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日本探偵小説全集(1)黒岩涙香・小酒井不木・甲賀三郎 集 |
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| アンソロジー(出版社編) | 出版月: 1984年12月 | 平均: 7.00点 | 書評数: 1件 |
![]() 東京創元社 1984年12月 |
| No.1 | 7点 | クリスティ再読 | 2026/04/07 21:09 |
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| 日本の初期のミステリをまとめた巻である。涙香、不木、甲賀の三人集。しかし、約半分が甲賀の「支倉事件」なのはまあ仕方ない。あれ長いからね。
まず涙香は「無惨」と「血文字」。いうまでもなく文語文。段落分けが少ない分、ぎっちり書いている。文章が読みづらいわけではないが、ボリュームが多い。50ページほどだが事実上は中編。 政治方面で「忖度」という言葉が流行る前から、評者は実は本作で「忖度」という言葉を知ってたりしたのがお笑い。「疑団」「忖度」「氷解」の3部構成で、要するに「忖度」って推理、って意味だ。本作は古いミステリによくある趣向で、経験派ベテラン探偵vs理論派若手探偵の推理合戦。古いミステリだと、若手の頭でっかちな推理がベテランの経験に負ける展開が、ポオやドイルの名探偵造形にも関わらず目立ったけども、本作は事実上若手の科学捜査の勝利なのが面白い。 刑事巡査、下世話に謂う探偵、世に是ほど忌わしき職務は無く又之ほど立派なる職務は無し、忌わしき所を言えば我身の鬼々しき心を隠し友達顔を作りて人に交り、信切顔をして其人の秘密を聞き出し其れを直様官に売り附けて世を渡る、外面如菩薩内心如夜叉とは女に非ず探偵なり と改めてそう言われると確かにそうだったりする(苦笑)国産初のミステリだけあるよ。で、作中にも「ミステリイ(不可思議)」という言葉が使われているけども、これは推理だけでは分からない人間関係の詳細などをさして使っている。 「血文字」は期待通りダイイングメッセージの裏表を色々とひっくり返してみせるもの。弾十六さまのご教授によると、ガボリオの「バティニョール」の翻案だそうです。 不木は「痴人の復讐」「恋愛曲線」「愚者の毒」「闘争」の4短編を収録。「恋愛曲線」は事実上SFミステリ。個人的には「愚者の毒」が一番面白かった。医者というのもあって、ややひんやりしたタッチが冷酷な感じもある。「闘争」は精神医学上の人体実験みたいな話だから、意外に黒死館に影響しているのかな? 甲賀三郎は「琥珀のパイプ」「支倉事件」「蜘蛛」「黄鳥の嘆き」「青服の男」の3短編1長編。短編はどうかな、「蜘蛛」に妙なロマン味があっていい。「青服の男」は変な動機で落語みたいな話。 で問題は「支倉事件」。これはまるっきりの実話で、登場人物の名前を一捻り変えている程度で、あまり創作の部分はない感じ。一番連想するのは「復讐するは我にあり」。窃盗・強盗・放火・詐欺・私文書偽造・強姦・贈賄・殺人のフルコースを犯した犯人、支倉利平(島倉儀平)。対するは牛込神楽坂署の署長庄司利喜太郎(正力松太郎)。支倉はなかなか悪知恵の回る反社会的な性格の男であり、メインの事件までに前科四犯、でもキリスト教に回心したとして宣教師の肩書を持つ男。聖書を盗み出して勝手に売った事件がきっかけで、内偵をしてみると、三件連続での自宅放火と保険金詐欺、それに家の女中を強姦して性病を移した不祥事をもみ消した後に、その女中が失踪していた...殺人と睨んだ庄司署長は続々と支倉の犯罪人生を追求していくが、逃亡した支倉は嘲弄の手紙を警察に送りつけていく... 支倉とはどんな性格の男か。 つくづく彼の言行を見るに、悪事にかけては中々抜目のない男で、それに犯罪性のあるものの通有性として、甚だ気が変り易い。気が変り易い一面には梃でも動かぬ執拗な所がある。対手がいつの間にか忘れていて、何の為に恨まれているのか分らぬ位なのに、まだ恨みつづける。つまり目標を失した行動をやる。 こんな反社会性の強い、アクの強い男の肖像をしっかりと描いているが、スリラーといった読みやすさがある小説。本格派甲賀三郎だって結構スリラーを書いているからね。 正力松太郎といえば、読売新聞社の社主として君臨し、評者の子供の頃だと巨人軍のオーナーで有名だった。その人の若き日の探偵譚だ。 |
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