皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
[ 本格 ] 二人の妻をもつ男 トラント警部補 |
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パトリック・クェンティン | 出版月: 1957年01月 | 平均: 8.08点 | 書評数: 12件 |
東京創元社 1957年01月 |
1960年03月 |
東京創元社 1960年03月 |
東京創元社 1961年01月 |
No.12 | 9点 | ◇・・ | 2023/11/12 21:16 |
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カニンガム出版社に勤めるビル・リーディングは社長の娘と結婚し、地位も富も手に入れた。しかしある夜、前妻のアンジェリカに偶然出会ったことから思わぬ殺人事件に巻き込まれ、悪夢のような苦境に立つことに。
愛する者のために偽証した主人公が自分の仕掛けた罠にからめとられていくサスペンス。二重三重のどんでん返しなど、作者の持ち味が遺憾なく発揮されている。巧妙に張り巡らされた伏線も見事。 |
No.11 | 9点 | 人並由真 | 2020/10/18 14:29 |
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(ネタバレなし)
「私」ことビル・ハーディングは、学友の美女アンジェリカ・ロバーツと結ばれ、新人作家の道を歩み出す。だが創作の道に挫折し、アンジェリカは二人の息子リキーを置き去りにして、別の男のもとに走った。その少し後、ビルは、出版界の大物C・Jの長女ベッシィ・カリンガムと再婚。ベッシィは外見は冴えないが情愛ある女性で、リキーのことも我が子のように慈しむ。現在は義父C・Jの会社で若手幹部待遇を受けて、安定した日々のビルだが、そんな彼はアンジェリカに再会。アンジェリカは今は新人作家ジェイミイ・ラムの彼女となり、すさんだ生活を送っていた。この時から、ビルの人生はまた歯車が狂い出していく。 1955年のアメリカ作品。こんなものもまだ読んでませんでした、シリーズの一冊。 本作はしばらく前からそろそろ読みたい、と思いながら、大昔に購入した創元文庫がみつからない。そんななか、現代推理小説全集版も数年前に叢書ワンセットをまとめ買いしていた(希覯本目当てだが、月報まで完備の状態のいいのを割と安く買えた)ことを思い出し、そっちで読んだ。 (その現代推理小説全集版は本サイトに現状の登録がないが、1957年8月の刊行。これが日本で最初の翻訳刊行。) なおかねてより評者は、翻訳されたクェンティン作品はダルース夫妻~トラント警部ものの切り替えの流れを意識して、その辺りの未読のものはなるべくその順々に読みたいと思っていた。そうなると本当は『女郎蜘蛛』も『我が子は殺人者』(この二冊もまだ未読)の方を先に読むべきだったが、まあしゃーない。 ちなみに評者はトラントとは中短編作品で縁はあったはずだが、感じの良かった警察官探偵という以外にあまり印象はなく、長編で出会うのはたぶんこれが初めて。 それで読んでの感想だが、畳みかけるように場面とキャラクター描写を繋げていく作者(ホイーラー)の筆の冴えにはまず感服。一方で良妻と再婚し、生活を持ち直しながら、それでも身勝手に元妻によろめきかけていく主人公にはかなりイライラしたが、たぶんそういう読者がいることすら、送り手の計算のうちだったのであろう。作者はいろんな意味で中盤からその辺を切り返してくる。 最終的には予想以上の傑作となった。 とにかくキャラクターの配置と造形が鮮やか。一部の者は良い意味で最後まで類型的に描かれた(それはそれで有意であった)が、一方で劇中の登場人物の大半は、物語が進むにつれて実に多角的に掘り下げられていく。 特に最後に明かされた真犯人の動機の向こうにある心情には、読み手なりに強い想いを馳せるが、もちろんそれはここでは詳しくは書かない(書けない)。人間ってつくづく(以下略)。 ■ところでまったくの余談ながら、本作は前述の現代推理小説全集版では3巻目の配本で、その巻末に今後のこの叢書の第一期刊行予定として20冊のタイトルがあげられている。 