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[ サスペンス ]
彼の名は死
フレドリック・ブラウン 出版月: 1959年01月 平均: 6.50点 書評数: 2件

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東京創元社
1959年01月

東京創元社
1970年07月

No.2 7点 人並由真 2020/05/28 08:23
(ネタバレなし)
 カリフォルニア州のサンタ・モニカ。印刷店に勤める若い美人の未亡人ジョイス・デュガンは、店の主人ダリュウス・コンの指示で、彼の留守中に来訪してきた客、クロード・アトキンスに90ドルを渡す。コンは昨夜、クロードと互いに合意の上でそれぞれが使っている中古車を交換したが、クロードの車の方がやや状態が良かったので、評価額の差額90ドルを払う約束らしい。ジョイスは小切手で支払うように指示されていたが、クロードはたまたま彼女と旧知の間柄だった。その彼ができれば現金が欲しいというので、ジョイスは店の奥にあった新券の紙幣10ドルを9枚、自分の判断で渡してしまう。だがそんなちょっとした独自の判断が……。

 1954年のアメリカ作品。
 蔵書の中から出てきた創元文庫版で読んだが、旧クライム・クラブ版も持っていたかもしれない。後者の方が植草甚一の解説も載っているのだろうから、そっちで読んだ方が良かったかも(まあその気になれば植草の解説は、『雨降りだから~』でも読めるんだろうけれど)。

 ここまで完全な倒叙……というよりはクライム・サスペンスとは思わなかった。
 犯罪の露見を警戒して早めに次の手を打っていくかなり慎重な主人公だが、各局面での判断はそれぞれ「それって考えすぎ?」あるいは「神経質すぎじゃ?」と思いたくなる段階に踏み込む一歩手前の連続という感じで、言いかえれば「ここで先手をうっておこう」という思考にそれなりの説得力がある。その辺は犯罪そのものに、当たり前に慣れていく人の心のヤバさもしっかり書き込んだブラウンの筆力の賜物でもあるが。

 かなりテンポの良い作品で、3時間であっというまに読めるが、ラストは……ああ、そういうオチね。
 大昔に、同世代のミステリファンと会話を交わして、このフレドリック・ブラウンの別作品『3・1・2とノックせよ』のラストのオチを相手が激賞。しかし当方はあのオチは(中略)だと思って、今でも大したことはない、と考えているんだけれど、この作品『彼の名は死』の方は、筋立ての流れとしては同作に通じる部分がある感じながら(こう書いてもネタバレにはなってないと思うが)割合、うまく決めた印象はある。
 まあ21世紀の今、国内の技巧派作家がこういう作品を書いてもそんなに目立たないとも思うけれど、当時としては割と切れ味のよい一品だったんじゃないかしらん。
 旧クライムクラブの柱にはまかりまちがってもならないだろうけれど、叢書全体のレベルの底上げに貢献した一作だったとは思うよ。

 最後に余談。創元文庫版の206ページに、登場人物の口を借りて、あのヒルデガード・ウィザースの名前(訳文では「ヒルダガード~」と表記だが)がいきなり出てきて、ぶっとびながらウレシクなった。もしかしたら、同世代の都会派軽量パズラーみたいな親近感で意識してたのかもしれないね。
 評点は0.5点オマケ。

No.1 6点 こう 2008/09/01 00:40
 SF作家でもあるフレドリック・ブラウンの長編作品の中では一番よくできていると思います。短編の名手らしいのですがそちらは未読でよくわかりません。
 いわゆる犯罪小説の範疇に入ると思います。主な登場人物はたった5人で主人公(犯人)は印刷会社を経営するダリュウス・コンです。
 彼が帰宅したあと前日車を交換したクロードが会社に差額の90ドルを受け取りに来る。事務員のジョイスは店の貸金庫に入っている10ドル札で代わりに支払う。
 しかしそれはコンが注意深く作っていた偽札であった。勝手に使用されればすぐに発覚するだろうことを恐れた主人公は何とかそれを回収しようと動き出す、というストーリーです。
 各章の冒頭が「彼女の名はジョイス・デュガン」、「彼の名はダリュウス・コン」と統一された書かれ方がされておりその人物紹介から始まる書き方がうまいと思います。
 主人公は共感できないキャラクターとして描写され、ストーリー上の行動もありきたりですし、人間描写もさすがに古めかしいですがストーリーは短く簡潔に書かれ、最後の章でタイトルの「彼の名は死」に到達しストーリーが展開してゆく書かれ方は読みやすかったです。最終章冒頭でおそらく結末の予想はついてしまいますし、作品内容もはっきりいえば大した内容ではありませんが、うまくまとめてあると思います。


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