皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ 本格/新本格 ] 三角館の恐怖 |
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江戸川乱歩 | 出版月: 1953年01月 | 平均: 5.90点 | 書評数: 10件 |
![]() 春陽堂書店 1953年01月 |
![]() 春陽堂書店 1956年01月 |
![]() 角川書店 1987年08月 |
![]() 春陽堂書店 1988年04月 |
![]() 東京創元社 1997年04月 |
![]() 光文社 2004年02月 |
![]() 沖積舎 2009年06月 |
No.10 | 6点 | 弾十六 | 2025/03/24 02:27 |
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原作はロジャー・スカーレット『エンジェル家の殺人』(1932)、乱歩さんは光文社から連載探偵小説をせっつかれて、原著者と出版社の了解を得られたら、という条件をつけて自由訳を提案したところ、意外にも光文社がちゃんと条件をクリアしたので、連載することになった、と書いている。
初出: 光文社「面白倶楽部」昭和二十六年一月号から十二月号まで連載(挿絵:富永謙太郎)。私は創元推理文庫の電子版で読みました。初出時の挿絵や読者への挑戦(賞金付き、一等五千円)もちゃんと再録されています。結果も載っていました。 当時の五千円は日本物価指数(戦前東京区部)昭和25年/令和6年(8.46倍)なので42300円。 乱歩さんは原作を最初に読んだ時、探偵小説史上でも素晴らしい傑作だと思ったが、後で良く読んで見るとそこまでの作品ではない、と思い直したようだ。 私は原作を先に読んで、文章が辿々しいところがあるなあ、キャラも書き込み不足だなあ、と思ったが、乱歩さんの翻案がある、と知って、乱歩さんならああいうところを上手く扱っているかも、と思って読んでみた訳です。 でも翻案ではなくて、登場人物を日本に移しただけのかなり忠実な翻訳というレベルだったので、ちょっとガッカリ。まあでもチカラの抜き差しとかメリハリはさすがで、非常に読みやすい。乱歩作品、というほどガッツリ魂はこもってないのが残念です。 以下、トリビア。 p(5%) 双生児です。昔の習慣でわしの方が後に生れたので兄◆ 昔はそういう考えもあったようだ。現在は、先に生まれた方が「兄、姉」と定められている。(2025-03-24追記: 翻訳文からの印象だが、原作では、どちらが長子であるか、明示していないように思われる。兄、弟とあるが、いずれもbrotherの訳語であろう) p(7%) 明治の末… 百五十万◆ 日本物価指数(戦前東京区部)明治43年/令和6年(3425倍)で51億円。 p(10%) 妻のろ◆ こういう言い方があったのか p(16%) 千円札… 百円札◆ 一万円札の初登場は昭和33年(1958)なので、この小説には登場しない。当時の千円札は聖徳太子の肖像、サイズ164x76mm、百円札も聖徳太子の肖像、サイズ162x93mm。 p(21%) 煙硝◆ 現代なら「硝煙」だろう p(24%) 自動拳銃◆ 原作では「45口径の廻転拳銃(revolver)」挿絵はオートマチック拳銃が描かれているが、もしかして乱歩さんはオートマチックではなくリボルバーのつもりで使っているのかも。オートマチックなら薬莢を探すはずだが、全然言及が無い。 p(33%) 自動エレベーター◆ 探偵が不慣れという描写がある。 p(36%) 落語◆ 「松鶴」に「しょうかく」というルビが振ってある。文楽、志ん生、松鶴という並びが良い。 p(36%) 億を超える財産◆ 原作でも本作でも財産の額はぼかされている。 p(51%) 交換機の故障◆ 当時の日本では電話交換機の故障がよくあったのか。原作では単に繋がらない、という場面。 p(91%) 万年筆型の豆懐中電灯◆ 当時でもそういうのがあったようだ。原作では「小さな懐中電灯」 |
No.9 | 6点 | クリスティ再読 | 2024/03/09 21:02 |
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「エンジェル家の殺人」のやりついで。
