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[ サスペンス ]
花堕ちる
連城三紀彦 出版月: 1987年04月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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毎日新聞社
1987年04月

角川書店
1990年09月

No.1 6点 2020/12/29 13:21
 “花の落ちる地へ参ります”という書き置きを残し、作曲家・高津文彦の妻、紫津子が出奔してから三日目の朝、高津のもとに空箱のように軽い奇妙な小包が届いた。中からあふれだした無数の桜の花片は、風に舞い花吹雪となって彼を驚かせたが、花片とともに白い砂状の物が入った封筒があり、添付の便箋には妻の筆蹟で、それは自分と愛人の“小指の灰”であると記されていた。
 バイオリニスト・藤田優二―― 十五年前に死んだ筈の男。藤田は本当に今も生きているのだろうか。高津は妻の残した手掛かりを追って一路京都へ向かうが、行方を晦ました紫津子たちを追う者は彼だけではなかった・・・。桜吹雪舞う幽境の地に燃えあがる魔性の炎、傑作長編恋愛ミステリー。
 『私という名の変奏曲』に続く著者の第四長編で、雑誌「サンデー毎日」1985年5月26日号~1986年5月25日号まで、ちょうど一年間連載。短編では『もうひとつの恋文』『離婚しない女』及び『恋愛小説館』『一夜の櫛』各前半収録作を執筆していた時期にあたります。
 紫津子と行動を共にする〈コートとサングラスとで身体と顔を隠した、背の高い男〉の謎をチラつかせつつ、謎の女・沢野彰子と協力し見失った妻の行方を探すロードムービー形式の三部構成。官能小説風の描写ながら妻の面影や亡き藤田の幻影を、国宝・興福寺阿修羅像を始めとする仏像の姿と重ね合わせる事によりその臭みを打ち消し、インモラル極まる真相を運命的な愛と喪失の物語に昇華させた小説。随所に挿入される音楽要素や狂い咲く桜の沼のイメージもまた、これに一役買っています。
 読み進むうちに読者は夫であって夫でない高津の結婚生活と、それを上回る藤田と紫津子、そして彰子の三者に隠された異形の愛の全てを知る事に。展開はやや通俗寄りなもののコートの男の正体その他には連城式の奇想が用いられており、単なる恋愛サスペンスではなく立派なミステリーと言っていいでしょう。真相を知って読み返すと、やや不似合いな描写はありますが。
 心当たりアリとはいえ、あんまり電波な書き置き残されても旦那も正直困ると思うんですがそこはそれ。吉野から京都、奈良、そして再び運命の地・吉野の奥千本で決着したのち今度は二度と訪れまいと誓った屈辱の地・小樽へフライト。主人公・高津は到底作曲家とは思えないアグレッシブさを見せ、何度も行き倒れ寸前になりながら十五年の歳月を繋ぎ、妻の心を追い求めます。
 位置的にはデビュー当初のガチ本格主体から、様々な方向へ分岐していく転換点となる作品。ただし初期作の名残もあって、闇を花の豪雨で埋め尽くさんばかりの第二部クライマックスの情景描写は圧倒的。難点を言えば、流石にコートの男の心理までは抉れなかった事でしょうか。かなり野心的な小説ですが、そういう意味で傑作には至らず6点止まり。


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