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[ サスペンス ]
女王
連城三紀彦 出版月: 2014年10月 平均: 6.25点 書評数: 4件

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講談社
2014年10月

講談社
2017年10月

No.4 7点 zuso 2023/02/14 22:57
祖父の不審な死をきっかけに「私」は、癌を患った老齢の瓜木、祖父・祇介の弟子だった妻・加奈子とともに、記憶の迷宮、歴史の迷路へと入り込んでゆく。それはなんと魏志倭人伝に記された邪馬台国と、その女王・卑弥呼を巡る謎だった。
異形の歴史ロマンであり、男女の複雑極まる情愛のドラマであり、連城ミステリの要素がすべて注ぎ込まれた巨編である。

No.3 6点 2021/07/05 22:45
 昭和五十四年二月七日、精神科医・瓜木のもとを訪れた三十才になる男性・荻葉史郎は、自分の中にある経験した筈のない空襲の記憶を訴える。にわかには信じられない話だった。だが瓜木医師は思い出す。東京大空襲のさなか、今と変わらぬそのままの顔の史郎と会っていたことを。
 一方、長年史郎を慈しんできた祖父の祇介はその七年前、大晦日の夜にかかってきた一本の電話を受け、急遽旅に出たあと冷たい骸となって発見されていた。死因は多量の睡眠剤の服用。邪馬台国研究に生涯を捧げた古代史研究家の彼が、真冬の深夜一路吉野へと向かい、更に日本海を臨む若狭まで北上して死を遂げたのは何故なのか。事件から二十三年後の平成八年、不治の宿痾を抱えた瓜木は史郎や彼の妻・加奈子と共に千数百年の歳月を遡り、奇妙な記憶と不審な死の真相を探る旅へと向かうが・・・。
 雑誌「小説現代」に、作中時間とほぼリンクする形で1996年3月号~1998年6月号まで連載。著者の第25長篇となる作品で、前半は『わずか一しずくの血』後半は『流れ星と遊んだころ』と重なり、短篇では『年上の女』『夏の最後の薔薇』『さざなみの家』各収録作を執筆していた時期になる。大作として何度も刊行予告されながら作者の実母介護のため延期され、2010年にようやく手直しが始まったと思いきや、自身の胃癌発見とそれに続く闘病生活によりそれも中断、結局連城逝去後の2014年10月、改稿作業が完了しないままの遺稿として出版された。
 荻葉史郎が持つ空襲に留まらぬ膨大な過去の記憶―― 関東大震災、南朝最後の帝・後亀山天皇に同行しての吉野山からの都落ち、更にその千年前、邪馬台国の女王・卑弥呼に仕えた遥かな日々の追憶など、一人の人間が千数百年間生き続けたとしか思えぬ謎が、冒頭から釣瓶撃ちに荻葉家代々の血脈と絡めて語られる。しかも史郎のみならず、彼の父親であり祇介の息子である春生も、どうやら同じ記憶を共有していたようなのだ。更にそれを裏付ける証拠の発見が、祖父の生前最後の吉野行と関係しているらしい・・・。
 旅路を遡行する毎に、過去から立ち現れる殺人や殺人未遂。全ての記憶は実在したのか、それとも単なる幻想なのか? 史郎の頬にあった三すじの火傷と、燃える櫛をかかげた女・卑弥呼の鮮烈な映像と共に、魏志倭人伝の「水行十日陸行一月」の謎が、奇妙な現実感を伴い描写されていく。
 全体としては泡坂妻夫『妖女のねむり』的な構想を軸に、これに先立つ連作長篇『落日の門』の一篇で描かれたある思いつきを敷衍して組み立てられているが、かなり強引というか力技めいたものが目立ち、泡坂の端正さには及ばない(〈「日」であり「月」でもある一つの文字〉という邪馬台国の位置解釈は存外画期的だが)。通して読むと事前のイメージとは異なり、女性キャラよりも男性陣の印象を濃く残す父性のドラマ。奇妙な人生を歩まされた一男性の、精神治療と再生の記録である。

No.2 5点 2015/04/27 10:04
とにかく重たかった。
500ページ超で、しかもハードカバーの単行本。いったい何kgなのだろうか(笑)。
鞄に入れて持ち歩くのを躊躇しました。

生まれる前の関東大震災や東京大空襲の記憶がある、昭和24年生まれの主人公史郎。
はたして史郎は誰かの生まれ変わりなのか。序章には、そんなSFファンタジー的な謎が提示してあります。
章が進むにつれ謎がすこしでも解きほぐされていくのかというと全くそうではなく、一章でも、史郎の祖父の死の謎や家族たちの出生の謎、そして邪馬台国や魏志倭人伝、南北朝等々の謎など、謎は積み重なり、深まる一方です。
こんどは、タイトルどおり卑弥呼の謎を解く歴史ミステリーなのか・・・。
一章といっても、一章が終わるのが290ページぐらいですから、いい加減に勘弁してくれという感じで、苛立ちがつのってきます。
とはいえ、連城ミステリーなだけに壮大な仕掛けがあることの期待感がしぼむことはありません。

そして結果は・・・
かなり無茶苦茶なところもありますが、いちおう許容範囲というところでしょうか。遺作ということもありますしね。

亡くなられて1年以上になりますが、昨秋から今年にかけて、刊行ラッシュという感があります。
長編はあまり好みではないものの、まだ未刊作品が残っていると聞けば、やはり惹かれます。

No.1 7点 kanamori 2014/11/16 18:08
十二歳以前の記憶を喪失しながら、生まれる前の戦時中の東京大空襲や関東大震災を経験したという記憶に憑りつかれた「私」荻葉史郎は、ある精神科医のもとを訪ねる。そして17年後に再会した老医師は、戦時中に史郎に会ったことがあると驚くべき発言をする。「私」はいったい何者なのか---------。

作者の一周忌に合わせて刊行された遺作の第2弾。
500ページを超える大作で、序章の不可解な謎だけで惹きつけられますが、この辺はまだ文字どおりのプロローグです。このあと、若狭湾で変死した古代史研究家の祖父の行動の謎や、”亡父”春生が遺した中世南北朝時代と邪馬台国を舞台にした日記など、トンデモ系の謎が次から次へと呈示され、もう中盤まででお腹一杯w
現代の「私」とその家系の謎がメインのはずが、いつの間にか邪馬台国テーマの古代史ミステリにトリップし、読者を幻惑させるという構成は連城ミステリの真骨頂と言えるでしょう。魏志倭人伝の”水行十日、陸行一月”の珍解釈はちょっとアレですけど。
いくつかの強引すぎる奇想はアクが強すぎ、読者によっては評価が分かれる気がしますが、連城ミステリの集大成的なところがあり、マニアにはマストリードな作品かと思います。
雑誌掲載終了後未刊行の連城の長編は、まだ3作品も残っているらしいので、来年以降の早期刊行を期待したい。


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