皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
YMYさん |
|
---|---|
平均点: 5.86点 | 書評数: 354件 |
No.354 | 6点 | 声- アーナルデュル・インドリダソン | 2025/03/23 22:33 |
---|---|---|---|
アイスランドを舞台にしたエーレンデュル捜査官シリーズの第四弾。
まずポイントになるのは、被害者グドロイグルの人生模様である。彼は少年時代に華々しく活躍しかけていたが、突如として転落し以後40年近くを細々と生き、クリスマスシーズンに、勤務先かつ居住所であるホテルの地下で殺害されてしまう。しかもサンタクロースの格好をして。 現在の孤独と栄光の過去の対比だけでも十分なのに、観光客やクリスマスの賑わいも加わり、寂寥感が鮮烈に印象付けられる。さらにエーレンデュル自身の苦難ある人生と、別件である子供の虐待事件のエピソードが、妙なる調和をもたらす。これらは、主筋のグドロイグル殺しとは出来事としてリンクしないが、内的・心理的・テーマ的には絶妙な関連を見せる。モジュラー型警察小説の醍醐味が味わえる。 |
No.353 | 6点 | 果てしなき輝きの果てに- リズ・ムーア | 2025/03/23 22:24 |
---|---|---|---|
女性パトロール警察のミッキーが、失踪した娼婦の妹・ケイシーを追いながら連続殺人事件の真相に迫る物語。
舞台はアメリカ東部のフィラデルフィアで、全米でも犯罪率の高い薬物蔓延の街であり、妹をはじめ重い麻薬中毒者ばかりが出てきて、いかに彼らと対峙し信頼を取り戻すことが出来るかを、過去と現在を往復しながら探っていく。注目すべきは、安易な妥協も人間性への甘い幻想も一切抱かずに家族の崩壊、秘密と嘘にまみれた犯罪を冷徹に直視している点だろう。だからこそ血縁を超えた本物の家族の肖像が、静かに確実に胸に刻み込まれる。 |
No.352 | 6点 | ニードレス通りの果ての家- カトリオナ・ウォード | 2025/03/11 21:58 |
---|---|---|---|
森のそばに猫と、そして時折訪れる娘と暮らす男には、湖で少女が姿を消した事件の容疑者とされた過去があった。精神に危ういものを孕んだ男の隣家にある日、越してきた女は実は失踪した少女の姉であり、男の秘密を暴こうと密かに目論んでいた。
複数の語り、視点が錯綜する物語全体の構図は、二重三重のどんでん返しまで含めて予想はつくかもしれない。それよりも亡き母を崇拝し、異教的な観念や対人コミュニケーション不全を抱えた怪物の悲痛な精神世界が圧倒的で読ませる。 |
No.351 | 7点 | 警部ヴィスティング 疑念- ヨルン・リーエル・ホルスト | 2025/03/11 21:53 |
---|---|---|---|
休暇中のヴィスティングのもとに、差出人不明の封書が届く。そこに書かれていたのは一連の数字のみ。それは一九九九年に起こった少女殺害事件の事件番号だった。されには第二、第三の手紙が送られてくる。いったい手紙の主は何を知らせようとしているのか。
この作品には実際にモデルとなった事件があり、作者は警察官時代に容疑者を逮捕したが、証拠不十分で無罪となり、以後「膿んで癒えることのない心の傷」を抱き続けてきたのだという。 作者の原点ともいえる本作は、そうした小さなもの、弱き者の尊厳を踏みにじる卑劣な犯罪者たちへの静かな怒りに満ちている。 |
No.350 | 7点 | キュレーターの殺人- M・W・クレイヴン | 2025/02/27 21:52 |
---|---|---|---|
クリスマスの時期、切断された人間の指が奇妙な場所から次々と発見され、現場には謎めいた文字列が残されていた事件。
