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YMYさん
平均点: 5.85点 書評数: 292件

プロフィール高評価と近い人 | 書評 | おすすめ

No.292 5点 探偵術マニュアル- ジェデダイア・ベリー 2024/02/13 22:23
幻想小説にミステリの意匠を凝らした、といった風の小説である。奇妙な街にそびえる探偵社にまつわる奇妙な事件は、イタロ・カリヴィーノが基本設定を考えたと言われても違和感がないほど夢幻的。
ただし野放図にイマジネーションを垂れ流さず、風呂敷も制御可能な範囲で広げるにとどめる辺り、ミステリとして締めるべき所をきっちり締めてきて、なかなか侮れない。

No.291 7点 三秒間の死角- アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム 2024/02/13 22:18
法治国家の抱える矛盾と限界に苛立ちつつも、国境を越えて流入する凶悪犯罪の真相追求に執念を燃やすストックホルム市警のエーヴェルト警部と、刑務所という闇の奥へと潜入し孤立無援の中、ミッションを遂行する潜入捜査員ホフマン。
この二人の視点を中心に、北欧警察小説のお家芸である犯罪によって人生を狂わされた個人と社会の関係を真摯に見つめる物語に、ひりつくような冒険小説の面白さが加わり、その上、大胆かつ入念に構築された謎解きの妙味も味わえる。

No.290 5点 シャンハイ・ムーン- S・J・ローザン 2024/01/29 23:03
現代のニューヨークで起きた殺人事件の背後から、第二次世界大戦前後の悲話と、それにまつわる宝石の伝承が少しずつ浮かび上がってくる。
私立探偵小説の枠を借りて、国家と民族と個人を翻弄する歴史の残酷さ、人間の運命の数奇さ、そして欲望に振り回され幻に固執することへの愚かさを描ききった、奥行きの深い作品。

No.289 6点 ミステリガール- デイヴィッド・ゴードン 2024/01/29 22:59
未完の実験的小説を書きためるも、未だ一編も売れず、助手家業のプロとして糊口をしのいできた小説家志望のサム。勤め先の古書店が潰れ、その上、妻から別れ話を切り出された彼は、巨漢の引きこもり探偵の助手となり、「ミステリガール」と呼ばれる女性の素行調査を始める。
奇矯な天才型名探偵にカルト・ムービーに実験小説。全編にぶちまけられたジャンクなガジェットと、いかれた人物が醸し出す熱気にあてられつつ、次から次へと変化するストーリーに酔いしれていると、終盤に至って周到に練り上げられたミステリと解って驚いた。

No.288 6点 カナリアはさえずる- ドゥエイン・スウィアジンスキー 2024/01/19 22:28
ひょんなことから犯罪者の世界に飛び込んでしまったヒロインが、襲いかかるトラブルをどう乗り越えていくのかが読みどころ。いかにも普通の大学生といった口調で、プロの犯罪者、捜査官もびっくりの策をひねり出すサリーの視点のパートは、作者らしい捻じれた物語の魅力を放っている。
ヒロインの語り口や、家族をめぐるドラマを絡ませる点など、洗練されたサスペンスアクション。

No.287 5点 あの子はもういない- イ・ドゥオン 2024/01/19 22:23
細切れたフィルムを繋ぎ合わせるように展開するサスペンスとバイオレンスが強烈。特に第二部の冒頭数ページに広がる光景のインパクトは、いつまでも心に爪痕を残すほどのものだ。
ただし、本作は決して荒々しさだけが売りの作品ではない。姉妹の運命を追ううちに、その通底には暴力に対する冷ややかな目線があることに気付くはずだ。派手な見た目とは裏腹に、実は繊細なテーマをはらんでいる。

No.286 5点 謝罪代行社- ゾラン・ドヴェンカー 2024/01/05 22:13
謝罪代行業なる新ビジネスを始めた四人の若者が、正体不明の殺人者に脅迫されて死体処理をさせられる。
有無を言わせぬ状況設定で、ぐいぐいとサスペンスの中に巻き込んでいくやり方が凄まじい。三つの時刻が不思議な形でばらまかれた叙述も特徴的で、終盤になって何がどうなっていたのかが判ると不思議な感動がある。

