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[ 本格/新本格 ]
危険な童話
土屋隆夫 出版月: 1961年01月 平均: 6.73点 書評数: 22件

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桃源社
1961年01月

講談社
1972年01月

KADOKAWA
1975年10月

光文社
1988年03月

東京創元社
2000年09月

光文社
2002年04月

No.22 7点 みりん 2024/04/02 23:26
泡坂・笹沢・連城・鮎川と続けて書評してきたので、なんとなく読むならこのタイミングだろうと思い、初の土屋隆夫作品を手に取る。

童話ってロマンチックで幻想的で意味深で夢があって好きだ。なにより、本筋とどう絡んでくるのかと期待感が膨らむ。凶器消失に無敵のアリバイ、もう面白くないわけがない。実際に童話の使い方のうまさに感心した。あと、こういう動機には弱いなあ…犯人がトリックに○○○を利用したのも、犯人なりの復讐なんでしょうね。でも、わりと魅力的だった謎が主人公木曾刑事の手によってちまちま解決されていくので、ちょっとだけ損した気分に…何も知らされていないワトソン役が語り手で、最後に探偵役が全て種明かしをする様式だったらさらに驚けたかも(笑)

とにかく、今後も継続して読むことが決定した作家さん。しかしなあ、1960〜1970年代ってこんなにもレジェンド作家達が揃っていたのに、なんで"本格"が冬の時代を迎えていたのかよく分からんな。普通に黄金期では? まあ当時のことは何も知らんので、あんまりテキトーなこと言わんとこ

No.21 4点 虫暮部 2023/09/30 12:50
 色々ネタバレします。
 決定的な矛盾ではないが、私は “犯人と警察が共謀して、読者に対してトリックを実演して見せている” ような、奇妙な印象を受けた。
 例えば、凶器の隠匿。“犯人には隠しに出歩く時間が無い” と判断されるには即日拘留される必要があり、警察は微妙な現場の状況を読んで、犯人の期待通りに対応している。
 葉書の指紋トリックは、計画に必須ではないにもかかわらず、警察の捜査が新たな脅迫を生み、更なる殺人につながった。
 双方とも、互いの限界を踏まえて、都合の悪い推測はせず、その範囲内でゲームをしている。基本がリアルな書き方であればある程、登場人物がチラリと読者の方に目配せするようなおかしな瞬間を感じるんだよね。

 もう一点。拡大解釈すると、犯人は自らの手を汚したことが嬉しいのだと思う。自殺した人への、今更ながらの共感として。だってあれこれトリックを組み合わせて、楽しそうだ。敢えて子を計画に加担させたのもその延長で、被害者を全くの “よそのおじさん” にしてしまう為である。
 子が親殺しに加担するわけが無い → 子が加担したのだから被害者は “よそのおじさん” だ → “よそのおじさん” だから自分との間にも何も無い、と言う理屈で過去を書き換えて貞淑さを再確認したいのだ。
 そして、自分本位だったからこその、子を残してのあの幕引きなのである。

No.20 7点 ミステリ初心者 2022/09/06 18:52
ネタバレをしております。

 個人的には警察が主観の文章の小説が苦手で、読見進めるペースが遅くなってしまうことが多いのですが、この本はそれほど苦もなく読み進められました。登場人物が適度に絞られていて、小説的には犯人が分かり切っており、余計なアリバイの捜査などがカットされているところが良かったです。
 作風は極めて本格度がつよい推理小説でした。細かくて数が多いアリバイトリックが主で、それほど大がかりな大トリックではないのですが、考えてもなかなかわからない工夫を凝らしたもので、大変満足しました。
 凶器や警察への手紙など、逮捕されることをトリックに組み込んだ犯人はあっぱれでした。

 危険な童話というタイトルにもある通り、童話を用いて子供を操り、遠隔操作のようなトリックが印象的でした。警察は子供にも注目していたので、犯人にとっては危ない橋ではありますが、虹の色などで出す順番を指定していたりするところもアイディアを感じました。また、小説内で少しずつ童話が書かれており、それがヒントになっている構成もセンスを感じました(笑)

 総じて、細かくて緻密なトリックを味わえる、本格推理小説でした。大トリックやドンデン返しがないものの、それが逆にシブく感じます。より読みやすく、よりドラマティックな感じがある鮎川作品のような(笑)。唯一、好みで無い点を挙げるとすると、犯人に同情してしまう事件の背景や、ラストがやりきれません。執念で犯人を追いつめた木曾刑事も無念でしょうね(涙)。

