皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
YMYさん |
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平均点: 5.88点 | 書評数: 362件 |
No.362 | 6点 | 空軍輸送部隊の殺人- N・R・ドーズ | 2025/05/13 22:05 |
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英独間の空戦激化で男性パイロットだけでは頭数が足りなくなった一九四〇年。若い女性パイロットがケント州の空軍基地に集められ、輸送機操縦の任を与えられる。しかし操縦技能の高低に関わらず、女性であることを理由に戦闘機操縦は許されていない。そんな中、基地とその周辺で女性パイロットを狙った連続殺人が起きる。
本書の女性陣は、性差別に晒されるばかりか連続殺人の標的になり、困難、恐怖、悲嘆に見舞われる。だが決して快活さとユーモアを失わない。これに加えて、プロファイリングそれ自体が克明に描写される。リジーがパニック障害を持ちそれをどうやら隠しているのが良いアクセントとなり、分析自体にスリルが生じているのも大きいし、真相への伏線も十分。 |
No.361 | 8点 | 恐るべき太陽- ミシェル・ビュッシ | 2025/05/13 21:54 |
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ヒバオア島にあるバンガロー荘に五人の女性がやってきた。みなベストセラー作家ピエール=イヴ・フランソワが講師となった作家志望者のためのツアー参加者だった。
彼らはプロの小説家を目指し、ピエール=イヴが出す創作のための課題をこなしていく。最初のテーマは「死ぬ前にわたしは〇〇をしたい」だった。だが、やがて一人が姿を消した。島に集まった人々が一人ずつ消えていくという展開は、クリスティの「そして誰もいなくなった」を思わせる。とはいえ、一筋縄ではいかない企みが幾重にも仕掛けられている。 芸術家が愛した自然豊かな土地を巡る本作は、石の神像やタトゥ―の文様といったポリネシアならではの風俗や伝統が物語に取り込まれているため、独特の雰囲気が漂っている。バラバラに見えたパズルのピースが全て揃ったときに見える絵の驚きが見事に結末に待っている。 |
No.360 | 7点 | ランナウェイ- ハーラン・コーベン | 2025/04/29 22:01 |
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金融アナリストのサイモンの娘が薬物中毒になって失踪してから半年が経った。セントラルパークで偶然娘を見かけたことがきっかけで、彼は重大な事件に巻き込まれる。
探索行を続けるサイモンとは別に、二つの視点で叙述が行われる。父親の依頼で行方不明の息子を捜す私立探偵、そして依頼を受けて人を殺し続ける謎の二人組だ。 一見バラバラなこれらの語りは、物語のある時点で合流する。そこで明らかになる真相が興味深い。壮大な構図によってアメリカ社会の全体を照射する、手慣れのスリラーである。 |
No.359 | 7点 | ギャンブラーが多すぎる- ドナルド・E・ウェストレイク | 2025/04/29 21:56 |
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タクシー運転手のチェットが競馬の配当金を受け取ろうと訪ねたノミ屋は、何者かに殺されていた。警察に疑われ、二つのギャング団に狙われ、謎の女性にも銃を突きつけられたチェットは、真犯人捜しに動き出す。
スピーディかつ意外性に富んだ展開や気の利いた会話が抜群に愉快。終盤には関係者を一室に集めてチェットが推理を披露する場面もあったりして嬉しい限り。 |
No.358 | 6点 | ミステリアム- ディーン・クーンツ | 2025/04/17 21:48 |
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IQ186の少年と母が、妄執に囚われた殺人鬼、及び傲慢な大企業や官憲の悪意によって命を脅かされ続ける。
危機また危機で強烈にハラハラさせると同時に、特殊能力を持つ賢い犬の活躍を通じて、人と犬、人と人の交流の素晴らしさを浮き彫りにしていく。犬も含め視点は多いが、全員を活かしきって終止符を打つ。 |
No.357 | 7点 | 念入りに殺された男- エルザ・マルボ | 2025/04/17 21:42 |
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主婦のアレックスが営むペンションにゴンクール賞作家シャルル・ベリエがやってきて、危うくレイプされそうになり抵抗の勢いで相手を殺してしまう。だが自首などせずシャルル殺しの最も適当な犯人は誰かを探り、その人物に罪を着せようとする。
フランス作家らしく、皮肉が利いていてしたたか、そして実に大胆。 面白いのは、アレックスが挫折した元作家という設定で、なりすましているうちに邪な分身を見出して、作家としての真の実力に目覚める点だろう。中盤からはアレックスを追い詰める探偵も現れて、展開が二転三転するのもいい。窮地に立たされながら、犯人捜しを行い、予想外の終点へと突き進む。不思議なカタルシスを生み出す結末もお見事。 |
No.356 | 6点 | ロザムンドの死の迷宮- アリアナ・フランクリン | 2025/04/04 21:43 |
