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[ サスペンス ]
猫とねずみ
チャッキー警部
クリスチアナ・ブランド 出版月: 1959年01月 平均: 6.20点 書評数: 5件

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早川書房
1959年01月

早川書房
1983年01月

No.5 7点 2023/08/15 22:43
全編通して、ほぼ女性向雑誌の身の上相談係カティンカの視点から書かれた作品です。彼女が遭遇した得体のしれない事件で、その意味ではサスペンスに分類していいでしょう。しかし、彼女が雑誌への質問者「アミスタ」が誰なのかいろいろ推測していく終盤は、やはりブランドらしい仮説のたたみかけで、さらにその裏に潜む真相の明かし方の鮮やかさなど、伏線もしっかりしていてさすがの手際です。
また、登場人物紹介表では、カティンカと一緒にカーライアンの邸に来た男とされているチャッキー氏の正体が完全に明らかになるのは、全体の6割を過ぎてある人物が死んでからです。そのような構成も、本格派の作家らしいところでしょう。
ただ、擡げて・闌け・豁達・緩つくり…難読漢字クイズみたいですが、すべて本作に出て来るもので、特にゆっくりした最初の方は相当読みにくく、いくら初版が古い(1959)にしてもと思えました。

No.4 7点 ことは 2022/01/23 23:26
いやいや、サスペンスということと、他の高評価の作品群ほど評価をきかないので、それほどでもないのだろうと思っていたが、どうしてどうして、ブランド特有の仮説の繰り出しは、この作でも健在。
執筆時期をみると、「ジェゼベルの死」と「疑惑の霧」の間で、ブランド最盛期にあたる。それを考えると当然なのかもしれない。
ストーリー展開はサスペンスにふっているので、仮説の検証/質疑には時間をさいていないが、繰り出される仮説のダイナミズムは、同時期の傑作群との比較に耐え得ると思う。
雰囲気はゴシック色が強く、前半は「レベッカ」が思い起こされた。登場人物のおかれた状況(あの人のあの状況は嫌!)や、登場人物の描写(終盤のあの人はサイコパス!)など、怖いシーンも多く、そこは、かなり楽しめた。
ブランド好きならば、読んで損はありませんよ。

No.3 5点 nukkam 2017/11/26 05:59
(ネタバレなしです) 1950年発表の本書はハヤカワポケットブック版の裏表紙粗筋紹介では本格派推理小説と紹介されていますがかなりスリラー色の強い作品です。特に前半でヒロイン役の女性記者カティンカが自分の言うことを誰からも否定されて孤独感を強めていく場面はゴシック・スリラーに通じるところがあるように思います。第6章で謎の一部が明らかにされて風通しはよくなりますがまだまだ物語りは二転三転、登場人物はそれほど多くないのに誰もが怪しく見えてくるところはこの作者らしい巧さが光ります。劇的な結末も印象的です。色々な伏線を張っているところは本格派の名手である作者らしいのですが、サスペンス重視のためか謎解き説明が整理不十分に感じられてしまうのが惜しいところです。

No.2 6点 mini 2015/06/29 09:56
既に書店に在るかも知れないが、明日30日に創元文庫からクリスチアナ・ブランド「薔薇の輪」が刊行される、作者後期の作で探偵役は御馴染みのコックリル警部ではなくて「猫とねずみ」にも登場したチャッキー警部である

チャッキー警部が登場するのはその「猫とねずみ」と「薔薇の輪」のたった2作しかないが、この2作は大きく違う点がある
まずは書かれた年代で、「猫とねずみ」は作者が最も脂が乗っていた1950年の作で、1つ前が「ジェゼベルの死」、後続には「疑惑の霧」「はなれわざ」が書かれている
対して「薔薇の輪は」後期の1977年で27年ものタイムラグが有り、これ以降の翻訳作は「暗闇の薔薇」と昨年刊行されたゴシック風の「領主館の花嫁たち」くらいしかない
もう1つの差異は、「猫とねずみ」が普通にブランド名義だったのに対して、「薔薇の輪」はメアリー・アン・アッシュ名義で書かれている点で、しかもこのアッシュ名義には他にもう1作、「薔薇の輪」よりも先に書かれたノンシリーズ長編もあるからややこしい
D・カーとC・ディクスン名義のようにまぁ別名義というのは出版社との契約上の問題という大人の事情が絡む事もも多いのだが、別名義じゃない「猫とねずみ」に関しては単にこういうのが書きたかったという事なんだろうか

「猫とねずみ」の内容については当サイトでkanamoriさんが的確に御書評されているのであまり私が書くことも無いのだが、それにしてもブランドがこんなゴシックロマンスを書くのかと意外に思われる読者も居ると思うが、後期に「領主館の花嫁たち」を書いたりしているなど元々ブランドにはこうした嗜好が有ったのかも知れない
ところで「領主館の花嫁たち」は、当サイトに登録されていたと思うのですが、現在は消えているようです?

さて私が不思議に思ったのは、舞台に選んだのがウェールズという土地で、内容以外にコックリル警部を使い難かったのは、警察官だけに所轄上の縄張りという問題も有ったのだろうか
チャッキー警部は英国西部であるウェールズの地元の所轄だが、コックリルの本拠地ケント州はイングランドでも最東部の州だからねえ
それにしてもこのチャッキー警部、コックリルとはまた別の飄々とした味わいがあって、「緑は危険」や「ジェゼベル」に登場したら全く合わないが「猫とねずみ」にはたしかに合っている
うわっどんどん話が逸れちゃう、で私が不思議に思った理由は、作者の経歴がウェールズという土地に関係していると思えないからなのだ
現マレーシアで生まれインドで幼少期を過ごしたブランドだが、英国に移住してもウェールズとは縁が無さそうなのだ、日本で例えると、帰国子女が東京に居を構えたが、関西文化とかに興趣を感じてそこを舞台に小説を書いてみよう的な感じか
スコットランドとかじゃなくてウェールズというのは、土地柄がゴシック向きだったのだろうかね?、まぁスコットランドだとゴシックを通り越して魔法風になっちゃうからねえ(笑)

No.1 6点 kanamori 2014/02/28 20:26
雑誌社「乙女の友」で人生相談コーナーを受け持つ女性記者カティンカは、常連投稿者アミスタからの結婚を知らせる手紙を見て喜ぶ。ところが、休暇で故郷の村に帰ったカティンカが、アミスタが暮らす山深い館を訪ねると、「そんな女はいない」と誰もが口をそろえて告げるのだった-------。

発売中の「ミステリマガジン」4月号の特集は”乙女ミステリのススメ”で、小泉喜美子の短編やクレイグ・ライスのエッセイに並んで、「猫とねずみ」をテキストにした解説が掲載されている。”乙女ミステリ”とは、サスペンスにしろコージーにしろ、ゴシック小説にしろ、女性を主人公にしロマンスを重要な要素としたミステリということだろうと思う。
本書の基本構成は”ゴシック&ロマンス”ですが、「アミスタという女性はいったい誰で、どこにいるのか?」という謎が終始物語を引っ張ります。ゴシック・ミステリとしての隠された構図は割とありがちですが、アミスタの正体を巡って四転五転する多重推理的な展開はよく出来ていて、読者を引きずり回す技巧はやはりブランドらしいです。
また、ラストで明らかになるある女性の想いと行動は胸を打ちます。なるほど、だから”乙女ミステリ”かと思い至る真相です。


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