「エンジェル家」の方でも言ったが、乱歩の最大の創造は「三角館」とこの家を名付けたこと。名前を付けることで、焦点がしっかり絞られて、作品としてのまとまりが出てきている。 キャラも「ルパシカを着たニヒリスト的な音楽評論家」と「カサノヴァ的色悪の画家崩れ」と兄弟にしっかりキャラを色付け。全盛期のねちっこさには及ばずも、しっかりアオった文章。そして妻の浮気をわざと聞かせて心理的拷問を試みる場面でも、わざわざゴシックで叙述するのには、「アザトイな(笑)」と読んでいて気分がアガる。大衆小説のツボを知悉した乱歩の技が豪快に炸裂。ちゃんと原作にはない「読者への挑戦」も補って、超豪華な推理クイズに仕立て直した剛腕が何と言っても読みどころ。 ちなみに光文社の全集なんかだと、光文社「面白倶楽部」連載の前に原作者に自由訳の許可を得た旨が書かれているし、乱歩自身「エンジェル家の殺人」の翻案であることを堂々と公にしている。ならば作家倫理的な非難は難しい。戦後の乱歩のプロデューサー的な性格がはっきりと出た作品でもあろう。 でなんだが乱歩と言えば、土蔵で執筆するとか建物に関する伝説がいろいろある人。「幽霊塔」とか「パノラマ島」とか、怪建築に対する興味関心は強くあったことだろう。戦前の乱歩全盛期といえば、深川に怪建築の代名詞でもある二笑亭が存在した時期(1931-38)でもある。怪建築「三角館」という切り口でもきっと面白い。 (ちなみに新潟には北方文化博物館「三楽亭」という正三角形のお茶室があるそうだ。敷地が三角なのが原因で、三角っぽい建築というものは実体験でも意外にある印象) |
No.8 | 5点 | レッドキング | 2018/11/15 19:14 |
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子供の頃、クラスの「学級文庫」に乱歩シリーズを寄贈した奴がいて、おどろおどろしい表紙絵に魅せられ方端から読んだ。この「三角館」が何とかいう海外小説のリメイクとは知っていた。人によっては「金」よりも大事な動機があるということを知った。ただあのエレベーターのナイフトリックには物理的に納得できなかった。あれってそんな勢いよく飛ぶものか? |
No.7 | 7点 | HORNET | 2015/09/20 22:24 |
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お酒を飲みながらこのサイトをフラフラするのが至福の時なのだが、そんな中で書評が目に留まり、急に読みたくなって読んだ。
子供のころ「少年探偵団シリーズ」のものを読んだ記憶があり(ということはそちらは明智小五郎だったか?)、エレベーター内の殺人だけ妙に記憶があった。 創元推理文庫で読んだのだが、内容もさることながら、連載当時のそのままの体裁で、挿絵などが施されていることがすごくよかった。 2015年の現代では昔以上に現実との隔たりが大きく、逆にそれがよくて妙に懐かしさを感じて読んだ。 海外作品の翻案ということだが、その本家を知らないので単純に面白かった。トリックは今となってはチープだが、もともとそれよりも愛憎劇、動機の方が作品の魅力ということで納得。 読んでよかった。 |
No.6 | 8点 | 斎藤警部 | 2015/08/14 12:16 |
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「フー」と「ホヮイ」がここまで興味深く、しかも論理的、と言うよりむしろ数学的に直結している本格ミステリも珍しいのではなかろうか。 目次にある通り正しく『異様な動機』です。 遺産相続の絡むお話ながら、世評が「動機が凄い」「動機が独特」とあまり言い立てるので、読中「これはもしや。。」とある事に気付き、世評そのものから逆算(文字通り「逆算」、なんて書くとネタばれくさいか)して、評者にはたいへん稀な事ながらきっちりとロジックだけで(逆に勘というものが働けない)犯人と動機を言い当てました。(当時の人だったら、懸賞応募したかったなァ。。) 普段さっぱりロジック萌えしない評者ですが、この小説の中でロジックくんが果たしている役割のスリリングな決定力には最後までハラハラさせられました。脱帽です。
乱歩さんの原作でないって事実は、とりあえず気にしないって事で(?)。 それ以上に気にならないのが、エレベーター内の密室(&アリバイ)トリックね、アレはもう本当にどうでもいいw いや、もちろんあのシーンがあるからこその暗くおぞましい雰囲気、サスペンス、小説の成り立ちなんですけどね。(ってか実はホヮイダニットくさく見せないためのミスディクションなのかあの密室殺人は?) |
No.5 | 5点 | ボナンザ | 2014/04/07 22:11 |
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翻訳ってレベルではない。でもこっちのほうが明らかにおもしろい。 |