No.19 9点 クリスティ再読 2021/01/23 14:09
どうも土屋隆夫の作品に辛くなりがちで、評者自分でも忸怩とした思いを抱いてたんだけどね...いや本作は、素晴らしい。
土屋隆夫の弱点、というのは要するに、今となってはその文芸趣味が古臭すぎる、というあたりにもある。が本作では見事にその文芸趣味がミステリが噛み合っている。そりゃ文句つけようないです。トリックがファンタジーに、ファンタジーがトリックに相互に転化するようなスリリングな瞬間がある。これがミステリという文芸の最良の部分なのだと思う。そして、そのただ中で立ち上がるのが、守るべきものの為に世界全てを敵に回すのも辞さない犯人の肖像だ。これが実に、泣ける。
いやだからね、最後の犯人の遺書以上に、最終章の童話の結末が残酷だ。

しずかに おやすみ/おかあさんも ねむります/お月さまは/もう きては下さいません/でも いつか/きっと 新しいお月さまが/お生まれになります/あなたが 大きくなってから/あなたと なかよしになって/しあわせを はこんで下さるお月さま/そのときが/おかあさんには みえるようです

本作にはそういう喪失の痛みが、ある。この残酷は、ファンタジーでしか慰められないために、ファンタジーから透けて見えざるを得ない、リアルの人生の不条理な残酷さなのである。

No.18 5点 レッドキング 2018/08/28 06:52
殺られちまった方がスッキリする被害者っての出すと、法による解決がスッキリしない。 「容疑者Xの献身」とかと同じだ。むろんミステリだから謎解きは必要なんだが。

No.17 6点 E-BANKER 2018/03/11 12:17
長編としては「天狗の面」「天国は遠すぎる」に続く三番目の作品となる本作。
次作以降シリーズ探偵となる千草検事ではなく、信州上田署の木曽刑事が探偵役として大奮闘。
1961年の発表。

~『ねぇ だれか わたしと遊ばない?』 あるばん お月さまが お星さまたちに 話しかけました・・・。幻想的な童話と血腥い殺人。被害者は傷害致死で服役し、仮釈放されたばかりの男・須賀俊二だった。人生の再出発を誓う彼が訪れたのは、従姉妹のピアノ教師の家。しかし、ここには何者かの冷酷な殺意が待ち受けていた。日本推理史上屈指の名作~

さすがに代表作とされるだけはあって、重厚で精緻、そして作者らしく何とも物悲しさに彩られた作品。
そんな印象の作品だった。
他の作品でも感じたことだけど、ミステリーに対する氏の真摯な想いや情熱がストレートに伝わって来るのが好ましい。

プロットは単純と断ずるのは簡単だけど、裏を返せば実に難しいプロット。
最初から犯人は明白。途中で対抗馬は殆ど現れず、アリバイを含めた犯行過程の謎一本槍。
これだけで最後まで引っ張らなくてはならないのだ。
並みの作家ならいろんな脇筋や蘊蓄や途中訪れる地の観光案内(?)やら書きそうなものだけど、そういった装飾は殆どなし。
終盤、木曽刑事の気付きからついにトリックが瓦解する刹那。
これこそが本作の白眉に違いない。
動機もねぇ・・・前時代的といえばそうなんだけど、重いよなぁー。

と、ここまで好意的なコメントを続けてきましたが、不満点も相応にあるというのが本音。
一番気になったのはやっぱりハガキの指紋の件。
真犯人が策を弄するわけなんだけど、これは明らかに蛇足だし意味のないトリックだろう。かえってリスクを増大させている。
童話の件も、かなりあやふやなものに賭けたなぁーという気がした。
両方ともプロットの鍵となるだけに、これは割引材料。
トータルとしては他作品より上かと言われると、そこまでではないという評価。

No.16 5点 パメル 2016/07/12 13:08
凶器消失トリックはこのトリックを使うために相当な時間をかけた犯人の執念に
驚かされる
作者はトリックが実現可能かどうかという点にこだわっているらしい
確かに成功する気がしますが指紋のトリックは強引な感じが否めない
物語の展開も単調で地味

No.15 5点 いいちこ 2015/08/11 16:30
警察の捜査過程が不用意かつ不可解であり、犯人が仕掛ける個々のトリックの合理性とフィージビリティにも相当程度に無理を感じる。
本サイトでは、作品の持つ独特の抒情性が高く評価されているものと理解するが、本格ミステリとしては完成度が低く無理筋の印象が強い

No.14 8点 斎藤警部 2015/07/02 11:44
鮮烈な読後感を残します。 暗く重苦しい話ですが、哀しくも邪悪な閃光を一瞬放って終わる。

お手軽な(?)心理の盲点トリック、ちょっと実行難しそうな物理トリック、手間が掛かる上に道義的に躊躇される総大な心理トリック、いろいろ出て来るよ。。。そしてその組み合わせはね。。 子供はこれからどうするのだろう。。。。。。。。

