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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
綱渡りのドロテ
ルパンシリーズと同じ作品世界/別題『女探偵ドロテ』
モーリス・ルブラン 出版月: 1986年12月 平均: 7.33点 書評数: 3件

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東京創元社
1986年12月

偕成社
1986年12月

No.3 7点 クリスティ再読 2022/11/17 14:46
これは素敵なお話。サーカスの女座長にして侯爵家の相続人、4人の戦争孤児たちのママでもあるヴァガボンド、ドロテの大活躍! ルパンが悪だったら?と思わせる怪人デストレシェールを敵に回すスーパー・ヒロインをアザトクなく描いた爽快な話である。
ルパン世界の「カリオストロ4つの謎」の一つ「In robore fortuna」をこのドロテが解いてみせるわけだが、この謎言葉自体が「宝は魂の堅固さにあり」という格言として、危機に直面したドロテの心を支える、という趣向が素晴らしい。たしかにこれ、ルパンだったらあまり似つかわしくないや。身体的にはたびたびピンチになるが、凛として屈しない正義のヒロインだからこそ、際立つ仕掛けだと感じる。

このサイトでの皆さんのルブラン作品評を見ると、大時代的なルパンというキャラがどうも嫌われている...なんて印象を受けるのだけども、ドロテならね~そういう嫌味がなくて好評、ということなんじゃなかろうか。

2世紀を隔てて相続人が廃城に集合するあたり、ルパンじゃありえないような牧歌的な雰囲気の好ましさ(食事シーンが素敵)が出ていたり、一座のアイドル、モンフォコン隊長のコミカルなかわいらしさとか、作者がルパン世界とは別、という気持ちで解放されて楽しんで書いているのが窺われる。訳者も「楽しい仕事をさせてもらえました」と記しているのが素直に頷ける。

ルパンシリーズ・リブートからの作品系列は「八点鐘」「ドロテ」「カリオストロ伯爵夫人」となるわけで、この頃のルブランの筆って本当に、ノっている。ただただ楽しい。

(悪玉のデストレシェール、もちょっとアレンジしたら「カッコいい悪玉」になると思う....そんな片鱗があるからね。そうだったら8点とかつけたかな)

No.2 8点 人並由真 2018/10/22 03:40
(ネタバレなし)
 いや、とっても面白かった。
 個人的にルブランのルパンシリーズは、少年時代に手に取ったポプラ社の南洋一郎版と池田宣政版(白い函入の「アルセーヌ・ルパン全集」)あと偕成社の「怪盗ルパン選集」が原体験。ルパンものはこれら3つの児童向けの叢書で、南洋一郎が混ぜ込んだ周辺作品をふくめて当時出ているのは全部読んだ。ものによっては同じ作品を別の版で二回楽しみもした(あの『ピラミッドの秘密』も、もちろん読んでいる)。
 ただしその後、偕成社の完訳版や創元、早川、新潮などの大人向けの版での再読(まともな通読)は現時点まで全部で10冊くらいしか消化してない。なぜかはあまり考えたことはないのだが『謎の家』とか『三十棺桶島(棺桶島)』とか真相が強烈で忘れがたいので、改めて手にするのがやや消極的になっている面はあるかもしれない。とはいえ改めて完訳版をちゃんと読んだ『虎の牙』や『二つの微笑を持つ女』とか、フツーに面白かったのだが。

 当然、本書『綱渡りのドロテ』(原書は1923年の刊行)も子供時代にポプラ社の南洋一郎リライト版『妖魔と女探偵』で一度読んじゃったけど、これはいつかマトモに大人向けの完訳版で通読したいと思い続けて、このたび達成。ちなみにその児童書版の内容は、うまい具合にほぼ完全に忘れていた(笑)。評者が今回読んだのは、三好郁郎訳の創元文庫版(初版)である。

