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[ 本格/新本格 ]
天国は遠すぎる
土屋隆夫 出版月: 1960年01月 平均: 6.75点 書評数: 12件

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東都書房
1960年01月

KADOKAWA
1975年01月

幻影城
1977年09月

廣済堂出版
1987年11月

東京創元社
2001年03月

光文社
2002年09月

No.12 7点 文生 2023/07/10 20:22
多くの指摘があるとおり、人を自殺に誘う流行歌という魅力的なガジェットが雰囲気作り以上の役割を果たしていないのが大きな弱点。著者の代表作である次作『危険な童話』と比べると完成度という点ではどうしても見劣りがしてしまいます。それでも昭和型のアリバイ崩しものとしてはかなりの面白さです。トリックが良いですし、コンパクトにまとまっているのも好印象。

No.11 7点 2021/05/31 09:12
 非番で今日は姪の結婚式という日曜日の朝、ギロ長こと佐田部長刑事に駆り出された県警の刑事・久野大作。砂上彩子という十八歳の娘が遺書を残して死んだのだが、その宛名に "久野様" としたためてあるという。
 彼女は青酸カリを服毒しており、妊娠三ヵ月。遺書には死を誘う歌としてジャーナリズムを賑わせている "天国は遠すぎる" の歌詞が記されていた。久野は彩子のハンドバッグの中にあったボタンと、料亭富久野屋のマッチが気になった。
 その翌日、土木疑獄の中心人物としてマークされていた県の深見浩一課長が失踪し、絞殺体で発見される。久野は深見の所持品から二つの事件が関連していると睨み、富久野屋の実際の経営者でアルプス建設工業の社長・尾台久四郎の名を炙り出すが、彼はどちらの事件にも完璧なアリバイを用意していた・・・。果たして彩子、深見、尾台の三人を結びつける線はあるのか?
 仏都と呼ばれる地方都市・長野を舞台にした本格物の傑作!
 昭和34(1959)年発表。居住地・長野題材の作品で、長篇としては『天狗の面』に続く二作目にあたるが、この年は実質これ一本(加えて書下ろし短篇「肌の告白」+エッセイ一篇)。昭和48(1973)年以前ではオール讀物「黒い虹」のみの昭和44(1969)年、第六長篇『針の誘い』+小説現代「淫らな証人」の昭和45(1970)年に匹敵する少なさで、加えて地元舞台という事もあり内容的には非常に充実している。
 「最も影響を受けたのはジョルジュ・シムノン」との弁が如実に出た作品で、厚さは薄めながら細君含めた主人公刑事の人物・生活描写は非常に味がある。トリックも的確かつ簡潔に運用されており、改めから推論に次ぐ推論、証拠固めによる犯行の蹉跌、露呈される犯人像さらには急転直下の結末まで、地味ながら申し分無い。
 ただし流行歌による導入部が魅力的過ぎた分、後半それが浮くのはお説の通り。それでもトータルでは7~7.5点を付けたい。だって好きなんだもん。改めて読み返したけど、土屋さんのでは一番好きかもしれない。短めでも頭から尾っぽまでギュッと餡子の詰まった、名店の鯛焼きのような小説である。

No.10 5点 虫暮部 2021/01/29 13:20
 “死を誘う歌”なんて思わせ振りなガジェット、しかもそれをタイトルに掲げておいて、しかしすぐに全然違う方向へ進んで、結局アレは何だったのか、物語に膨らみを持たせる役にも立っていない余計な遊びにしか思えない。アリバイのトリックよりも結末のソレに驚いたね。

No.9 6点 クリスティ再読 2020/04/01 22:17
土屋隆夫というとねえ、昔風の文芸味と、リアリティのあるトリックで70年代くらいには鮎哲と並ぶパズラー愛好家の押し作家だったんだが、作品数が少ないのもあって、イマのプレゼンスは結構落ちている印象が寂しい。パズラーとは言っても、新本格の遊戯性とはまったく逆方向と見ていい。鮎哲だと遊戯性に徹した「りら荘」もあり新本格との相性がいいのと対照的に、リアリティ重視のパズラーと捉えれば、初期の松本清張に近い..という見方をしてもいいんじゃない?と評者は思ってるよ。
まあ、トリックのリアリティを保証するために、自分でやってみて確認する、で有名な作家だしね。本作だと結構な大技といえば大技なんだけど、やはり「実現可能」と思わせるリアリティがある。汚職事件や、地方有力者が政界に関わることで捜査に圧力をかけるとかね、あるいは刑事の家庭生活や犯人夫婦の夫婦愛、となかなか清張っぽい。どうも皆さん「社会派」を毛嫌いする人が多いようだけど、同じ作家でもバランスが作品によっても違うし、かなりグラデーションを持って捉えて、レッテル貼りしないようにした方がいいように思うんだがね。
しかしこの人らしさ、というのはセンチメンタルに流れやすい文芸味になる。背景に流れる「天国は遠すぎる」という「自殺の聖歌」が前半魅力的なのだが、後半どうもフェードアウトするのが残念。文芸味とトリックがちゃんと融合したらいいんだがねえ(「危険な童話」はその融合がナイス)。

