皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ クライム/倒叙 ] 手斧が首を切りにきた |
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フレドリック・ブラウン | 出版月: 1973年04月 | 平均: 6.60点 | 書評数: 5件 |
![]() 東京創元社 1973年04月 |
![]() 東京創元社 1973年05月 |
No.5 | 6点 | クリスティ再読 | 2025/09/17 21:01 |
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まあこれ賛否両論作じゃないのかな。
解説でも触れられているが、時代背景は朝鮮戦争直前のあたり。米ソ核戦争の不安に怯えつつ、アカ狩りの予感で街が萎縮しているような時期。貧民階級出身の主人公は、街のボス・ミッチの下で富くじ販売の半端仕事をしていた。元バーテンダーの父は強盗事件に関わって命を落とし、不幸な少年時代を過ごした主人公には、トラウマとして固着した2つの恐怖対象があった。ろうそくと手斧。 街のボスは主人公が「使える」ことに気づき、ギャング仕事の適性のテストをいろいろして、仲間に誘う。そんな中で出会った二人の女、エリーとフランシーヌ。同じ下宿で出会った堅実なエリー、そしてミッチの愛人であり妖艶なフランシーヌ。この二人の女の両方に魅かれながらも、主人公はミッチの手引きでそれとなくギャング教育を受けていくことになり、どんどんと深みにはまっていく。一度は一味に加わることを望んだのだが、堅実なエリーはそれを歓迎するわけがない。しかし、誘いをかけてくるフランシーヌに手を出すと、ミッチの嫉妬が恐ろしい... ミステリとかサスペンスというよりも、ノワール風味の青春小説。ストーリーの展開を追っかけるというタイプの小説じゃない。それよりもギャングとしての適性を試すちょっとした「試練」が興味深い。ギャンブル、酒、車、忠実さ、口の固さなど、さまざまな側面からなかなかシビアにテストされている。 引き金は引くんじゃない。ぎゅっと握りしめる要領を忘れるな。 この一味の殺し屋ディクシーが指導する銃講座が面白い。銃の専門家でガンマニアでもある。常に実弾を装填しておけば、「抜いたつもり」「空砲のつもり」の事故を防ぐことができるという、なるほどの教えもある。 まあそんな話なんだけども、この小説というと、ラジオ番組形式で主人公の夢や空想が挿入される変わった構成になっている。だから実験小説とかそういう紹介をよくされる作品なんだけども、人並さんのご書評の「作者ブラウンのはにかみ」が正鵠を得ていると思う。まあだから、作者の客気といえばそうで、あまりツッコんでも意味はないと思う。ラジオが「ゴーホーム」の火星人のようなお節介さを発揮したり、フロイトまがいの心理劇をやってみたりとか、どっちかいえば悪趣味だと思う。 それより人並さんご指摘のように第三次世界大戦の予感に怯えるアメリカ社会の暗さの方が印象的かな。主人公の年長の友人レイは左翼だから、とくにアカ狩りの予感はシビアでもある。要するにクイーンの「九尾の猫」と同じ時代背景だ。 というわけで、小説としての読みどころもあるけども、ミステリ、じゃないなあ。 |
No.4 | 7点 | 人並由真 | 2020/10/03 14:53 |
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(ネタバレなし)
1948年8月のミルウォーキー。6歳の時に父アルビンと、そして1年前に母フローレンスと死別した19歳の若者ジョゼフ(ジョー)・ベイリーは、違法賭博の大手胴元スタニスラウス(スタン)・ミッチェル(ミッチ)の舎弟として仕事を手伝っていた。そんなジョーは、同じアパートに越してきた同年代のウェイトレスで可愛い娘エリー・ドラビッチ、そしてミッチの情婦の妖艶な美女で少し年上のフランシーヌ(フランシー)・スコット、その二人の女性にそれぞれの魅力で惹かれる。恋人となった前者といずれ円満な家庭を持つことも考えるジョーだが、一方で彼はフランシーとミッチの関係に憧れて、裏社会の大物になりたいという野心があった。やがてジョーは、ミッチとその仲間たちからある案件について打診を受ける。しかし彼をかねてより悩ますのは、亡き父アルビンにからむ、とある妄執であった。 1950年のアメリカ作品。 