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[ 本格 ]
死を招く航海
パトリック・クェンティン 出版月: 2000年08月 平均: 5.20点 書評数: 5件

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新樹社
2000年08月

No.5 6点 弾十六 2020/09/28 00:14
1933年出版。Q. Patrick名義。ウェッブ(男)とアズウェル(女)のコンビ。多分、小説はアズウェルがメイン。トリックはウェッブかな? ダフネのキャラが女性ならでは、と思う。まーメイン・トリックは男の発想だよね。女性なら、誰も気づかないなんて有り得ない、馬鹿馬鹿しい!と感じちゃうはず。
書簡もので、読者への大胆な挑戦入り、という企画。黄金時代のパズラーの王道作品ですね。上記のような難点はあるけど、語り口が良く、展開も工夫があって非常に楽しめました。Q. Patrick名義の第1作Cottage Sinister(1931)もぜひどこかでお願いします!
ブリッジが重要な小道具ですが、まーわからなくても謎解きには支障はないのでご心配なく。でも黄金時代ものが好きな人は、結構出てくるので、一度ちゃんとルールや常識を勉強しておくともっと楽しめると思う。
女性の書簡文なんだけど、だからって末尾に「わ、よ」付けが多すぎなのが気に入らない(かなり削れます)。でも翻訳は安定した感じ。原文はkindle化されてるけど日本では入手不可。ここら辺の権利関係がよくわからない。
銃はリボルバーと小型リボルバーが登場。最初のは多分38口径(空包が意味不明、もしかして暴発の用心で1発分空けてある、という意味?)、小さい方は32口径だろう。
以下トリビア。(2020-9-30追記: 原書を入手しました!)
p5 十一月十三日金曜日♦︎直近では1931年が該当。
p6 五十ドル♦︎米国消費者物価指数基準1931/2020(17.10倍)$1=1842円。50ドルは92096円。
p6 シャッフルボード♦︎shuffleboard: スティックを使うペタンク・カーリング系のゲーム。詳細は英Wikiで。船が舞台のJDC/CD『九人と死人』にも出ていた。
p6 掛け率1/20セントのブリッジの勝負(bridge battles at a twentieth of a cent)♦︎麻雀のレート風に言えば「点1/20セント」他愛無いお楽しみ程度の低いレートなのだろう。ブリッジはラバー(2ゲーム先取の3回戦)で勝つと最低500点のボーナスが加わるから(麻雀風に言えば)半荘当たり25セント(=460円)程度の賭け(もちろん他にも色んなボーナスあり。グランドスラムなら1ゲーム最低1000点など)。
p6 ラウベンタール事件のことで出かけていたときに、あなたのために書き綴っていた日記(the diary I kept for you when I was off on the Laubenthal case)♦︎ この小説のあちこちに出てくるこの事件(p16 あの「L」事件、p49、p51など)、詳しいことが語られないまま。後書きにも全く説明がない。Q. PatrickのCottage Sinister(1931)かMurder at the Woman’s City Club(1932)の中の事件なのか。それとも語られざる事件なのか。
Pp7 水先人(pilot)♦︎外洋に出るまでは、タグボートを介して直接のやりとりが出来る、という意味?
p7 ジョージタウン(Georgetown)♦︎George Townは、西インド諸島、英領ケイマン諸島の首府(Wiki)
p7 てんしさまがまもってくれますように(Mayangelskeepyou)♦︎小さな頃に…との説明。回らない口で唱えた祈りなのだろう。
p11 透かし模様の入ったストッキング… 青いベルベットの茶会服(open work stockings and the blue velvet tea-gown)♦︎非難がましく見る、とあるので結構大胆なヤツか、と思ったらtea-gownって英国1870年代流行のちょっと古臭いデザイン。Helen Menckenのインタヴューの成果(outcome)というのだが、関連がよくわからない。古典劇に多く主演してた女優(1901-1966)なので、インタヴューをしてその影響を受けて思わず購入した、ということ? この女優、正しい綴りはMenken(ボガートの最初の妻。当時は既に離婚)。Menckenの綴りで有名なのは「米語」の主導者、評論家のH. L. Mencken(1880-1959)。まさか彼を指してる?(でも古臭いというイメージではないからしっくりこない)
p11 十把ひとからげの女(Women in Bulk)♦︎大文字になってるのが気になるが… 何かのタイトルのもじりかも。
p12 「魅惑とは、心の状態である。地理のではない」(Glamour is a state of mind, not of geography)♦︎三文小説を誤って引用(misquoting from some trashy novel)とある。state of geographyって州(ステート)の洒落?ちょっと調べてみたがよくわからない。
p13 ジョン・ギルバート(John Gilbert)のような黒い口髭♦︎訳注 米国映画俳優(1895-1936)
p13 同伴者(companion)♦︎うっかり見逃してた。コンパニオン。使用人ではない「雇われ」友人。「話し相手」くらいかな?
p13 イギリス人で「g」をはしょって発音する(clips her g’s)♦︎ingをin’というような感じか。イングランド北部訛りの特徴らしい。
p15 キプリングが言ったように、われわれはリオを目指している!(as Kipling said... we go rolling down to Rio!)♦︎Kipling作の童話”Just So Stories”(1902)から12の詩にSir Edward Germanが曲をつけた”Just So Songs”(1903)の中の有名曲”Rolling down to Rio”のこと。某Tubeにも沢山アップされている(Leonard Warrenの歌声に痺れる)。
p21 ブリッジの手の表記法♦︎重要な札(基本10以上、場合によって9も)のみ。他は×で示している。「バー氏 スペードK××× ハート10×× ダイヤ××× クラブAK×」など。ディーラーとビッドの全てを記載。
