皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ クライム/倒叙 ] ある朝 海に |
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西村京太郎 | 出版月: 1980年09月 | 平均: 6.33点 | 書評数: 3件 |
講談社 1980年09月 |
講談社 1980年09月 |
講談社 1987年12月 |
光文社 1998年02月 |
No.3 | 6点 | 斎藤警部 | 2022/09/17 12:14 |
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表題が、加山雄三の哀感ほとばしる名曲「ある日渚に」を思わせる、京太郎さん海洋期の意欲作(意欲は買いたい)。
英国から米国へ、大西洋を渡る豪華客船がシージャックされた。若く多国籍な犯人グループの要求は、南ア黒人の解放に向け、国連が実効ある手を(今度こそ本気で)打つこと。 いっけん地味な犯罪小説 with本格もどき&社会派もどき要素、のようであるものの、最後には『困難千万な或る事』を実行するための、グイッとえぐって来る大トリックが明かされる。これに魅惑されるかどうかが評価の別れ目でしょうか。 ただ、その折角の大トリックさえ可惜あっさり提示されるもんだから、ちょっとなかなか。 “南アの黒人達が一般的に無気力” という冒頭の描写が何気なミスディレクションになってもいましょう。でもそこすら地味にポッと弾けてミステリ的には終わりなような。もったいないな。 なーんだか、京太郎さんの優しさが優しさだけで完結しちゃったのかな、ミステリの要素として働いてなさ過ぎのような感じを受けました。 最後、強烈にしみじみさせて終わってくれたらまた違ったろうが、踏み込みの浅い社会派アクセサリーを付けて終わり、なんて言ったら厳し過ぎ寂し過ぎでしょうか。 海洋京太郎でも「赤い帆船」や「消えたタンカー」のようにめくるめく謎とプロットとトリックとサスペンスの圧に翻弄される黄金長篇に比べたら随分と薄味なもん、けどやっぱ、面白いんですよね、四捨五入で6点に届くと思う。5.7くらい。 冒険小説的にとても魅力的な人物が軸として登場するのは、好感度高い。 頻出する “コムミュニスト” の表記には面喰らいました。 |
No.2 | 6点 | E-BANKER | 2022/03/22 18:07 |
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去る2022年3月6日、作家・西村京太郎氏が永眠された。御年91歳。まぁ大往生でしょう。
本サイトにおいても、特に氏の初期作品に関しては高評価してきた私だけに、やはりここははなむけとして、未読だった初期作品の書評を上げておきたく、本作をセレクトした次第(別に上から目線ではありませんが・・・) 1971年の発表。 ~南アフリカ共和国の首都ヨハネスブルグで白人警官に追われていたカメラマン田沢利夫は、見知らぬ白人青年に急場を救われた。この青年は田沢に重大な計画を打ち明け、参加を求めてきた。その計画とは、国連安保理事会にある要求をつきつけるため豪華客船を乗っ取るというものだった。そして、計画は実行に移されたのであったが、事態は予期せぬ方向へ進展する~ 舞台は南アフリカ、テーマは南アでかつて問題となっていたアパルトヘイト、ということでやはり時代を感じてしまうんだけど、昨今のロシア⇒ウクライナ侵略の問題でちょうど国連や安保理の様子が日々映像として流されているだけに、タイミングというか、めぐり合わせのようなものを感じてしまう。 本作でも、主要登場人物の一人である国連職員のハンセンが、国連の限界や無力さを嘆く場面があるのだが、50年以上たった今でも、国連や安保理の機能不全やまやかしを感じずにはいられない。 田沢たち犯人グループは幾多の苦難を経て客船をジャックし、国連に対して要求を突きつけるわけだが、その要求に対する回答は全くといっていいほどの「ゼロ回答」なのである。 そういう意味では、本作のプロットは破綻しているのかもしれない。(「ゼロ回答」でない場合は逆にリアリティに欠けるのだから・・・) ミステリー作品らしく、船内では殺人事件も発生するし、終盤にはちょっとした「仕掛け」も明らかになる。