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[ 本格 ]
迷走パズル
ピーター・ダルース、レンツ博士
パトリック・クェンティン 出版月: 2012年04月 平均: 6.11点 書評数: 9件

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東京創元社
2012年04月

No.9 7点 斎藤警部 2024/03/06 22:28
「誰もが己の本分をわきまえるべきです。ぼくは演劇プロデューサーなので、演劇プロデューサーとしてこの問題に取り組みたいと思います。」

信頼できないかも知れない探偵役(候補??)。 意外な被害者と意外な殺人現場。 ドタバタ心理試験。 真犯人かどうかはともかく天才的犯罪者が登場して場を掻き回す。 「台の上のもの!」(笑) そして、高名の指揮者が奏でる美しいピアノよ 。。。。 主人公がアルコール依存症治療のため閉じ込められた精神病院内にて、病理なのか超自然なのか判然としない怪奇現象が続発。 その現象内でまるで予言されたかの様に、やたらパンチとヒネリの効いた連続殺人事件が起こる。 患者の中に佯狂の者はいないのか? 医師や看護師の中に殺人狂は紛れていないのか。。?

“子供たちよ、物事は少しばかり悪いほうへ向かっている。だが、心配することはない””

おお、真犯人暴露へ向かう道筋が最高にスリリングじゃないか!! 多方向への憶測振り撒きが半端でないぞ!! おっとぉ、こいつあ全く以っていよいよ。。いんやいや、この端倪すべからざる、抜け目ない逆説駆け巡る結末と、そこへ至る迄のステップの軽やかにして踏み込みの深い、揺さ振りの眩しさ、頼もしさよ!! 真犯人当てちゃってたにも関わらず、こりゃあ参ってしまいした。 声のトリックこそ、ちょいとご都合すっとこピクニックな感じですが、それがメイントリックってわけでもなし、良いでしょう。 シリーズ第一作目がこれ、という構造もいろんな意味で凄いですね。 イザベルより断然アイリスだねえ。

「自分の推理を過小評価することはない。わたしと同じだったのだから」

No.8 7点 弾十六 2020/10/02 04:42
1936年出版。Patrick Quentin名義。初出はDetective Story Magazine 1936-3 as “Terror Keepers” by Dick Callingham (本項のQ.Patrick/Quentin Patrick/Jonathan Stagge(QP/PQ/JS)情報はほぼ全てWebサイトThe Passing Tramp: Wandering through the mystery genre, book by bookによるもの。Web主は詳しい評伝を準備してるというから全貌がついに明らかになるようだ)
Richard Wilson Webb(当時35歳)が、Hugh Wheeler(当時24歳)と共著した最初期の長篇。ダルース・シリーズ第一弾。
設定が素晴らしい!一人称で病院が舞台。ぼんやりした記述が許されるし、自分がオカシーのでは?という不確定性性抜群。自由が奪われ、権威(医者)に逆らえない惨めな気持ち…(私の入院体験は1か月程度だが、そうそうこんな感じ…とこの本を読んでて思い出した。作者は大人になってからの入院経験がありそう) それに警察の捜査をかなり排除できる状況に仕組んでいて、素人探偵が活躍できる舞台が整っている。ある理由で飲んだくれになった主人公、という設定も良い。色々膨らませそう。
でも最初の50ページの記述から私が妄想したのと違ってて、後半はちょっと消化不良。ああこの初期設定パクった、もっと情念満開の作品が読みたいなあ、と思いました。
大体、理想的美女が登場するんですが、主人公はアレを経験してるんでしょ?そーゆー思い入れ(フラッシュバック)を全然出さない。
ところで、これで三冊QP/PQを読んだのですが、犯行の物証が極めて軽い。あと暗闇の場面(歌舞伎でいう「ダンマリ」)がとっても好きみたい。
面白かったけど、感情部分が薄すぎる(24歳なら仕方ないか)。次の『俳優パズル』も楽しみです。
タイトルは昔なら『狂人パズル』で平気だったろうけど、漢字二文字の縛りなら『病院パズル』で良いのでは?(『愚者のパズル』でも良い。このシリーズ、間に「の」を入れた方がしっくりくるのだが…)
原書も手に入れてトリビア書く気満々だったけど。後でゆっくり書きます。
(ところでWheelerは70年代の舞台脚本(Sweeny Toddとか)で著名だがStephen SondheimやHarold Princeの話ではゲイだった、という。元Philadelphia pharmaceutical executive(製薬会社重役)のWebbとも長いこと共同生活をしていたらしい)

