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[ サスペンス ]
終章からの女
連城三紀彦 出版月: 1994年04月 平均: 6.00点 書評数: 5件

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双葉社
1994年04月

双葉社
1998年04月

No.5 6点 2020/11/29 05:04
 昭和四十年代も終わりに近づいたその年十二月の深夜二時、荻窪のアパートで火災が発生した。火は通報によりすぐ消し止められたが、現場に踏みこんだ消防士がそこに見つけたのは、大の字に横たわり冷え固まった印象を与える黒焦げ死体と、煙に隠れてかすかに匂ってくる油の匂いだった。遺体はその体軀からアパートの住人・小幡勝彦と認められたが、彼は出火の約七、八時間前、包丁で胸を刺され既に殺害されていた。
 問題の時刻に隣人の女子大生が聞いた諍いの声と、被害者の契約していた一億円の生命保険から、妻の斐子と愛人・高木安江の二人が捜査線上に浮かぶ。四谷に住む弁護士・彩木一利はその日の夕刊で初めて事件を知るが、新聞記事の『アヤ子』という名に心当たりがあった。
 土田斐子。十年以上前に二か月近く行きずりにも似た淡い関係を持ち、今年の夏に荻窪のスーパーマーケットで偶然、再会した女性である。その一週間後事務所に現れた斐子は、殺人容疑者として彩木に弁護を依頼するが、稚拙なアリバイ工作や偽証などとは裏腹に、殺人を告白しまるでより重い罪に服する事を望んでいるかのような彼女の態度に、彩木は深い困惑を覚えるのだった・・・ 
 雑誌「小説推理」1993年1・2月号掲載。『牡牛の柔らかな肉』『花塵』と並行して連載された著者17番目の長編で、短編では『顔のない肖像画』『前夜祭』『美女』収録作の一部と発表が被ります。
 内容は冒頭の殺人と、その十五年後最初の事件をなぞるように起こるもう一つの殺人の二部構成。依頼人の真意に疑問を抱きながら、それでも必死に彼女の弁護を続ける彩木の法廷闘争と、安江とも繋がりその彼を土壇場で裏切る斐子の行動が描かれた前半部分、十五年の刑を終えて出所した彼女の狙いが明らかになる後半部分。この二つが終戦直後、斐子六歳の時に起きた両親の焼死事件と、毎年十二月に諏訪の真比古神社で行われる、暗い火祭りの記憶を通奏低音にして展開していきます。
 初期短編を思わせる奇想を、特異なヒロインの造形で成り立たせた作品。トンデモ心理を執拗な描写の積み重ねで、読者に曲がりなりにも納得させてしまう所が凄い。確か他作品の文庫解説で〈恋愛小説に移行したと思われた作者が、久々に気を吐いた本格ミステリ〉みたいな言われ方をしてた気が。それもあってかこの時期にしては評価は高い。
 ただドロドロ加減なので後の『流れ星と遊んだころ』のような、全盛期を上回るほどの鮮やかな驚きは無いですね。〈これなら短編でいいじゃん〉というミもフタもない意見もチラホラ。水準以上の作品ではありますが、過大評価は禁物でしょう。とはいえ結構楽しませてくれたんで、点数は6.5点。

No.4 4点 yoshi 2017/08/02 03:28
まあ確かに騙されはしました。見抜ける人はまずいないでしょう。
ですが、騙すためだけのストーリーとしか思えなかったのでこの点数で。

二番目の殺人の時は安江が代わりに刑務所に入ってくれるとかならわかりますが、ありえないでしょう。

No.3 6点 蟷螂の斧 2013/01/25 17:27
(タイトル・女⑫)第一部では、罪を軽くしようと努力する弁護士と、重い罪を希望する犯人(女)との心理戦のような形で物語は進みます。第2部は刑期を終えた15年後に、まったく同じような事件が起こります。真相は、奇想に近いもので、アイデアとしては面白いのですが、やや納得できない気持ちもあり、微妙な感じですね。

No.2 7点 T・ランタ 2010/01/14 17:30
犯人、トリックは最初に提示されます。
そして犯人は捕まりますが・・・と言った展開です。
読者は事件の動機もそうですが、犯人の行動に関する動機も考える必要が出てきます。

しかしそれは犯人の思想的な物なのでそう分かるような物では無かったりするのですが・・・

ちなみにドロドロした部分はあまり好きじゃなかったです、はい。

No.1 7点 こう 2008/09/17 23:07
 連城作品はトリッキーなものが多いですが、これはトリッキーさとは一味違う作品でした。
 冒頭数ページで女が男を刺殺したシーンが描かれ、その後第一部でマンションで夫が刺殺、放火されその妻が容疑者となって、というストーリーです。
 あまり前情報なしで読んだ方が良い作品でしょう。本格ではなく真相というか動機は事前に読者サイドに手がかりがないので絶対にわからない類のものですが奇抜でした。
 一般人としては行動、考え方が真似できないものですがキャラクター描写により何となく納得させられます。この作品も他作品同様男女間の模様が色濃くでていますが他作品よりむしろこってり、どろどろした印象で読後感はあまりよくないかもしれません。
 ただ真相まで読み進めたところで読者は納得できないまでも事前の伏線、犯人の描写の意図が理解でき今までの連城作品とは違う面白みがありました。また冒頭のシーンの使い方は中町信を思わせます。
 知名度は高くないと思いますが秀作だと思います。


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