皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
[ 本格 ] 恐るべき太陽 |
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ミシェル・ビュッシ | 出版月: 2023年05月 | 平均: 6.75点 | 書評数: 4件 |
集英社 2023年05月 |
No.4 | 8点 | HORNET | 2023/12/31 21:53 |
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人気作家・ピエールが選考で選ばれた女性5人を招いての創作アトリエを孤島で開催した。5人の顔ぶれは、強い小説家志望の女性から、ブロガー、警部、真珠養殖業者夫人などさまざま。参加者たちは滞在中に、ピエールから随時与えられる小説課題に答えて過ごすのだが、「行方不明から始めて、続きを考えよ」という課題を出した直後、ピエール自身が行方不明に。ピエールの何らかの企みか…と思っていた面々だったが、その後、参加女性が次々に死体となって発見される―
帯に「クリスティへの挑戦作」とあるように、様相はまさにクリスティの最有名作品。今までいくつも踏襲されてきたこのパターンで、さて今回はどんな…と思っていたら―驚愕の仕掛け! 「小説家志望たちを集めた創作アトリエ」という設定がこんな風に作品の仕掛けの下敷きになっているなんて。うーん。これは見事にやられたなぁ。 (当たり前だが)そんなことはつゆ知らず読み進めていたので、真相が開示されてからの衝撃はすごかった。とはいえ、とても読み返す気力はなかったが…。 何にせよ、作者(&翻訳者)の発想と考え抜かれ、気を配られた描写による優れた「作品」に脱帽した。 |
No.3 | 6点 | nukkam | 2023/08/21 18:29 |
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(ネタバレなしです) 2006年にデビューしてベストセラー作家となったフランスの男性作家ミシェル・ビュッシ(1965年生まれ)の作品については、私も文生さんと同じく(個人的に苦手な)サスペンス小説のイメージが強かったので関心は低かったのですが、2020年発表の本書の集英社文庫版の裏表紙で「満を辞して放つクリスティーへの挑戦作」と書いてあったので本格派推理小説好きとして手を伸ばしてみました。クリスティーの「そして誰もいなくなった」(1939年)を連想させる場面が随所にありますが、人並由真さんのご講評の通り事件の起きるテンポが遅くてサスペンスが案外と盛り上がりません。中盤での20の質問リストを使っての謎解き論議も推理が粗くて真相に近づく気配もなく謎が深まるわけでもなく、これまた本格派としては盛り上がりません。思い切った仕掛けが印象的な謎解きではありますが、550ページ近いヴォリュームのためか切れ味が鈍いように思います。しかし結末は巨匠級の出来栄えで、「死ぬまでにわたしがしたいのは」を劇的に展開させて印象的に締めくくっています。 |
No.2 | 6点 | 人並由真 | 2023/07/05 17:15 |
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(ネタバレなし)
南太平洋フランス領ポリネシアのヒバオア島。そこで世界的に有名なベストセラー作家、「PYF」ことピエール=イヴ・フランソワを講師役に据えた、作家志望の幅広い世代の女性ファン5人による創作教室「創作アトリエ」が開催された。だがPYFは失踪し、そして殺人事件が起きる。 2020年のフランス作品。 上下二冊の『時は殺人者』だけめんどくさがって読まなかったので、評者これが三冊目のビュッシ作品。 リーダビリティは高く、さらにほぼ20年前のパリの事件に話が絡むなどストーリーの組み立てに立体感はあるのだが、登場人物がそんなに多くないくせに550ページ以上の紙幅を持たせるものだから、どうしたって物語が冗長になる。殺人もそんなにテンポよく起きる訳でもなく、正直、中盤はうっすら眠かった(汗)。 あ、『そして誰もいなくなって』っぽいとかいうウワサはとりあえず忘れてください。確かに連続殺人ものだけど。 (というかこの作品、クリスティーへのオマージュを気取ってるようだけど、いくら超メジャー作品とは言え『そして』や『アクロイド』のネタバレまで平気でしているので、その辺も注意だ。) なお終盤の展開は意外といえば意外だし、犯人もわからなかったが、一方でこういう作品でサプライズを仕掛けるなら、あそこら辺にああいう手で……と大方が読めてしまうので、あまりトキメキはない。 この辺ももっと全体的に短くまとめたストーリーだったら、よくあるものながらそれなりの効果を得られたであろうに、緩慢な展開で間延びしてしまった仕上がりだ。 ただし、犯人の動機というか事情だけは、心に染みた。 エモーショナルな要因にからむ復讐者ならまだともかく、そうでもない人殺しに同情しては決していけないんだけれど、この犯人の場合は、ひたすら可哀そうである(もちろんそれでも殺人は許されないが)。 ところで本書は最後に、実作者でミステリファンでもある阿津川先生の解説、読解が掲載されているが、新刊の初訳の現代作品の翻訳ものの文庫としては異例ながら、本書のようなギミックの比重の多い作品の場合、これは親切で良い。評者のようなスーダラな読者が意識しなかったポイントも、いくつか指摘・教示していただいた。 |
No.1 | 7点 | 文生 | 2023/05/27 04:21 |
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ミシェル・ビュッシといえばサスペンス調の物語にどんでん返しの組み合わせというイメージの強い作家です。しかし、本作では携帯電話の電波が届かない南の島(島には数千人の住人もいるのでクローズドサークルではない)で連続殺人が起き、事件の関係者が真相を推理していくという本格仕立てになっています。
そして、終盤のどんでん返し。これがなかなかにすごい。とはいえ、それは意外な真相に驚くというより、よくそこまでやるなという、作家の仕掛けに対する執念に唸らされたいった感じ。そういう意味では、泡坂妻夫のミステリーに通じるものがあるかもしれません。全体としては大いに楽しめたのだけど、ただ、仕掛けに特化した作品ならばもう少し短くてもよかったような気が...。 |