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[ 本格 ]
八人の招待客
Q・パトリック名義
パトリック・クェンティン 出版月: 2019年09月 平均: 6.50点 書評数: 6件

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原書房
2019年09月

No.6 6点 E-BANKER 2022/08/06 11:48
Q・パトリック名義(R.ウィルスン・ウェップとH.キャリンガム・ホイーラーの合作)で著された中編2本で構成。
まさにCCど真ん中という感じ(雪の山荘)の表紙絵が印象深い。
発表は①が1937年で②が1936年、とのこと。

①「八人の中の一人」=“大晦日の夜、マンハッタンの40階の摩天楼の最上階に集まった株主たちが、会社合併の是非を問う投票をしているところへ合併を阻止するべく真夜中までに株主たちを全員抹殺するという脅迫状が舞い込む。階下へのエレベーターは止まり、電話も通じず階段に通じる扉は施錠された。照明のヒューズも飛び、株主たちは暗闇の中に閉じ込められてしまう・・・~”
ということで、究極のCCとでも表現すべき舞台設定で心躍るが、全体的な印象としてはパッとしない。
フーダニットの分かりやすさ(=いかにもという人物が真犯人)や、展開の安易さが目に付く。分量も分量だしまぁしようがないかなという気もするけど、メインが「犯人捜し」なのか「閉じ込められサスペンス」なのか、どうも二兎を追ってしまったことがあだになった感じ。どうでもいいけど、1936年っていうと日本では2.26事件が起こった年。日本だとそんな時代がかった年に、アメリカでは現代でも通じるようなビジネスシーンが描かれていたということで、やっぱ違うよね・・・

②「八人の招待客」=“過去に公表できない秘密を持つ男女に奇矯な言動で知られる富豪から不穏な招待状が届く。富豪の意図は共通の敵である脅迫者を招待客たちと共に抹殺しようというものだった。ところが、富豪の計画は招待客の一人の裏切りから予想外の窮地に追い込まれていく。折からの雪嵐に閉じ込められ、電話も交通も電力さえも遮断された暗闇の邸宅で、邪悪な連続殺人が幕を開ける~”
なんて普遍的なミステリーのテーマなんだ! 舞台設定だけだと、「金田〇〇〇の事件簿」当りで絶対取り上げそうなプロット。他の方も触れてますが、「そして誰もいなくなった」との相似性については私もあまり感じなかったなぁー
途中までは実によい。展開は①と同様安易さが目に付くけど、こちらはラストまでサプライズ期待もあって読者の興味を引っ張ることには成功している。ただ、まぁあまり派手な展開にはならないので、そこら辺を期待しすぎないように・・・。執事役の男性をかのアシモフの名執事になぞらえているところは作者のご愛敬?

①②とも佳作という水準には達していないかな。でも、本格好きには堪えられない舞台設定だし、一読して損はないだろう。訳も実に平易で読みやすい。
個人的には①<②かな。

No.5 7点 弾十六 2020/09/17 23:51
ミスリーディングな解説なのでしょーがないなあ、なのだが、『そして誰も…』の元ネタというのは、山雅さんが昨年発見した、名前を明かしてない作品で、それを海外Webで紹介したらスペインのIgor Longo氏から、こんなのあるよ、と教えられたのが、Q.Patrick名義の二つのこの中篇だった…という。
なんか怪しいけど、まあいいや。初出はいずれもEQMMのように最初は誤読したけど、再録とちゃんと書いてあった。調べると両方ともThe American Magazineが初出(詳しくは後述)、Webサイト“Pretty Sinister Books”のQ Patrick & the Pseudonym Enigma(2011-6-12)に両作品が素敵なイラスト付きで紹介されています。
いずれも企みまくってる作品で、もちろん無理は沢山あるけど楽しく読めました。実はクエンティンをちゃんと読んだのは初めて。こーゆー作風なら凄く好みなので、とりあえず30年代の作品を年代順に読んでいこうと思いました。まだ本が手に入るよね?
実は一番気になったのはWebbの合作遍歴がちょっと変テコなこと。どんな人だったんだろう(最初に女性二人と合作してるのが気になりました。最初の女性は恋人関係だったのかなあ)。
それでは個別にトリビアを。
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1 「八人の中の一人」Murder on New Year’s Eve (初出The American Magazine 1937-10 “Exit Before Midnight” by Q. Patrick、挿絵Matt Clark) 再録EQMM1950-1、再録時の名義もQ. Patrick、この時のタイトルが左記のもの。評価7点
上述のWebサイトに冒頭のタイプライターのシーン(p15)とp51ページのシーンの美麗イラストが掲載されてるので是非。
設定が素晴らしい!もちょっと恋愛模様を書き込めばもっと良かったかなあ。『そして誰も』とは、ほとんど関係ありません。
p19 浅黒い肌、高い頬骨…♠️多分、ほぼ間違いなくdark=黒髪の。
p29 交換台は、メイン・オフィスの隅の、エレヴェーターのすぐそばにあった♠️電話交換機はビルの各階に設置されていたようだ。 各会社ごとにあったのかも。ペリー・メイスンもポール・ドレイクもそれぞれのオフィスで交換手を雇っていた気がする。
p43 端末装置♠️コンセントのこと?
p103 『可愛いアデライン』♠️ "(You're the Flower of My Heart,) Sweet Adeline" 詞Richard Husch Gerard、曲Harry Armstrongの1903年の曲。
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2 「八人の招待客」The Jack of Diamonds (初出The American Magazine 1936-11、挿絵Seymour Ball) 再録EQMM1949-2、いずれも名義はQ. Patrick。評価7点
上述のWebサイトにはp186(重要シーン!)のカラーイラストが(残念ながら半分だが)載ってるので是非。
これは『そして誰も』っぽい導入。でも手紙の文面にもっと工夫が欲しいなあ… その後の展開は素晴らしい。いずれの作品も女性が大胆に参加するのが良い。英国が舞台なら女性はもっと奥に引っ込んでた時代ではないか、と感じました。養女をもっと上手に魅力的に描けばかなり良い作品になったと思います。
p107 メトロポリタン歌劇場で≪マダム・バタフライ≫を…♠️1935年11月〜1936年2月で探すと、12/26(木)、1/8(水)、1/26(日)、2/1(土)、2/10(月)、2/21(金)、2/27(木)に『蝶々夫人』が上演されているが、ここに出てくる日は週末ではないので、12/26(木)、1/8(水)、2/10(月)、2/21(金)、2/27(木)が該当か。
p110 五ドル札♠️米国消費者物価指数基準1936/2020(18.70倍)$1=2014円。五ドル札(10071円)は1928年からサイズが小さくなった。(156 × 66 mm) 肖像は1914年からリンカーン。
p174 ダイヤのジャック♠️このカードが選ばれたのに理由はあるのかな?
p174 ≪闇の中の叫び≫♠️英国のゲームだというが…
p177 小型の自動拳銃(オートマチック)♠️p214の状況は実はちょっと難しいかもしれない。この拳銃は32口径のFN1910だと妄想。
p213 小説の中に出てくる博識な執事♠️ジーヴス?