p26 大枚三、四ドルも負けていた(losers to the tune of three or four dollars)♦︎後でわかるがこの時のレートは1/5セント(p55)。半荘1ドル(=1842円)レベル。ということは1500点〜2000点の負け。
p30 1点につき1/10セント♦︎上よりちょっと手加減したレート。
p47 くそったれのポルトガル人(damned Dagoes)♦︎dagoリーダース英和によると「イタリア[スペイン,ポルトガル,南米](系)人」とのこと。幅広い。「ラテン野郎」ということか。
p47 去年のミルレースの暴落♦︎milreis(訳注 ポルトガル、ブラジルの古い通貨単位) ポルトガルは1911年にエスクードに変わってるので、ブラジルの話だろう。ブラジル=米国の為替レートは1929年12月までは1ミルレース=11.9セントで安定してたが、世界恐慌の影響でジリジリ値下がりし1930年12月には9.6セント(約20%の下落)、さらに下落し1931年10月には5.6セントになっている(その後は若干持ち直した)。
p57 園遊会で角砂糖を盗む(stealing lumps of sugar at a garden party)♦︎何かのネタだと思うが知りません…
p75 アルゼンチン♦︎当時、若干低迷してたがWWI以前までは非常に経済成長してた国。ヘイスティングズのように一旗あげるために移民するイメージ。
p82 ウェールズ人の祖先たち(Welsh ancestors)♦︎主人公ルエリン(Llewellyn)は綴りを見ればウェールズ系であるのは明白。
p89 週給45ドル♦︎82886円。月給換算で36万円。新聞記者の給料としては安い?(主人公のほうはもっと高給だという) 1924年の米国新聞記者の話で週給50ドルは雀の涙、と言ってたのがあった(ビガースの短篇)。
p112 コナン・ドイルかミス・ラインハート♦︎この二人が探偵小説家の代表か。黄金時代の特徴である探偵小説への言及。
p128 最初の一発には弾を込めていない(The first chamber is loaded with blank)♦︎この書き方だと空包を仕込んでいる感じ。空けてあるならunloadとかnot loadedとかemptyとか。引き金を引くときは、こーゆー中途半端ではなく、殺す覚悟でお願いしたいところ。o
p128 五十セント貨大(large as fifty-cent pieces)♦︎当時の半ドル銀貨はWalking Liberty half dollar(1916-1947)、直径30.63mm、重さ12.5g。貨幣面の表示は「FIFTY CENTS」ではなく「HALF-DOLLAR」この大きさは訳注を入れて欲しいところ。
p130 上段寝台(The Upper Berth)♦︎訳注 F・マリオン・クロフォード作の恐怖小説。初出はUnwin’s Christmas Annual 1886(1885)、この号掲載の次の作品はスティーヴンソン「マークハイム」。
p144 やや頭が弱そうな感じで笑いだした(he started to laugh, rather foolishly)♦︎試訳「馬鹿みたいに笑い出した」思い出して、つい声を上げて笑っちゃった、という感じか。
p183 グレッグ式速記(Gregg)♦︎John Robert Greggが1888年に開発した速記法。米国では主流。
p204 ラモン・ノヴァロ(Ramon Novarro)♦︎訳注 1899-1968メキシコ生まれの米国俳優。
p207 少年が「十字のしるし」を見たときに(the dear little boy said when he saw the “Sign of the Cross”)♦︎キリスト教関係のありがたい話? lionとクリスチャンが出てくるようだ。
(以下2020-10-03追記)
Mary Louise Aswell(旧姓White)の経歴が詳しく書かれていた。
Bruyn Mawr(有名女子大)卒業で、Atlantic Monthy誌の編集部に入りハーヴァード大卒の同誌assistant editor、Edward C. Aswellと結婚(1933以降?)、夫はThomas Wolfeと近く、妻の方は後年Harper’s Bazaar小説部門の編集者になった。カポーティは彼女をMarylouと呼んでいた。二児をもうけるも1940年代に離婚、その後ゲイのFritz Peters(カポーティが誘惑されたと言う)と再婚するが、夫婦喧嘩で彼に殺されそうになりすぐに離婚。Mary Louiseはその後レズ芸術家Agnes Simsと死ぬまで一緒に暮らしたという。(出典はWebサイトGadetection、情報提供者はCurt。多分The Passing Trampの主Curtis J. Evans)LGBT関係は詳しくないので用語が間違ってたらごめん。こーゆー個人情報だだ漏れってどうか?とも思うが、興味深い。New York TimesにMary Louis Aswellの死亡記事(1984-12-25)があったが、Q. Patrickについては一言も言及なし。Harper’s BazaarとReader’s Digest Cpmdemsed Booksの編集者、単独名義の歴史小説Abigailとサスペンス小説Far to Goの作者という紹介。
トリビア2件追加。
p7 あなたの大好きなジェーン・オースティン(your beloved Jane Austen)♦︎Q. Patrick名義の1940年ごろのエッセイ’The Naughty Child’ of Fictionで(多分Webbは)好きなミステリは?と聞かれたら『高慢と偏見』と答える、と書いている(Webサイト”The Passing Tramp”より)。なのでアズウェルがウェッブ宛に書いた楽屋落ちなのだろう。
p234 お友達のパトリック・クェンティンの書いた探偵小説♦︎この本は元々Q. Patrick名義なので、この本に出てくる全てのパトリック・クェンティン(序文や注釈など)は、本当は「Q・パトリック」なのだが、私の参照した原文(Open Road, Mysterious Press)では、この探偵小説の題が翻訳文にあるMurder at Cambridge(1933)ではなく、Death for Dear Clara(1937)で、後段のその本の舞台は「古いイギリスの大学」と書いているところも“New York literary agency”と変えている。販促のために書籍名と内容を差し替えたものか。翻訳は初版によるものなのだろう。

