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[ 本格 ]
ジェゼベルの死
コックリル警部&チャールズワース警部
クリスチアナ・ブランド 出版月: 1960年01月 平均: 7.52点 書評数: 25件

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早川書房
1960年01月

早川書房
1979年01月

早川書房
1979年01月

No.25 7点 メルカトル 2023/10/27 22:38
tider-tigerさん、見てますかー?今回は『みんな教えて』の「切断の理由」でtider-tigerさんに御紹介いただいた作品です。

何人かの方が書かれていますが、正直読み難い、と言うか一人の人物をファーストネーム、ファミリーネーム、ニックネームで書き分けるのは、非常に混乱します。何度も登場人物一覧を見直して、ああそうだったと、やっと納得したりしました。特に私の様に細切れで読む場合はそうなる可能性が高いのではないかと思いますね。しかし、それらの欠点を補って余りある魅力が本作にはあります。当時新本格と呼ばれた外連味ある事件の描写、カーを思わせる様な不可能犯罪に首なし死体の謎、送り届けられる生首等、どれもミステリマニアを惹きつけて離さないガジェットばかりです。

二つの事件の後に繰り返される検証から後半次第に盛り上がりを見せて、いよいよ本作の本領を発揮します。容疑者の告白、多重推理からの真相開示は正に圧巻でした。メイントリックがちょっと無理筋だなと感じましたが、そこを差し引いても十分楽しめる一冊だと思います。
流石に本サイトで高得点を得ているだけはあるなと。でもね、今どきの国産ミステリに慣れたファンの目にはどう映っているのか、やや疑問ではありますけど。

No.24 7点 ミステリ初心者 2023/06/14 20:01
ネタバレをしております。

 最近、読みやすい国内作品を連続して読んでいたので、海外作品を挟むことにしました。
 クリスチアナ・ブランドは、たしか初めて読む作家です。しかも、本サイトでも超高得点ッッ わくわくしながら読んだのですが、読みづらくてページが進まないw 国内作品を連続で読んでしまうと、ちょっと海外古典アレルギーがでてしまうのかもしれませんねw
 しかし、殺人が起こってからは割とスムーズでした。ページェント中に起こる、大衆が見ている中での密室殺人は魅力的でした。また、中盤~後半には容疑者たちが一斉に自白をして展開が二転三転じゃ効かないぐらいの五転六転しておりましたw 自白の内容もちゃんと反論ができる点があり、フェア度が高いです。また、自白のなかにも強力なヒントがあり(犯人が密室のトリックの答えを半分以上しゃべってしまっている!?)、その反論も見事ですがそれ自体ミスリードだったり、作者のテクニックが光ります。
 ただ、舞台のスケッチだけではなく、厩の位置も含めた図は欲しかったところでしたw

 推理小説部分について。
 コックリル警部自身が白騎士の瞳を見ている→ブライアンは嘘の自白をしている→無罪という流れからの、鎧に生首をいれて瞳を見せていた真相は見事でした! 推理小説ファンならば、生首の使い道を考えなければならなかったのに、私はまるで気づかず、悔しい思いをしましたw
 嘘自白大会と、その反論は、多重解決に通ずる楽しさが味わえます。
 実は私は、途中の偽真相のブライアン・ポート・ベッチレイ三人共犯説を頭に思い浮かべていましたw

 以下、難癖部分。
 鎧だけ乗せて置き、そのまま馬のみでページェントを続行するのは、私にとっては全く想像できませんでしたw すごいトリックだ!と思うより、え?そんなことが可能なの??というのが正直な感想です。
 また、ややリスキー過ぎるかなとも思いますし、犯人に有利な偶然も起こっている気がします。ちゃんと伏線が張られている素晴らしいミステリですが、すべてを推理するのは難しいのかなと感じました。

 総じて、カーやクリスティに匹敵する作品だと思いました。これからちょくちょく、手に入る限りはブランド作品も読みたいです。

 ※追記:ジョージの証言によると赤騎士は茶色い瞳だったけど、ブライアンは青。赤騎士ってだれだったの…? ぽ、ポート??