本叢書は周知のとおり全15冊しか出なかったので、残りの5冊前後は? と思ったら『死の逢びき(仮題では「逢い引き」)』や『チャーリー退場(同・チャーリー退場す)』『名探偵ナポレオン』など溢れたそのヘんのものはみんな、のちの旧クライム・クラブに引き取られていた。 叢書、現代推理小説全集の中座には、当時の例の創元社のごたごたとかも影響しているんだろうけれど、今回読んだ『二人の~』に挟まれた月報を読むと「A・J」(もちろん厚木淳のことだろう。『二人の~』の主要人物のひとりC・JならぬA・Jだw)は、ゆくゆくはこの叢書を二期、三期、40冊、60冊と出したいと語っていた。 構想どおりに実現していたら、日本の翻訳ミステリ界には相応の影響があったものと思われる。機会があれば、それが実現したパラレルワールドにしばらく行ってみたい(まさに夢想)。 |
No.10 | 6点 | nukkam | 2019/08/18 15:15 |
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(ネタバレなしです) 昔の創元推理文庫は本格派推理小説なら顔に「?」が描かれた男のマーク、サスペンス小説なら黒猫マーク、ハードボイルドなら拳銃マークとどんなミステリージャンルかを読者に示すサービスがあって私にはありがたかったのですが、本書については少々戸惑いました。なぜなら本のカバーには本格派マークが付いていたのですが、巻末の文庫目録ではサスペンスの項目に分類されていたからです。まあそんなんで困るのはジャンルの好みが片寄り過ぎている私ぐらいでしょうけど。文庫の紹介文が凄い。「1955年に発表されるや、英米両国のあらゆる批評家から最大級の賛辞」とか「新しき古典として推理小説史上に早くも不動の位置を占めたベストテン級の傑作」とか。ジャンルは気にしつつも(しつこい)、期待を高めて読みましたが、ありゃ凄くない(笑)。主人公が不幸な境遇の前妻に(今の家族には内緒で)同情したのがあだとなってどんどん状況が悪化するという、謎解きよりも人間ドラマ重視のサスペンス小説的プロットで、ダルース夫妻シリーズの「女郎蜘蛛」(1952年)を連想させます。打つ手がなくなった主人公が窮地を打開するには真犯人を見つけるしかないとアマチュア探偵として活動する終盤の展開がようやく本格派風、しかし主人公にしろトラント警部にしろ鮮やかな推理を披露して解決するわけではありません。地味にいい作品ですけど、派手な演出も気の利いた手掛かりも工夫をこらしたトリックもなく、創元推理文庫版の宣伝文句だけ妙にハイテンション(笑)。 |
No.9 | 9点 | クリスティ再読 | 2019/04/21 18:18 |
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これぞ50年代を代表する大名作だろう。というのは、この頃は「名探偵小説」が飽きられていて、素人が事件に巻き込まれて否応なく謎解きをする「巻き込まれパズラー」みたいな作品が目立つんだよね。フィアリングの「大時計」とか、マッギヴァーンの「ゆがんだ罠」とか、イギリスだったらガーヴ「ギャラウェイ事件」とか、まあ日本なら60年代に遅れるけど笹沢左保とか、これでもか、と主人公がややこしい立場になって、その中で犯人探しをして...というタイプの類型ができたと評者は思うんだよ。
日本では紹介されたときのカテゴライズが妙に尾を引く傾向があるので、本作以前にパズラーの作品があるクェンティンということで、本作も本作扱いだったりサスペンス扱いだったり流動的だったりする。まあ作家に「ジャンルへの忠誠」みたいなものを要求し期待するのは読者の感傷としか評者は思わないしね。ジャンルもスタイルも変わっていくのがアタリマエだし、そういう「進化」の代名詞的な作品じゃないかな。 本作の良さは一種の格調の高さみたいなものだと思う。夫婦の機微を描きながら、それが一種の仕掛けになっているあたりが、実に素晴らしい。主人公の人間性回復という軸があるのも見逃せないあたりで、主人公と二人の妻との間での微妙な相互(不)理解が、小説としての奥行きを出している。「二人の妻を持つ男」とはなんて絶妙なタイトルをつけたことだろう! けどまあ、自分を貫くのは、なんて周囲に大迷惑なことなんだろうね。日本人にはなかなかない、アメリカ人らしい「空気を読まない」美徳を感じる。そこらも、佳い(トラント警部イイやつだ)。 |
No.8 | 7点 | 斎藤警部 | 2015/06/18 20:12 |