No.8 5点 nukkam 2017/06/24 03:02
(ネタバレなしです) 1959年発表の第2長編で、光文社文庫版で300ページに満たない短めの作品です。本格派推理小説ですが早い段階で犯人はこの人しかありえない状況になります(そもそも他の容疑者が登場しないのです)。自信満々の犯人が用意した鉄壁のアリバイを崩すのがメインの謎解きです。佐野洋が「刑事の描き方がリアル」と賞賛しており、捜査と推理が地道に描かれているのは同時代の鮎川哲也の鬼貫警部シリーズとも共通していますが刑事の執念描写は鮎川作品にはない個性だと思います。但し刑事以外の登場人物では犯人の心情発露は終盤の逮捕以降のみ、被害者については全くといってもいいほど性格描写がないので小説としての膨らみが足りない気がします。推理小説が文学足りえるか否かについて常に意識した作者ですが、本書についてはまだ道半ばといったところでしょうか。

No.7 7点 蟷螂の斧 2017/01/17 10:40
裏表紙より~『自殺した若い娘砂上彩子の遺書には、死を誘う歌としてジャーナリズムを賑わせる「天国は遠すぎる」の歌詞が記されていた。翌日、県庁の課長深見浩一が失踪、絞殺体で発見された。深見は土木疑獄の中心人物。容疑はアルプス建設工業社長尾台久四郎に向けられたが、尾台には完壁なアリバイが。この3人を結ぶ線はあるのか?』~

1959年の作品なので、本邦でのアリバイトリックものとしては結構初期の作品群になるのかも?。非常に丁寧に書かれており好感が持てました。2件目のトリックは、うまい組み合わせで非常に新鮮に感じられました。当然見抜くことはできませんでしたが(笑)。著者の作品はこれで7作目となりますが、今のところ外れはないです。

No.6 8点 あびびび 2016/11/01 12:16
土屋さんらしい、入魂の力作だと思った。後書きで、佐野洋さんが、「これほど刑事をうまく書いた作品に出合うのは初めて」と言うような書評をされていたが、アリバイトリックもさることながら、執念で捜査を続ける刑事たちの魅力があふれていた。

土屋さんの作品の中で一番好きかも知れない。

No.5 7点 パメル 2016/10/13 01:09
鉄壁と思われたアリバイを刑事の師弟コンビが何度も挫折を繰り返しながら
執念を燃やし真相に立ち向かっていく
この間のコンビの会話も中々味があって良い
そしてある言葉をきっかけにヒントを得て物語は急展開する
盲点を突くようなトリックが使われており実現も十分可能な点も好印象

No.4 8点 斎藤警部 2015/11/20 01:01
謎の中心に暗い流行歌の歌詞。時代の薫りにやられる。遺書と共に逝った十代の娘は果たして自殺だったのか?アリバイ崩しに密室トリックが絡んだ、濃密な空気感の文芸本格。社会派要素も割と有り。評者好みのど真ん中に剛速球です。

ところで詰まらない事が気になるのですが「アルプス建設工業」というのはあの鬼瓦権造さんがお勤めの会社(アルプス工業)と関係があるのでしょうか?だとしたら、たとえ文中には登場しなくとも、彼も警察の取調べを受けて、最後に「冗談じゃないよ?」の捨て台詞を吐いて帰って来たりしなかったのでしょうか?あるいはその取調べ以来「冗談じゃないよ?」が口癖になったとか?

No.3 7点 ボナンザ 2014/04/08 00:53
これも佳作。できればもう少しインパクトがほしいが、外れることはない。

No.2 7点 測量ボ-イ 2011/01/19 21:34
20年以上前に読んだ作品の再読。内容はすっかり忘れて
いました(苦笑)。
書評の方は、どちらかというとアリバイ破りが主眼の作
品ですが、当初ぼんやりした事件の真相が捜査の過程で
だんだん見えてくる構成が良かったです。崇拝する鮎哲
(鮎川哲也氏)の作風に近いですね。
メインのアリバイ・トリックも何だか鮎哲氏が使いそう、
無駄に長すぎず、丹念な作品作りには好感が持てます。

No.1 7点 makomako 2008/09/06 15:26
30年ぶりに読み返してみた。何度も推理が挫折しつつしだいに犯人へ迫っていく刑事の執念が、過不足のないそぎ落とされたような文章でつづられているところはすばらしい。ただ最初に読んだときは感じなかったのだが、もし刑事の推理が外れていたとしたら思い込みによる冤罪をつくりそうだなどと思ってしまったのは歳のせいか。


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