かなり若い頃に読んだ事もあり、折を見て再読したいですね。

No.13 8点 あびびび 2015/01/29 06:13
刑事が犯人に振り回され、苦悩すればするほどその事件は本格であり、謎に満ちている。ひとつ、ひとつのトリックがすごく人間臭い。寡作で知られ、40年間の作家生活で10数編もの長編しか書けなかった、土屋さんの推理小説に賭ける情熱が、ページをめくるたびに伝わってくる。

残りはあと数編、また時期をずらし、心して読もうと思う。その前に、彼が暮らし、小説の舞台になつている小諸、上田方面の旅行もしてみたい。あのあたりは、良質の温泉がたくさんあるし…。

No.12 8点 ボナンザ 2014/04/08 00:54
これはすごい。ある意味で影の告発以上かもしれない。

No.11 8点 文生 2012/04/10 01:23
社会派ミステリのような刑事の地道な捜査とそれとコントラストを成すように挿入される幻想的な童話。
これがやがてひとつに繋がり、謎が解ける瞬間がこの作品の白眉。
犯人の仕掛けたトリックについてはさほど見るべき点はないが、本格ミステリとしての構成の美しさにはため息がでる。

No.10 7点 蟷螂の斧 2012/02/21 19:57
証拠探しの本格物と言えるでしょう。トリックは大がかりなものや驚きはありませんが、細かいトリックが積み重ねられています。題名とトリックがうまく融合され、独特の雰囲気を味わうことができました。

No.9 6点 りゅう 2011/04/03 07:21
 本格と社会派の中間的な印象の作品。序章や各章の冒頭にある童話が真相とどう結びつくのかなと思いましたが、ちゃんと真相に活かされていました。複数トリックの組み合わせは見事で、凶器消失の謎や投書の謎の解明は鮮やかでした。ただ、指紋の謎の真相はちょっと苦しいかなと思います。こんなことをするとは思えません。また、江津子が警察に逮捕される件は、十分な理由がなく、確かに不自然ですね。

No.8 7点 kanamori 2010/07/30 18:42
現実的な殺人捜査や容疑者取り調べの描写の合間に挿入された童話が意味深で、読者を物語に引き込む効果を挙げています。
作中のユニークなトリックですが、この小説のミステリとしての核心が何か解らないまま読んでいて、終盤に変形の××ネタとわかったときは、結構感心した覚えがあります。
今読むと、ちょっと無理筋なところも目立ちますが、文芸的テイストと本格ミステリ趣向が融け合った秀作だと思います。

No.7 8点 T・ランタ 2010/01/17 06:23
土屋氏の代表作として挙げられる作品です。
ある男が殺害され、容疑者が逮捕されるが決定的な証拠が見つからない。
その一方で各章の冒頭に載っている童話と思われる文章。
それが結びついたときに真実が明らかになります。

「童話」が単なる雰囲気作りでなくプロットの中核をなしている辺りが本作の評価を高めているのだと思います。

そして事情はあれども犯罪が残した代償は大きいと言う結末。
これも土屋氏の作風なのかも知れません。

No.6 7点 isurrender 2009/10/24 00:36
シンプルだが、小技を次々と繰り出すともいえるトリックはすごいと思う
コロンブスの卵のようなトリック

No.5 8点 測量ボ-イ 2009/05/04 10:08
読んだのは20年以上前ですが、単純でも斬新なトリックで楽
しめました。子供の頃に読んだ推理パズルで、この話しのメ
イントリックと同じネタを扱ったものがありましたが、どう
もそちらがパクリだったようですね。

No.4 7点 2009/02/19 20:49
作中作のファンタジーで始まり、各章の始めには詩のようなお月様の童話が挿入されていながら、中心になるストーリーそのものは松本清張以後のリアリズム重視謎解きタイプという、奇妙なギャップ感覚が味わえました。事件終結後、最終章で明かされる動機が感傷的な余韻を残し、その2つの隙間を埋めてくれます。
細かい実用的な(と個人的には思います)トリックをふんだんに取り入れていて、それらを少しずつ解明していくあたり、飽きさせない構造になっています。ただ、いかにも怪しい人物とはいえ、必ずしもその場で取調べを受けるために警察署に連れて行かれ、さらにそのまま逮捕されるかどうか、そこが犯人のトリック成立要件の根本であるだけに、少々疑問は残ります。逮捕をより確実にしながら、それが他人による偽装工作でないとは証明することもできない別の手はなかったのでしょうか。

No.3 6点 makomako 2008/09/26 18:06
犯人はすぐ分かってしまうが犯行がなかなか証明できないお話。童話を使ったトリックでもあるがちょっと苦しいか。メインのトリックは今となっては使えないところもあるが、これが書かれた昭和30年代ならOKだったのだろう。土屋隆夫らしい誠実できちんと考え抜かれた作品となっていると思う。最後は美しく悲しい。子供はこれからどうしていくのだろう。追求した木曽刑事もちょっとやりきれないかも。


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