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真犯人というか真相、冒頭部で分かってしまいました。。そこから先は(作者に黙って自分だけ)倒叙サスペンスのつもりで一気に終結まで駆け抜けました。 いやー、熱いね! 名作とされるも納得。 |
No.7 | 7点 | E-BANKER | 2012/11/09 23:00 |
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1955年発表。ホイーラー単独執筆の長編としては「わが子は殺人者」に続く2作目に当たる。
作者の代表作という位置づけの作品だろう。 ~ビル・ハーディングは現在C.J出版社の高級社員として社長の娘を妻に迎え幸福な生活をおくっていた。ところがある夜、偶然のことから彼は別れた最初の妻、美しいアンジェリカに再会してしまう。彼女は悲惨な境遇にあるようだったが、なぜかビルの差し伸べた救いの手を頑なに拒絶するのだった。この時からビルの生活に暗い影が差し始めた。そして生活の激変、恐ろしい殺人事件の渦中へと巻き込まれていく・・・~ さすがに「名作」と評されるだけの価値はある。 十分に練られたプロットにとにかく感心させられた。それが読後の印象。 作品は全て主人公・ビルの視点で語られており、彼が殺人犯というわけではないのだが(別にネタバレではないだろう)、自身の立場や前妻の容疑をかわすため、探偵役であるトラント警部の追及に汲々とすることになる。 この辺りまでは、まるで「倒叙もの」のような味わいで読み進めることになるのだ。 (二人の女性の間で揺れるビルの姿は優柔不断そのものでちょっと嫌悪感すら感じる造形) だが、トラント警部の鋭い捜査の前に、問題の夜の真相を話してからストーリーは一変することになる。 ここからは「犯人捜し」の要素も加わり、スピード感を増した展開から、怒涛の終盤に流れ込む。 (ただし、事件の重要な鍵となるある登場人物間の特別な関係が後出し的に出てくるため、純粋なフーダニットは無理だろう) ラストで判明する真犯人はなかなか意外。 個人的にはてっきり「ダミー」の方の犯人が本命と考えていただけに、作者のプロットの深さにはしてやられたという感じ。 登場人物は決して少ないわけではないのだが、それぞれの造形がプロットにピタリと当て嵌まり、とにかくサクサクと読み進めることができるリーダビリティーにも感心。 敢えて難をいえば、より強いサスペンス感を期待する読者にとっては、やや平板な印象を持つかもしれない、というところ。 その辺りは作風の問題だろうが、個人的にはやや割引要素にはなるかな。 (男って、結局美しい女性には抵抗できないのかもねぇ・・・) |
No.6 | 8点 | 蟷螂の斧 | 2012/07/28 15:20 |
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主人公の心の葛藤がうまく伝わってきて感情移入できました。登場人物も少ないし、性格描写もわかりやく書かれており読みやすい。トラント警部が切れ者なのか、またはサラリーマン的な性格なのかよく解らない点が魅力的で、非常に効果があったと思います。 |
No.5 | 7点 | mini | 2012/06/28 09:58 |
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* 1912年生まれ、つまり今年が生誕100周年に当たる作家は意外と多い、今年の私的テーマ”生誕100周年作家を漁る”の第5弾、クェンティンの4冊目
合作コンビの内の1人、ヒュー・ホイーラーも生誕100周年である(コンビのもう1人リチャード・ウェッブの方は少々年上) クェンティンは時期によって合作パターンが変遷した作家だが、戦後の後期になると合作の片割れウェッブが健康問題でリタイアし、もう1人のホイーラー単独執筆時期となる その後期作の中で最も知られているのが「二人の妻をもつ男」だろう、と言うか昔のファンにとっては、”クェンティンと言えばこれ!”