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[ サスペンス ]
現金を捜せ!
フレドリック・ブラウン 出版月: 1963年01月 平均: 5.00点 書評数: 1件

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東京創元新社
1963年01月

No.1 5点 人並由真 2020/03/12 22:08
(ネタバレなし)
 アメリカのどこか。地方のそれなりの規模のカーニバルの呼び込み役のマック・アービーは、同じカーニバルに勤めるチャーリー・フラックに誘われて、銀行強盗を行った。計画は成功し、身元もばれていない。しかしふたりが4万2千ドルの獲物を山分け寸前、フラックが交通事故で死亡。同じ車に乗っていたアービーは足を骨折しながらも一命を取り留めた。だが退院したアービーが隠しておいた金を回収にカーニバルの周辺に来た時、銀行強盗の正体がこの二人だと推察していた「殺人犯人」がアービーを殺す。「殺人犯人」は金を奪おうとするが、その在処は分からないままだった。さらに一人二人と、金の匂いを嗅ぎつけた周囲の人間たちが……。

 1953年のアメリカ作品。ブラウンのノンシリーズ作品の一本で、薄口のノワール風クライムストーリーと、サスペンススリラーをない交ぜにしたような内容。
 ちなみに邦訳の創元文庫版のあらすじを読むと、アービーを殺し、さらに金のために人死にを生じさせていく「殺人犯人」(「男」とも叙述)の正体を謎の主題にした、一応のフーダニット作品のようにも思える。
 だが実際には地の文でそのキャラを「殺人犯人」と叙述しておきながら、一方で、早々と別の人物から当の殺人犯に向けて本名を呼ばせて、読者にその正体を割ってしまう(でもそのあともまた「殺人犯人」と延々と叙述)。なんなのだ、これは。評者は一度は、これは何かの××トリック的なミスディレクションかとさえ思ったりしてしまった。
 さすがブラウン、『やさしい死神』もそうだったが、ミステリを書く際には意外に天然っぽい。まあもしかすると、折り目正しい謎解きミステリなんか、自分にとっては二の次なんだよという、創作者としてのアピールかもしれんが。

 そういう訳で中盤まではちょっと、気の抜けたビールみたいなダレた感じも覚えてたりしたが、後半3分の1くらいになって何人かの主要キャラがそれぞれの欲望や動機にもとづいて積極的に動き出してくると、それなりに面白くなってくる。ラストは、良い意味で、ああ、こんな感じになるよね、という思いでいっぱい。最後まで読むとキャラクターたちの書き込みも、思っていた以上の膨らみを実感した。

 あとこの作品を読むと、ミステリに限らず物語のなかで描かれる、カーニバルの華やかさと裏表にある、刹那的な寂寞感といかがわしさというのは、いつだって文芸上の普遍的な主題なんだよなと改めて感慨。たぶん星の数ほどの作家がそれを詩情豊かに語ることに心血を注いできたと思うが、ブラウンはそれを相応にしっかりやった作家だったという印象がいまいちど強まる。そのうちエド・ハンターものの『三人のこびと』も読み返してみよう。


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