やがて背後で暗躍する黒幕の存在が浮かび上がる。犯人探しの前に、なかなか全貌が見えない事件の捜査過程がスリリング。事件にまつわる謎とともに、終盤彼らに迫る危機により、サスペンスはさらに盛り上がる。テンポもよく一気に読ませる。 |
No.349 | 5点 | 怪物のゲーム- フェリクス・J・パルマ | 2025/02/27 21:44 |
---|---|---|---|
虚実の境界へと誘う大胆な趣向に満ちた小説。
スティーヴン・キング作品と通底する超自然的な恐怖や現実の暗黒さが横溢している一方、作中作「血と琥珀」の展開や妄想か現実か判然しない場面が続くなど、凝った仕掛けが設けられている。 |
No.348 | 5点 | 円周率の日に先生は死んだ- ヘザー・ヤング | 2025/02/12 21:37 |
---|---|---|---|
三月十四日という円周率の日に、貧しい中学生サルが、通学路で焼死体を発見する。死んでいたのは、街での大学教授を辞して片田舎に数学教師としてやってきたアダム・マークルだった。サルの態度に不審なものを感じた社会学教師のノラは、アダムの死を探り始める。
サルのパートはこれまでの数か月間を主に描き、ノラのパートは事件発覚後に彼女が行う調査を主に描く。この両面から、アダムの実相が徐々に姿を現すという寸法だ。サルは、いわばアダムに関与した、または関与された人物であり、事件関係者だ。一方、ノラは探偵役と言って差し支えない。ただし、ノラの視点だけ読んでも真相は見えてこないし、サルの視点だけではアダムの人生の全体像は完成しない。なかなか上手い機能分担と言える。 サルとノラがそれぞれ抱える深刻な事情が、物語に立体的な陰影をつけ、貧富の差、地域格差をも活用し、哀しい真実を炙りだす物語に仕上げている。しかし、小説としては優れているが、、ミステリとしては弱いので物足りなさが残る。 |
No.347 | 6点 | 殺したい子- イ・コンニム | 2025/02/12 21:24 |
---|---|---|---|
校舎裏で同級生ソウンを殺したとされる女子高生ジュヨンの刑事裁判を描いたサスペンス。
ジュヨン自らの視点のパートの合間に十八の異なる人物による証言が挟まれる。ジュヨンとソウンの性格と関係性が証言によって異なるのが特徴である。 二人は友達だったのか。貧しいソウンは裕福なジュヨンの下僕だったのか。ジュヨンは悪魔のような人間なのか。それとも殺人者だと報じられた彼女を証言者が付和雷同に叩いているだけか。真相や伏線それ自体よりも、事件の様相を何度も転調させる手並みに魅せられた。鋭いことを言う人物もいて、時々ハットさせられるのもいい。 |
No.346 | 7点 | 魔王の島- ジェローム・ルブリ | 2025/02/01 21:44 |
---|---|---|---|
新聞記者の視点から始まり、事件が起きて刑事の視点に移って警察小説となり、同時に精神分析ミステリの趣も濃くなり、途中はまるで少女ハードボイルドでもありと、物語は次から次へと変貌していく。それでいながら、しっかりと組み合わされていて、なおかつ物語をひっくり返していく。
終盤はどんでん返しの連続だが、それが登場人物たちの抱える悲しみを幾重にも照射して鮮やか。文学的技巧を凝らしたサイコ・サスペンス。 |
No.345 | 6点 | 噤みの家- リサ・ガードナー | 2025/02/01 21:37 |
---|---|---|---|
過去の監禁と射殺事件が現在の射殺事件と複雑に絡み合う物語で、細かい捻りが随所にあり、プロットの切れが堪らない。謎がいくつもあり、同時並行的に調査されていき、思いもかけない交錯をなして劇的な展開になる。
容赦ない現実の前で挫けつつも、前に進もうとする女性たちの姿が感動的。揺れ動く娘と母親の脇役も胸を激しく揺さぶる。 |
No.344 | 5点 | 偶然の犯罪- ジョン・ハットン | 2025/01/20 21:44 |
---|---|---|---|