、みたいな感じじゃないかな つまりそれだけ初中期作に絶版が多かったというのが原因だったのだが、今後は埋もれた初中期作の復刊や発掘が主流となるのだろうし、またそれによって作者の代表作も初中期作から選ばれる時代になるのだろう しかし‥だ、将来的には代表作から外されるかも知れないこの「二人の妻をもつ男」だが、実はかなりの名作である この作を代表作とは見なさない昔からのファンも居たらしいが、それは本格中心主義のファンが初中期の絶版作の復刊を要望する声が多かった風潮と無関係では有るまい つまり「二人の妻をもつ男」が基本サスペンス小説であり、初中期の本格作品こそがクェンティンの本流と考える人が多かったと言う事だろうね もっとも初中期の本格作品は私は一部作品しか読んでないので確固たる意見は出せないが、本格がベースだが結構サスペンスをトッピングしているんだよなぁ どうも基本が本格であることに固執しているのが必ずしも作者に合ってないような‥ 後期の「二人の妻をもつ男」では逆にあくまでもサスペンスが基本で、そこに本格要素を散りばめる構成になっており、これが作者の資質に上手く合っていたので名作となったという印象だ |
No.4 | 8点 | take5 | 2011/09/24 12:25 |
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登場人物の一人一人の個性が強烈ですが、かといってうそ臭くは無い良質な作品だと思います。
真相が明かされる=登場人物の抑圧された心情が発露される時に、こじつけ感がないので納得できるのです。 海外の翻訳物の中では、登場人物があまり多くないというのも読み慣れない方々に対してアドバンテージだと思うので、その点もお奨めです。 |
No.3 | 9点 | あびびび | 2011/07/26 02:04 |
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これは出だしから最高のミステリだと思った。「幻の女」のような香りがした。いわば身内の話で、登場人物の少なさに不信感を抱いたが、その視野の中で、最高の展開が繰り広げられた。
昔の妻と、今の妻。最初は昔の妻が魅力的で巨大な存在感に目がくらんだが、なんという逆転劇。最後の20ページくらいはあきれてものが言えなかった。 他の登場人物も個性的で、目がくらむ。 |
No.2 | 8点 | kanamori | 2010/08/07 14:37 |
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最後のどんでん返しによって著者の最高傑作とされるサスペンス・ミステリ。
サスペンス路線に変更後も、本格ミステリ時代のシリーズ探偵・ダルース夫婦を主役にすることに固執してきた作者ですが、本書はノンシリーズにすることでプロットの幅が広がり、緊迫感にあふれたミステリになっています。 実際、ダルースものは妻アイリスの不在(「女郎ぐも」「悪魔パズル」)をプロット上の必要性で演出したり、「わが子は殺人者」では、わざわざダルースの近親者を主人公にしていますが、本書で100%ホイーラーの作風との感がします。 人物造形と心理描写の綾で読者をミスリードするディヴァインにも通じるところがある名作だと思います。 |
No.1 | 10点 | こう | 2008/07/06 23:59 |
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パトリック・クェンティンは岡島二人の様に共作作家ですがこれはホイーラー単独作品です。
主人公は出版社勤務で社長の婿で、その生活空間に失踪した前妻があらわれて起こるサスペンスです。 人物描写は丁寧に描かれ味わい深い作風で個人的には好きな作家です。ある人物(犯人とは限りませんが)の本当の姿がストーリーが進むにつれて露わになってくる、というのが特徴でこの作品でも巧く書かれています。 「わが子は殺人者」共似ている所はありますが、いずれも面白いです。 難点は本格ミステリではなく、殺人が起き犯人もいますが犯人のみに殺人が可能だったわけではなくそういうロジカルな説明はされない点ですが個人的には本格ではなくても非常に好きな作家です。 尚わが子は殺人者で法月綸太郎氏が解説していますがとても素晴らしい内容です。法月氏のある作品はおそらくこの「二人の妻をもつ男」の一部をモチーフとしていると思いますので法月ファンであれば読んで損はないと思います。最後まで読めば類似に気がつくと思います。 パトリック・クェンティンの再良作であり敬意を表して10点に変更しました。 |