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YMYさん
平均点: 5.91点 書評数: 386件

プロフィール高評価と近い人 | 書評 | おすすめ

No.386 6点 夕陽の道を北へゆけ- ジャニーン・カミンズ 2025/09/23 21:14
家族16人を殺されて、たまたま助かった主人公の母子は、マフィアから逃げるためアメリカを目指す。
母国を捨てて逃げるしかなかった人々の過酷な現実が、瑞々しい筆致で鮮やかに描かれている。心理描写が極めて繊細なのも効果を倍加している。

No.385 6点 わが母なるロージー- ピエール・ルメートル 2025/09/23 21:11
パリの街中で第一次大戦当時の砲弾が爆発し、警察に出頭してきた青年は、残り六つの砲弾を一日ずつ爆発させると告げる。
タイトルにあるロージーというキャラクターをもっと掘り下げて欲しかったという不満はあるが、容疑者の真意を巡る謎解き、意表を突く捻りが仕掛けられたタイムリミットサスペンスの構図、鮮烈なラストと幾重にも趣向を凝らしている。

No.384 6点 議会に死体- ヘンリー・ウエイド 2025/09/02 21:40
クウェンバラ市が計画中の公営住宅建設予定地が買い占められ、地価は数倍に高騰していた。財政委員長のトラント参事会員は当局者の機密漏洩を疑い、議会で不正の追求を宣言するとともに、アーシントン市長の個人攻撃に及ぶ発言を行ったが、休憩中の議場に一人残っていた彼の刺殺体が発見された。机上の書類に血で「MA」と読める文字が記されていた。
事件現場の見取り図や関係者の行動時間行動表が掲げられ、ダイイング・メッセージ、アリバイトリック、巧妙な伏線やミスディレクションに意外な犯人と本格ミステリ特有の仕掛けや趣向が満載。
格別、目を引くトリック等があるわけではないので華やかさには乏しいが、堅実な構成と細部の技巧に支えられた仕上がりは抜群。

No.383 7点 冬そして夜- S・J・ローザン 2025/09/02 21:31
私立探偵ビル・スミスのもとに警察から電話が来た。補導された少年が身元引受人としてビルの名前を出したというのだ。駆け付けたビルは、その少年が妹の息子・ゲイリーだと知って驚く。
本書で描かれるのはコミュニティ内の同調圧力。一つの価値観を信じて疑わない地域社会の歪みがもたらした悲劇は、この時代に書かれたとは思えないくらい現代社会を照射している。もう一つの特徴は、シリーズで初めてビルの過去が明かされるという点にある。これまで蓋をしてきた自らの家庭の問題に向き合う。その原因がそのまま本書のテーマに結びつく構成は見事。

No.382 7点 まるで天使のような- マーガレット・ミラー 2025/08/24 21:31
新興宗教の教団の尼僧からオゥゴーマンなる人物の身辺調査を頼まれた私立探偵のクインは、ある町で起きた過去の事件の掘り起こしにかかるが、それを望まない人間もいるようだった。
私立探偵小説とサスペンス、さらには本格ミステリが混然一体となった充実した内容である。新興宗教の内幕の不気味さと、そこに救いを求めざるを得ない人々の悲しさが胸に迫る。

No.381 7点 殺す風- マーガレット・ミラー 2025/08/24 21:27
ロン・ギャロウェイの失踪で幕を開け、しばらくは夫婦間の愛憎を中心とした人間関係のドラマが続く。
物語が中盤以降になると、ようやく死体が発見されるが、何が謎なのかよく分からないまま進むうちに、鮮やかな構図の転換があってミステリとして収束する。練り上げられ、計算尽くされたプロットが素晴らしい。

No.380 6点 警察官よ汝を守れ- ヘンリー・ウエイド 2025/08/13 21:37
警察本部内で執務中の本部長が射殺されるというセンセーショナルな事件を扱っているが、プール警部は試行錯誤を繰り返しながら地道に捜査を進めていく。その描写はリアルで手掛かりの提示もフェア。
警察小説的要素が濃厚で、組織内の人間関係やヤードと地方警察の関係、その中でのプールの立場と動き方などが興味深く描かれている。
動機と機会が一人の人物に重なった時点で犯人はほぼ特定されるため、謎解きの妙味はやや欠けるとことがあるが、よく練られたプロットと的確な人物造形に支えられた物語である。