ある牧師がヒッチハイクの娘を車に乗せてあげるのだが、その娘が車を降りた後に何者かに殺されてしまう。彼はある理由から娘を車に乗せたことを警察に言うことが出来ない。そのため予想もしなかった事態に巻き込まれる。
特に大きな事件であるとか、トリックが仕掛けられているわけではなく、凄く地味なのだが彼女がだんだん不安になっていくこの立場は、いつ自分が陥ってもおかしくない、そんな怖さがある。その辺が現実的で、結末もきれいに落ち着いている。 |
No.343 | 5点 | シリア・サンクション- ドン・ベントレー | 2025/01/20 21:39 |
---|---|---|---|
国防情報局のドレイクは、三カ月前に仲間が片腕を失い、自身も心に深く傷を負ったシリアへの再潜入を決意した。新型化学兵器のカギを握る科学者を確保し、囚われた仲間を奪還するために。
ドレイクが次々と難題に立ち向かっていく冒険活劇。知略と胆力でそれを乗り越えていく様も、時々顔を出す洋楽の活かし方も痛快。さらに米国大統領選を巡る暗闘も描いており、その攻防も刺激的だし、それがシリアに影響を与える造りも巧い。 |
No.342 | 6点 | 影の子- デイヴィッド・ヤング | 2025/01/07 21:45 |
---|---|---|---|
一九七五年二月、東ベルリンの壁に隣接する墓地で顔面を損壊された少女の遺体が発見され、人民警察のカーリン中尉は、国家保安省の中佐から、少女の身元を突き止めるとともに、「東側に脱出しようとしたところを西側の警備兵に射殺された」という筋書きを裏付ける証拠を見つけるようにと命令される。万一矛盾する場合は、他言無用という釘を刺された上で。青少年労働施設への派遣から復帰後に人が変わってしまった夫との仲がぎくしゃくし、公私とともにトラブルの予感を覚えつつ捜査を進めるカーリンは、徐々に東ドイツの中枢に潜む暗部へと足を踏み入れてしまう。
「この事件には秘密が多すぎる。嘘が多すぎる。なにを信じたものか、誰を信じたものかもわからない」と彼女が述懐するように、冷戦下の共産主義国家という特異な環境下の警察捜査小説として幕を開けた物語は、やがて諜報小説の色合いを強くしていく。その一方で謎解きミステリとしての興趣も盛り込まれた野心的で骨太なミステリだ。 東ドイツの体制に肯定的な主人公という設定も面白い。彼女の信条が、次回作以降変化していくのか、という点も興味深い。 |
No.341 | 6点 | 寝煙草の危険- マリアーナ・エンリケス | 2025/01/07 21:35 |
---|---|---|---|
つきまとう赤子の幽霊、湧水池に祀られる謎の聖母、貧しい老人の呪い、民間魔女、悪魔憑き、都市と古いホテルに跳梁する子供や女の霊といったスタンダードな怪異に加え、心音への執着や屍肉食などの異常心理をモチーフに、個が抱くそれぞれの不安や疎外感を恐怖へと結晶化するのみならず、アルゼンチンを主とするスペイン語圏社会のさまざまな問題をも浮かび上がらせる手つきが見事。
中でも出色なのは、失踪した子供たちが突如大量に当時のままの姿で還ってくる「戻ってくる子供たち」と、少女たちのウィジャボードが軍政下の恐怖政治を映し出す「わたしたちが死者と話していたとき」。社会という構造がはらむ大きな恐怖と、その中で生きる個人の小さな恐怖が融合している。 |
No.340 | 5点 | ロンドンガール・ハードボイルド- コートニー・サマーズ | 2024/12/12 22:18 |
---|---|---|---|
妹を義父に殺害された十九歳の少女・セイディは、復讐の決意を固めて姿を消す。事件を注視してきたラジオのDJのマクレイは、さらなる悲劇を防ごうとして彼女を追跡する。
アメリカ探偵作家クラブ賞など複数の栄誉に輝いた本作は、暴力の犠牲になるのが常に女性や未成年者など弱者であることに抗議の声を上げ、反撃を試みようとする物語だ。 |
No.339 | 5点 | ガン・ストリート・ガール- エイドリアン・マッキンティ | 2024/12/12 22:14 |
