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[ 本格/新本格 ]
天狗の面
土屋隆夫 出版月: 1958年01月 平均: 6.57点 書評数: 14件

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浪速書房
1958年01月

KADOKAWA
1975年01月

幻影城
1977年09月

東京創元社
2001年03月

光文社
2002年05月

光文社
2007年11月

No.14 7点 人並由真 2021/05/05 21:27
(ネタバレなし)
 数年前からそろそろ読みたいと思っていたが、蔵書の「別冊幻影城」版が見つからない。そこで2002年の光文社文庫版の美本の古書を半年ほど前に100円で買って、このたび読んだ。
 ごく正統派のフーダニットパズラーでありながら、戦後の民主化と怪しい宗教への依存、その双方の狭間で狂奔する寒村という当時ならではの主題がくっきりしているのが印象深い。
 もともとは、創作長編の新人賞(のようなもの)に切り替わった乱歩賞、その最初期の応募作品だったようだが、となるとこの長編は、はからずも、この後に続く乱歩賞受賞作諸作の<パズラー+何か特化した主題>という方向性に先鞭をつけていたことになる。

 終盤の謎解きは感心する箇所が多い反面、いくつかのポイントでかなり強引で荒っぽい。しかしそれもまた、この作品の味だろう(無理筋ぎりぎりの部分で、ちょっと、のちの新本格的なティストも感じた)。

 真犯人がトリックを成立させるために行ったとある作業(行為)、そのビジュアルイメージもかなり鮮烈で、そこらへんもかなり好み。自分はこの手のシチュエーションに心のツボを押されるようだ。

 後年の土屋作品群に連なっていく人間観、女性観などの萌芽がこの時点から透けているのにも気づいた。決して作者の代表作にはなりえないだろうけれど、ファンならやっぱり読んでおいたほうがいい一編。評点は0.5点オマケ。

No.13 6点 虫暮部 2021/01/26 13:44
 泥縄式に書き進めて、不具合が見付かっても修正せずに後から注釈を付けるだけで片付けたような、妙に不揃いな印象を受けた。書き下ろしなんだし、あと一回、推敲して細部を整えるべきだったのでは。
 毒殺トリック論は読み飛ばしても良かった。“毎夜十時にサイレンが鳴る”と言う設定が不思議。当時の農村では普通の習慣だった?
 そしてネタバレしつつ確認。第一の殺人、当初の目論見としては“腹痛は当人の疾病が原因”と言う設定だった筈だよね。だって毒殺未遂を演出してしまうと、その犯人は誰かと言う問題が未解決のままだから。その点に誤解が生じそうなので、作中に書いておいて欲しかった。

No.12 6点 青い車 2016/10/17 21:59
 初めて読んだ土屋隆夫作品。煙草の箱や風の吹いた時間などそつなくまとまっていますが、突き抜けたポイントがないのも確かです。横溝や鮎川などの作品にはどれも何かしらユニークな要素があったので、それらと比べると物足りなさは否めません。探偵役の白上矢太郎が個性に欠けるのもそうですが、特に肝となる毒殺トリックが大体想像ついてしまったのは惜しいですね。むしろ、一緒に収録されていた短篇の方に印象的なものが多かったように思えます。

No.11 5点 パメル 2016/10/16 01:00
村の合併をめぐる村議選の対立に新興宗教が絡み殺人事件が発生する
誰もが毒を入れる機会が無かったと不可能犯罪を匂わせている
この毒殺トリックは信者を巻き込んだ心理トリックが使われており予測出来てしまった
心理トリックは成功する気がするが肝心の物理トリックに無理がある
映画のポスターをそれに結び付けて説明している点も不満
余談ですが誤断トリックとしてクイーン・坂口安吾・バークリーの有名作品のネタバレ
しているので注意が必要

No.10 5点 文生 2015/10/20 10:08
ちょっと横溝作品っぽい雰囲気がある手堅い本格ミステリだが、これといって特筆すべき点もない。
土屋隆夫がまだスタイルを確立できていな時代の習作という感じ。

No.9 7点 斎藤警部 2015/10/20 00:20
処女長篇ですが、その後の氏の作品とは全く異質な文体(いちいちユーモアで突っ掛かる&なんと読者に呼びかける!)で書かれており、いわゆる土屋文学の味に馴れていた私としては本当に驚きましたよ。 純度の高いパズラーに土着因習の匂いが被さって、魅力的なムードですね。
ちょっとメンタルマジックの企みを思わすトリックはね、すぐ勘付いちゃったどね、それが眞犯人像とも絶妙にリンクしてるわけでね、答合わせが愉しくて愉しくて。

No.8 8点 あびびび 2014/07/31 10:41
「探偵小説は割り算の文学である。そこにいささかの余りがあってはいけない」、作者の長編デビュー作である。長野県の過疎地が舞台のせいか、途中、横溝正史を読んでいるような気になった。

