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[ サスペンス ]
わが子は殺人者
トラント警部、ダルース夫妻
パトリック・クェンティン 出版月: 1961年09月 平均: 9.00点 書評数: 4件

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東京創元社
1961年09月

東京創元社
1961年09月

No.4 9点 人並由真 2023/04/15 21:02
(ネタバレなし)
 1950年代のニューヨーク。「私」こと43歳の出版社代表ジェーク・ダールスは、19歳の息子ビルとの不順な関係に苦悩する。ジェークの妻でビルの母フェリシアは、3年前に謎の投身自殺を遂げ、その事実は遺された父と子の間にいまも暗い影を落としていた。そんななか、ジェークの元学友で先輩、そして現在は出版社の上格の共同経営者である52歳のロニイ(ロナルド)・シェルドンが、半年に及ぶ欧州での外遊兼出張から戻ってくる。ロニイは、英国のマイナーな中年作家ベージル・レイトンを埋もれた才能としてスカウト、その家族をともに随伴して帰国し、そしてベージルの一人娘で19歳の美少女ジェーンを年の離れた新妻として迎えていた。事件はここから幕を開ける。

 1954年のアメリカ作品。
 作家チームの組成が変遷したクェンティンの著作としては、ヒュー・キャリンガム・ホイーラーの単独執筆になってからの初期の長編のようだが、シリーズの流れとしてはおなじみピーター&アイリス夫婦もの(パズルシリーズ)、およびその派生作品としてスタートしたトラント警部(警部補)シリーズ、その双方の世界観を継承。本作でもその3人がメインキャラクターの一角として相応に活躍する(初登場の本作の主人公ジェークの実弟が、おなじみピーター)。

 ジェークとビルの為さぬ親子関係? ジェークとロニイとの長年の友情? の二つを表向きの主な機軸に物語は進むが、サスペンスフルかつドラマチックな作劇は、読者に向けて最大級の求心力を発揮。
 研ぎ澄まされた叙述のスマートかつ歯応えある小説技法も踏まえて、たぶん本作こそ、クェンティン作品類作のなかでのベストワンであろう(と言いるつつ、評者もまだまだ読んでない作品も多いけどね・汗)。

 終盤の、おお、ついに……と思いきや、そこから二重三重に引っかえされる真相のドンデン返しの高揚感、これでもかこれでもかと、すでにグロッキーの読者に続けて何発も手刀を打ち込んでくる重量級レスラーのような作者の手際で、まさにサプライズのつるべ打ち。
 そして最後にミステリとしての意外な真相が明かされたのちに際立つ、あまりにも(中略)な現実……。すげーな、おい……シムノンかロス・マクの上位作のごとき作品だよね、コレ。もちろん、あまり詳しくは書けませんが(あ、ことさら、特定の作品を連想した物言いではない。ネタバレ回避は意識してるので、念のため)。

 本サイトのレビューでも、総レビュー数こそ3本と少ないものの、平均点9点と異常なほどの高評価! 少し前に駅前の古書市で、たぶんすでに一冊持ってるんだけど、100円棚にあって安かったから購入した一冊を今回はじめて読んだけど、背骨がビビるほど面白かった。
 
 181頁目の、ジェークとトラントの会話、いいよね。
 236頁の最後の1行から、次の237頁の最初の2行までの3行、
 この短い3センテンスにどれだけの情報量が込められているか!?
 いや、サイコーだよね。

 パズルシリーズの正編は、もう全部楽しんじゃったとか言ってるそこの方、ぜひコレも忘れず読んでください。

 10点あげようか迷ったけれど、とりあえず、この評点は確保! として、まず9点。 

No.3 8点 あびびび 2015/12/06 21:34
妻が3年前に自殺…の真相は殺人事件が起きた時に見当がついていた。息子が父親を嫌う理由…これがポイントだったが、息子が父親にその真相(手紙)を知らせていれば何も起こらなかったかも…と言っても仕方がないか。

殺人は動機が重要だが、これは少し見え透いている。自分的には「ふたりの妻を持つ男」の方が好みだなあ。

No.2 10点 蟷螂の斧 2015/03/22 11:21
裏表紙より『三年前に妻が謎の自殺を遂げて以来、ジェーク・ダルースの生活は、わびしいものだった。夫からも息子からも愛されていた幸福な女が、陽光の輝く六月の朝、なぜ自殺しなければならなかったのか?その謎が彼の心に暗い影をなげているのだ。 しかも今や、ひとり息子のビルが、なにか恐ろしい事件に巻きこまれそうな気配があった。父親としての愛情と本能が彼にそう警告しているのだ・・・。横溢するサスペンス、緊密な構成、全編に流れるたくましい父性愛、これは名作「二人の妻をもつ男」の作者ならでは作りえない、第一級の推理小説である。』

上記案内のとおりである小説に初めて出会いました(笑)。計算しつくされた綿密なプロットに脱帽。人物像の造形が素晴らしい。トリックによる反転よりも、人物像(一人だけではない)の反転が読みどころか?。数々の決定的な動機、証拠を突きつけられても、息子の無実を信じる愚鈍ともいえる父親像に感情移入することができました。後半はやっと犯人にたどり着き、自白を引き出せるか?というところで・・・。この辺の展開はうまいですね。本作はこれといったトリックはありませんが、トリック重視派の私でも満点をつけてしまいました(笑)。本作は単独で読んでもいいのですが、主人公の弟であるピーター、その妻アイリスの人物造形が省略されているので、唐突な感じを受けるかもしれません。パズルシリーズ(ピーター主人公)を1冊読んでいた方が理解できるかも。トラント警部補も警部に昇格し、相変わらずいい味を醸し出していました。入手困難でやっと手に入れましたが、初版で法月綸太郎氏の解説(かなり緻密らしい)がついていませんでした(残念)。

No.1 9点 こう 2008/11/02 23:42
 ホイーラー単独での第一作目です。これも「二人の妻を持つ男」同様家族がテーマの作品で地味ですが気に入っています。
 パズルシリーズのシリーズキャラクターであるダルース夫妻のピーターの兄ジェークが主人公です。
 本格的推理の余地はあまりないのですが地味ですが良くできた作品だと思います。人物造形もうまく、ストーリーが進むにつれて主人公の周りの人物の本当の姿が露わになってゆく所など非常にうまいです。あまり「カタルシス」はないですが良くできたミステリであり初期のパズルシリーズも復刊してほしいと個人的に思っています。
 尚解説は法月綸太郎氏が書いていますが秀逸な出来です。


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