---|---|---|---|
政治的対立が激化し、テロが頻発していた一九八五年の北アイルランドが舞台。
二重殺人事件を担当した王立アルスター警察隊のはみ出し者・ショーン・ダフィ警部補が、容疑者らが次々に自殺してしまうという異常な事態に遭遇する。 ここで描かれているのは当時の北アイルランドでしか起きなかったはずの事件であり、人間の本質的な愚かさを痛感させられることになる。 |
No.338 | 5点 | 氷結- ベルナール・ミニエ | 2024/11/30 22:53 |
---|---|---|---|
舞台は雪と氷に閉ざされたピレネー山脈。物語は標高二千メートルにある水力発電所へと通じるロープウェイの山頂駅で、皮を剝がれ首を切断されて吊るされた馬の死体が発見されるセンセーショナルなシーンで幕を開ける。しかも現場には、山腹の精神医療研究所に厳重に隔離されているシリアル・キラーのDNAが残されていた。そして連続殺人が始まる。
マーラーを愛聴しラテン語の名言を暗唱する、馬と山と高所とスピード恐怖症のセルヴァズ警部が、美しき憲兵隊大尉とコンビを組んで、厳冬の冬山と谷間の小さな町を命懸けで奔走する。 ぞくぞくする猟奇性と、思わずニヤリとしてしまう真相とを兼ね備え、頻繁に視点を切り替えてスピーディーに展開する。やや盛りすぎの感はあるが、デビュー作としては合格点だろう。 |
No.337 | 6点 | 七人目の陪審員- フランシス・ディドロ | 2024/11/30 22:44 |
---|---|---|---|
主人公のグレゴワールは、街の薬局店主でどこにもいそうな平凡な人物である。ところが、ふとしたきっかけで若いローラを殺害してしまう。やがて粗暴な青年・アランが殺人犯として逮捕され、裁判にかけられることになる。彼が犯人でないことを知るグレゴワールは苦悩し、何度か自白しようとするが上手くいかない。そうするうちに、グレゴワールはその裁判の陪審員に選任されかける。
主人公の意識を追う形式で綴られ、グレゴワールはアランが極刑に処されるのを回避しようと必死に手を尽くす。だがその試行錯誤はなかなか実らず、その右往左往ぶりが実に楽しい。状況はシリアスで緊迫感すらあるが、ユーモアは否定しようもない。そしてラストには、ある意味強烈で皮肉な結末が待ち構えている。 |
No.336 | 7点 | パリのアパルトマン- ギヨーム・ミュッソ | 2024/11/18 23:01 |
---|---|---|---|
舞台はクリスマス間近のパリ。厭世的で人間嫌いの劇作家の男と心身共に傷ついた元刑事の女が、心ならずも同じアパルトマンで暮らすことになる。そこは天才画家が遺したアトリエ。
急逝したコンテンポラリー・アート界の寵児が遺した未発見の遺体三点を巡る、美と愛と創造と破壊の物語であると同時に、父性と母性の物語でもある本書は、登場人物の屈託と罪悪感、そして自己救済を望む心が事態を動かし、邪悪な存在を暴き出し、思いもよらない結末へと至る。 重めのテーマを核としながら、愛とユーモアに富んだ読後感の良いエンターテインメントに仕上げているのが作者らしい。 |
No.335 | 6点 | 戦下の淡き光- マイケル・オンダ―チェ | 2024/11/18 22:49 |
---|---|---|---|
戦後間もない混沌たるロンドンで、否応なく大人の世界に組み込まれた十四歳の少年ナサニエルが、家族の外に広がる現実に触れ、愛を知り成長していく物語であると同時に、唐突に断ち切られてしまった瑞々しくも猥雑な青春期の謎に満ちた体験をあらためて目撃するために、過去へと遡る青年の物語である。
事実と空想が渾然一体となり、寓話にも通じる複数の視点からあり得たと思われる人生を解き明かしていく。ストイックな戦争文学であり、キラキラと輝く青春小説であり、秘密と謀計のベールを剥がしていく探索の物語である。 |