No.23 7点 じきる 2021/08/25 11:09
皆さんの書評にもあるように読みにくさが瑕ですが、ダミー解決を駆使した終盤の畳み掛けは圧巻。切れ味鋭いトリックも楽しめました。

No.22 8点 ことは 2021/08/09 12:50
まずは欠点から書いてみよう。(これはブランド作品全般に当てはまるのだが)読みづらい。
読みづらさの原因は、第一に、三人称他視点にあると思う。日本の小説では三人称他視点はあまりなく、あっても章ごとに視点を変えるなどして、読者は常に誰かの視点に寄り添っているのが普通だ。ところがブランドは「Aはxxと思った。Bはxxと思った」とつづけて書く。
(セイヤーズの「死体をどうぞ」の解説で法月綸太郎が「サタイア」について書いていて、「喜劇性の濃い風刺文学、イギリス小説の”伝統”を形成する」とあり、風刺文学との視点ならば、三人称他視点も違和感がないのかもしれない。こうなると、これはもう国民性/文化の差異で、しょうがないのかもしれない)
あと、登場人物の心理がわからない。色々な仮説が繰り出されるが、その仮説をふまえた心理的背景まで説明されないので、表面的に流れ去ってしまうところがある。また、状況説明の段取りも不十分、もしくは下手だと思う。本作でもアリバイの状況提示は断片的に会話で行われるだけだ。
それなのに”本作は面白い”というところがすごい。(まあ、面白がれるのは、謎解きミステリを好きな人だけだと思うが)
途中に繰り出される仮設がひとつひとつ魅力的だし、演出も冴えた部分がおおい。中盤、箱を開けるときの演出はゾクゾクした。
そして、最後に繰り出される真相……。これはいい。
多くの仮設が提出される作品ではよくあることだが、最終的な解決が最も魅力的ではないことが、よくある。しかし本作では、最終的な解決が圧倒的にいい。途中に繰り出される仮設もいいのに、それを上回っていい。いやいや、これはもう、ブランドの最高傑作であると思う。

No.21 9点 ROM大臣 2021/07/29 13:12
殺人予告を受けた挙句、劇中に舞台上で殺された悪女。しかし彼女を殺せた人間は存在しないとしか考えられない。
そんな密室状況にコックリルとチャールズワースが挑むわけだが、彼らと容疑者たちによるディスカッションが素晴らしい。いくつもの説得力ある仮説が構築されては覆される様は、胸躍る。
そして終盤では、容疑者が全員、犯行を自供してしまう、自白合戦ともいうべき様相も呈し、実にスリリング。さらに密室に関する悪魔的なトリックさえも駆使されている。作者の技巧とセンスが冴えに冴え渡る究極の逸品。

No.20 8点 人並由真 2020/12/15 15:07
(ネタバレなし)
 1940年のロンドン。20代前半の青年将校ジョニイ・ワイズは、知人で性格の悪い年上の娘イザベル・ドルーに誘導されて、自分の婚約者パーペチュア(ペピイ)・カークが中年の俳優アール・アンダーソンに抱きしめられている図を目撃する。度を失ったジョニイは自ら命を絶った。やがて大戦を挟んだ1947年のロンドン。ペピイ、イザベル、アールの三人は7年前の惨事を記憶に留めたまま、死亡したジョニイの友人や知人たちも仲間にしてセミプロの劇団を運営していたが、そんななか、何者かがペピイたち三人に殺人予告状を送ってくる。ペピイの故郷ケント州の警察官コックリル警部は彼女の依頼で怪文書の主を探そうとするが、相手の正体は不明。やがてページェント(屋外演劇)の公演中、舞台上で密室状況といえる、奇妙で不可解な殺人事件が起きる。

