皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
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YMYさん |
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| 平均点: 5.91点 | 書評数: 392件 |
| No.392 | 6点 | 狼は天使の匂い- デイヴィッド・グーディス | 2025/11/13 21:39 |
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| 警察に追われ、フィラデルフィアに逃亡してきたハートは、寒さをしのぐためコートを盗む。店から逃げる途中、強盗チームの内輪もめ殺人の現場に立ち会い、一味の一人を負傷させるものの、彼らに捕まえられる。ところが、ボスに度胸と頭を見込まれ、一味に加わる。
犯罪計画そのものよりも、閉鎖的な人間関係に重きを置き、そこでの主人公の心境を丁寧に描いている。アウトローにならざるを得ない人間が、犯罪に手を染めることで破滅していく。本書は二人称を多用し、内面描写が多い。そのあたりに作者の甘さと通俗性がある。 |
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| No.391 | 7点 | 九尾の猫- エラリイ・クイーン | 2025/11/13 21:33 |
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| ニューヨークで発生した連続絞殺魔事件に対し、市はどのように対応するのか、そして大衆はどんな行動をとるのかが物語の中心となっている。
古典的な殺人事件の謎解きというよりも犯人追跡の趣を持った心理ミステリで、精神分析という当時はまだ新しかった分野を積極的に取り入れ、その理論を物語のあちこちに注意深く織り交ぜている。 サスペンス性に富み、多彩なキャラクターとサブプロット、そして結末も素晴らしい。 |
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| No.390 | 5点 | ナッシング・マン- キャサリン・ライアン・ハワード | 2025/10/30 21:23 |
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| ショッピング・モールで警備員を務めるジム・ドイルは、かつて「ナッシング・マン」と世間で呼ばれた連続殺人鬼だった。警察に捕まらず平穏な日々を過ごしていた彼は、ナッシングマン事件の生き残りである女性が一連の事件を取材した本を出版したことを知り戦々恐々とする。
殺人鬼が自身の犯行を検証する実録本を読む、という何とも奇妙な二重構造が面白い。謎を追うスリルと、読み手の不安を煽るサスペンスに満ちた一冊。 |
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| No.389 | 5点 | 君のために鐘は鳴る- 王元 | 2025/10/30 21:16 |
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| 最愛の妻を喪い、断筆したベストセラー作家が目を開けると、そこは小さな島。桟橋には高速艇から降り立った老若男女の集団が。どうやら一定期間デジタル機器から距離を置き、本来の人間性を取り戻そうという「デジタルデトックス」が目的らしい。会話、接触、読書、メモ、音楽、加えて殺生を厳しく禁じられた環境で生活が始まるが、やがて連続殺人事件が。
クレバーな筆致で予想外の方向から繰り出されるサプライズに、テクノロジーの発達が人類に及ぼす、知性、人格、存在、魂といったものに捉え方の変化について考えずにいられなくなる。 |
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| No.388 | 7点 | 過去からの狙撃者- マイケル・バー=ゾウハー | 2025/10/11 21:08 |
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| 国防省の秘書を務め、アラブとの戦争に参加したこともある作者が、その経験と専門知識を生かして書き上げられた。
これはソ連外相の合衆国内での暗殺を巡るCIA局員の捜査活動を描いたもので、現実の政治情勢に推測を加えたスパキュレーション小説を緻密に構成している。現実の事件に想像の面白さを加えている。 |
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| No.387 | 6点 | コーマ―昏睡- ロビン・クック | 2025/10/11 21:02 |
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| 作者は、コロンビア大学医学部卒業の医師で、その知識と経験が生かされた作品となっている。
女子医学生が研修を受けている病院で、原因不明の急性昏睡と脳死が続発していることに疑問を持ち、調査していくうちに様々な妨害に遭い、身辺に危険が迫る。 臓器売買を巡る医療界の恐るべき腐敗ぶりには慄然とさせるものがある。 |
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| No.386 | 6点 | 夕陽の道を北へゆけ- ジャニーン・カミンズ | 2025/09/23 21:14 |
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| 家族16人を殺されて、たまたま助かった主人公の母子は、マフィアから逃げるためアメリカを目指す。
