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[ 本格 ]
八点鐘
怪盗ルパン
モーリス・ルブラン 出版月: 1948年02月 平均: 6.70点 書評数: 10件

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愛翠書房
1948年02月

東京創元社
1959年01月

新潮社
1961年01月

日本文芸社
1968年01月

偕成社
1981年11月

No.10 7点 ALFA 2024/02/17 09:29
半世紀ぶりに再読。以前のは子供向けの抄訳版と思っていたがディテールに覚えがあるのでそうでもなかったのか・・・
なかでも記憶に鮮明なのは 「女をさらって逃げる時には、パンクなんかしないものよ」 ウーンそうなのか!そうなんだ!と深く納得した小学生でした。

8編の連作短編ミステリであり、ロマンチックな長編冒険小説にもなっている。
お気に入りは「塔のてっぺんで」と「テレーズとジュルメール」どちらも動機やトリックが現代的な本格味。
ミステリ味は薄いが「ジャン=ルイの場合」も皮肉が効いていて面白い。

モーリス・ルブランってコナン・ドイルに劣らぬトリックメーカーだったんだ。

No.9 7点 斎藤警部 2024/02/07 23:34
塔のてっぺんで
単純な計算式に還元の上で隠匿されていた絶望悲劇が暴かれる。 主演二人の始まりの物語。

水瓶
証拠隠滅の物理トリックは陳腐化していようと、真犯人追い詰め心理戦の摩擦熱を発するスリルは不滅。 レニーヌ最後の台詞も共感に溢れる。

テレーズとジェルメーヌ
これは熱い。 有名な⚫️⚫️トリックが暴露されてこそ顕在化する、愛人と夫と妻と幼い娘達のドラマに心は釘付け。 最後のオルタンスとレニーヌの会話でノックアウト。

映画の啓示
これまた随分と大胆な犯罪露見の手掛かりだなと思っていたら。。ミステリよりも◯◯よりも姉妹の愛情物語が勝ってしまったかな。 締めのホットな部分が長くなって来ているね。

ジャン=ルイの場合
或る青年の出生に纏わるドタバタ悲喜劇から始まり、滑稽味を残したまま貫徹した心理トリック問題解決は、若干肩透かしだったか。。 締めの台詞もちょっとなあ。 よく言えば落語風。

斧を持つ貴婦人
やにわに風雲の「転」へと導く、黒い光沢の冒険譚。 オルタンス気絶の際の台詞にゃあ最高にじゅんわり溶かされた。。 ミステリ性が薄いようでいて、最後にやっと気付かされる、淡く優しくも胸に迫るツイスト。 先行作とは異質の静謐なエンディングに打たれたし。

雪の上の足跡
人によってはタイトルで噴き出すかも知れないが、一見大時代ドラマの添え物めいた心理的物理トリックが、実は奥深い余韻を残す。 おまけにダメ押しのコミカルな落ちにまで手を伸ばす。 いやはや趣深し、足跡トリック。 レニーヌとオルタンスの関係も愈々もって趣深い。

マーキュリー骨董店
大胆なミスディレクション(?)を経ての激しい頭脳戦から、麗しくも悦ばしい、King & Prince ”シンデレラガール” が流れて来るような白光のエンディングへと雪崩れ込み。 諸々の落とし前もジャスト・イン・タイムに付けられ、連作短篇集としてまず文句なしの終結。 ごさっしたーー。