 1949年の英国作品。こんなものも、まだ読んでませんでしたシリーズ。HM文庫版で読了。

 ブランドの最高傑作にあげる人も少なくない一冊なので、二日間はかかるかなと思いきや、深夜に手にとって結局は途中で止められず、4時間でいっき読みしてしまった(笑・汗)。
 ステージ上の密室殺人(広義の、の修辞をつけた方がいいと思うが)や(中略)という趣向は前もって聞いていたが、事前の殺人予告状、しかもそれが(中略)にまで……というケレン味にはゾクゾクしてシビれた。
『ハイヒールの死』の主役探偵チャールズワースが登場してコックリルものと世界観がリンクすることも、これまでのコックリルの事件簿が噂として口頭に上ることも知らなかったので、この辺のファンサービス? もすごく嬉しく楽しい。

 人によっては読みにくいといわれ、評者自身もかつてそのような感慨を覚えたこともないではないブランドの高濃度な小説だが、今回も自分で登場人物一覧表を作りながらページをめくったので、特に不順などは感じない。むしろ各キャラのデータが増えていくたびに、読み進めながらワクワク感が高まっていく。
 主要登場人物の総数が少ないことも、ブランド、これでどうやって最後に盛り上げるんだ? という逆説的な期待に繋がった。
(しかしHM文庫版133~134ページの正義と良識を気取ってその実、人の心を(中略)してしまう無神経な人間の描写、さすがだねえ。正にブランドの意地の悪さ炸裂だ。)

 最後までアンコが詰まった鯛焼きのような娯楽パズラーで、後半は続発する(中略)という異常事態にも、二転三転する犯人の指摘にも堪能させられたけど、やはり決め手はあの大トリックでしょう。なるほどこれは萌える(笑)。

 ちなみに、以下、極力、本作とその該当作品のネタバレにならないように気をつかいながら書くけれど、20世紀のある国産作品で、その作者が「この新作のトリックの独創性には自信があります」と豪語したものの、当時のSRの会のメンバーの一部から「いや、前例があるじゃん」という主旨の指摘を受けたことがあった(もちろん当時、その新刊を話題にしながらくだんの指摘をした人は、その該当作品の実名を出すような無神経で無思慮な真似などはしていない)。
 評者は当時、その作者のその新作(のそのトリック)にスナオに感嘆していたので、そんなSRの同志の指摘を認めてビックリ。その前例の作品ってなんだろ? とウン十年ずっと思い続けていたのだが、ようやく胸のつかえがとれておりた。ああ、コレ(本作)だったのね!
(これだけ曖昧に書けば、本作とくだんの国内作品、その双方を実際に読みおわるまで、ネタバレになることはないね?)

 まあ<その作者>は<その作品>を書いた時点では、たぶんまだ本作を読んでなかったのだろうし、パクリの類ではないと推察するけれど。

 さらにそのトリック自体も<完全新規のすごい創案です>といいきるなら<いや、これ(本作)があるでしょ>と言われても仕方がない。
 しかしながら、21世紀現在の時点で単発作品としてそれぞれ白紙の状態で別々に読めば、ファンが双方の類似を意識しない……ということもありえるかもしれない。
 何せ(中略)という行為のホワイダニットは、時代が進むのと同時にさらに分母が広がり、普遍化が加速しているはずだから。

 何にしろ、いろいろ得るものは多い一冊であった。
 しかしこれでブランドの未読の大物(らしい)作品がまたひとつ減ってしまったなあ(涙)。内容を忘れている人気作&代表作も、また再読してみようかしらん。

【余談】HM文庫巻末の山口雅也先生の解説。ミステリマガジンの人気連載「プレイバック」で本作を取り上げた実績ゆえの起用だろうし、文章の内容そのものは作品と作者への愛情があっていいんだけれど、自分が読んだ初版では『疑惑の霧』を『疑惑の影』と書き間違えて? いる(一瞬、素で、なんでここでカーの話題が? 不可能犯罪がらみで何か引用したいのか? と思ってしまった)。
 誰の責任か知らないけれど、いずれにしろ山口先生の、そしてハヤカワ編集部のコケンに関わるよね(汗)。以降の再版ではここ、直っているのでしょうか。

No.19 7点 レッドキング 2019/03/16 11:42
いいなあ。やっぱり本格ミステリには「密室」と「生首」が出てこなきゃなあ。
これ絶対、麻耶雄嵩「翼ある闇」や三津田信三「山魔の如き嗤うもの」のアイデア元ネタだろう。
にしても、ダミー解決の怒涛の波状が、ちとサービス過剰よ、クリスチアナさん。