母国を捨てて逃げるしかなかった人々の過酷な現実が、瑞々しい筆致で鮮やかに描かれている。心理描写が極めて繊細なのも効果を倍加している。 |
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| No.385 | 6点 | わが母なるロージー- ピエール・ルメートル | 2025/09/23 21:11 |
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| パリの街中で第一次大戦当時の砲弾が爆発し、警察に出頭してきた青年は、残り六つの砲弾を一日ずつ爆発させると告げる。
タイトルにあるロージーというキャラクターをもっと掘り下げて欲しかったという不満はあるが、容疑者の真意を巡る謎解き、意表を突く捻りが仕掛けられたタイムリミットサスペンスの構図、鮮烈なラストと幾重にも趣向を凝らしている。 |
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| No.384 | 6点 | 議会に死体- ヘンリー・ウエイド | 2025/09/02 21:40 |
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| クウェンバラ市が計画中の公営住宅建設予定地が買い占められ、地価は数倍に高騰していた。財政委員長のトラント参事会員は当局者の機密漏洩を疑い、議会で不正の追求を宣言するとともに、アーシントン市長の個人攻撃に及ぶ発言を行ったが、休憩中の議場に一人残っていた彼の刺殺体が発見された。机上の書類に血で「MA」と読める文字が記されていた。
事件現場の見取り図や関係者の行動時間行動表が掲げられ、ダイイング・メッセージ、アリバイトリック、巧妙な伏線やミスディレクションに意外な犯人と本格ミステリ特有の仕掛けや趣向が満載。 格別、目を引くトリック等があるわけではないので華やかさには乏しいが、堅実な構成と細部の技巧に支えられた仕上がりは抜群。 |
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| No.383 | 7点 | 冬そして夜- S・J・ローザン | 2025/09/02 21:31 |
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| 私立探偵ビル・スミスのもとに警察から電話が来た。補導された少年が身元引受人としてビルの名前を出したというのだ。駆け付けたビルは、その少年が妹の息子・ゲイリーだと知って驚く。
本書で描かれるのはコミュニティ内の同調圧力。一つの価値観を信じて疑わない地域社会の歪みがもたらした悲劇は、この時代に書かれたとは思えないくらい現代社会を照射している。もう一つの特徴は、シリーズで初めてビルの過去が明かされるという点にある。これまで蓋をしてきた自らの家庭の問題に向き合う。その原因がそのまま本書のテーマに結びつく構成は見事。 |
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| No.382 | 7点 | まるで天使のような- マーガレット・ミラー | 2025/08/24 21:31 |
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| 新興宗教の教団の尼僧からオゥゴーマンなる人物の身辺調査を頼まれた私立探偵のクインは、ある町で起きた過去の事件の掘り起こしにかかるが、それを望まない人間もいるようだった。
私立探偵小説とサスペンス、さらには本格ミステリが混然一体となった充実した内容である。新興宗教の内幕の不気味さと、そこに救いを求めざるを得ない人々の悲しさが胸に迫る。 |
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| No.381 | 7点 | 殺す風- マーガレット・ミラー | 2025/08/24 21:27 |
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| ロン・ギャロウェイの失踪で幕を開け、しばらくは夫婦間の愛憎を中心とした人間関係のドラマが続く。
物語が中盤以降になると、ようやく死体が発見されるが、何が謎なのかよく分からないまま進むうちに、鮮やかな構図の転換があってミステリとして収束する。練り上げられ、計算尽くされたプロットが素晴らしい。 |
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| No.380 | 6点 | 警察官よ汝を守れ- ヘンリー・ウエイド | 2025/08/13 21:37 |
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| 警察本部内で執務中の本部長が射殺されるというセンセーショナルな事件を扱っているが、プール警部は試行錯誤を繰り返しながら地道に捜査を進めていく。その描写はリアルで手掛かりの提示もフェア。
警察小説的要素が濃厚で、組織内の人間関係やヤードと地方警察の関係、その中でのプールの立場と動き方などが興味深く描かれている。 動機と機会が一人の人物に重なった時点で犯人はほぼ特定されるため、謎解きの妙味はやや欠けるとことがあるが、よく練られたプロットと的確な人物造形に支えられた物語である。 |
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| No.379 | 5点 | 夜、僕らは輪になって歩く- ダニエル・アラルコン | 2025/08/13 21:31 |