No.8 7点 蟷螂の斧 2023/08/06 16:10
①塔のてっぺんで 6点 レニーヌ公爵はオルタンス夫人を近くにある館の屋上に連れて行く。800m先の塔に白骨化した2体の遺体を見つける。それは20年前に不倫関係で駈け落ちしたと噂された二人・・・館主の妻と財産
②水びん 5点 死刑執行までに真犯人を捕まえなければならない・・・トリックは「盗まれた手紙」(1845 ポー)「ズームドルフ事件」(1914 M・D・ポースト)が先行しています
③テレーズとジェルメーヌ 8点 海岸の更衣室に入った夫が背中を刺されて死んでいた。誰も中に入っていない。凶器はなかった・・・密室です!!。当時、その概念はなかったような
④秘密をあばく映画 4点 映画と同様に、現実で男優(ゴリラ男)が女優をさらう。誘拐殺人?・・・単なるラブストーリー
⑤ジャン・ルイ事件 7点 娘が自殺未遂。恋人の若者には二人の母親がいて、いがみ合っている。だから結婚できないという。二人の母親は同じ病院で同時に赤子を産んだが一人が死亡。看護婦はどちらの赤子か分からず、結局二人が母親になったという経緯・・・嘘も方便
⑥斧をもつ貴婦人 8点 斧を持つ貴婦人と呼ばれる殺人鬼は180日間に5人を殺害。被害者は女性、拉致後8日目に殺害されていた。ヒロイン・オルタンスが拉致された・・・ミッシングリング、サイコパスの原形
⑦雪の上の足あと 8点 屋敷で銃声が聞こえた。雪の上に千鳥足で屋敷に入った足跡が一つ。裏口には人を引きずった跡があり、そこは底なし井戸があった。酔った家主が殺された?・・・妻と彼女を慕う男が逮捕
⑧メルキュール骨董店 6点 オルタンス夫人が無くしたコルサージの止め金(思い出の品)を捜す・・・元使用人

No.7 8点 クリスティ再読 2023/07/10 16:44
その昔って「ルパンは子供向け!」なんていう本格マニアに「八点鐘だけは読んでおけ」と勧めるタイプの作品だったのだけど、最近では読んだことない人が増えたのかな。

トリック至上主義の「教祖」の乱歩がこのオムニバス長編を高く買っていたからね。「類別トリック集成」の密室類型第三パターン(一番興味深いもの)の代表作が含まれていたり、乱歩自身が「オリジナル!」って自負したトリックの別パターンがあったり、足跡トリックの有名作、さらには今でいう「プロファイリング」の先駆作だってある。ルブランはトリックメーカーなのは間違いないんだよ。
でも大乱歩の威光もそろそろ薄れてきたから、それほど本作が読まれなくなってきた...と思うと淋しいものもある。

しかしね、改めて読み直すと、そういう乱歩の「読み方」が一面的だったようにも感じられるのだ。短編集ではなくてオムニバス長編である、と見た方がいいわけだし、全体を通じる「ロマンの香り」(女を口説いてるだけ、って言うんじゃない)の濃厚さにヤられるわけだ。けして「有名トリックの元ネタ集」ではなくて、そういう「トリック主義」に縛られないうまい使い方、ドラマの絡ませ方を楽しむのがいいと思うんだよ。

実に洒落た、ロマンチックな冒険(アヴァンチュール)譚。いくつもの宝石を埋め込んだ豪華なブローチのような。ルブランの筆が一番ノっていた時期だと思う。

No.6 6点 nukkam 2016/09/03 02:52
(ネタバレなしです) フランスのモーリス・ルブラン(1864-1941)は怪盗アルセーヌ・ルパンシリーズの生みの親といえばそれだけで十分な紹介になるでしょう。その作風は冒険ロマン小説に属しますが中には本格派推理小説として通用する作品もあり、1923年発表の連作短編集である本書はその代表とされています。主人公のレニーヌ公爵は盗みの類を一切せずに探偵役に徹しています(「まえがき」ではルパンと同一人物かどうか明言を避けていますが)。本格派といっても謎解きの手掛かりが解決前に読者に提示されていないので読者が推理に参加する余地はほとんどありません。トリックメーカーとしてのルブランをよく示した作品が収められており、特に「テレーズとジェルメーヌ」と「雪の上の足跡」ではもはや古典となった有名トリックが使われています。この時代には珍しいシリアルキラー(連続殺人犯)を扱った「斧を持った貴婦人」のサスペンスも秀逸です。

No.5 6点 ボナンザ 2014/04/09 15:50
怪盗紳士同様ルブランのアイディアが詰め込まれた傑作短編集。
中には有名トリックもあり、これが元ネタかと驚かされる。

