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[ 本格 ]
第八の探偵
アレックス・パヴェージ 出版月: 2021年04月 平均: 7.00点 書評数: 5件

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早川書房
2021年04月

No.5 8点 猫サーカス 2022/01/06 19:24
物語の中に別の物語を登場させる、いわゆる作中作を用いたミステリはいくつも存在するが、この作品は七つも駆使しており凝りに凝っている。主要登場人物は、地中海の小島に穏棲する元教授のグラントと彼を訪ねてきた女性編集者のジュリアの二人。かつてグラントは一九三〇年代に、殺人ミステリを数学的に定義する論文「探偵小説の順列」を発表。それを元に短編集「ホワイトの殺人事件集」を少部数の私家版として出版したが、その後表舞台から退いてしまう。この書籍の復刊を持ち掛けるジュリアは、グラントの前で収録された七つの短編を一つ一つ読み上げ、物語の疑問点を洗い出し、議論を重ねていく。殺人現場でお互い疑心を募らせる男女の話を皮切りに、タイプの異なるミステリが語られていく中で、毎回浮かび上がる違和感、何かを隠している作者、内容に合っているとは思えない書名の謎等々、ページから湧き上がる企みの気配をひしひしと感じながら読み進めていくと思わぬ急展開が。特異な構成と、ジュリアとグラントに訪れる結末も単に驚かせるだけで終わらない味わいがある。

No.4 7点 人並由真 2021/12/15 14:34
(ネタバレなし)
 今年の新刊で、評判が良いので読んでみた。7編の短編ミステリを入れ子構造に内包した、極めてトリッキィな作品。解説でミステリ評論・研究家の千街氏が語る通り、正に欧米版の「新本格」ミステリであった。
(しかし、くだんの解説で、東西のこの手の<作中作ミステリ>の題名を網羅しまくる千街氏のトリヴィアぶりは圧巻。作品の構造や狙いそのものへの的確な指摘も含めて、こういうのがプロの解説かと感銘した。)

 やり過ぎの気配さえある終盤の怒涛のどんでん返しの連打まで十分に楽しんだ。
 凝った作りらしいので、ページを開く前は、多少はヘビィな読書になるかとも思ったが、予想以上に読みやすかったことも特筆。
 翻訳の鈴木恵さんは訳者紹介を見ると評者もこれまで何冊か縁があったが、今回、初めて、うまい(読みやすい)と意識した。

 そろそろあちこちで2021年度の内外ミステリベストが出てきているが、評者はまだ、あんまり今年はその結果はチェックしていない。しかし本作も相応に高い評価を受けているはずと予見する。

 最後に、本作の趣向の先駆例のひとつとして、千街氏は当然『11枚のとらんぷ』をあげているが、7編の短編ミステリの謎解きの中には、同じ泡坂の別の作品を連想させるものもあってちょっとニヤリとした。偶然ではあろうが。
(双方の作品のネタバレにはなってないはず。) 
 
 評点は8点にかなり近い、この点数ということで。

No.3 7点 zuso 2021/10/26 23:42
かつて一冊のミステリ短篇集を刊行した後、隠居生活を送る作家。彼を訪ねてきた編集者の目的は、短編集の復刊だった。二人は収録作を読み返して議論を重ねる。
個々の短編は数学的な部類によって並べられ、最後には精緻な構造が浮かび上がる。もちろん、作中作が並んでいるだけの小説ではない。どんな趣向が隠されているのかは、読んで確かめていただきたい。

No.2 7点 メルカトル 2021/09/30 23:31
独自の理論に基づいて、探偵小説黄金時代に一冊の短篇集『ホワイトの殺人事件集』を刊行し、その後、故郷から離れて小島に隠棲する作家グラント・マカリスター。彼のもとを訪れた編集者ジュリアは短篇集の復刊を持ちかける。ふたりは収録作をひとつひとつ読み返し、議論を交わしていくのだが……
フーダニット、不可能犯罪、孤島で発見された十人の死体──七つの短篇推理小説が作中作として織り込まれた、破格のミステリ
Amazon内容紹介より。

突出した傑作ではなくてもかなりの力作であることは間違いないと思います。解説の千街晶之が書いているように、日本の新本格を想起される方もおられるはず。新本格ファンには持って来いの一冊かも知れません。シンプルなのに凝った構成が光る作品です。作中作という響きに思わず反応してしまう私などは、かなり楽しめました。

ジュリアが七つの短編の矛盾をついて行くにつれ、グラントの秘密が薄皮を剥ぐ様に暴かれて最後には遂に驚愕の事実に辿り着くという物語。
作中作は出来不出来があり、ちょっとどうかなと思うものも含まれていますが、それぞれ何とも後味の悪い余韻を残したり反転があったり、良い意味で唸らされます。海外の作品でこれだけ本格らしい本格物は久しぶりに読んだ気がします。

No.1 6点 nukkam 2021/05/21 07:10
(ネタバレなしです)英国のアレックス・パヴェージの2020年発表のデビュー作です。本格派推理小説ではありますがハヤカワ文庫版の紹介通り「破格」な作品です。奇数章が短編ミステリー、偶数章では読後の作者と編集者による会話という構成をとってます。それぞれの短編はどれも個性的ですが微妙なもやもや感、時には不条理を感じさせており、更に偶数章で作品の矛盾や不自然さが指摘されながら明快な回答を得られないまま次へ進むという展開で読ませます。千街晶之による充実の巻末解説(本書から連想されるミステリーが40作近くも紹介されています)の「フェアな謎解きよりは、作中作があるミステリだから可能な仕掛けを追求した」という評価がまさにぴったり。読者が真相当てに挑戦できるスタンダードタイプの本格派でないので不満を覚える読者もいるとは思いますが、ここまでやるのかというどんでん返しの印象が実に強烈です。個人的には「アンフェアな謎解きなのでアウト」と単純に切り捨てられなかった作品です。


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アレックス・パヴェージ
2021年04月
第八の探偵
平均:7.00 / 書評数:5