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[ 本格/新本格 ]
わずか一しずくの血
連城三紀彦 出版月: 2016年09月 平均: 5.40点 書評数: 5件

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文藝春秋
2016年09月

文藝春秋
2019年10月

No.5 5点 E-BANKER 2024/08/31 13:26
「週刊小説」1995年5月12日号~1996年1月8日号まで連載。未完のまま埋もれていた本作。作者の没後、堰を切って発表された何作かの作品のうちのひとつをようやく読了できた。
感想は後述するが、「いやいや・・・これは・・・」という作品。

~薬指に結婚指輪をはめた左脚の白骨死体が群馬県の山中で見つかり、石室敬三とその娘は、その脚が失踪した妻・母のものだと確信する。この事件をきっかけに、日本各地で女性の身体の一部が発見される。伊万里で左腕、支笏湖で頭部、佐渡で右手・・・それぞれが別の人間のものだった。犯人は、一体何人の女性を殺し、何のために遠く離れた場所に一部を残しているのか?壮大な意図が次第に明らかになっていく。埋もれていた長編ミステリが20年ぶりの刊行!~

これまで数々の連城ミステリーを読んできたが、まさに「連城にしか書けない」、いや「連城しか書かない」ミステリー。これほど連城のエキスが注入された作品も珍しいのかもしれない。そんな気さえした。
そういう意味では(連城ファンとして)、もう、十二分に堪能することができて満足。以上!で締めくくっても良い。

ただ、どうしてもこれだけでは締めくくれないなあー
ミステリーとして破綻していることは特に言うまでもないのかもしれない。そもそも連城作品に対してロジックとか、リアリティとかいう単語を持ち出すこと自体意味のないことだとは思う。
紹介文にあるように、作品の後半、女性の死体の一部が日本各地で見つかることとなる。これだけ見ると、これって「占星術」のアレか?とどうしても考えてしまう。
ただ、これは全く「似て非なるもの」だった。
「占星術」のアレは、真の犯人の意図と現実的な必要性がうまくマッチングされた形で読者の前に提示されていた。よって、解決編でそれを見せられた読者は計算された作者の手腕に賞賛を贈ることができた。
本作のこれは、もう、犯人の意図のみである。犯人の出自や時代性、〇〇という場所の特殊性などで納得するところはあるけれど、これを示された読者は、ミステリー的な驚きではなく、「なぜここまで・・・」という疑問を抱くことになる。
それに対する回答はなく(ただ、女性をアレに見立てた、というところだけはアッ!と思わされたが)、読者は納得するかどうか自身で折り合いをつけなければならなくなる。

いやいや、もうよそう。そんなことをつらつら書いても詮なきことである。久々に連城節を堪能できたのだから十分ではないか。
でも、「ナツメロ」的な感想で連城を評価したくはないというのが個人的感想。それはもう、何度も何度も「アッ!」という作品に触れてきたのだから・・・(相変わらず、よく分からん感想ですなぁー)

あっ、本作でキリ番。1,800冊目の書評だったことに今さら気付いた。しまった!!

No.4 6点 みりん 2023/06/10 15:26
フーダニットというよりホワイダニット つまり犯人の動機を当てるタイプのミステリですが、これを当てるのはあまりにも難解すぎる・・・ 
犯人の復讐相手は果てしなく強大すぎてこんな動機は今までに見たことがない笑 

No.3 5点 2020/06/22 08:53
 梅雨の只中の六月二十六日の夜、東京池袋の中古車販売主任・石室敬三の家に、一年前に失踪した妻の三根子から突然電話が掛かってきた。入浴中に電話を受けた娘の千秋の話では、まもなく放送される十時のニュースに自分が出てくると告げられたという。
 群馬の山中で白骨化した左脚が発見されたと聞いた父娘は、それが行方不明の三根子の脚だと直感する。左足の薬指には彼女が普段そうしていたように、M・Iというイニシャルの彫られたプラチナ製の指輪が填められていた。
 その二日後の六月二十八日、現場付近にある伊香保の温泉宿『かじか亭』では、顔面を潰され左足を切りとられた女性客の遺体が発見されていた。女は前日二人連れで宿泊しており、宿帳に残された名前は『妻ミネ子』。『鈴木五郎』と記した男の方は、惨死体発見数時間前の午前五時四十分、宿泊代を精算しタクシーに乗りこんで立ち去っていた。また「万が一の時には電話を入れてくれ」と女性が前夜仲居に渡した紙きれには、東京の石室家の電話番号が記されていた。
 この事件を皮切りに、全国各地から女性の身体の一部が発見されてゆく。伊万里で、支笏湖で、また佐渡島で・・・見出された遺体は、それぞれ別の人間のものだった。
 捜査陣を幻惑するような事件の展開。長期にわたる事件はやがて関係者や被害者家族、担当刑事をも巻き込み、さらに異様な相貌を呈し始める・・・
 雑誌「週刊小説」誌上に平成八(1995)年5月12日号~平成九(1996)年11月8日号まで連載。『人間動物園』と『女王』の間に挟まる長編で、執筆順としては第二十四作目。『美女』後半の収録作品や、連作短編集『さざなみの家』『火恋』所収の各短編とも発表時期は重なります。
 官能描写は多いものの、処女長編『暗色コメディ』をも上回る??の連続。しかもラスト付近まで鼻面掴んで曳き廻され、全く光明が見えてきません。「これ一体どうなるの? もしかして物凄い作品なんじゃないの!?」と、期待値MAXの読者の前に提示された解答は――
 腰から下がへちゃへちゃと脱力するような真相。沖縄問題を背景に幻想的な作風と社会派推理との融合を試みた意欲作ですが、その出来栄えは微妙。犯人の特異性なくしては成し得ないプランと、犯行のきっかけとなった特殊な人間関係が、普遍的な動機と説得力構築の妨げになっています。「結局おかしな奴がやらかしたんでしょ?」みたいな。この人の場合変に衒わない作品の方が動機に訴えかける物があるし、ことさら強引に社会派要素を組み込まなくても良かったんじゃないかなあ。
 強いて言えばひとときの酩酊感と五里霧中さを楽しむ作品。発表から長い期間を置いて没後に刊行されましたが、あるいは何らかの修正意図があったのかもしれません。

No.2 6点 測量ボ-イ 2018/05/09 18:39
埋もれていた?氏の初期作品の復刻版。
ミステリアスな出だしに魅了され、サクサク読めますが、う-ん
なんと評して良いのやら(笑)。
不満点はラストがやや尻すぼみ感があるのと、ある重要な人物が
最後の方まで出てこないことなどにあるのかなあ。
評価が難しい作品です。

No.1 5点 小原庄助 2018/04/11 10:33
幽霊譚を思わせる発端だが、その後各地から複数の女性の身体の一部が見つかり、事件は一気に猟奇的な連続バラバラ殺人事件の様相を呈する。
物語の鍵となる男は読者の前にやおら姿を現し、警察の捜査など恐れる様子も一切見せず活動を続けるが、全く尻尾をつかませない。男女の濃密な関係を描くのにたけた作者としても、いつにも増してエロティックな描写が多いが、そこにこの作品の生命があり、謎の中心がある。
雑誌掲載後20年間、未完のままだった本作。当時の沖縄の基地問題を背景とした、スケールの大きな本格的トリックが味わえる。


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