No.7 6点 ボナンザ 2020/02/05 22:18
精神病院を舞台にしたフーダニットということで設定も内容も凝っていて楽しめた。

No.6 6点 あびびび 2015/08/12 18:12
主人公の舞台プロデューサー、ピーター・ダルースが、アルコール依存症の治療で入院。その病院は精神病患者がほとんどで、正気か、狂気かと言う見極めが難しく、フーダニットがより混迷を極めた。作者は1912年生まれと言うが、まったく古さを感じなかった。

ダルースがある意味、エルキュールポアロのヘイスティング役になり、いい味を出していると思う。ここで出会ったアイリスと夫婦になるのだが、いまいち線が細かった彼女も、悪女パズルあたりではずいぶんたくましくなっていた。しかし、二人の出会いが精神病院とは意外だった。

No.5 6点 蟷螂の斧 2014/01/10 21:50
精神病院での殺人劇に、アルコール依存症で入院した主人公が、にわか探偵として活躍します。ハウダニットについては、年代(発表1936)を感じてしまいますが、フーダニットは結構楽しめました。伏線はかなりちりばめられていましたね。精神病院が舞台なので、変わった雰囲気を味わえました。最後の博士の告白には、ニヤリとしてしまいます。翻訳も読みやすいです。

No.4 5点 mini 2012/07/17 09:44
* 1912年生まれ、つまり今年が生誕100周年に当たる作家は意外と多い、今年の私的テーマ”生誕100周年作家を漁る”の第5弾、クェンティンの5冊目
合作コンビの内の1人、ヒュー・ホイーラーも生誕100周年である(コンビのもう1人リチャード・ウェッブの方は少々年上)

クェンティンのパズルシリーズについては私は「悪女パズル」1冊しか読んでいなかった、今回で2冊目である
そりゃ高値の古本漁るとか、未訳のシリーズ作が論創社などから刊行されたときは迷ったが結局手を出さなかった
まぁ私がこのシリーズにあまり興味が無かったのもあるし、こういう”幻の未訳・絶版もの”って名前だけ伝説化してしまう風潮なのも気に入らなかった
しかし最大の理由は、順番的にシリーズ初期の第1、2、3作目が読めないというのが致命的だと思ったからだ、いずれ刊行されるだろうと
創元は律儀だよな、他の出版社ならシリーズ最高傑作と言われる第2作「俳優パズル」をまず先に出して様子を窺うところだろうが、知名度的には地味な第1作目を先行させるんだもんね
発表順主義な読者には創元という出版社が人気なのは分かる

まぁそんなわけでストイックにシリーズ初期作が出るまで待ってたからには順番通り、第1作目からだ
クェンティンのデビュー自体はもっと前だが、このパズルシリーズが始まったのは1936年で意外と遅く、第2作「俳優パズル」が1938年、その後は戦争のブランクが有って第3作以降は戦後に書かれている
パズルシリーズという通称から黄金時代らしい本格派シリーズと誤解されやすいが、実は行き詰っていたアメリカン本格派の戦中戦後にかけての質的変化の潮流に乗っかった作風と解釈すべきだ
それ故にかパズルシリーズというのはサスペンス小説的要素を絡ませた本格であって、活躍時期の近さや作風の変遷などから見てもマクロイなどと同列に見るのが正しい位置付けだと思う
トリック一辺倒から袋小路に入った黄金時代末期の他のアメリカ本格派作家達と同じ轍を踏まなかったのだ、こうした面は再評価する必要が有ると思う
このシリーズ第1作は、まだ夫妻でなかったダルースとアイリスの出会いなども描かれているし、シリーズに初めて接する読者だったらまずこれから読むのがベストだろう
この時期のクェンティンらしい軽くて明るい謎解きで気楽に楽しめる、翻訳も良い、この訳者はクェンティンだと「死を招く航海」と同じ翻訳者なんだな