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| 些細な嘘が誘因となって思いも寄らぬ展開を見せる物語が推進力となり、冒頭から臭わされる悲劇的な結末に対する興味と、語り手を務める「僕」が誰なのかという謎なのかといいう謎が牽引力となり一気にページをめくってしまう。
「劇の世界に入り込み、自分の人生から逃れる」ことを求めた者たちの織り成す、愛と死と謎が絡み合った物語。 |
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| No.378 | 8点 | レアンダの英雄- アンドリュウ・ガーヴ | 2025/08/01 21:40 |
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| 英国の植民地スパイロス島のお独立運動の指導者アレグザンダー・カステラが英国政府に逮捕され、インド洋の孤島ユルーズに幽閉された。そのカステラをヨットで救出せよ。報酬金は現金二万ドルとヨット一艘。ヨットの魅力に抗しきれず、コンウェイは引き受け、レアンダを助手にセイリングを開始した。
セイリングの魅力が語られるが、読みどころは絶海にたった一艘浮かんだヨットという限定された状況下の人間模様の面白さ。航海中遭遇する様々な自然の猛威は、狭いヨットの中の人間関係に影響を及ぼす。その人間関係の緊張がサスペンスを生み、意外なドラマを展開している。 |
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| No.377 | 9点 | ジェゼベルの死- クリスチアナ・ブランド | 2025/08/01 21:32 |
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| ジョゼベルと呼ばれた悪女が何者かに殺された。舞台の表では何千という観衆の目があり、裏では鍵のおりた扉の前に張り番がいる。容疑者は騎士の扮装をした舞台にいた数人の男たちということになるが、物理的には不可能。
不可解な謎、巧妙な伏線、ミスディレクション、レッド・へリング操作など、あらゆる謎解きもののテクニックを駆使していて、複雑なパズルが構築されている。容疑者全員が自白するという狂気の大円団のあと、最後に暴かれる不可能犯罪のトリックは悪魔的な大胆さを持っている。こんな大胆なトリックでありながら、プロットから遊離しておらず、有機的に結びつきを見せている点にセンスの良さを感じる。 |
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| No.376 | 5点 | 悪魔はいつもそこに- ドナルド・レイ・ポロック | 2025/07/23 22:31 |
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| 一九六〇年代のオハイオ州南部の田舎町を舞台に、幼くして父母を亡くした青年が、狂気と暴力の世界にからめとられていく様を描く。
聖職者の振りをして女性を食い物にする牧師や死体写真を集める殺人鬼夫婦など、タブーの遥か向こう側へと渡ってしまった人間たちがひしめき、作品全体が禍々しい妖気を放っている。 |
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| No.375 | 6点 | 七つの裏切り- ポール・ケイン | 2025/07/23 22:27 |
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| 禁酒法時代の米国を舞台に、内面描写も状況説明も極限まで削ぎ落した文体で複雑な人間関係の変化を綴った7編が収録されている。
理髪店での爆弾騒ぎから列車上の殺人へと続く最終話に代表される硬派な犯罪小説が並ぶが、中には裏切りと嘘と暴力の果てにユーモアが滲む1編も混じる。 |
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| No.374 | 6点 | 転落- アルベール・カミュ | 2025/07/12 21:27 |
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| アムステルダムのバーで初対面の男性に話しかけてくるフランス人の男性は、パリで弁護士をしていたという自らの生活を語っていく。殺人や性といった三面記事のような要素をふんだんに盛り込みつつ、気が付けばその男性が転落していく様を見たいと思うように読者に仕向けてくる。
露悪的な一人語りでラストまで突き進む。冗舌な語り口に搦めとられた先には、人の生を見つめざるを得ない冷ややかな瞬間が待っている。 |
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| No.373 | 7点 | トゥルー・クライム・ストーリー- ジョセフ・ノックス | 2025/07/12 21:22 |
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| マンチェスター大学の学生寮から女子学生が失踪した事件と、イヴリン・ミッチェルという作家が取材し執筆した犯罪ノンフィクションの形式で綴られている。
犯罪実録を模した小説自体は珍しいものではないが、本書では事件関係者の顔写真やフェイスブックの投稿などが挿入され、さらには著者自身が編者として登場するなど、現実と虚構の境界を崩すような仕掛けが随所に施されている。終始、読者を不安に追い込む筆致が見事。 |
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