No.18 9点 tider-tiger 2017/09/16 13:11
「わかった! この人は○○○なんだ!」
ユーモアミステリの傑作などと言ってみたい。
演劇的な作品だとも言ってみたい。
ページェントなるものがモチーフとなっているが、本作のキャラ造型やセリフ回し自体にどこか演劇的なものを感じる。シェイクスピアを想起させるようなセリフもあった。
故に小説的には少々馬鹿らしさも感じなくはない。これがガチガチの本格だったら、たぶん馬鹿らしさを感じてしまったと思う。

素晴らしいユーモアと素晴らしい本格要素が融合してとてつもない傑作になっている。
本格要素の凄さがユーモアのそれより、ほんのわずか上回っているかもしれない。
自由奔放な視点移動から真相に肉薄するような材料をバンバンさらしている。巨大な針の山に隠されたゼムクリップを探しているかのごとき状況に読者を追い込む。
ところどころ違和感はあったんですよ。なんで『目』に関する描写がやたらうるさいのか、とか。でも真相はまったくわかりませんでした。大胆というか、自信に溢れる書き方ですな。誤誘導がうますぎます。誤誘導というか混乱させられただけなのかもしれませんが。
※実は自分も斎藤警部さんと同じくあの人物が犯人だと考えておりました。たぶん僕たちは作者の思惑通りに読まされたような気がしますよ、警部殿。
第二の死体が出てきた時は笑いが止まらず。
自白する者後を絶たずの展開もかなり笑えました。
そして、あのトリック。この落差がなんとも。
連続自白は読者を混乱させるだけではなく、主眼は壮大なユーモアであったんだと自分は考えております。ここまで大胆にユーモアを織り込んで、それでも本格としてのバランスを危いながらも保ち、白けさせず、散々笑わせておいて本作の目玉ともいえる驚愕のトリック。怖すぎてまた笑ってしまう。傑作です。
人物造型もこの小説の狙い通り、物語に大いに貢献する的確なものであったと自分は思います。
弱点としては、若干の読み難さ。トリックの実現可能性に疑問。コッキーのキャラがいまいち弱い。まあ、ここまでの作品を提示されてしまうと、どうでもいいですね、こんなこと。

No.17 7点 ALFA 2017/03/19 10:56
「緑は危険」と並ぶブランドの代表作。トリックの精度はあちらのほうが上だが、作者らしいブラックな味が楽しめるのはこちら。
冒頭の「死」から七年後、殺人予告が次々に来て・・・とテンポよく展開する。
そして衝撃のクライマックス。
また本筋とは関係ないが、第二の死体発見のシーンは大いにウケた。
ところがそのあと展開はもたつき始める。ブラックなトリックが明かされる最終盤はさらに「散らかっている」。ここは切れ味鋭い刃物のような真相開示を期待したいところなのに。
コックリルもずいぶんもたついている。ポアロの真似をする必要はないが、何もここで読者をイラつかせることはないだろう。
人物の名前で遊ぶ作者の癖も困りもの。ネーミングに洒落があるのは結構だが、一人の人物を二、三通りに呼び変える癖にはイライラする。
イゼベルとブライアンは別として、ジョージ=マザーディアー、エドガー・ポート=シュガー・ダディなんてどうせ皮肉な呼び名なのだから、紛らわしいカタカナにせずに「ジョージ坊や」くらいに意訳すればいいのに。と訳者に八つ当たりしたくなる。
八つ当たりついでにさらに、例の人物の「訛り」の日本語訳には非常に違和感がある。あれでは訛りではなく別の方向にキャラがイメージされてしまう。
単なる日本語への置き換えではなく、日本語で作品を再創造するくらいの新訳が出たら評価は2ポイントは上がるところだ。
とはいってもブランド一流のブラックなキャラ満開のミステリ。未読の人にはお勧めです。