No.4 5点 蟷螂の斧 2018/06/02 07:12
フーダニットのミスリードは巧いと思いますが、ハウダニットの描写がおろそかでしたね。また読者への挑戦の二つのヒントはヒントにならない!?(苦笑)。これがわかる人はいるのかなあ?。またコントラクトブリッジというカードゲームを知っていても、そこから犯人は特定できないし・・・。まあ、意外性だけはありましたね。4点に近いのですが甘い採点としました。著者のコンビは、やはりホイーラーとの共作の方が好きです。

No.3 6点 nukkam 2016/09/29 23:33
(ネタバレなしです) 1930年代から1960年代前半まで活躍した米国のパトリック・クェンティンは作家プロフィールが大変複雑です。1931年から1935年まではリチャード・ウェッブ(1901-1970)による単独執筆か、ウェッブとメアリー・アズウェル(1902-1984)による共同執筆か、ウェッブとマーサ・ケリー(生没年不詳)による共同執筆でパズル色濃厚な本格派を発表しています。ここまでが初期と位置づけられています。1936年から1952年までがウェッブとヒュー・ホイーラー(1912-1987)による充実の合作時代である中期で、本格派の謎解きにサスペンス色を加味した作品が多くなります。それ以降が後期ですがウェッブが健康上の問題でコンビを脱退してホイーラー単独の作品になり、本格派の謎解き要素は大きく後退してこの時期のクェンティンはサスペンス小説作家として評価されています。本書は1933年発表のウェッブとアズウェルによる本格派推理小説で、全ての手掛かりを読者に提示して犯人当てに挑戦しています。新樹社版の29ページの前に「ここには重要な手掛かりが隠されています」というメッセージを挿入して読者をあおっています。この手掛かりはあまりにもさりげなく記述されていて用心深い読者でもなかなか気がつかないでしょう。個性のない登場人物たち、メリハリの少ない展開でダレ気味なのが惜しいです。

