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[ 本格/新本格 ] 人形が死んだ夜 土田警部 |
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土屋隆夫 | 出版月: 2007年11月 | 平均: 6.33点 | 書評数: 3件 |
光文社 2007年11月 |
光文社 2007年11月 |
光文社 2010年05月 |
No.3 | 6点 | tider-tiger | 2019/02/17 11:54 |
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画家になることを夢見ていた甥っ子の俊が旅先で絵を描いている最中に轢き逃げされて死亡する。母と共に両親のいない俊を養い、とても愛情深く接していた咲川紗江は悲しみのどん底に突き落とされるも、ふと奇妙なことに気付く。事故の際、現場にいた男が俊を救護してくれたのだが、この男の証言には明らかに不審な点があったのだ。
作者最後の長編小説。この時なんと九十歳。 作者はあと書きで冗談交じりに老化現象により一度は完成を諦めたが、老華現象によって完成したと述懐していた。まさにそんな感じの作品。 欠点もあり、ミステリとしてもう少しうまくやれたのではと感じさせないこともない。採点は6点とさせてもらうが、とても凄味のある作品だったということは強調したい。 (作者言うところの)老化現象と思しきものども 物語の構造はゆらゆらと定かではないが、推理の構造は一本調子で、ミステリとしてもう少し工夫が欲しい。 繰り返しが多すぎる。同じ出来事が二人、三人の視点で同じように語られていたり、事故現場の描写が二度、三度あったり、地の文で説明していることを会話で改めて説明し直したりと読んでいて疲れる。最終章でも繰り返しがあったが、あれはかなり興を削ぐ。一部省略してスピーディーに読ませて欲しかった。 視点の移動には寛大な方だが、明らかに違和感ある視点移動があって、あれらはいわゆる「視点の乱れ」だと思った。 重要人物と思しき二名がまったく登場しないで終わる点。 おまけで凡ミスも散見される。 ~「津村、この男を縁台の上に寝かせてくれ」 二人がかりで、男の体を持ち上げ~ ↑「津村、この男を縁台の上に寝かせよう」が自然では? ~「冷麦。氷を入れてきてね」と頼んだ。食欲が、いつのまにか無くなっていた。とにかく冷えて水っぽいものを、咽の中へ流しこめばいいのだ。 刑事は、ひとまず咽の渇きが治まり、お代わりをした冷麦で、すっかり満腹感を味わったところで店を出た。~ ↑これはギャグ? 老華現象と思しきもの 舞台である長野県が眼前に浮かび、よく書けているなあと思ったら、作者は長野県出身だった。 単調なようで実は非常に入り組んだ構造の作品であり、登場人物が小説世界の中でさまざまに立ち位置を変えていく。読者もまた、どこに視点を置いて読めばいいのかわからなくなっていく。不思議な読み心地。悪酔いしそうな読み心地。 探偵が蛍のように明滅して、やがては誰にも見えなくなる。 作品タイトルに象徴される罠とそれを利用した巧みな犯罪計画。ただ、表紙に描かれた着物姿の女の子は意味不明だった。 あけっぴろげ型の密室。写真の謎も面白い。 壮絶と静謐が同居しているかのようなラストは、なんともいえない余韻を残す。こういうのって前例はあるのでしょうか。 ミステリであることは確かだが、私には分類できない。 新しいミステリを作り上げたとまでは言えないものの、ミステリの新たな可能性を垣間見させてくれる作品。傑作になる可能性を秘めていた作品だったとつくづく感じる。 |
No.2 | 6点 | 蟷螂の斧 | 2015/07/07 11:48 |
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著者が米寿の記念に執筆を思い立ち、90才に脱稿した作品。長編の第1作「天狗の面」(1958)に登場した土田巡査の息子が、本作では土田警部として登場。その間50年です。これだけでもすごいことですね。内容は、探偵役が、犯人役へ転換するというどちらかといえば倒叙的な作品です。よってフーダニットやハウダニットを期待すると面白味はないかも。土田警部が沈黙した理由は?それを確認する術は?・・・。余韻は人生の無常。 |
No.1 | 7点 | T・ランタ | 2011/10/10 05:17 |
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読後に何とも切ない気分になった作品です。
手っ取り早く説明すればある事故を契機に事件が起こるのですが、その辺りの前置きが丁寧なため事件が起こる前に犯人、被害者、動機が分かってしまうと言う事態になっています。 その辺り「聖悪女」に似ているかも知れません。 そういう訳で焦点はどのように犯行に及んだかと言うことになります。その辺りはある程度の意外性があります。 しかし最も印象的なのは最終章の展開でした。 「物狂い」から引き続き登場する土田警部が主人公ですが、このような末路で良いのかと思わざるを得ませんでした。 |