No.16 7点 sophia 2017/02/20 18:21
終盤に嘘を付く登場人物が続出して訳が分からなくなります。読み終わって思うのは、「あれ?赤騎士は結局誰だったの?」ということ。各人の証言のどこまでが本当でどこからが嘘かがはっきりしないから混乱します。ちょっと説明不足です。事件が起きたときの舞台上の人馬の動きもよく分からないんですよね。日本人には馴染みのない演劇だからでしょうか。あと、女流作家であれば男女の情愛をもっと深く描いてほしいと思いました。パーペチュアの故ジョニイへの思いがあまり感じ取れません。

No.15 9点 青い車 2016/10/11 00:20
 きわめて完璧に近い仕上がりです。衆人環視の殺人という魅惑的な題材に強く惹かれますし、華麗さとおぞましさが同居したトリックといい、ヒリヒリするほどスリリングな終盤といい、マニアを痺れさせる要素が詰まっています。また、消去されるダミー推理も何らかの根拠に基づいているところも手際の見事さが光っており、驚異的でした。『緑は危険』と並ぶブランドの傑作。

No.14 10点 nukkam 2016/09/24 16:00
(ネタバレなしです) 1949年に発表されたコックリル警部シリーズ第4作の本格派推理小説で「緑は危険」(1945年)と肩を並べる大傑作です。人間ドラマとしてはあちらの方が優れていると思います。本書の登場人物は個性的だけど魅力的じゃないんですね。嫌な人間か変な人間ばかりで感情移入できず、誰が犯人でも構わないという気持ちになりました。でもパズルとして凝っているのはこちらでしょう。本書は容疑者たちが次々に自白する場面が有名で、これが捜査陣と読者を混乱に陥れる効果は相当なものです。それからチェスタトンの某作品を連想させるあの大トリックにもしびれました。コックリルはさらりと説明していますが本当に凄いトリックです。なお「切られた首」(1941年)が作中でちょっとネタバレされているのでまだ未読の読者は気をつけて下さい。

No.13 7点 あびびび 2016/03/07 11:24
衆人の中の殺人事件。実にセンセーショナルな殺人だったが、密室にしろ、首切りにしろ、プロットがしっかりしていたので、読後感も良かった。

寡作な作家だけに、一冊、一冊が強烈な印象を受ける。

No.12 9点 あい 2016/03/01 01:12
何回も覆される推理が面白かった。特に最後の急展開はすごい迫力だったと思う。トリックもよく考えられていて感心した。

No.11 8点 ロマン 2015/10/20 20:01
舞台という衆人環視の密室殺人に対しこれでもかと仮説をぶつけては事実が跳ね返す堅牢な謎のつくり。事件の中で容疑者達の隠してきた一面が露わにされていく追い込み方がえげつない。終盤の容疑者全員の自白という超絶展開から推理とその崩壊の連続はクラクラするほど。真実の手前まで明かしつつ否定させるミスディレクション、象徴だったものに意味をもたらす大胆すぎるあれの使い方、極限まで作りこまれたパズラーミステリー。

No.10 9点 斎藤警部 2015/10/16 03:00
皆さん「戦慄のメイントリック」ってのは一体どっちの事を言っているの!? いやそれは分かっていますけどね、私としては、悪魔的行為を伴うちょっと複雑な衆人環視変形密室トリックより、シンプルで大胆な○○○○トリックの方が鳩尾(みぞおち)にずぅんと来た感じでね。だけど恐怖の密室トリックの方もね、後からじわじわじわ来るんだねえ。。これが。やっぱり終結部の畳み掛けと急展開とまさかの反転ですよ、この弾丸三銃士が一斉に攻めて来るんですもの、こりゃ胃がやられますよ。(終わりの方の自白合戦は山田風太郎の「十三角関係」を思わせますねえ)更に読後のじわじわ攻撃に晒されるでしょう、笑いじわの代わりに唸りじわが出来ちまうってな寸法なわけでげズよ。

