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[ 本格/新本格 ]
影の告発
千草検事シリーズ
土屋隆夫 出版月: 1963年01月 平均: 5.69点 書評数: 16件

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文藝春秋新社
1963年01月

講談社
1975年12月

角川書店
1977年02月

双葉社
1995年11月

東京創元社
2000年09月

光文社
2002年03月

No.16 3点 虫暮部 2024/02/22 13:37
 各章冒頭の断片的な情景、子供を使ったトリック、公園にブツを予め仕込む、など『危険な童話』を想起させるネタが幾つか。使い回しが全て不可だとは言わないが、重複させ過ぎ。
 ミステリ的に面白いトピックを導入する為に登場人物に強引な行動をさせている、と言う感が強く、全体的に不恰好な話だと思う。

 犯人は何故エレベーターの中でああいう殺し方をしたのか?(明確に書かれてはいないが、少なくとも理由の一つは)アリバイ・トリックを仕掛けるので犯行時刻を明確にする必要があったから。
 何故アリバイ・トリックを仕掛けたのか? 警察に過去の経緯を掘り出されると、自分が疑われる可能性があるから、それに備えた。
 しかしその殺し方のせいで名刺を落とし、早々に警察から目を付けられた。
 つまり結果論として、余計なトリックは使わない方が良かったと言える。
 作者は、アリバイ・トリックは “万一に備えた” ものだと犯人に思考させたりしているが、そのへんの状況の滑稽さを前面に出す気は無いようで、これは後付けの言い訳のように思える。

 写真の件は、作者も実験の上で採用したそうだし、トリック自体はまぁ可能なんじゃないか。
 寧ろ難点は、一発勝負であること(しかも事前に出来栄えをチェック出来なかった)。そして、自分で撮ったものと “通りがかりの人に頼んで撮ってもらった” もののピントの甘さが共通であること?

 第二の殺人で、被害者は “両者(犯人と少女)の結びつきを知っている、もう一人の人物” だったから殺された、と千草検事は考えたがこれは間違いである。既に結びつきが警察に知られた、と言うことを犯人も知っている、のだから今更殺しても意味が無い。
 実際の動機は取って付けたような後出しの情報だ。これも作者、殺しちゃった後で “意味が無い” ことに気付いて慌てて捻り出したんじゃないだろうか。
 ところでこの当時、電話は何処から何処に掛けたか記録が残らなかった?

No.15 5点 クリスティ再読 2020/12/05 11:05
協会賞受賞作で、昔土屋隆夫の代表作の一つになっていた作品。けどね、今回読み直して一番過大評価、という結論になったのが本作。

不幸な運命の少女の独白が各章の冒頭にあって、その文芸調のロマン味で興味を引いていく構成なんだけど、「危険な童話」でトリックのキモが隠されていたうまい仕掛けの再現か...というと、本作は残念だけど、そういうことはない。この独白が何なのか、最後でわかるけど、実は結構興ざめな話。こうしたらアザトいだけだと思うんだがなあ。

土屋隆夫なので、捜査プロセスは丁寧、かつリアリティあり。しかし、肝心のトリックが....電話のトリックは分かりやすいし、しかも実は重大なリスクがあるのを誰もがツッコむんじゃないかな。ご当地小諸でのアリバイトリックは、小技部分は「うまくいったらラッキー」くらいのノリで仕掛けたリスクの低い仕掛けだから、まあいいとして、写真トリックははっきり、つまらない。
清張「時間の習俗」に刺激されたらしいけど、いやあれは「オリジナルへのアクセスが不可能」という不可能興味があるから面白いんであってね。本作だと気が付かない捜査陣が間抜けに見える。「時間の習俗」は犯人が写真はハイアマチュア、という設定だからトリックがアリと思うけど、本作は完璧素人。いくらモノクロ時代とはいえ、素人がやってバレないほど、あれは易しくない。検証過程を含めて、全体に写真知識が薄いように感じられる。たとえば鮎哲「準急ながら」だと写真トリックの検証をキッチリやっているから、その差も感じてしまう....