No.3 6点 E-BANKER 2012/06/16 15:42
1936年発表のパズルシリーズ第1作。(巻末解説によると邦題に苦心したようですが・・・)
最近、創元推理文庫として出版されたものを読了。

~演劇プロデューサーのピーター・ダルースは2年前に妻を亡くしてから酒浸りになり、とうとう入院加療の身となった。とある晩、彼は「ここから逃げろ、殺人が起こる」という自分の声を聴いてパニックに陥る。幻聴か? その話を聞いた療養所のレンツ所長は、少し前から院内に不穏なことが続発しているので調べてくれと頼んでくる。かくして内偵を始めたところが美女と恋におち、折しも降りかかった殺人事件の容疑から彼女を救うべく奔走することに・・・~

邦訳がいいし分量も手頃ということで、実に楽しい読書にはなった。
「精神系の療養所」という舞台装置が実に効いているのが本作。
入院患者たちは、精神のどこかしらに問題があり、スタッフ側の人間も何となくキナ臭い人物が揃っている・・・
その辺り、容疑者候補も多士済々で、フーダニットとしての面白さを備えていると言えるのだろう。

ラストは、主人公・ダルースが名探偵ばりに真相究明!と思いきや、ドンデン返しが待ち受けてるし、出版年度を勘案すれば実にアイデア満載、古さは全く感じなかった。
ただし、ロジックの積み重ねで真犯人究明というわけではない点が、やはり不満要素にはなるかなぁー。
「動機」はまぁいいとして、真犯人の「ある特徴」というのは後出し的に出されたという印象は免れない。
(まぁ、不可思議な「声」のカラクリにピン!とくれば、察せなくはないが・・・)
一読者としては、もう少し伏線に工夫があればという気にはなった。

ただ、評価としては十分水準級はクリアしてるし、シリーズの初っ端ということなので、2作目以降に期待というところ。
(こんな明るい病院って・・・なかなかない!)

No.2 6点 nukkam 2012/06/07 18:11
(ネタバレなしです) リチャード・ウエッブ(1901-没年不詳)とヒュー・ウィーラー(1912-1987)の黄金コンビ時代の幕開けを飾る、1936年発表のダルース夫妻シリーズ第1作(但し本書ではまだ夫妻ではない)の本格派推理小説です。このシリーズは主人公が名探偵役とは限らなかったり、ダルース夫妻の関係が山あり谷ありだったり、後期作品ではサスペンス小説要素が濃くなってきたりと実に変化に富んでいます。精神病院を舞台にしていますが、舞台や人物の特殊性をそれほど強調しておらず謎解きの面白さを損ねない範囲で留まっているのがいいですね。リアリティを重視する読者にはそこのところの評価が微妙かもしれませんが。終盤のどんでん返しが鮮やかです。

No.1 6点 kanamori 2012/06/03 17:27
ピーター&アイリスのダルース夫婦が登場する”パズル・シリーズ”の第1作。
昔から、「愚者パズル」(=植草甚一の『雨降りだからミステリーでも勉強しよう』)とか、「癲狂院殺人事件」(=『別冊宝石』訳載)のタイトルで知られた、ファンには待望久しい作品の初の書籍化です。

アルコール依存症のピーターや鬱病のアイリスなど、精神を患った患者たちが入院する治療施設内で、怪異な現象がつづき遂に殺人事件が発生する・・・というあらすじです。タイトルからイメージするようなロジックを駆使したパズラーではありませんし、犯人の特殊技能などに陳腐さを感じますが、終盤の関係者を一堂に集めた謎解きなど、古き良き探偵小説の味わいがあります。


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