そうそう、登場人物の名前がまた魅力的ですよね(ニックネームも含め)。悲劇の将校JOHNNY WIZE、いい気の貧乏役者は貴族でもないがEARL ANDERSON、くちばしの青いマザーディアーことジョージ、その母チャリティ(彼らの姓はX脚ならぬエクスマウス!)、ビッチレイと呼ばれちまう浅黒女ベッチレイ、素敵に可愛いパーペチュア(ペピィ)、アイソラのマイヤー・マイヤーを思わすブライアン・ブライアンは通称ブライアン・トゥー・タイムズ(ブライアンを二回)だが時々ブライアン・トゥワイス(ブライアンを二回)と間違えられる、シュガーダディことエドガー・ポートおじさんのミドルネームは果たしてアランなのか? そしてジェゼベル気取りの嫌われ者、豊満中年女イゼベルに,, コッキー。 一度もチャーリーとは呼ばれない若手のチャールズワース警部。。あと登場人物表に出て来ないコッキーの相談相手フランセスカ嬢。ビッド部長刑事も笑わせてくれた。


【ここからネタバレ】

わたしゃね、当初はチャリティ母さんが眞犯人かと睨んでしまったものですよ。唯一絶対的アリバイのある彼女がね。そういや彼女は登場人物表に名を連ねている割に存在感が。。だからこそ最後に実は。。。   

な~んて、ブランドさんは流石にそこまで安易な罠は張らないか。

【ここまでネタバレ】


んで、まさかねえ、その名前に大きな秘密を忍ばせてる人がいたなんてねぇ~ 見事な煙幕の張りっぷりに全く疑ってもみませんでジたよ、とね。

そういや途中けっこう多重解決の気だるい泥沼に片足突っ込んでたのも、思えばこの恐怖の結末を際立たせる為のミスディレクションだったんだねえ。
それとこの小説はよく“パズラーに徹した”と言われる様だけど、なかなかどうして強力な物語性を感じますけどね私は。人間ドラマはキツいくらい激しい暗黒世界じゃないですか。文章のタッチは明るいのにねえ。

あとやっぱり、クリスチアナさんのユーモア感覚は本当にいい。いちいち肌に合う。翻訳もいいんだろうきっと。思わず噴き出してしまったり、声に出して笑ってしまった箇所もいくつかあった。付き合いたかったなあ、若い頃の美人の彼女と。

No.9 7点 E-BANKER 2015/10/12 18:08
1949年発表の作品。
「緑は危険」「自宅にて急逝」などの代表作に続く作者の第五長編作品に当たる。

~『おまえは殺されるのだ!』。素人演劇の公演を前に、三人の出演者に不気味な死の予告が届く。これは単なる嫌がらせか? やがて舞台をライトが照らし出し、塔のバルコニーに出演者のひとり、豊満な肉体を誇る悪女ジェゼベルが進み出る。その体が前にのめり、異常なほどゆっくりと落下した。演者の騎士たちが見守る“密室状態”のなかで・・・。現場にいたコックリル警部は謎を解けるのか? 本格推理の限界を突破する圧巻のミステリー~

さすが作者の代表作と言っても差し支えないプロットの出来栄えではある。
何より「設定」が魅力的だ。
衆人環視の劇場が舞台、多くの目が見守るなかで発生する殺人事件。誰も被害者に近付けなかったという不可能状態。そして続けて起こった殺人、しかも首切り死体・・・
うーん。実にクラシカルで、本格の見本のような事件設定。

他の方も評しているとおり、ラストの畳み掛け方が圧巻。
ようやく解決に光が差し込んだと思われた矢先、容疑者が次々と自白していくという異常事態。
さしものコックリルも右往左往させられるなか、最後に炸裂するドンデン返し!
なるほど・・・これはプロットの勝利だ。
密室にしても、首切りにしても、典型というかまるで教科書のようなトリック。
新本格の作家なんかが書いてそうなトリックというと価値が下がりそうだけど、まぁそんな感じはする。

ここまで褒めてきたけど、敢えていうなら「表現ベタ」かな。
登場人物の造形も今ひとつピンとこないし、ラストの解決場面もトリックやプロットの切れ味に比して、どうも頭にスッと入ってこないというもどかしさは感じた。
(まぁそれは「緑は危険」の際も感じたことだが・・・)
でも、作者の代表作という位置付けには賛成。
読み継がれるべき佳作だと思う。