昔読んでいるんだけど、その時も印象はよくなかった。評者は写真トリックを全然内容を忘れてたけど、忘れて当然のトリックだ。

No.14 5点 パメル 2016/07/12 13:15
いわゆるアリバイ崩しもの
捜査すればするほど鉄壁のアリバイと思われる事実が判明していく
刑事はそれでも自分を信じ捜査に執念を燃やし小さな手掛かりを掴んでいく
ここはかなり引き込まれる
ただ見ず知らずの人間の行動が関連したトリックがあり
運の要素が強く実現はかなり神頼みの感じ

No.13 5点 nukkam 2016/07/06 09:50
(ネタバレなしです) 1962年発表の千草検事シリーズ第1作です。社会派推理小説が人気を博していた時代の作品なのでシリーズ探偵といっても非常に地味なキャラクターで、地道な足の捜査の描写を丁寧に描いているところも社会派の影響が見られます(タイトルまで同時代の松本清張みたいです)。本格派志向を失わなかった作家として評価されていますが本書では犯人の正体については早い段階で自然に見当がつき、読者が推理できる要素としてはアリバイ崩しぐらいでしょう(ちゃんと謎解き伏線に配慮しているのはさすがです)。時代が時代なので社会派と本格派の折衷的作品になるのは仕方がなかったのかもしれませんが(本書で日本推理作家協会賞を受賞したので成功作とは言えるでしょう)、ちょっと中途半端という印象も受けました。

No.12 6点 文生 2015/10/20 10:12
初読の時は「トリックよし、プロットよし」で危険な童話に並ぶ傑作と思っていましたが、その後、海外の過去作でトリックのまったく同じ作品を見つけたために印象が薄くなってしまいました。

No.11 7点 斎藤警部 2015/10/20 00:10
良き旧き昭和のデパート、エレベーターの中で殺人、声のダイイングメッセージ。。
いいなあ、昭和の殺人。 俺も往時にタイムスリップ出来たら一人くらいこの手で、キャバレー帰りにでも。。(悪すぎる冗談)
何気に盛りだくさんな内容を、緊張感ある文章で隅々まで端正に描き切っています。
アリバイトリックの風化など全く構わんですよ、とにかく犯罪捜査物語が面白くてね、読まされちゃうの。

No.10 7点 あびびび 2014/04/16 16:44
遅まきながらこの作者は初めて。今の時代だと古臭いトリックばかり(特に写真でのアリバイ)だが、この作家の書き方は好みで、作品一覧を見てため息をついている。自分にとって非常に読みやすく、次々にページが進む。これはまた楽しみが増えたと素直に喜んでいます。

重厚な題名だが、まさかそのままの意味だとは思わなかった。

No.9 8点 ボナンザ 2014/04/08 00:55
作者の代表作だけあって完成度は高い。緻密な構成と魅力的な文章は作者の持ち味である。

No.8 5点 E-BANKER 2014/03/30 18:55
1963年に刊行された作者の第四長編。
今作以降、メインキャラクターとなる千草検事が初登場する作品であると同時に、日本推理作家協会賞を受賞したエポック・メイキングな作品という位置付け。

~「あの女が・・・いた・・・」。そう言ってデパートのエレベーターの中で男が死んだ。手掛かりは落ちていた名刺とこの言葉だけ。被害者の周辺から疑わしい人物の名前が挙がってくるが、決定的証拠がつかめない。そして被害者の過去のカギを握る少女の影。千草検事と刑事たちは真実を追いかける・・・。日本推理作家協会賞受賞の名作~

古いタイプの本格ミステリー。
作者の作品はデビュー長編の「天狗の面」に続き、二作目の読書になるのだが、ロジック全開だった「天狗の面」に比べると、動機探しやアリバイ崩しといったその頃流行りのガジェットに拘った作品にシフトしていた。
「動機探し」については、早い段階からほぼ読者が察することができ、それと同時に真犯人もほぼ特定されてしまう。
戦後を引き摺ったような暗く重い動機であり、タイトルどおり「影」という言葉が作品全体に大きな意味を持ってくる。

そして、中盤以降はほぼアリバイ崩し一本槍の展開。
そのアリバイトリックの鍵となるのが「電話」と「写真」。でも、写真についてはここまで綿密に計画した犯人にしてはアレを計算に入れないというのがあまりにもお粗末な気がするし、○○についても、ピントが甘いという時点で捜査陣が気付かないというのはちょっと頂けない・・・
ただし、電話の使い方については感心。
捜査(読者)側の錯誤をうまい具合にアリバイトリックに絡めているなど、ミステリー作家としての作者の腕の確かさを感じられる。