そのうち読もうと思って書庫から出しておいた一冊だが、先日、新訳版が出た『シカゴ・ブルース』を本屋で手にすると巻末の解説で杉江松恋氏がブラウンのミステリ全般に触れ、中でもこの作品をけっこう興趣も豊かげに紹介している。それで弾みがついて今回、読んでみたが、なんというかブラウンのノンシリーズ長編のなかでも独特の風格を感じさせる内容。 ストーリーの大軸は、二人のヒロインの間で揺れながら(ただし比重ははっきりと一方の方にある)少しずつきな臭い世界にさらに踏み込んでいく薄闇色の青春ノワール・クライムサスペンスだが、さらに主人公ジョーの内面にはある浄化困難な過去のトラウマが潜み、それが(中略)。 読後感などもあまり語らない方がよい作品だと考えるが、それでも作者ブラウンがなんでこういう作品を書きたいと思い、どうしてこんな物語の流れにしたのかは伝わってくる気がする。そういう意味では、説得力のある作品。 (ただしラストには、ある一点において読み手を放り出す部分があるが、その辺で読者を心の迷宮に置き去りにしようとするのも、作者の確信行為であろう。) 中盤からの随所のメタ的な叙述(ジョーの物語が、いきなりまるで創作物を外側から覗くように相対化される)は実験小説の趣で、マジメな青春ノワール・クライムを書くのに照れていた作者ブラウンのはにかみめいたものも見やる。 あと、第三次世界大戦の勃発におびえ、今度の戦争では確実に核ミサイルの応酬で世界が滅亡すると陰鬱になる当時のアメリカ市民の終末感もすこぶる印象的。向こうではこんな空気が10年以上も濃かれ薄かれ続いたんだよな。さらにそのあとには、ベトナム戦争というまた別の闇が迫ってくるけど。 個人的にはブラウンのミステリはこれから読まず、エド・ハンターシリーズを順々に数冊紐解くか、あるいはもうちょっと軽めの技巧派? 系列、またはごく普通のB級謎解き作品の佳作~秀作『モーテルの女』あたりから入って何冊か楽しんだあとに、これに触れてほしいと思う。 (まあこれが最初のブラウンのミステリとのファースト・コンタクトだったという人は人なりに、それっぽいブラウン観が形成されるかもしれんけどね。) |
No.3 | 7点 | 蟷螂の斧 | 2019/12/07 12:54 |
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裏表紙より~『〈ろうそくが、おまえのベッドを照らしにきた。そして手斧が、おまえの首を切りにきた〉……十九歳の青年ベイリーは二人の女性と知り合ったが、マザー・グースの歌を思い出すたびに、少年の日の忌まわしい記憶にさいなまれた。』~
最初の暗示は無い方がよかった。あゝ勿体ない。物語はボーイ・ミーツ・ガール風で予想外の展開となります。更に途中でラジオ中継や映画が挟まれ、実際のストーリーと同様なものが音声や映像で流れるので、読者は狐につままれたような気持ちになります。そしてラストはハッピーエンドとなるはずが・・・題名通り???!!!。 |
No.2 | 7点 | HORNET | 2019/09/01 20:45 |
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題名から、ホラー調な作品かと思っていたら、そうでもなかった。題名は幼少時代のトラウマから主人公が見る「夢」の話で、物語自体はギャングの一味に加わっている19歳の青年が、ギャングのボスの女であるセクシー美女と、同じアパートに越してきた地味で真面目な女の子との間で気持ちが揺れ動く話。
もちろんそんな青春物語で終わるはずはなく、ラストにサスペンスが待っているのだが… それにしても最後は結局何が真相だったの?私の理解があっているのかどうか自信がない。 |
No.1 | 6点 | kanamori | 2013/03/05 18:14 |
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マザーグースの一節から採った題名はサイコ・サスペンスを思わせますが、物語の展開は青春クライム小説といった感じです。
根が善良な性格のためギャングになりきれない青年ジョーと、純朴な少女エリーのボーイ・ミーツ・ガール風の現在進行形の物語の合間に、ジョーのトラウマの原因となった子供時代の”ロウソクと手斧”の悪夢体験のエピソードなどが、ラジオの実況中継風、映画や舞台の台本風に挿入されるという凝った構成が才人ブラウンらしいです。 最初のほうにある程度暗示されているため予想の範囲内とはいえ、かなり後味が悪いエンディングは極端に好みが分かれそうですが、昨今のイヤミス・ブームには合っているかもしれません。 |