No.285 6点 冬の灯台が語るとき- ヨハン・テオリン 2024/01/05 22:08
昔からいくつもの悲劇を見てきた双子の灯台。そして今また、その近くに引っ越してきたヨキアムが、家族を失い沈んだ日々を送る。
本書の核は間違いなく、このヨキアムの喪失感であり、全編に刻印された哀感だろう。しかし、作者はそれだけにとどまらず、職業犯罪や女性警官の苦悩を描くプロットを絡めた上で、巧緻な計算によって意外にして論理的な真相すら用意する。強固な構成と豊かな肉付けが両立した味わい深い小説である。

No.284 4点 暗殺者たちに口紅を- ディアナ・レイバーン 2023/12/21 22:33
秘密組織の暗殺者として、40年に渡って共に働いてきたビリーら4人の女性。引退記念に組織がプレゼントしてくれた豪華客船の旅に出る。だが、組織は彼女たちの命を狙って、船に殺し屋を送り込んできた。体力こそ下り坂だが、ベテランの知恵と技術で彼女たちは生き延び、そして反撃を試みる。
ビリーたちは、息の合ったチームワークと殺しの技術で、数々の危機を乗り越えていく。カリブ海からアメリカへ、そして欧州へと移動しながら、あの手この手を駆使した戦いを堪能できる。
深みに書ける物足りなさ、ややご都合主義な面も感じるが痛快なエンタメ小説だ。

No.283 5点 その罪は描けない- S・J・ローザン 2023/12/21 22:26
ニューヨークを舞台に、白人男性のビル・スミスと中国系女性のリディア・チンの二人の私立探偵が活躍する第13作。
ビルを訪ねてきた男は、殺人で服役し、仮釈放されたかつての依頼人。彼はビルに奇妙な依頼をする。最近起きた2件の殺人事件の犯人が自分だと証明してほしいというのだ。
風変わりなシチュエーションが忘れ難い。依頼人の有罪を立証するのだ。二人の探偵や奇妙な依頼人をはじめ、登場人物の個性が印象に残る。ミステリとしては真相に大きな驚きはないものの、ユニークな幕開けから解決までの流れは安定している。

No.282 7点 破果- ク・ビョンモ 2023/12/08 22:18
45年のキャリアを持つ女性の殺し屋で現在65歳。正確無比な腕前の持ち主だが、年齢とともに心身の衰えを感じている。犬を拾って飼い始め、仕事でミスを犯し、冷徹な感情にも揺らぎが生じる。若い同業者トゥはなぜか彼女に反感を抱き、挑発を繰り返す。
老いた女性の殺し屋を主人公に、アクションやサスペンスを基調にしつつ、特定のジャンルの様式から逸脱する過剰な語りで読ませる。読者を軽々しく感情移入させない硬質なスタイルと、社会や人間に対する皮肉なまなざしを帯びた文体が印象に残る。

No.281 5点 金庫破りときどきスパイ- アシュリー・ウィーヴァー 2023/12/08 22:10
戦争を背景に、国家の任務を遂行する者が活躍する作品。第二次大戦下のロンドンで、複雑な生い立ちの女性が諜報戦に飛び込む物語である。
錠前師のミックと、彼を手伝う姪のエリー。二人の裏の顔は金庫破りだ。だがある日、二人は犯行現場で取り押さえられてしまう。二人を捕らえたのは警察ではなく陸軍。ラムゼイ少佐は、二人を投獄しない代わりに諜報活動への協力を要求する。
ドイツ相手の諜報戦を中心にしつつ、エリーの人間関係が描かれる。彼女を引き取ったおじ一家や旧友とのぬくもりある関係性。腕利き金庫破りのエリーと堅物のラムゼイ少佐の関係は幾分コミカルに、そしてロマンチックに。戦時下のスパイ活動という緊張感ある物語ながら、温かさにも満ちている。

No.280 9点 野獣死すべし- ニコラス・ブレイク 2023/11/27 22:29
推理作家フィリクス・レインは最愛の一人息子を轢き逃げで失ってしまう。しかし六カ月にわたる捜査にもかかわらず、警察は犯人の車を発見することが出来なかった。レインは独力で犯人を捜し出し、自らの手で復讐することを決意する。
作品の約三分の一にあたる第一部がレインの日記形式、その後は三人称で語られるという、異色の構成による本格ミステリ。この構成により単なる謎解き小説にとどまらず、心理サスペンスとしても強烈な印象を残す。