読者よ…と何度も語りかける作者の優しさの中に、本格推理小説にかける情熱を感じた。あっと驚くトリックはなかったが、いずれも納得のいく進行で、読み終わった後はすがすがしい気持ちになった。

No.7 6点 蟷螂の斧 2014/07/15 18:18
読者へ語り掛ける文章が、淡々としていてやや馴染めませんでした。あえてそのような書き方にしているようですが・・・。別の書き方をすれば、もっとおどろおどろしさが伝わってくるような気がしました。毒殺トリックはまあまあでしたが、もう一つの殺人トリック(心理トリックと機械的トリックの融合)はなかなかの出来だと思います。

No.6 7点 ボナンザ 2014/04/08 00:52
処女作だけあって勢いがある。影の告発等に比べると完成度は劣るが、それでも抗しがたい魅力有り。

No.5 7点 2014/03/21 00:06
後年の土屋隆夫を読んだ後では、この人こんな作品も書いていたのかとびっくりします。鮎川哲也の鬼貫警部ものを多少地味にして(ただし時刻表アリバイではありませんが)特に動機に叙情性を加えたようなシリアスな作風というイメージだったのですが、この長編第1作は最初から軽妙ユーモラスな味わいがあるのです。作者が住んでいた長野の小さな村を舞台にして、作者自身が「戯画化」という言葉を使っているそうですが、最初から読者への挑戦めいた文を入れるなど、遊び心のある作品になっています。なんとなく横溝タッチを思わせるところさえありますが、一方で最後の犯人の行動など、後年の作品につながるものも感じられました。
謎解き的な観点からは、手がかりを読者に明確に披露するということでは、クイーン以上とさえ言えるでしょう。特に風の件に関してはいくら何でも丁寧すぎると思いますが、その明瞭さが魅力でもあります。

No.4 7点 E-BANKER 2013/10/17 21:36
1958年発表。江戸川乱歩賞へも投じられた作者の処女長編作品。
(受賞したのは仁木悦子の「猫は知っていた」)
シリーズキャラクターとなる千草弁護士は登場せず、土田巡査の友人である白上矢太郎が探偵役として事件を解明する。

~信州・牛伏村にある天狗伝説。信仰を集めたのは、天狗堂のおりんという女性。天狗講の集まりの日、太鼓の音と呪文の声、天狗の面に囲まれて、男が殺された。そして連続する殺人事件。平和な村を乱すのはお天狗様の祟りなのか? 駐在所の土田巡査は見えない真相に苦悩する。一種の催眠状態に陥った人間と宗教と政治の黒い関係を描き出す。著者初の長編推理小説~

実に「端正な本格ミステリー」という味わい。
何よりこれは設定の勝利だろう。
「天狗」という禍々しく怪奇じみた存在、戦争の香りの残る山あいの村と信心深い住民、それとは正反対の泥臭い政争・・・
これらの材料をすべて目くらましとして使い、これらを剥ぎ取った後は実に単純なトリックと動機が残る、という趣向。

アリバイトリックも錯誤を利用した実に単純な手なのだが、目くらましが効いているせいで、鮮やかな印象が残った。
特に最初の衆人環視のなかの毒殺トリックが非常に良い。
(なかなかアクロバティックなトリックではあるが・・・)
矢太郎がなぜか「毒殺講義」を行うのもサービス精神に溢れていて楽しい。
伏線もかなりフェアにはられていて、これだったら終章前に「読者への挑戦」などを挿入しても面白いのではとさえ思えた。

土屋隆夫は読もう読もうと思いながら後回しになっていた作家だったけど、やっぱり読むべきだったなぁと今回改めて認識させられた。
冗長さは一切なし。本格好きなら読んで損のない一冊という評価でよいだろう。
(矢太郎の口を借りて作者がミステリーを表現したことば・・・「探偵小説とは割り算の文学である。事件÷推理=解決 この解決の部分に未解決や疑問が残されてはいけない・・・」にも共感。)

No.3 6点 kanamori 2010/03/13 21:42
本格ミステリ長編第1作。
土俗宗教がはびこる信州の村での儀式中の毒殺トリックを扱っています。千草検事シリーズとは、まったく違うテイストで新鮮な感じを受けました。毒殺トリックの目眩ましもよく考えられていて、小品ながらこれは秀作ですね。
土田巡査は「物狂い」にでてきた人と同一人物?

No.2 7点 測量ボ-イ 2009/05/13 15:55
(多少ネタばれ有)
書かれた年代は古い作品ですが、内容は面白かったです。
メイントリックは毒殺ですが、人間心理の盲点をうまく
ついています。

No.1 8点 makomako 2008/09/16 20:04
土屋隆夫の初期の傑作でしょう。作者の本格好きの姿勢が楽しい。トリックはこの作者らしく結構不可能犯罪様で、最近時々見かけるような幻想的(というよりむちゃくちゃというべきか)な話ではなくちゃんと現実的でよいと思う。


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