No.4 | 5点 | E-BANKER | 2013/05/10 23:31 |
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ロジャー・スカーレットの「エンジェル家の殺人」を乱歩が翻案したことで有名な作品。
明智小五郎を彷彿させる名探偵・篠警部とワトスン役・森川弁護士のコンビが事件に挑む。 ~一月下旬の寒い午後、森川弁護士が雪道を急ぐ。目指すは三角館と呼ばれる河畔の西洋館。右に兄の健作、左に弟の康造、正方形の敷地を建物ごと対角線で二分し双生児の兄弟が住まう。長生きした方に全財産を譲るという先代の遺言に端を発し、日がな相手を蹴落とさんと骨肉相食む四十年余。命旦夕に迫る健作は、弁護士立会いの下どちらが先立っても遺族が平等に相続する契約を結ぼうと図るが、康造は即答を避ける。その夜、康造が射殺されるという望外の事態が起こる!~ さすがに面白い。 本作は「犯人当て」として、一般読者から真犯人の名前を動機付きで送ってもらうという趣向のもとで出版されており、読者への挑戦や幕間での作者からのヒント提供など、本格ミステリーとしての面白さを追求した作品と言えるだろう。 何より「舞台設定」が光る。 建物の真ん中にあるエレベーターで二分された奇妙な「館」、いがみ合いながらも愛憎渦巻く二つの家族、謎の帽子男・・・もう本格好きには応えられないガジェットが満載(!) エレベーターを使ったトリックや意外性のあるフーダニットもきれいに嵌っていて、水準以上の出来ではないか。 ただなぁ・・・ 本作の致命的な欠陥は、これが完全なコピー作品ということに尽きる。 「エンジェル家の殺人」も既読だが(書評NO.599)、ミステリーとしてのプロット、トリックその他についてはほぼそのまま借用と言っていい。創元文庫版巻末解説で、小森健太郎氏が「原作を分かりやすく、面白くしている・・・」とフォローしていて、それはまあそのとおりだけど、ここまでいくと「翻案」というレベルではなく、「翻訳」といっても差し支えないように感じてしまう。 まぁ、旧作品を下敷きした作品というのはよくあることだし、今更、翻案の善し悪しを語っても仕方がないと思うが、さすがに高評価するのちょっと憚かれる気がするので・・・この程度の評点に落ち着く。 (面白いのは確かですよ、とフォローしておく) |
No.3 | 7点 | 空 | 2009/04/14 21:30 |
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作者のロジャー・スカーレットは本作で(というか本作扉の原作タイトル及び作者名表記で)初めて知り、気になる作家になりました。とは言っても、創元からも出ている原作『エンジェル家の殺人』の厳密な翻訳は実は読んでいないのですが。エレベーターの密室殺人トリックや遺産相続をめぐる意外な動機など、パズラーとしてよくできています。
乱歩は原作のプロットをもちろん高く評価していたのですが、文章があまりよくないと感じたのではないかと言われているようです。この翻案(映画化なども一種の翻案です。本作のような翻案や映画化だけでなく忠実な翻訳も、原作著作権者の許諾が必要で、無断で行えば著作権法違反です)は乱歩自身の文章で書き直したということなのでしょう。謎の訪問者の不気味さなどの雰囲気作りが、さすがにうまいと思います。 |
No.2 | 2点 | nukkam | 2009/04/14 12:01 |
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(ネタバレなしです) 1951年発表の長編本格派推理小説で読み物としてはそれなりに面白いとは思います。しかし問題なのは本書は某海外ミステリーのコピー作品であることです。トリックの借用程度ならまだしもプロットまで丸ごとパクリです。国内ミステリーが海外ミステリーの翻訳や模倣から始まったのは確かですが、黎明期ならいざしらず戦後になってもまだこんなことをしているのは許されないでしょう。ミステリーファンの開拓における乱歩の功績は大いに認めますが、こういう作家良心に反する行為はとても残念です。これを盗作と批判せず翻案と擁護する出版界にも失望です。 |
No.1 | 8点 | 白い風 | 2008/09/20 00:05 |
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”フーダニット”より、”ホワイダニット”がポイントの秀作だと思う。
典型的な遺産争いの事件だが、なかなか犯人を特定出来ませんでした。 世間的にはあまり有名な作品じゃないけど、印象深い作品の一つです。 |