No.279 8点 エジプト十字架の秘密- エラリイ・クイーン 2023/11/27 22:24
ウエスト・バージニアのある交差点で首なし死体のはりつけ事件が起こる。小学校の校長、百万長者、スポーツマン、そして未知の男と、次々にはりつけにされてゆく死者を前に、エラリーは手をこまねいているばかりである。事件の背景に浮かび上がった異教徒のしるしであるT字形の十字架は何を語るのか。
陰惨な首なしのはりつけ死体と、大団円での自動車、急行列車、飛行機など現代のあらゆる交通機関を駆使して展開する大追跡があることで、クイーンの作品としては、かなり派手な印象を与えるものとなっている。解決で示される緻密な論理は、やはりクイーンならではのものであろう。

No.278 7点 密偵ファルコ/白銀の誓い- リンゼイ・デイヴィス 2023/11/14 22:29
舞台は紀元一世紀のローマ。軍隊勤めを終えたファルコが、故郷のローマに帰ってきて、ひょんなことから皇帝の密偵になる物語。
通常歴史ミステリは時代の設定、当時の風俗描写を重視するあまり、ストーリーが平板になりがちだが、本作は現代ものに比べても違和感なく主人公の描写も巧み。

No.277 7点 完璧な絵画- レジナルド・ヒル 2023/11/14 22:26
絵に描かれたような小村の美しい田園風景、一癖も二癖もありそうな村人や地主一家。そこに駐在の若い警官が行方不明になる。
のどかそうな村にも、地主一家の家督相続問題や村の小学校の存続問題、住人たちの複雑な関係など、何か犯罪が起きてもおかしくない雰囲気。
イギリス・ミステリのお得意の小さなコミュニティを舞台に、生き生きとした登場人物が楽しませてくれる。

No.276 6点 ポピーのためにできること- ジャニス・ハレット 2023/10/31 23:00
この小説は、オルフェとシャーロッとが渡された資料と、それに関する二人の推理を記録したチャットの会話とで構成されている。資料からは、関係者たちのうち数人が何らかの秘密を抱え込んでいる様子や、ある相手に親切に接している人物が別の関係者にはその相手のことを非難しているなど、裏表のある人間関係が浮かび上がってくる。
そしてオルフェとシャーロットのチャットによる会話は、錯綜した情報を整理し、読者の推理を手助けする役割を担っている。果たして、誰が殺され、誰が殺すのか。物語がある地点まで到達した時、一種の「読者への挑戦」といっていいメッセージが現れる。登場人物は実に四十一人。しかし、個性の強い人物ばかりなので混乱することはないはず。

No.275 6点 ファイナルガール・サポート・グループ- グレイディ・ヘンドリクス 2023/10/31 22:54
リネットは22年前の惨劇で生き残った「ファイナル・ガール」だった。他の同様な事件で生存者となった女性たちとともに、10年以上にわたってグループでセラピーを受けている。彼女たちが遭遇した事件と同じような惨劇が報じられたその日、その身に再び危機が襲い来る。リネットは逃走を続けながら、敵の正体を暴こうとする。
現実に起きた数々の大量殺人をもとにホラー映画のシリーズが作られ、実在の生存者が「ファイナル・ガール」として世に知られている、という設定の物語だ。惨劇の記憶ゆえに強い猜疑心の持ち主となったリネットの、精神に危うさを抱えながらもたくましく危機に立ち向かう姿は魅力にあふれている。ピンチと逆転が連続する、波乱に富んだ展開も忘れ難い。

No.274 5点 図書室の死体- マーティ・ウィンゲイト 2023/10/20 22:23
主人公は、新米キュレーターとして図書室に就職した女性。探偵小説の素人ながら奮闘する彼女が、図書室で死体が発見され、皮肉なことに探偵小説的な謎解きに乗り出すことに。
クリスティー作品の二次創作サークルの面々をはじめとする癖の強い登場人物たちが印象深い。ミステリとしてはやや薄味だが、愉快な読後感を残す、丁寧に組み立てられた小説である。

No.273 6点 ローズ・コード- ケイト・クイン 2023/10/20 22:18
ドイツと開戦した1940年の英国。上流階級の令嬢オスラ、下町育ちのマブは、ブレッチリー・パークの政府施設で働くことに。そこで大勢の人々がドイツの暗号解読に挑んでいた。二人は下宿先の娘ベスの意外な素質に気付き、彼女もまた暗号解読に従事することに。だが、三人の友情はある事件でバラバラになる。
戦時下と47年とを行き来しながら、三人に何が起きたのか、そして隠された企みが解き明かされる。謀略もさることながら、三人のヒロインの、ブレッチリ―・パークでの出会いと成長が印象深い。冒頭から悲劇を予感させつつも、三者それぞれの心のきらめきを描き出している。

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