No.379 5点 夜、僕らは輪になって歩く- ダニエル・アラルコン 2025/08/13 21:31
些細な嘘が誘因となって思いも寄らぬ展開を見せる物語が推進力となり、冒頭から臭わされる悲劇的な結末に対する興味と、語り手を務める「僕」が誰なのかという謎なのかといいう謎が牽引力となり一気にページをめくってしまう。
「劇の世界に入り込み、自分の人生から逃れる」ことを求めた者たちの織り成す、愛と死と謎が絡み合った物語。

No.378 8点 レアンダの英雄- アンドリュウ・ガーヴ 2025/08/01 21:40
英国の植民地スパイロス島のお独立運動の指導者アレグザンダー・カステラが英国政府に逮捕され、インド洋の孤島ユルーズに幽閉された。そのカステラをヨットで救出せよ。報酬金は現金二万ドルとヨット一艘。ヨットの魅力に抗しきれず、コンウェイは引き受け、レアンダを助手にセイリングを開始した。
セイリングの魅力が語られるが、読みどころは絶海にたった一艘浮かんだヨットという限定された状況下の人間模様の面白さ。航海中遭遇する様々な自然の猛威は、狭いヨットの中の人間関係に影響を及ぼす。その人間関係の緊張がサスペンスを生み、意外なドラマを展開している。

No.377 9点 ジェゼベルの死- クリスチアナ・ブランド 2025/08/01 21:32
ジョゼベルと呼ばれた悪女が何者かに殺された。舞台の表では何千という観衆の目があり、裏では鍵のおりた扉の前に張り番がいる。容疑者は騎士の扮装をした舞台にいた数人の男たちということになるが、物理的には不可能。
不可解な謎、巧妙な伏線、ミスディレクション、レッド・へリング操作など、あらゆる謎解きもののテクニックを駆使していて、複雑なパズルが構築されている。容疑者全員が自白するという狂気の大円団のあと、最後に暴かれる不可能犯罪のトリックは悪魔的な大胆さを持っている。こんな大胆なトリックでありながら、プロットから遊離しておらず、有機的に結びつきを見せている点にセンスの良さを感じる。

No.376 5点 悪魔はいつもそこに- ドナルド・レイ・ポロック 2025/07/23 22:31
一九六〇年代のオハイオ州南部の田舎町を舞台に、幼くして父母を亡くした青年が、狂気と暴力の世界にからめとられていく様を描く。
聖職者の振りをして女性を食い物にする牧師や死体写真を集める殺人鬼夫婦など、タブーの遥か向こう側へと渡ってしまった人間たちがひしめき、作品全体が禍々しい妖気を放っている。

No.375 6点 七つの裏切り- ポール・ケイン 2025/07/23 22:27
禁酒法時代の米国を舞台に、内面描写も状況説明も極限まで削ぎ落した文体で複雑な人間関係の変化を綴った7編が収録されている。
理髪店での爆弾騒ぎから列車上の殺人へと続く最終話に代表される硬派な犯罪小説が並ぶが、中には裏切りと嘘と暴力の果てにユーモアが滲む1編も混じる。

No.374 6点 転落- アルベール・カミュ 2025/07/12 21:27
アムステルダムのバーで初対面の男性に話しかけてくるフランス人の男性は、パリで弁護士をしていたという自らの生活を語っていく。殺人や性といった三面記事のような要素をふんだんに盛り込みつつ、気が付けばその男性が転落していく様を見たいと思うように読者に仕向けてくる。
露悪的な一人語りでラストまで突き進む。冗舌な語り口に搦めとられた先には、人の生を見つめざるを得ない冷ややかな瞬間が待っている。

No.373 7点 トゥルー・クライム・ストーリー- ジョセフ・ノックス 2025/07/12 21:22
マンチェスター大学の学生寮から女子学生が失踪した事件と、イヴリン・ミッチェルという作家が取材し執筆した犯罪ノンフィクションの形式で綴られている。
犯罪実録を模した小説自体は珍しいものではないが、本書では事件関係者の顔写真やフェイスブックの投稿などが挿入され、さらには著者自身が編者として登場するなど、現実と虚構の境界を崩すような仕掛けが随所に施されている。終始、読者を不安に追い込む筆致が見事。

