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[ サスペンス ]
死への疾走
ダルース夫妻
パトリック・クェンティン 出版月: 2015年04月 平均: 5.80点 書評数: 5件

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論創社
2015年04月

No.5 5点 E-BANKER 2023/05/12 14:00
迷走、俳優、人形、悪女、巡礼者と続いてきた「パズル」シリーズ。で、その次に来たのは「パズル」ではなく本作、ということで、後に記すとおり、従来とは少し毛色の異なる作風となっている。
ただし、主役はいつものとおり、ピーター・ダルース。愛妻アイリスは今回出番なし。
1948年の発表。原題は""Run to death""

~ふたりの美女に翻弄されるひとりの男。それがピーター・ダルース。マヤ文明の遺跡を舞台に事件は転がり、そして加速していく・・・。”ピーター・ダルース”シリーズの長編!~

本作、単行本の巻末解説が充実しているので、「そちらを参照してください」「以上!」でもいいくらいなのだが、さすがに気が引けるので・・・
今回は本格ミステリーではなく、「軽サスペンス」である。解説者もそう書いてます。
ダルースはメキシコの大観光地で、ある美女に出逢い、図らずも国をも揺るがす大事件に巻き込まれることになる。
事件の舞台はユカタン半島→メキシコシティ→ニューオーリンズ、と移りながら、ダルースたちと犯人グループの騙し合いが行われていく展開。
ここまで書いてて、何となく察する方もいるかもしれないが、実に映像向きなプロット、作品だと思う。(最近で言うなら、「コンフィデンスマンJP」っぽい)
だからこその「軽サスペンス」。

ただ、さすがにクエンティンだけあって、うまい具合に「パズル」が組まれている(→「パズル」シリーズ続編だけある)。すべてのピースが最初は絶妙にずらされていたものが、最終的にはピッタリと当て嵌まっていく・・・そんな感覚になる。
だからそこそこ満足感は高い。ラストはエンドロールが出てきて、the endっていう感じ。
つまりはGood jobな作品とは言えそう。
ただ、本格っぽさを求める方は肩透かしを食うと思います。
(作中に伏線として出てくるクレイグ・ライスの「大はずれ殺人事件」。タイトルがタイトルだけに実に意味深だ。で、まずまず重要な役割も果たしてしまう。ネタバレ?)

No.4 6点 あびびび 2017/06/12 23:46
ピーターとアイリスのダルース夫婦。ピーターは映画プロデューサーだが、35歳とは思わなかった。それにしては落ち着いているし、貫禄がありすぎではないか?

夫婦の危機感を感じているときに(メキシコ旅行中)、女優のアイリスに映画出演が入った。アイリスは承諾し、ハリウッドへ帰る。この際、しばらく別々に暮らして、お互いを見つめ直そうという提案だ。

メキシコに残ったピーターはユカタン半島の観光の旅に出かけるが、そこで事件に遭遇する。何人もの魅力的な女性が登場し、事件は一転、二転…。さすがに読ませるが、登場人物の誰が犯人でも収まりそうな曖昧な流れが後味を悪くした。


No.3 5点 nukkam 2015/10/03 22:48
(ネタバレなしです) 1948年発表のダルース夫妻シリーズ第7作で(但しアイリスは全く出番なしです)英語原題は「Run To Death」と、初めてタイトルに「Puzzle」が使われなくなった作品です。そのためかは判りませんがこれまでのシリーズ作品中でも最も本格派推理小説らしさがない、いえ本書は完全にサスペンス小説というべきではないでしょうか。最初はある女性に迫り来る危機とそれを危惧するピーターという図式だったのが物語が進むとピーター自身が危険の真っ只中にいることになり、サスペンスがじわじわと盛り上がります。終盤には鮮やかなどんでん返しがありますが、前述の通り本格派推理小説ではなく推理要素がほとんどないのでそれまでの「パズル」作品に馴染んできた読者としては複雑な思いが残りました。今にして思えばクェンティンが本格派の作家からサスペンス小説の作家へと転身していく一つの軌跡だったのですね。

No.2 7点 蟷螂の斧 2015/08/06 14:04
パズル・シリーズの主人公ピーターが登場するも、「女郎蜘蛛」と同様「~・パズル」となっていません。出版社が相違するので仕方ないか・・・。このシリーズは色々なパターンがあり楽しめますね。今回は軽めの冒険活劇的な要素が含まれています。ラストの反転も好みなので+1点。

No.1 6点 kanamori 2015/05/29 18:09
妻のアイリスが映画撮影のため帰国し、単身メキシコに残ったピーターは、マヤ遺跡の観光途中に若い女性デボラと知り合う。何かに怯えるデボラを訝っていたさなか、不可解な転落死事件に遭遇、ピーターは謎めいた事件に巻き込まれることに--------。

「巡礼者パズル」につづくダルース夫妻シリーズの第7作。といってもアイリスは終盤に登場するだけで、ほぼピーターひとりを主役にした冒険スリラー風味のサスペンスになっています。アイリス不在中にピーターがトラブルに巻き込まれるのは「悪魔パズル」や「女郎蜘蛛」と同様で、シリーズ後期作の一つのパターンと言えますね。
ユカタン半島のマヤ遺跡やメキシコシティの”死者の日”の風習などを背景にして、観光ミステリ的な側面を持たせつつ、周りの男女の「だれが味方で、だれが敵か」が不明のまま緊迫感を醸成させる手際はさすがで、終盤のサプライズ展開もお見事です。
作中に、クレイグ・ライス「大はずれ殺人事件」のポケットブック版がちょっとした小道具として出てきてニヤリとさせますが、同時代にジャスタス夫妻とダルース夫妻という(全くタイプは違うものの)夫婦モノのミステリを書いていた親近感があったのでしょうか。
本書はダルース夫妻シリーズ最後の未訳長編ながら、どうやら今後も「白銀パズル」「花葬パズル」「愛犬パズル」「新星パズル」を収録した中短編集や、スピンオフの「わが子は殺人者」の改訳版も出そうなので、まだまだ楽しみは続きそうです。


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