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時は十二世紀、イングランド王ヘンリー二世の愛人が毒を盛られ、王妃エレアノールに嫌疑がかかった。夫婦喧嘩が即戦争に発展しかねない危険な事件の真相に、異国から来た女医アデリアが迫る。
キリスト教の抑圧、女性蔑視、異国人への警戒、内乱勃発の危機、そして姿なき連続殺人犯。二重三重どころか四十五重に不利な状況下、知性と勇気を武器に謎と向かい合うアデリアの姿が魅力的。 |
No.355 | 7点 | 愚者の街- ロス・トーマス | 2025/04/04 21:37 |
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主人公は「セクション2」と呼ばれる組織の秘密諜報員。ところが香港でのミッションが予期せぬトラブルに見舞われ、からは三カ月ほど収監されることに。やがて手切れ金同然の退職金を手にした彼の前に現れたのが、都市専門のコンサル業を営む実業家だった。そこで彼は、アメリカ南部にある人口二十万人程度の街を腐らせてくれないかという奇妙な仕事を依頼される。
主人子はいかにして街を腐らせていくのか。これが実に突拍子もなく、しかしながら実際にあっても不思議ではない作戦で、人間関係を根底にしたコンゲームとなり読ませる。 |
No.354 | 6点 | 声- アーナルデュル・インドリダソン | 2025/03/23 22:33 |
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アイスランドを舞台にしたエーレンデュル捜査官シリーズの第四弾。
まずポイントになるのは、被害者グドロイグルの人生模様である。彼は少年時代に華々しく活躍しかけていたが、突如として転落し以後40年近くを細々と生き、クリスマスシーズンに、勤務先かつ居住所であるホテルの地下で殺害されてしまう。しかもサンタクロースの格好をして。 現在の孤独と栄光の過去の対比だけでも十分なのに、観光客やクリスマスの賑わいも加わり、寂寥感が鮮烈に印象付けられる。さらにエーレンデュル自身の苦難ある人生と、別件である子供の虐待事件のエピソードが、妙なる調和をもたらす。これらは、主筋のグドロイグル殺しとは出来事としてリンクしないが、内的・心理的・テーマ的には絶妙な関連を見せる。モジュラー型警察小説の醍醐味が味わえる。 |
No.353 | 6点 | 果てしなき輝きの果てに- リズ・ムーア | 2025/03/23 22:24 |
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女性パトロール警察のミッキーが、失踪した娼婦の妹・ケイシーを追いながら連続殺人事件の真相に迫る物語。
舞台はアメリカ東部のフィラデルフィアで、全米でも犯罪率の高い薬物蔓延の街であり、妹をはじめ重い麻薬中毒者ばかりが出てきて、いかに彼らと対峙し信頼を取り戻すことが出来るかを、過去と現在を往復しながら探っていく。注目すべきは、安易な妥協も人間性への甘い幻想も一切抱かずに家族の崩壊、秘密と嘘にまみれた犯罪を冷徹に直視している点だろう。だからこそ血縁を超えた本物の家族の肖像が、静かに確実に胸に刻み込まれる。 |
No.352 | 6点 | ニードレス通りの果ての家- カトリオナ・ウォード | 2025/03/11 21:58 |
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森のそばに猫と、そして時折訪れる娘と暮らす男には、湖で少女が姿を消した事件の容疑者とされた過去があった。精神に危ういものを孕んだ男の隣家にある日、越してきた女は実は失踪した少女の姉であり、男の秘密を暴こうと密かに目論んでいた。
複数の語り、視点が錯綜する物語全体の構図は、二重三重のどんでん返しまで含めて予想はつくかもしれない。それよりも亡き母を崇拝し、異教的な観念や対人コミュニケーション不全を抱えた怪物の悲痛な精神世界が圧倒的で読ませる。 |
No.351 | 7点 | 警部ヴィスティング 疑念- ヨルン・リーエル・ホルスト | 2025/03/11 21:53 |
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休暇中のヴィスティングのもとに、差出人不明の封書が届く。そこに書かれていたのは一連の数字のみ。それは一九九九年に起こった少女殺害事件の事件番号だった。されには第二、第三の手紙が送られてくる。いったい手紙の主は何を知らせようとしているのか。
この作品には実際にモデルとなった事件があり、作者は警察官時代に容疑者を逮捕したが、証拠不十分で無罪となり、以後「膿んで癒えることのない心の傷」を抱き続けてきたのだという。 作者の原点ともいえる本作は、そうした小さなもの、弱き者の尊厳を踏みにじる卑劣な犯罪者たちへの静かな怒りに満ちている。 |
No.350 | 7点 | キュレーターの殺人- M・W・クレイヴン | 2025/02/27 21:52 |
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クリスマスの時期、切断された人間の指が奇妙な場所から次々と発見され、現場には謎めいた文字列が残されていた事件。
やがて背後で暗躍する黒幕の存在が浮かび上がる。犯人探しの前に、なかなか全貌が見えない事件の捜査過程がスリリング。事件にまつわる謎とともに、終盤彼らに迫る危機により、サスペンスはさらに盛り上がる。テンポもよく一気に読ませる。 |