明らかにはなるんだけど、それは「付録」というレベルのものだ。 氏の初期作品には「消えたタンカー」や「赤い帆船」、「発信者は死者」など海を舞台にしたスケールの大きな作品群が目立つ。それは、ミステリ作家として大成を夢見ていた作者の矜持かもしれないし、単純に「海が好き」という好みの表れかもしれない。でも、この瑞々しさはどうだ。登場人物たちもメインは「若者たち」だし、日本や世界の矛盾を題材にしたいという心意気が感じられる。 普通の人にとっては、西村京太郎=トラベルミステリーの人、というイメージだし、確かにその道の第一人者なのは誰もが認めるところ。 でも、やはり氏の本当の実力を知るためには、トラベルミステリー以前の初期作品を手に取らなければならない。作品ごとに斬新なプロットや目新しい切り口の作品を次々と発表していた頃。時折登場していた十津川警部も若く溌溂としていた。時は流れ、人は老い、そして死んでいく。それはどうしようもないことだけど、こうやって残された作品を手に取る機会があること自体、平和の象徴なのかもしれない、と感じる昨今。 |
No.1 | 7点 | 人並由真 | 2019/09/18 19:21 |
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(ネタバレなし)
1970年前後の南アフリカ共和国。そこは人口の約2割の白人にのみ社会的な特権と優先権が保証され、残り8割の黒人を主とした有色人種が虐げられる暗黒世界だった。「名誉白人」の日本人として同国を訪れた28歳のカメラマン、田沢利夫は警官から理不尽な暴行を受ける黒人少年を庇った結果、窮地に陥りかけるが、英国系の元弁護士の白人青年ロイ・ハギンズに救われた。ハギンズは黒人の政治運動家エンダパニンギ・シトレのもと、この国の惨状を嘆く各国出身の若者たちとともにさる計画を練っており、そこに田沢を誘う。その計画とは、南ア共和国の現状解決にいつまでも本腰を入れない国連に嘆きの声を響かせるための、アメリカの大型客船の無血シージャック作戦だった。 元版は1971年3月20日にカッパ・ノベルスから書下ろし刊行された作品。内容的にはいろいろな意味を込めて完全にミステリの範疇の一冊だが、推理小説と言い切って売るのには当時は逡巡があったのか「長編小説 書下ろし」の肩書で発売された。 60年代~70年代半ばの躍動期~安定期に気合の入った作品を多数書いていた西村京太郎だが、本書は正にそんな感じの一冊。読後にTwitterでヒトの感想を覗くと「生まれてから読んだ小説の中でいちばん面白かった」とか「西村作品のベストワン」とか絶賛の声も乱れとんでいる(!)。 個人的には流石にソコまで褒める気はないが(笑)、昔からいつか読もうと思い続けてウン十年、そんな何となく温めていた期待は裏切らなかった一作。スピーディな展開の中にサスペンスクライムストーリーとしての、またポリティカルフィクションの妙味をからめた社会派メッセージ作品としての、多様なエンターテインメント要素が盛り込まれていて実に面白い。 さらに終盤、客船内を事件の場にした、フーダニットのパズラーの趣向まで飛び出すのには度肝を抜かれた。ジージャック計画全体に仕掛けられた(中略)にもうならされる。 これまであまり考えたことはないが、たぶん評者の場合、西村作品は30~50冊前後は読んでると思うが、これがその中のトップということはないにせよ、5本の指に入れてもいいような感触はある。 主人公チームのメンバーがややコマ(駒)的だとかの不満はあるし、なにより21世紀のいま、若手の作家が同じようなネタで新規に書いていたらこのプロットの枝葉のあちこちを大きく膨らませて、倍ぐらいの分量にするだろうなあ、そういうボリュームで書かれても良かったのに、コンデンスにスマートにまとまってしまうのが勿体ないなあ、という思いもある。特に後者のそんな残念感は正直な気分で、評点は8点にしようか迷ったところ、7点にとどめた。 ただまあ、こんなほどほどの長さで、秀作・優秀作を続発していた当時の作者はやっぱ只者ではなかったのだなと思うし、この一冊が当時の相応にハイレベルな西村作品群の中のワンノブゼムでしかないのも、逆説的にスゴイところでもある。 この時期の西村作品は、タイミングを見ながら時たま読むのがとても楽しみだ。 |