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[ 社会派 ]
四つの終止符
西村京太郎 出版月: 1964年01月 平均: 6.67点 書評数: 3件

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文藝春秋新社
1964年01月

講談社
1981年10月

講談社
1987年02月

No.3 7点 人並由真 2025/06/12 05:52
(ネタバレなし)
 昭和中期の江東区。量産玩具製造会社「北見玩具工場」に勤務する、耳が不自由な19歳の青年・佐々木晋一。彼は2年前から寝たきりの40歳代の母・辰子とともに、貧乏長屋「ハーモニカ長屋」に暮らしていた。工場の側にあるバー「菊」の二人の住み込み女給のうちの片方で20歳の石母田幸子は、さる事情から店の客である晋一に親身だ。バーの女将の坂井キクやもう一人の女給で三十女の松浦時枝は、幸子が晋一に気があるのかと勘繰るが幸子はそれを否定した。やがて彼らの周囲で一人の人物が急死し、警察はその死が他殺らしいとの見方を固めた。

 600冊以上(wikiの現行の記述によると単行本カウントで647冊)の作品を上梓した、国産ミステリ界の巨星・西村京太郎御大の記念すべき第1冊目の著作(1964年作品)。このあと次作『天使の傷痕』(1965年)が乱歩賞を受賞し、出世作となる。

 評者は大昔に古書店で、1973年刊行のサンポウ・ブックス版(出版社「産報」の新書サイズの叢書。現在Amazonにデータ登録なし)の本作を250円で入手。中に徳間の「赤川次郎読本」のチラシが挟まっていたから、1983年以降の入手だろう。
 その時点ですでに『天使の傷痕』は読んでおり、同作のラストの余韻に惹かれていたから、同じ西村初期作品であるこっち『四つの終止符』もそのまま購入後に読めばよさそうなものだが、何しろそのサンポウ・ブックスの裏表紙に書かれたあらすじがかなりヘビーで(今回、評者がまとめたあらすじとは全く別物。サンポウ版のあらすじは、かなり後々の展開まで書いてある・汗)なんとなく敷居の高さを感じてしまい、気が付いたら、今になるまで読まないでいたのだった。

 で、本サイトでも、評者が本作を読むその前までの時点で『天使の傷痕』はレビュー数が9、こっちは2、とかなりの差がある。
 いや乱歩賞受賞作で『天使』の方にアドバンテージがあるのは当然だが、ここまでの書評数の違いが出たのには、やはりもしかして、あまりにシンドそうな真面目な社会派テーマの本作が敬遠されてるのか? と勝手に思ったり(まあ実際のところは知らんけど)。

 いずれにしろ今回、数年前に水上勉の『海の牙』を、作品の存在を知ってからウン十年目に初めて読んだ時のような<この作品にはケイチョウフハクな態度で接してはいかん>的な気構えでページをめくり始めた。いささか大げさだが、まあそんな気分もほぼリアル(本音)。

 で、作品全体を読み終えて、いまだなぜ、作者がここまで真摯な主題の作品を書いたのかは、あとがきの作者の言葉以上には知らない。
 だけど、さすがに作者を見る目は相応に変わった。イヤミや皮肉でなく、真面目な人(作者・の作品)の前では頭を垂れるタイプの読者だから、自分は。

 ミステリとしても適度にトリッキィで面白く(素朴な複数のミスリードの向こうに潜む、やはり武骨な反転の構図がかなり心地よい)、さらに小説そのものが醤油と味噌で味付けした和製ウールリッチみたいなペーソス感でしみじみと情感に染みて来る。ラストのクロージングも、若い頃の作者のセンスというか筆の冴えを感じる(中盤のサブキャラ、室井弁護士センセイの熱弁の真剣さもイイネ)。

>この哀しさは沁みる。 義憤を湛え、ほの暗く静かな空気感で進む、美しい物語。

 まったくもって同感です。斎藤警部さん。

 そんななか、ちょっと雑……とまでは言わんが、ノリで済ませちゃったのかなと思うのは、二人目の主要人物の死亡の状況の描写とか。普通ありえないでしょう? いくら昭和とはいえアレは? 
 まあ細部ではいくつか気になる綻びも目につくものの、全体の熱さと種々のパートの得点ぶりでは十分に、西村初期作品のなかでも佳作の上~秀作の中にはカウントできる出来ではある。

 やっぱ、初期の西村作品はいい。最終的にはトータルとして、一冊単位で読んでよかったという充足感がほぼ必ずどっかにある。 
 今回はこの作品のおかげで、もう少し、人間として悧巧になれればいいな、と本気で思った。

No.2 8点 斎藤警部 2015/08/13 14:10
母殺しの容疑で逮捕され、憤死を遂げた聾唖の青年。 その無罪を信じて調査を始めた、交流のあった飲み屋の女。。

この哀しさは沁みる。 義憤を湛え、ほの暗く静かな空気感で進む、美しい物語。

No.1 5点 E-BANKER 2011/02/08 23:13
作者初期のノン・シリーズ。
昭和40年代前半という時代を反映してか、「社会派」という形容詞がピッタリの作品となっています。
下町のおもちゃ工場で働く佐々木晋一は聾者だった。ある日、心臓病で寝たきりの母親が怪死する。栄養剤から砒素が検出されたとき、容疑は晋一に集中した。すべてが不利な状況で彼は獄中で憤死し、無実を信じた一人のホステスも後を追う。彼をハメたのは一体誰か?
いやぁ・・・読んでて何とも「暗~い」気持ちになりました。
まだまだ日本が貧しかった頃、しかも不治の病を抱えた母親をもつ聾者・・いろいろと考えさせられますね。
途中、聾学校の教師の口から語られる「聾者の真実」が特に重い・・・「耳が聞こえない」ということは「目が見えない」ことよりもつらいことなのだという事実は健常者ではなかなか気付けないことでしょう。
作者の社会派ミステリーといえば、乱歩賞を受賞した「天使の傷跡」が有名ですが、本作も隠れた名作としてもう少し評価されてもいいかと思います。
ただ、ミステリーそのものの出来としては評価しにくいんですよねぇ・・・
というわけで、高い評点をつけるのはちょっと難しいなぁというのが正直な感想になっちゃいます。
(意味深な「タイトル」ですが、まさに、このタイトルどおりの内容)


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1983年01月
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平均:5.00 / 書評数:1
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平均:6.00 / 書評数:2
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名探偵が多すぎる
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天使の傷痕
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