No.4 7点 E-BANKER 2012/12/30 22:05
アルセーヌ・ルパンがレニーヌ公爵の変名で活躍する連作短編集。
タイトルどおり、一人の女性に対するルパンの愛が、「八点」のストーリーに載せ紡がれる・・・

①「塔のてっぺんで」=まさに本作の導入部。「古いコルサージの止め金」という全編に貫かれるキーワードもあらわになる。本編のトリックはいわゆる遠隔殺人というように紹介されるが、正直よく分からない。
②「水瓶」=誰もいないはずの部屋から火の手があがる・・・どういうトリックが? と思わされるが、これが何とも言えないトリック。ひとことで言えば「小学校の理科の実験」だ。
③「テレーズとジュルメール」=衆人環視のなか、鍵のかけられた部屋を開けてみると男の死体が! ってこれは「密室殺人」ではないか! これもトリックに期待してはいけない。物語の雰囲気を楽しもう。
④「映画の啓示」=ある映画を見たレニーヌ(ルパン)とオルタンス。あるキャストのヒロインに対する視線に尋常ならざるものを感じたルパンは、映画のストーリーに沿い捜査を開始する。これもまた、一つのラブストーリーだろう。
⑤「ジャン・ルイの場合」=これは特段トリックめいたものは出てこないが好編。出生時の事故のため、二人の女性のどちらが母親なのか分からず、二人の母親(候補?)と同居する男が登場。ラストはルパンの粋な計らいが・・・
⑥「斧を持つ貴婦人」=本編の主題はズバリ「ミッシングリンク」。五人の女性が連続して殺される事件が起きるなか、六人目の被害者に何とオルタンスが選ばれてしまう?! 慌てたルパンの必死の捜査が始まる。
⑦「雪の上の足跡」=このタイトルを見たら、当然「雪密室」が主題だと思うよなぁ。で、まぁその通りなのだが、このトリックも実にスゴイと言うか先駆的。ただし、これはトリックのレベルがどうこうではなく、こういうプロットを思い付いたことに価値がある。
⑧「マーキュリー骨董店」=連作の最終章に当たる作品。①で提示された「古いコルサージの止め金」の謎が明らかにされる。そして、何よりラスト1行が心憎い・・・カッコいいわ! ルパン。

以上8編。
書評したとおり、本作はいつもの冒険譚中心のストーリーのなかに、ミステリーの先駆的なトリックが散りばめられている作品。
トリックは今読んでみると、悪く言えば「チンケ」なレベルなのだが、これは正直問題ではない。
もちろん時代的なものもあるが、トリック云々は二の次で、一人の女性に対する底知れぬ「愛情」と愛を勝ち取るため、いつもの「盗み」を一切封印して、市中の人々を助ける役目に回るルパンの姿こそ、本作の価値を高めているのだろう。

そういう意味では他の作品とは若干味わいの異なる作品なのかもしれない。
「いい作品」だと思う。
(新潮文庫、堀口大學訳。読みにくさもあるが、相変わらず格調高い訳文です)

No.3 5点 mini 2012/05/29 10:03
先日25日に発売された早川ミステリマガジン7月号の特集は、”アルセーヌ・ルパン&ルパン三世”
特集の目玉商品の1つが、「初出版 ルパンの逮捕」
本国フランスでのルパン初登場作品は、第1短篇集『怪盗紳士ルパン』冒頭の「ルパンの逮捕」だが、これは短篇集として単行本化時に、最初に雑誌掲載された原版に修正が加えられた改訂版なのである
例えば”怪盗(強盗)紳士”というキャッチコピーは当初では使われていなかったらしく、短篇集収録時に加えられた造語らしい
ミスマガ7月号では、当初のオリジナル版「ルパンの逮捕」が本邦初翻訳されているので、どの部分に修正が施されたかとか、ファンには見逃せない