まぁ全体的な評価としてはなぁ・・・
「天狗の面」がかなり鮮やかで、大いに感心させられただけに、どうしても格差を感じてしまう。
“物書き”としての力量は、デビュー時よりも当然上がっているのだろうが、ミステリーとしての衝撃度ではやはりこの程度の評点に落ち着いてしまう。

No.7 6点 蟷螂の斧 2012/02/19 15:09
完璧なアリバイをいかに崩していくかというストーリーと一人の少女の独白とが交互に組み合わされています。文章は非常に読みやすいです。物語の背景にある「戦後の影」もうまく描かれていると思います。トリックはこの時代(1960年代)を考慮すれば納得できるものです。

No.6 7点 2011/02/01 21:00
章の見出しがすべて「○の○○」で、最終章がタイトルと同じ「影の告発」という、こだわりを持った作品です。その各章の最初に少女の視点による幻想的な短い断片を置いているのは、『危険な童話』の童話と同じパターンですが、今作では半ばぐらいまでで本筋との関連の見当がつくようになっています。
実は、写真を使ったアリバイ・トリックだけが記憶に残っていました。ほぼ同じ頃書かれた清張の『時間の習俗』と似てはいるものの、清張作ほど完璧主義的な凝ったトリックではありません。その点に不満があったのですが、読み直してみると、前半は犯人の嘘への疑念や、被害者の側からの追及で明らかになってくる動機などに費やされ、なかなかおもしろい筋立てになっていました。
ごく早い段階で重要な手がかりの存在を堂々と宣言していたりして、フェアプレイへの配慮もあり、評価を改めた作品です。

No.5 7点 kanamori 2010/07/31 16:30
千草検事が探偵役を務めるシリーズ第1作。
デパートで高校校長が毒殺された事件を現場に居合わせた千草検事が担当する。容疑者特定の経緯はちょっとご都合主義的なところがあるが、アリバイ崩しが主題であるためあまり気にならなかった。
初読当時は、本書の写真によるアリバイトリックが目新しく、結構印象に残っています。

No.4 3点 江守森江 2009/07/17 21:57
30年近く前ミステリにドップリとハマり始めた時期に、高木彬光、鮎川哲也、天藤真らと平行する形で読んだ。
本格度では高木、鮎川に劣り、エンタメ度では天藤に全く及ばないと思った。
更に、文学してます的雰囲気に馴染めなかった。

No.3 6点 測量ボ-イ 2009/05/04 10:50
古典的名作ですが、写真のメイントリックは長編を支える
には、やや薄弱なのでは?

No.2 5点 こう 2008/10/14 01:36
 これも10年以上前に読んだときは良くできているし土屋作品の代表作と思いましたが現在では他作品以上に通用しない作品だと思いました。
 エレベーター内で注射器で殿部を刺され毒殺される殺人事件が起こり容疑者は初めから一人でその容疑者のアリバイを崩す作品です。
 正直「あの女がいた」という被害者のセリフも都合よくたまたまですし、そもそものエレベーターでの殺人、電話のトリック、本屋でのアリバイ工作、名刺でのアリバイ工作、いずれもたまたまうまくいった印象でアリバイ工作の成功率がそもそも低すぎると思います。
 アリバイトリック、アリバイ崩しがはやらない現代だからというよりトリックそのものがかなり脆弱で通用しないと思います。ストーリー構成は他作品同様うまいと思いますが現代の読者の共感は得られにくいかもしれません。

No.1 6点 白い風 2008/08/02 20:54
旅行写真と電話を使ったトリックでしたね。
(今じゃ完全に古典的手法だけどね)
この作品も各章の冒頭に謎の少女の病院でも描写がミステリ性を高めます。
容疑者のアリバイ崩しと動機探しが主なストーリーでした。
ただ、偶然落ちていた名刺がたった5枚で容疑者を特定はちょっとビミョウ・・・。
これが無かったらほぼ捜査線上に出てこない完全犯罪?


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