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日本探偵小説全集(2)江戸川乱歩集
二銭銅貨・心理試験・屋根裏の散歩者・人間椅子・鏡地獄・パノラマ島奇談・陰獣・芋虫・押絵と旅する男・目羅博士・化人幻戯・堀越捜査一課長殿
江戸川乱歩 出版月: 1984年10月 平均: 10.00点 書評数: 1件

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東京創元社
1984年10月

No.1 10点 クリスティ再読 2019/01/01 17:10
新年ということで、初心に帰って乱歩を取り上げよう。評者の世代だったら当たり前なのだが、小学生時代にポプラ社子供向けを読んでファンになり...なんだが、評者マセてたから、小学生高学年で平気で大人向けを読み出して、中学時分にゃ「盲獣」「闇に蠢く」あたりまでコンプしちゃってたよ。自分で言うのも何だが嫌な中坊だな。
でその後何回も思い出したように再読はしている。今回読んでみて、大正期~昭和初期の名作たちって、実に読みやすい!というのが改めての感想。戦前の小説とは思えないくらいの滑らかで普遍性のある語り口だと思う。だから70年台の中学生でもこれほどハマれたというものだ。全盛期の乱歩はやはり稀代のストーリーテラー(語り手)だったように思うよ。評者もともと「押絵」「人間椅子」「鏡地獄」「芋虫」「目羅博士」が五大名作だと思ってた(ごめん評者明智クン要らないんだ)が、今回の再読では「鏡地獄」がやや出来上がり過ぎに感じる。「鏡地獄」を落として、「パノラマ島」の千代子との道行きの佳さ(「青ひげ公の城」だよ...)に入れ替えたい。ここらの短編定番大名作たちは名状しがたい哀しみがあるのが本当に、いい。意外に上に挙げた6作が1冊に効率よくまとまってる短編集が少ないんだな。
でこの創元「日本探偵小説全集」のセレクションだと一番異論があるだろうのはもちろん「化人幻戯」だ。たとえば「孤島の鬼」か「怪人二十面相」+「赤い部屋」くらいに差し替えても悪くはなかったんだろうが...今回「陰獣」と「化人幻戯」を連続して読むことになったわけで、そのための面白さみたいものを感じたので、このセレクションもアリか、と思うようにもなった。比較すると非常に面白いし、ある意味「化人幻戯」が「陰獣」のリライトである面がよく見えるんだよね。
まあ「化人幻戯」は、戦後の気の抜けた乱歩の文章なのでどうにも飽きてくるのがあるのと、大河原侯爵も庄司クンも探偵小説ファンで、乱歩の名前も出てくるファンアート風の部分が妙に気恥ずかしい部分もあって、評者昔からかなり苦手作品だった。まあそういう部分は今更仕方がない。「陰獣」も実は、乱歩の本格ミステリ作家の「理知」を抽出した部分を主人公の作家として、幻想作家としての部分を仮想犯人である大江春泥に託してあるという、内輪ネタな要素があるわけだ。「陰獣」の作中で真相は「一人三役」だ、となるんだが、これは実は乱歩のわざと仕組んだ韜晦で、「主人公=春泥」の「一人四役」なのだ、という真意に今回気づいたのだ。「陰獣」のラストでは、主人公こそが鞭打たれて悦楽の叫びを上げるべきなのだろうね。だがそれを「良心が許さない」と決着をつけたわけである。
トランスジェンダー、というわけではなくても、同性愛の場合に「自身が男なのか女なのか?」と惑い、あるいは積極的に「異性の気分になって」愉しむこともある。そういう「性別の揺れ」を「陰獣」や「化人幻戯」に積極的に読み込むべきなんだ。
「化人幻戯」は更に構図を複雑化して、ウケの男(庄司)と理知の人(明智)の分裂がさらに加わる。このような乱歩の内面の劇として「化人幻戯」を読むと、実に面白いのだ。本当にあからさまに、内面を暴露しているんだよね。ここに還暦を迎えた乱歩の諦念みたいなものを評者は感じて、ラストシーンにしんみりとしたものだ。

人間大多数の性格や習慣が正しくて、それとちがったごく少数のものの性格は病気だと決めてしまうことが、わたしにはまだよくわからないのです。正しいって、いったい、どういうことなのでしょうか。多数決なのでしょうか。

これを「カミングアウト」と正当に捉えよう。そうすれば乱歩を今読む意味もあるというものだ。良心が許さない「陰獣」からここまでたどり着いたのである。


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