No.372 8点 第八の探偵- アレックス・パヴェージ 2025/07/03 21:31
作中作となる七つの短編と、それらをつなぐ現在視点パートからなる。作中作は、グラントという男が四半世紀以上前に著した私家版の収録作であり、彼独自のミステリ理論の実例として書かれたもの。現在パートは、その私家版のリニューアル出版に向けた編集者の活動が中心だ。
短編での犯人推理、グラントの数学的視点でミステリ理論、さらに編集者の奮闘の三つを贅沢に愉しむことが出来る。この三位一体は後半で変化するが、それもまた本書の凄みである。

No.371 6点 オクトーバー・リスト- ジェフリー・ディーヴァー 2025/07/03 21:25
三日間の出来事を三十六の章で綴ったサスペンス。
最大の特徴は、その章が時間を遡る順位並んでいる点。巻頭に置かれた最終章で誘拐事件が進行中らしいことが読者に提示され、その後小刻みに過去に戻りつつ、警察など関係者の動きが示されていく。各章とも緊迫感があり、章の連鎖に仕込まれた意外性も絶妙。細部に仕込まれた作者の企みを満喫できる。

No.370 7点 スモールボーン氏は不在- マイケル・ギルバート 2025/06/24 21:32
物語は事務所の創立者であり所長であったエイブル・ホニーマンが、晩餐会の席で共同経営者たちに褒めたたえられるところから始まる。間もなくホーニマンの顧客の一人で、イカボット・ストークス信託共同管財人をしている男が、ホニーマンの事務所の書類保管箱の中で死んでいるのが発見される。
見事なキャラクターの配置、次々に出てくる容疑者、巧妙なプロット、そしてぞくぞくする結末。弁護士という職業に対する作者の皮肉な描写が光る作品。

No.369 7点 検察官の遺言- 紫金陳 2025/06/24 21:24
二〇一三年、地下鉄の駅で不審な男が拘束される。所持していたスーツケースを警官が開けると、中には全裸死体が。捕まった男は刑事弁護士で、遺体は検察官。お互い十年来の知り合いだったが、関係がこじれ殺害、死体遺棄を試みたという。ところが後日の法廷で犯人の刑事弁護士が証言を翻し、突然無罪を主張する。この不可解な行動の裏には、どのような意図が秘められているのか。
真相を追わずにいられないインパクト抜群の謎を起点に、悪しき階級、序列社会、腐敗した社会の闇が、正しき者たちを冒していく痛ましさには胸を痛めずにはいられない。だが本作は、非情な現実を暴き、読み手に突きつけるだけの作品ではない。悪に屈することなく、戦いを挑む者たちの人生を映した胸を熱くさせる物語なのだ。

No.368 5点 幽霊ホテルからの手紙- 蔡駿 2025/06/15 22:08
死んだ女優に謎の木匣を託された作家が向かった海辺の古ホテルはかつて陰惨な事件が繰り返され、幽霊客桟と呼ばれて地元住民からは忌避されていた。奇怪な使用人や、訳ありげな宿泊客たちに混じって逗留する作家の前に、やがて怪異が起こり始める。
墓が建ち並ぶ荒涼とした英国ゴシック的な海辺の風景と、中国の古典楽劇にまつわる因縁譚が骨がらみ、さらにはミステリ趣向やメタ的仕掛けまで盛り込んだモダンホラー。

No.367 5点 原野の館- ダフネ・デュ・モーリア 2025/06/15 22:04
十九世紀、イギリス南西部コーンウォールの人里離れた宿屋を舞台に、邪悪な陰謀と恐怖がヒロインに襲いかかる。
崇高な自然の猛威、悪漢たちの暗躍、危険なロマンスと、ゴシック文字のしびれる魅力がてんこ盛り。粗暴な男たちの脅しに負けないヒロインの威勢の良さも胸が空く。ぞくぞくするスリルを味わえる。

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