しかしここまで煽っておいてなんだが、実は私はアニメの『ルパン三世』を一度も観た事が無いだけでなく、そもそも本家の怪盗ルパンそのものに何の思い入れも無い読者なのである
私自身驚いたのは、当サイトでも他サイトでも、怪盗ルパンを小中学生時に児童書で読んだという人が多い事だ
実は私は小学生の頃に児童書で、怪盗ルパンはおろかホームズすらも読んでいないのである、きっと大人になってもミステリーファンな読者としては珍しいタイプに違いない
ホームズの方はもしかして児童書で1~2作は読んでいて単に私の記憶が飛んでいるだけかもしれないが纏まった形では読んだ覚えが無く、中学生以降に友人の勧めで普通の大人向け文庫で読んだ記憶しかない
怪盗ルパンに関しては児童書を含めても絶対に高校生以前に読んだ経験は一度も無いと断言出来る、大学生以降になって初めて読んだルパンものが「八点鐘」なのである
私が怪盗ルパンに何らの思い入れが無いのはそういうわけなのだ
なぜ「八点鐘」を最初に選んだのかと言うと、”クイーンの定員”にルブランの代表的短篇集として選ばれていたからで、要するにモーリス・ルブランという作家名は私にとっては他のホームズのライヴァルたちと同列以上の特別な存在では全く無いのである

さてこの「八点鐘」にはルパンという名前は一切出てこない、しかし主役レニーヌ公爵の正体はどう見てもルパンである
公爵に扮したルパンが恋する女性に対し騎士道精神を発揮して探偵役に徹する連作短篇集だが、恋物語の方は連作形式ににする為の方便みたいなもので、全体としてはトリック中心の本格謎解きを志向したものと言えよう
物理トリックがポーストのアブナー伯父もののパクリだったりと全てが賞賛出来るものではないのだが、ここまでトリックを沢山鏤めた短篇集だったのは驚きだ
ただこれがルパン本来の味わいなのか分からないので、この短篇集を最初に読んだのは順番としては良くなかったかなぁ

No.2 7点 kanamori 2010/08/08 20:21
アルセーヌ・ルパンものの第3短編集。
レニーヌ公爵ことルパンが恋する女性のために8つの冒険を繰り広げるが、本格ミステリ作品集といっていいほどトリックが満載されています。
「テレーヌとジェルメーヌ」の密室トリックは後にヴァン・ダインやカーの作品にも応用されたもの。そのほか、アブナー伯父シリーズや乱歩の短編とほとんどトリックが被っている意外な殺人手段ものなど楽しめる。

No.1 7点 Tetchy 2009/07/14 21:42
内容は、確かにヴァラエティに富んでいる。
物的・心理的トリックを駆使した本格物から、サイコ・スリラー物まで、アイデアもいい。
まあ、でも大人になった現在、かなり苦しいものがあるなと痛感した。大人になって読んで実感できるものと云えば、この八つの物語、全てリュパンがオルタンスを口説くためだけの前工作に過ぎないという点だ。
いやはや、ここまで投資する恋があるとはねぇ…。


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モーリス・ルブラン
2012年09月
ルパン、最後の恋
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2006年12月
戯曲アルセーヌ・ルパン
1987年03月
バルタザールの風変わりな毎日
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三つの目
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1986年12月
綱渡りのドロテ
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1982年09月
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1973年05月
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1973年01月
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1968年12月
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1965年10月
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1961年01月
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1960年01月
ジェリコ公爵
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赤い数珠
平均:4.50 / 書評数:2
特捜班ヴィクトール
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1959年09月
続813
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1959年01月
ルパン対ホームズ
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平均:5.00 / 書評数:1
水晶の栓
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1958年01月
三十棺桶島
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1957年01月
怪盗紳士ルパン
平均:5.73 / 書評数:11
奇岩城
平均:4.92 / 書評数:12
1956年01月
金三角
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1955年01月
813
平均:5.55 / 書評数:11
1952年01月
カリオストロの復讐
平均:3.67 / 書評数:3
1948年02月
八点鐘
平均:6.70 / 書評数:10
1923年01月
ノー・マンズ・ランド
平均:7.00 / 書評数:1