No.8 7点 mini 2014/11/26 09:56
今秋も恒例の早川と創元の復刊フェアが行なわれた、毎年思うのだが作品選定はどのような基準で決めているのか知りたいものだ、”もっと他に有るだろ(苦笑)”と毎回思うのでね
一応不満も有るんだけどただ今年はちょっと工夫が見られた
創元の昨年の復刊でフィルポッツなら全然レアじゃない「闇からの声」などより「溺死人」とか他に有るだろみたいに言ったら本当に今年はそれ出してきた(微笑)、当サイトでもTetchyさんが復刊版で既に書評済みです
そして早川では以前にR・L・フィッシュの「シュロック・ホームズ」くらいは現役本で読めるようにしろみたいにちょっとキツめに言ったら本当に復刊してくるとは(再笑)
まさか当サイトが影響したとは思えませぬが、もしもですね各出版社の編集部の皆様でたまたま当サイトを覗かれて復刊選定の参考になさっていらっしゃるのなら掲示板にでもお知らせ願いたいですね、さらなる参考意見をご披露いたします、当サイトには私以外にも各出版社に御意見のある方々はいらっしゃると思いますので

創元の復刊フェアについてはまた別の機会に言及するとして、早川の方はミステリー関連としては上述の「シュロック・ホームズ」とリレー長編の「漂う提督」、そしてブランドの「ジェゼベル」の3冊である

クリスチアナ・ブランドのピークは「緑」「急逝」「ジェゼベル」「霧」の中期4大名作であろう、後期の「はなれわざ」あたりだと欠点も目立つのでねえ
特に「緑は危険」と「ジェゼベルの死」は作者の2大傑作という意見が大勢である
以前だが某超有名ネット掲示板で、大きく差を付けて「ジェゼベル」>>>>>「緑は危険」みたいな評価をしている人が居たけど、きっとそいつはトリックにしか興味の無い奴だろうな
この2作は甲乙付け難い傑作である、いやむしろ端正なフーダニットという観点だけで評価するなら間違い無く「ジェゼベル」よりも「緑は危険」の方が上だ
全体の纏まりだと「緑は危険」に劣る「ジェゼベル」だが、その代わりに「ジェゼベル」には個性と衝撃度で傑作「緑は危険」をも凌駕する2つの武器が有る
その2つとは、終盤の真犯人の指摘場面での連続ひっくり返しと、もう1つは戦慄のあのトリックである
ただし前者は私は素直には評価していないのである、何ていうのかなぁ、”連続ひっくり返し”にもう1つキレが感じられないのだよなぁ、そういう要素だけなら私は「疑惑の霧」の方が上なのではと感じてしまう
それで私の評価では作者の2トップの比較では「緑は危険」の方が上なんだよね
ただし戦慄のトリックだけは評価している、初めて読んだ時にはびっくらこいたもん

ところで早川さん、今回は大してレアでもない「ジェゼベル」の復刊ですが、ブランドなら「自宅にて急逝」とコックリル初登場の「切られた首」の新訳文庫化を御願いしたい、ファンもそっちを望んでいるのではないかな

No.7 4点 蟷螂の斧 2014/10/11 10:29
(東西ベスト100の24位)読み込み不足か、理解力不足で今一ピンときませんでした。「緑は危険」同様、著者との相性は良くないですね(苦笑)。まず、見取り図(バルコニーの階段、部屋の状況)がないので殺害現場の状況が理解できなかったことです(情けない・・・)。そして登場人物の特に3人ぐらいの人物像が伝わってこないので、前記と合わせ、何がどうなっているのかよくわからないままの読書で、相当時間がかかりました。また、ある人物の妻が突然登場するのですが、その意味も分からないし・・・。トリックもかなり無理があるような気がしますのでこの評価としました。

No.6 7点 ボナンザ 2014/04/08 21:43
初めて読んだとき、なんだこれはと驚愕した。
凄まじい切れ味、これこそブランドの最高傑作だ。


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