近くで大きくひっくり返される。第三位は初期作らしく担当医の患者レイプ事件を扱ってトリッキーな「瀆された目」か「ぼくを見つけて」。後者は創元推理文庫『落日の門 連城三紀彦傑作集2』にも収録されている。全体的には玉石混淆といった感じで、採点は6.5点。この人の短編はコンスタントに水準以上が続くので、どうしても点が辛くなってしまう。

No.8 6点 ボナンザ 2019/12/26 13:42
これは連城でなければ書けない作品集だろう。どれも物語としてしっかりしている一方、ミステリとしての反転も巧みだ。

No.7 6点 take5 2018/05/01 22:37
連城三紀彦の短編集としては、
他の物よりもストーリーより
反転そのものに重きを置いたものです。
タイトルが既にparadoxですし、
技巧はうならされます。
ただ私には、戻り川の情緒とインパクトが強くて、
なかなかそれを超越するものがないというところが
現実です。

No.6 7点 まさむね 2018/04/15 22:24
 反転の妙、そして何よりも作者の騙しの技巧が楽しめる、高水準の短編集。7つの各短編の当初の発表時期が1983年~1993年と一定の幅があるからなのか、バラエティも豊かです。
①「潰された目」:これは巧い。敢えて多くは語りますまい。
②「美しい針」:似たプロットの他作家の作品が思い浮かんでしまい、キモの部分は序盤で気付いてしまった。ちょっと損した気分。
③「路上の闇」:緊張感溢れる展開の後のオチの妙。私は全然気づかなかったですね。
④「ぼくを見つけて」:連城の十八番「誘拐モノ」。流石です。
⑤「夜のもうひとつの顔」:これも巧い。やられた。好編。
⑥「孤独な関係」:油断ならない展開から、ある意味驚きの真相。反則ギリギリの感もあるが、部長の気持ちはよく分かる。
⑦「顔のない肖像画」:言葉足らずを承知で書けば、「滅びの美学」的な連城らしさを感じる作品。個人的には疑問符の箇所がないではないが、まさに「反転」と言える舞台設定も含めて、お見事。

No.5 7点 ALFA 2017/03/25 16:16
七編の短編集。どれも反転に次ぐ反転で連城ワールド満載。表題作以外は短いがどれも最後の反転に向かって精緻に組み立てられている。余分なドラマ性はない分読みやすい。
その点で「夜よ鼠たちのために」より洗練されている。
フェイバリットは「顔のない肖像画」。
もう少し現実的にして長編にしたらきっと面白いだろう。

No.4 7点 E-BANKER 2012/07/31 21:23
表題作を含むノン・シリーズの短編集。
何とも「連城らしい」「連城にしか書けない」作品が目白押し。

①「潰された目」=トリックそのものはどうってことのないレベルだが、ラストに明らかになる「反転または逆転」がやはり連城! こういう男女のドロドロした心の襞を描かせるととにかくウマイ。
②「美しい針」=これはまた見事な「反転」モノ。逆に見事すぎるので、中盤過ぎる頃にはプロットはほぼ分かってしまった。何とも言えない読後感。
③「路上の闇」=これも②と同様で、さすがにここまでくると「反転の構図」は分かってしまう。でも何とも言えない緊張感がラストに向けて徐々に盛り上がってくるのが良い。
④「ぼくを見つけて」=このプロットは強烈。連城好きなら、本編は堪えられないのではないか? リアリティの感じられない数々のピースがラストに見事に収束させられる手口は感動もの。
⑤「夜のもうひとつの顔」=これもウマイが、サプライズ感ではちょっと小粒か。前半に何気なく埋め込まれた伏線がラストに生かされるのはさすが。
⑥「孤独な関係」=いろいろなすったもんだの末、明らかなになる事実(部長の気持ち)は個人的にはよく分かる。そうだよなぁー、会社や家庭でいろいろなストレスを感じるよなぁ・・・
⑦「顔のない肖像画」=かなり大掛かりな「反転」なのだが、ちょっと想像しにくい。簡単なプロットをわざとかなり複雑にしたように見えるのがどうか。個人的にはどうも「絵」に関するミステリーと相性が悪い気がする。

以上7編。
もはや連城の「短編」のクオリティについては、多くを語らなくてもよいでしょう。
今回もとにかく反転に次ぐ反転・・・
その分、ちょっとミエミエになるところはあるのだが、それを補って余りある技巧の確かさ、見事さでしょう。
まぁ、未読の方にはお試しいただきたい。
(④がベストかな。①~③も水準以上。)

No.3 7点 2012/03/26 09:54
7編の反転ミステリーが収録されている。
①「瀆された目」・・・7編の中では本格の匂いがした。後半は度肝を抜かれた。
②「美しい針」、③「路上の闇」・・・「瀆された目」で本書がこの種のミステリー集であるとわかったためか、これら2編にあまり驚きなし。想定内だった。
④「ぼくを見つけて」・・・誘拐物。あいかわらずの凝った作り。でもラストはやや不満。
⑤「夜のもうひとつの顔」・・・強烈すぎて吹っ飛びそう。
⑥「孤独な関係」・・・騙し方が気に入らないなぁ。手が尽きた感あり。
⑦「顔のない肖像画」・・・これはいくらなんでもないだろう、というとんでもない真相。馬鹿げているが愉快。

①がいちばん、次に⑤、その次が⑦④、ついで⑥②③の順。
サプライズの程度には差があるが、どれもこれも中途のスリリングな展開には楽しめた。

「戻り川心中」よりは好み。「夜よ鼠たちのために」と同格か少し上。
でも、実は連城作品は自分にはそれほど合わないことも事実。
と、書評も、反転、また反転。

No.2 8点 こう 2010/03/18 00:58
本の裏の文面を見ても全くミステリを強調されていませんがまぎれもない連城ミステリ短編集だと思いました。
  真相が一気に反転するというより予想通りの落ち、展開に落ち着くものも多いですが個人的には大いに楽しめました。表題作と「ぼくをみつけて」が気に入っています。
 一番ミステリらしいのは「ぼくをみつけて」で「どこまでも殺されて」のような謎の電話をモチーフとしたストーリーです。

No.1 7点 kanamori 2010/03/06 13:11
花葬シリーズや「紫の傷」「夜よ鼠たちのために」に並ぶ、騙しのテクニック満載の逆説的ミステリ短編集。
すべての収録作で最後にひっくり返しが冴える。タイトルもそうだが、パラドックスがテーマとなっているのだと思う。


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