No.349 | 5点 | 怪物のゲーム- フェリクス・J・パルマ | 2025/02/27 21:44 |
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虚実の境界へと誘う大胆な趣向に満ちた小説。
スティーヴン・キング作品と通底する超自然的な恐怖や現実の暗黒さが横溢している一方、作中作「血と琥珀」の展開や妄想か現実か判然しない場面が続くなど、凝った仕掛けが設けられている。 |
No.348 | 5点 | 円周率の日に先生は死んだ- ヘザー・ヤング | 2025/02/12 21:37 |
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三月十四日という円周率の日に、貧しい中学生サルが、通学路で焼死体を発見する。死んでいたのは、街での大学教授を辞して片田舎に数学教師としてやってきたアダム・マークルだった。サルの態度に不審なものを感じた社会学教師のノラは、アダムの死を探り始める。
サルのパートはこれまでの数か月間を主に描き、ノラのパートは事件発覚後に彼女が行う調査を主に描く。この両面から、アダムの実相が徐々に姿を現すという寸法だ。サルは、いわばアダムに関与した、または関与された人物であり、事件関係者だ。一方、ノラは探偵役と言って差し支えない。ただし、ノラの視点だけ読んでも真相は見えてこないし、サルの視点だけではアダムの人生の全体像は完成しない。なかなか上手い機能分担と言える。 サルとノラがそれぞれ抱える深刻な事情が、物語に立体的な陰影をつけ、貧富の差、地域格差をも活用し、哀しい真実を炙りだす物語に仕上げている。しかし、小説としては優れているが、、ミステリとしては弱いので物足りなさが残る。 |
No.347 | 6点 | 殺したい子- イ・コンニム | 2025/02/12 21:24 |
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校舎裏で同級生ソウンを殺したとされる女子高生ジュヨンの刑事裁判を描いたサスペンス。
ジュヨン自らの視点のパートの合間に十八の異なる人物による証言が挟まれる。ジュヨンとソウンの性格と関係性が証言によって異なるのが特徴である。 二人は友達だったのか。貧しいソウンは裕福なジュヨンの下僕だったのか。ジュヨンは悪魔のような人間なのか。それとも殺人者だと報じられた彼女を証言者が付和雷同に叩いているだけか。真相や伏線それ自体よりも、事件の様相を何度も転調させる手並みに魅せられた。鋭いことを言う人物もいて、時々ハットさせられるのもいい。 |
No.346 | 7点 | 魔王の島- ジェローム・ルブリ | 2025/02/01 21:44 |
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新聞記者の視点から始まり、事件が起きて刑事の視点に移って警察小説となり、同時に精神分析ミステリの趣も濃くなり、途中はまるで少女ハードボイルドでもありと、物語は次から次へと変貌していく。それでいながら、しっかりと組み合わされていて、なおかつ物語をひっくり返していく。
終盤はどんでん返しの連続だが、それが登場人物たちの抱える悲しみを幾重にも照射して鮮やか。文学的技巧を凝らしたサイコ・サスペンス。 |
No.345 | 6点 | 噤みの家- リサ・ガードナー | 2025/02/01 21:37 |
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過去の監禁と射殺事件が現在の射殺事件と複雑に絡み合う物語で、細かい捻りが随所にあり、プロットの切れが堪らない。謎がいくつもあり、同時並行的に調査されていき、思いもかけない交錯をなして劇的な展開になる。
容赦ない現実の前で挫けつつも、前に進もうとする女性たちの姿が感動的。揺れ動く娘と母親の脇役も胸を激しく揺さぶる。 |
No.344 | 5点 | 偶然の犯罪- ジョン・ハットン | 2025/01/20 21:44 |
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ある牧師がヒッチハイクの娘を車に乗せてあげるのだが、その娘が車を降りた後に何者かに殺されてしまう。彼はある理由から娘を車に乗せたことを警察に言うことが出来ない。そのため予想もしなかった事態に巻き込まれる。
特に大きな事件であるとか、トリックが仕掛けられているわけではなく、凄く地味なのだが彼女がだんだん不安になっていくこの立場は、いつ自分が陥ってもおかしくない、そんな怖さがある。その辺が現実的で、結末もきれいに落ち着いている。 |
No.343 | 5点 | シリア・サンクション- ドン・ベントレー | 2025/01/20 21:39 |
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国防情報局のドレイクは、三カ月前に仲間が片腕を失い、自身も心に深く傷を負ったシリアへの再潜入を決意した。新型化学兵器のカギを握る科学者を確保し、囚われた仲間を奪還するために。
ドレイクが次々と難題に立ち向かっていく冒険活劇。知略と胆力でそれを乗り越えていく様も、時々顔を出す洋楽の活かし方も痛快。さらに米国大統領選を巡る暗闘も描いており、その攻防も刺激的だし、それがシリアに影響を与える造りも巧い。 |