No.2 5点 mini 2012/06/21 09:57
* 今年の私的マイ・ブームの1つ、船上ミステリーを漁る

* 1912年生まれ、つまり今年が生誕100周年に当たる作家は意外と多い、今年の私的テーマ”生誕100周年作家を漁る”の第5弾、クェンティンの3冊目
合作コンビの内の1人、ヒュー・ホイーラーも生誕100周年である(コンビのもう1人リチャード・ウェッブの方は少々年上)

初期作「死を招く航海」については、書評の前提として合作の変遷について言及しておくのが必須だと思う
クェンティンは合作の変遷がややこしい事で有名だが、大きく分けると次の3期に分類出来る
第1期は、ウェッブ単独執筆及びマーサ・ケリーやメアリー・アズウェルとの合作時代、これが1935年位まで続く
合作相手が2人とも女性だった事は押えておく必要が有る
第2期はリチャード・ウェッブとヒュー・ホイーラーとの合作期でこれが1940年代まで続く、この時期はジョナサン・スタッグ名義も含めて作品数が多く、一般的にクェンティンと言えばこの時期を連想する人が多いだろう
ただこの時期の作は案外と未訳や既訳でも絶版だったりする作品が多い
第3期はウェッブが健康問題でコンビを離れたホイーラーの単独執筆期で、1950年代以降は晩年まで全てこのパターンである
昔は絶版の多い第2期よりもこの時期の作の方が比較的入手容易だったので、古くからのファンだと第3期の方が馴染み深いという人も居るかも

「死を招く航海」は第1期に属すが、第1期の作は割と最近になってハードカバー版で刊行されたものが中心で、若い読者だとむしろこの時期の作でこの作家を知ったか、逆に昔からのファンが久し振りのクェンティン刊行に飛びついて読んだかのどちらかだろう
ただ昔からも現在も、ファンの復刊や翻訳要望が圧倒的に多いのが第2期で、創元が順次刊行中だし今後は第2期が新訳刊行の中心となるであろう
「死を招く航海」は他のクェンティン作品とは作風がかなり異なっており、合作の変遷を知らなければとでも同じ作家が書いたとは思えない
推測だが謎解きのアイデアはウェッブだろうが、女主人公の活き活きとした語り口調から見ても、実際の執筆は合作者アズウェルだったんじゃないだろうか
お洒落に無難に纏まった軽い謎解きって感じで、軽いっちゃ軽いがコージー派っぽいわけでも無く純粋に普通の本格である
むしろ第2期の「悪女パズル」なんかの方がコージー派っぽい感じがする位だ
後期作とは魅力の方向性が違うが、これはこれで軽い本格として楽しめた

No.1 4点 江守森江 2010/03/17 01:30
エラリー・クイーンのライヴァルたちと銘打たれた翻訳シリーズの一作。
パトリック・クェンティンは、同一名義でも実作者の組合せが違う特殊な作者と言える(詳細は略)
船旅での恋人への手紙として綴った日誌を纏めた形式を取り、シリーズ・タイトルに相応しく「恋人(読者)への挑戦」が付された本格フーダニット作品。
しかも舞台が船上で必然的にC・C設定にもなっている。
ここまでは嗜好のど真ん中なのだが・・・・・。
日誌形式で読み辛い上に、解決編で「たった一言」から導く犯人指摘だが「その一言」が微妙なニュアンスな為に、「その一言」を些細な事と軽視すれば、もっと意外な犯人を設定出来てしまい充分な納得を齎さない(微妙なニュアンスは翻訳だからで原書を読まねば駄目なのか?と悩ましい)
手に取るまでの期待感程の作品ではなかった。


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