No.4 6点 人並由真 2020/01/30 04:08
(ネタバレなし)
 中編二本というよりは長めの短編二編という感じの読み応えであったが、それはそれで楽しかった。
 旧訳の掲載誌はどっちも持ってるハズだが、よっぽどのことがなければわざわざ引っ張り出して読まなかったろうな。その意味でも、今回の新訳での発掘は良かったと思う。
 ただし『そして誰もいなくなった』との接点というのは、実質あまり関係ないような。自分はその謳い文句を信じて「実は~」系のトリックが、一方の方の作品に使われているのかと思ったが、結果はムニャムニャ。

 しかし叢書「奇想天外の本棚」は刊行が止まってしまったね。やっぱり、完全な新規発掘作品でなく、ちょっとしたミステリマニアなら持ってる人も少なくない絶版長編の改訳二本からなんてスタートの仕方が良くなかったのかな。
 このまま企画が自然消滅なんてことが無ければよいが(山口先生のエッセイ集みたいな、翻訳作品ではない番外的な本は近く出るみたいだけど)。

No.3 7点 蟷螂の斧 2020/01/21 14:16
「八人の中の一人」(1936年)6点
大晦日の夜、高層ビルの40階に閉じ込められた7人の株主と秘書。持ち株の多い人物が狙われる。この非常時に秘書に求婚する者が二人も現れる?!・・・。その真相は?。おしゃれなクローズド・サークルものの中編。
「八人の招待客」(1937年)8点
吹雪の館に集められたのは、共通の脅迫者を殺害しようとする7人、および脅迫者本人。しかし、脅迫者に密告する裏切り者が出現、更に脅迫者は養女を連れており身の安全を図っている様子。さて、計画は実行できるのか?。サスペンスの盛り上げ方や、脇役の扱い方が巧いですね。ないものねだりですが長編で読みたいところ。
裏表紙に「そして誰もいなくなった」に先行する云々とありますが、アイデア・モチーフのヒントといった程度だと思います。

No.2 7点 ボナンザ 2019/10/19 21:43
クローズドサークル好きなら楽しめる中編2つ。よく復刊してくれたと思う。

No.1 6点 nukkam 2019/09/20 22:04
(ネタバレなしです) 本国アメリカでも雑誌掲載したきりで単行本化されなかった中編「八人の招待客」(1936年)と中編「八人の中の一人」(1937年)を山口雅也が翻訳して1冊の単行本として2019年に国内出版しました。ちなみに国内紹介されたのはそれが初めてではなく、半世紀以上前の1950年代に前者は「ダイヤモンドのジャック」、後者は「大晦日の殺人」という日本語タイトルで雑誌掲載されています。どちらがどちらだか混乱しそうな新タイトルよりも英語原題の「The Jack of the Diamonds」と「Murder of New Year's Eve」に忠実な旧タイトルの方を個人的には支持したいですが。どちらもクローズド・サークル内での殺人を扱った本格派推理小説で、「八人の中の一人」はマンハッタンの高層ビルを舞台にして株主総会が終わった後に総会メンバーが殺される事件というのが珍しく、当時のミステリーとしては結構モダンです。閉じ込められた人々の中に犯人がいる(はず)という設定がサスペンスを盛り上げます。「八人の招待客」は脅迫された被害者たちが一堂に会するというのがアントニー・ギルバートの「黒い死」(1953年)を連想させますがプロットは全くの別物。脅迫者を始末しようと画策しますが予期せぬ展開を見せます。むき出しの殺意がサスペンスを盛り上げます。「グリンドルの悪夢」(1935年)に劣らぬサスペンスは一級ですけど解決が駆け足気味になったのが少々惜しいと思います。謎解きはじっくりと味わえさせてほしかったですが、これが中編の限界でしょうか?


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パトリック・クェンティン
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