 そもそもこの作品、設定というか趣向がいいよね。ルパンワールドに通底する大設定として、20世紀の現在までフランスの各地に眠るマリー・アントワネットゆかりの謎の4つの秘宝。そのうち3つの謎は『三十棺桶島』『奇岩城』『カリオストロ伯爵夫人』の各事件にからんで怪盗紳士ルパンに探求される。が、この一件のみはその大怪盗とも全く関係の無い、しかして同じ世界観に存在する、とある一人の美少女(つまり本作の主人公ドロテ)によって暴かれるというのが♪
 現時点から勝手に想像していいのなら、4つの秘宝全部の謎解きを自分の看板キャラであるルパンに任せるというのもあるいはルブランの試案のなかにあったかも知れんけど、それを敢えてやらなかったところが本当に素晴らしい。
 18世紀の悲劇の若き女王に関与する秘宝の存在は怪盗紳士のレゾンテートルと直接はナンの関係もない。だからスーパーヒーローのルパンではなく、どこかのフランス国民の手に入る可能性もあるのではないか? そんなほぼ一世紀前にルブランの念頭に浮かんだのであろう、当時にして自由奔放かつルパンワールドの裾野をその外側まで大きく拡げようという発想が最高にシビれる(ルブランの周囲の人物の提言という可能性もないではないが)。
 もしかしたら本作は近代ミステリ史において、正編シリーズの傍らで世界観を共有する印象的な外伝作品が生まれ出た、かなり先駆的なサンプルではないだろーか。

 お話の方は、第一次戦争直後にマジメに宝探しのおとぎ話をする心地よさを土台に、美貌と才気と勇気に溢れたヒロインが周囲の子供たちや彼女の親衛隊的な青年たちの助勢を受けながら、果敢に秘宝を狙う悪党に立ち向かう(とはいっても大半の事はドロテひとりでこなしてしまうが)。
 どっかのwebで見たような気もする言い回しなのだが、まんま80年代半ばまでの宮崎駿アニメといった感じでとてもステキ。
 二世紀の時を超えた不死の怪人の謎とか、地下の閉鎖空間での殺人事件とか外連味たっぷりのミステリ的趣向が用意されているのもゾクゾクワクワクした。まあ殺人事件の謎解きそのものは、故・瀬戸川猛資に『虎の牙』での殺人犯の侵入トリックを揶揄されたルブランだけあって、本作の方も「いや、現実には無理なんじゃねーの」という気もなきにしもあらずだが、そこはそこ、この物語の枠内では許せる感じ。なんつーか、その辺もこの作品は強い(笑)。
 ドロテは自分の出自に関わる一つの大きな事件を終えたが、彼女と仲間の子供たちの人生はまだまだ……という感じの、いかにも欧州的な余韻のあるクロージングも快い。
 創元文庫版の訳者あとがきではルブランはドロテをシリーズ化する構想もあったのではないかと仮説を書いてるが、それはとても読みたかったような。この一作のみだったのが良かったような。そんな思いに駆られる。

余談1:フランスの地方領主の娘(プリンセス)ながら、4人の戦災孤児の男子の母親・姉貴がわりとなって少年少女だけで地方巡業のサーカス興業を行い、そして自らがかなり人気の花形サーカススターであるというドロテの設定は萌え要素全開(今のオタク用語で言うなら完璧超人系のヒロイン)。
 ちなみにドロテの年齢設定は作中の地の文で当初15~16歳に見える云々書いてあるが、あとで情報をつなぎ合わせると1901年生まれ(円谷英二や『ポーの一族』のジョン・オービンよりひとつ下である)で、この物語は1921年の事件だというから満20歳ということになる。全編にわたって「少女」と呼ばれるドロテだけど、どっちかというともう若い娘かお嬢さんだな。まあ人生経験も普通の娘の数倍で世知に富んでるヒロインだから、20歳くらいの設定でちょうどいいとは思うけど。

余談2:三好郁郎の訳者あとがきによると原書をとても楽しみながら訳したそうで、訳文も平易に気持ちよく読める。それは本当に結構なのだが、初版の128ページから数ページ分にかけて、本当は男爵の爵位のはずの老人がずっと伯爵の表記になってる。ケアレスミスか推敲洩れ。再版以降では直してあるかしらん。

No.1 7点 Tetchy 2009/06/22 22:53
古き良き時代の冒険活劇を匂わせ、また主人公を活発で美しい女性に設定したことで、その万能さもあざとく映らず、快い。
また二世紀を隔てて各国から信じ難い遺言を便りに再開するという展開が私の胸を打った。
期待していなかっただけに、思わぬ拾い物だった。


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